第42話 みんなで出かける都市探索
「外出?」
お茶を飲みながらくつろいでいた都賢秀と仲間たちに、46番が外出を提案してきた。
「そう。ずっと手伝ってくれるのはありがたいけど、私は店を空けられないからね。だから今日は一日、私がこの街を案内するよ。夕食もかねてね。」
〈いい考えですね。〉
46番地区にはエージェントがあまり来ないとはいえ、マザーが全地球をスキャンして位置を特定するなら、話は別だ。
15日以内にキューブを見つけなければならないという状況はここでも同じなので、円滑なキューブ捜索のためにも事前に街について知っておくのは悪くなさそうだった。
レトムが賛成したことで、皆で外出し、少し街を見て回り、食事に行くことにした。
46番の案内で街を見物した。
「こっちに行けば市場があって人が一番多いよ。あっちに行けばオフィス街だから高層ビルが多い。そしてこの通りは商業地区。いろんな店が並んでいて、宝石店も多い。個人的には、もしキューブがあるとしたらここじゃないかと思うよ。」
地下鉄に乗って繁華街に移動した一行は、通りを見物して回っていたが、移動はなかなかスムーズにいかなかった。
理由は、一行の中の一人が女性たちに囲まれ、歓声を浴びていたからだ。
「す、すみませんが通らなければなりません…道を少し開けて…くれませんか?」
その主役は――子龍だった。
控えめで受け身な長安の女性たちしか知らなかった子龍は、積極的な女性たちに囲まれて愛情表現を受け、冷や汗を流しながらオロオロしていた。
「一人で来たの? 一緒に行かない?」
「仲間が待っているので無理です…」
「じゃあ代わりに連絡先教えて。あとで連絡するから」
「れ、連絡先とは何のことか分かりません…では、これで失礼を…」
ただ押しのけて進めばいいものを、紳士な子龍は女性たちを押しのけることができず、都賢秀の苛立ちが頭頂から噴き出した。
「おい! デカブツ! さっさと来い!」
「は、はい、兄貴!」
都賢秀の一喝で子龍が離れると、女性たちは「ブー」とブーイングした。
都賢秀は「お前らみたいなの、タダでもいらねえよ!」と叫びたかったが、もっとみっともなくなりそうで必死に我慢した。
「女に囲まれてそんなに嬉しいか?! ニヤニヤしやがって…」
そうして、つい無実の子龍を責めた。
〈…自分がモテないからって罪のない人を責めてはいけません〉
「誰がうらやましがってるって?!」
〈そうは言ってませんが〉
「同じだろ、それは!」
苛立ちが頂点に達しているところへ、レトムがからかってきてさらに腹が立った。そして子龍が――
「ご心配なく、兄貴! 私には将来を誓い合った梅仙お嬢様がいらっしゃいますので、他の女性はすべて石にしか見えません!」
梅仙との関係を明かし、美人の許嫁がいると自慢するので、都賢秀の胸はさらに煮えくり返った。
「ハハ! 心配するな。俺も独り身だから。」
46番が肩を組んで慰める様子に、都賢秀の怒りはついに爆発した。
「誰を哀れな男扱いしてるんだ?! 言っただろ?! 地元に美人の彼女がいるって!」
798番地球に彼女を残してきたというウソで見栄を張る都賢秀を、みんなは哀れむ目で見ていた…さっきまでブーイングしていた女性たちまでも…
「こいつら、人を嘘つき扱いしやがって…証拠を見せてやる!」
都賢秀は、通信もできず使い道のなかったスマートフォンを取り出して見せた。
画面には、軍服姿の都賢秀が女性の肩を抱いている写真があったが…
そこに写っていた女性は、驚くほどの美人だった。
「こ、これは…」
〈今後は七不思議じゃなくて、八不思議と呼ぶべきですね〉
「驚いたぞ…」
子龍、レトム、白龍は、都賢秀の彼女を見て口が塞がらなかった。
「この野郎ども…そんなに驚くことか?」
嘘じゃなかったという名誉は取り戻したが、あまりにも驚かれて逆に傷ついた都賢秀だった。
〈ところで、一緒に写っている少女は誰ですか?〉
その写真には、10代前半に見える明るく笑う少女も一緒に写っていた。
三人は仲睦まじく写っており、見る者を和ませる写真だった。
「お連れ合いの妹さんですか? お姉さんに似てかわいらしく、将来は美人になりそうですね。」
「見た目だけでなく、賢そうな様子からして、将来は有望な人材になりそうだ。」
レトム、子龍、白龍は少女の見た目を褒めていたが、都賢秀の表情はどんどん曇っていった。
「…それより、行こう。腹減った。」
都賢秀はスマホをポケットにしまい、先に歩き出した。
「どうしたんだろう?」
「そ、そうですね。私たちが何か気に障ることでも?」
〈怒ってるなら言えばいいのに、性格に問題がある…育ちが気になりますね〉
背後ではそんな陰口が聞こえていたが、都賢秀は暗い顔のまま歩いていくだけだった。
「…その態度を見るに、君の地球でも同じようなことがあったようだな。」
46番の途切れた言葉に、都賢秀は小さくため息をついて答えた。
「君の言葉を聞けば、もう場所を聞く必要はないな…」
「君の地球ででも生きていてくれたら、どれだけ慰められたか…残念だな。」
二人の都賢秀は、周囲の世界を忘れて会話を交わしていた。
「…それでも、俺は諦めてない。この広い世界を旅していれば、きっとどこかで会えるはずだ。」
「…それが、君が旅をしている理由か?」
「ああ。」
揺るぎない表情で答える都賢秀を見て、46番はニッと笑い、彼の肩を軽く叩いた。
「うらやましいな…もしその子に会えたら、俺の代わりに大事にしてくれよ。」
「心配するな。」
二人の都賢秀は固い決意を胸に、暗い街を突き進んだ。
*****
引き続き街を見ていた子龍は、規模の割にどこか沈んでいて暗い雰囲気に身震いしていた。
「午前中は気づかなかったけど、話を聞いて見てみると、皆の表情が暗いですね。」
疫病が流行っているという話を聞いてから見ると、街には人が溢れているのに、妙に静かだった。
人々は無表情で、何も話さず歩き回っているだけだった。
「NESが制圧される気配は見えないし、病気の進行があまりにも遅いから、人のやる気を削ぐんだ。」
46番の説明によると、NESは潜伏期だけで2~3年、発病すると3~7年かけて進行し、死亡する。酷い場合には10年間苦しんでから亡くなる人もいるという。
予防も治療もできないが、病気の進行が遅いため、患者のケアには天文学的な費用がかかる。そのため国家は患者の管理を放棄するしかなくなったらしい。
「病気にかかった人たちは、国家の助けも得られず、病気の体で働き続けなければならない。悪循環の繰り返しだよ。」
46番の説明を聞くと、街の暗い雰囲気にも納得がいった。
いや、むしろ暴動が起きていないことが奇跡に思えるほどだった。
「街の案内はこれくらいにして、そろそろ夕飯にしようか。」
46番が連れて行ったのは、庶民的な雰囲気が漂うレストランだった。
ここでピザとパスタ、それにワインを注文した。
「フランス風の地球なのに、食べ物はイタリア式なんだな。」
「ハハ! フランスやイタリアがどこかは分からないけど、ここでは普通の食事さ。」
有名店らしく、店は人でいっぱいで、確かに料理も美味しかった。
「不思議な形のツォンヨウビン(葱油餅)ですね。この長く伸びるのは何と言うんですか?」
特に子龍はピザが気に入ったようだった。
「それはチーズっていうんだ。牛乳を加工して作るんだよ。」
「初めての食事で生まれて初めて見る料理が出るとは…異世界に来た甲斐がありましたね。」
「ハハ! 僕らには普通の料理でも、初めての人には面白く見えるんだね。」
物珍しがる子龍のおかげで、夕食の席は和やかになり、皆で楽しく飲みながら食事をした。
*****
朝になると、都賢秀一行は元気よく起きて、リビングに集まった。
今日から本格的にキューブの探索に出なければならず、皆は忙しそうに動き、レトムはカレンダーを見ながらスケジュールを立てていた。
〈今日はレイアの季節の12日なので…〉
「レイアの季節って何?」
〈ああ! 都賢秀様には馴染みがないですね。46番地球の日付では、曜日の概念はなく、20人の女神によって季節が変わると信じられていて、20の月と15日で構成されています。なので今日はレイアの季節の12日です。〉
「俺たち、1つの場所に15日以上いちゃダメなんだろ? じゃあ、ここの滞在リミットも次の12日ってことになるのか?」
〈その通りです。それまでにキューブを見つけて破壊しなければなりません。〉
いつものことだが、時間はいつも足りない。たった15日間で、この広い街の中から、形も分からないキューブを探さなければならないのだ。簡単なことではない。
「悩むのはまず飯食ってからにしろよ。」
46番がチーズを乗せて焼いたバゲットとサラダ、コーヒーで朝食を用意してくれた。
「このバゲット、いいな。カリカリして香ばしくて、めっちゃうまい。」
「この冷菜も野菜が新鮮で、とても美味しいです。」
46番はカフェを運営しているだけあって料理の腕もよく、皆が美味しく食べた。
「ハハ! 体がでかいせいか、ほんとによく食べるな。」
身長186cmの都賢秀と202cmの子龍は、体格に見合う食欲を見せ、46番は笑いながらも忙しく料理していた。
「ふーむ…腹も満たしたし、そろそろ出るか。」
「はぁはぁ…気をつけてな。」
大食い連中に料理を作って力尽きた46番は、息を整えながら送り出してくれた。
都賢秀一行は勢いよく街へと繰り出したが、正直、先が見えなかった。
情報があるわけでもなく、噂も聞こえず、とにかく人に聞いて回るしかなかった。
キューブ探索に特に進展もなく、都賢秀、子龍、レトムはすっかり意気消沈して肩を落としていた。
「覚悟はしてたが、初日から何の成果もなしとはな。」
〈46番地球は私が事前に調査していた地球でもないので、本当にお手上げです。〉
成果が全くないので、ため息が自然に出てしまう。
「歩きすぎてちょっと疲れたし、公園で少し休んでいきましょう。」
暗くなった雰囲気に耐えられなかったのか、3ブロック先に見える公園で休もうと子龍が提案し、移動していると――
〈あっ?!〉
突然、レトムが大きな声を出した。
「どうした?」
〈私のレーダーに反応がありました…近くにキューブがあります。〉
偶然歩いていたらキューブを見つけることになり、ヒョンスと子龍は目を見開くほど喜んだ。
「何だって?! どこにあるんだ?」
「素晴らしいです、レトム殿!」
賢秀と子龍がせがむように聞き、レトムが周囲を探ったところ…
〈…あの博物館から最も強い信号が出ています。行ってみましょう。〉
レトムが指したのは、ヴェルサイユ宮殿のようなクラシックな建物だった。
「よし、行こう!」
都賢秀と仲間たちは、今日中にキューブを見つけられるという期待を胸に、上機嫌で博物館へと足を踏み入れた。
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