第41話 沈滞した都市
46番地区の最初の目的地に向かう途中、都賢秀(都賢秀)は様子のおかしい白龍が気になって仕方なかった。
「おい、トカゲ。いつもはおしゃべりなくせに、今日はなんでそんなに静かなんだ?」
「……」
「トカゲ」と呼ばれるたびに「無礼な人間め」と怒っていた白龍が、今回は黙っているので、都賢秀だけでなく、レトムと子龍まで心配し始めた。
「どこか具合でも悪いのでしょうか?」
〈聖獣はバイオリズムスキャンが不可能なため、状態を測定できません。これは一大事です。〉
みんなの心配が白龍に集中すると、ようやく白龍が口を開いた。
「ただ疲れているだけだ。」
「疲れたって? 何もしてないだろ?」
「この場所は、君たちが“671番地区”と呼ぶ長安国よりも神通力が不足しており、気力を保つのが難しいのだ……」
当然といえば当然だが、聖獣は実体を持つ生命体ではなく、神通力で構成された守護神なので、671番から離れると自らの姿を保つのも困難になるようだった。
皆心配していたが、生命体ではない以上、助ける方法もなく、どうすることもできずにいたそのとき──
「もうだめかもしれぬ。」
何かを決意したように白龍が再び口を開くと、皆の視線が再び集まった。
「何をしようっていうんだ?」
「力の浪費を抑えるため、形態を簡略化し、我が力を分散しようと思う。」
「形を簡略化して、力を分散? どうやって?」
「こうするのだ。」
白龍の体が強い光を放ち、次第に小さくなっていき、やがて二つに分かれた。
そしてそれぞれ都賢秀と子龍の手首へ移動し、ブレスレットへと姿を変えた。
「このブレスレットを身につけている限り、我の加護を受けることができるだろう。ただし力を二つに分けたゆえ、身体強化は子龍へ、防御陣は賢秀へ与えた。」
要員たちのプラズマガンも防げる防御陣は都賢秀に、反射神経と運動神経を最大化する身体強化は子龍へと渡された。
子龍はペクミョがついてこず、筋力と瞬発力が落ちることを心配していたが、白龍のおかげで少なくとも身体能力だけは以前のように発揮できるようになり、安心していた。
都賢秀もまた、身体能力強化よりも安全を重視する性格ゆえ、防御陣が来たことに満足していた。
「気力の損耗が抑えられるから、話すのにも力が要らんな。ああ、楽だ。やっと生き返った気分だ。」
白龍はブレスレットになった途端、いつものように口数が戻ってきた。
「うるっせえ〜! なんで俺のブレスレットに口をつけたんだよ? 子龍のとこ行けよ!」
子龍は頼むからやめてくれという顔をしていたが……
「残念ながら、我の契約者はそなたではないか。ゆえに本体はそなたと共にいなければならぬ。」
「ちくしょう〜血圧上がるわ!」
本体を移動することはできないと言われて、都賢秀は不満を漏らし、子龍はほっとした。
〈さあ、状況が落ち着いたようでしたら再び移動しましょう。もうすぐです。〉
「いい加減にして、さっさと行こう」という声に、皆がレトムを見た。
人の多い繁華街を抜け、徐々に静かな住宅街へと向かっていた。
だが裕福な地域ではないらしく、スラムとまではいかなくとも、かなり都市が老朽化して見えた。
「で、どこに行くんだ?」
〈どの地区に行こうと、常に最初の目的地は活動拠点となる場所です。〉
「それはいいけど、なんでいつもこんなボロいとこに拠点を作るんだよ? そんなに金がないのか?」
〈なぜ私に言うのですか? 人間たちの能力が足りないからでしょう。〉
「“人間たち”って誰のことを言ってるんだよ?」
能力がないという“人間”とは誰のことか気になっていたが、すぐに分かった。
レトムは、静かな通りのど真ん中にあるカフェへと皆を案内した。
看板には「La Baleine bleue」と書かれていた。
「ラ…バレーヌ? なんて読むんだ、これ?」
看板の文字を読みながら尋ねる都賢秀に、レトムのため息が漏れた。
「チッ…読めないことだってあるだろ。なんでため息つくんだよ…」
〈その歳までフランス語の一つも覚えずに何をしていたんですか…歳だけは無駄に食いやがって…〉
「くっ…なんだと!? もう言いたい放題じゃねえか!」
怒った都賢秀は自慢の“稲妻パンチ”を繰り出したが……
「まったく、その拳では……ハエもあくびしながら避けるだろうな。」
レトムはいつものように軽々と避けた。
「くそっ! ムカつく!」
都賢秀とレトムは旅の間中ずっとこんな調子だったので、白龍と子龍はすでに超然とした目で見物できる境地に達していた。
「レトム?」
そのとき、聞き慣れない男の声がして、都賢秀とレトムの小競り合いは終わった。
「Ça fait longtemps, mon ami. Ça fait combien de temps déjà ?」
輝く金髪に白磁のような肌、海のような青い瞳を持つ典型的な白人男性がカフェから現れた。
だが、その男の顔を見て、人々は驚きを隠せなかった。
「……俺?」
白人男性の顔は、どう見ても都賢秀だった。
これが3人目の“別の都賢秀”との出会いだったが、人種まで違うのは初めてで、皆は驚きを隠せなかった。
「こうして見ると、本当に別次元に来たんだなって実感するね。」
「そうですね…顔は同じなのに…人種が違うなんて…世界は広いですね。」
白龍と子龍は感心して話していたが、都賢秀は口を閉じられず、会話に参加できなかった。
46番の都賢秀も、都賢秀に気づいて嬉しそうに握手を求めてきた。
「Ah ! Tu es Do Hyun-su, n’est-ce pas ? Enchanté. Je suis Théo H. Silvian, de la planète 46.」
顔はどう見ても親しみを感じているようだったが、レトムがまた仕事をしないので何を言っているのか分からなかった。
「おい!くそお餅!またサボってんだろ!」
〈ああもう〜私は何の罪でこんな……〉
再び広域翻訳機を作動させると、男の言葉が分かるようになった。
「はは! ようやく通じるようだな。はじめまして、俺は46番地球の“君”、名前はテオ・H・シルヴィアンだ。」
名前も、肌も髪も瞳もすべて西洋人だが、顔だけはどう見ても都賢秀であるテオが、都賢秀に嬉しそうに挨拶した。
「は、はじめまして…俺は都賢秀って言うんだ…」
「ドゥ・ヒョンス? ちょっと発音が難しいな。“ドゥウィ”って呼んでもいい?」
「い、いいよ…」
穏やかな笑顔が印象的な46番は、見た目通り性格も良さそうで、知的かつ礼儀正しかった。
「ようこそ、“白鯨”へ。」
46番は店を指さし、“白鯨”だと紹介した。
「なに? ここも白鯨って名前なの? 全宇宙の都賢秀たちは皆、白鯨カフェを経営してるわけ?」
「そういえば、僕の村でも白鯨でしたね…何か意味があるのでしょうか?」
都賢秀と子龍が、白鯨に意味があるのかと尋ねたが、46番はにっこり笑って二人の肩に手を置き、店内へ案内した。
「はは! 店の名前なんてどうでもいいさ。中に入ろう。」
案内されて入ったカフェは、671番とは異なり、現代的でありながらフランスの雰囲気が色濃く漂う異国情緒あふれる空間だった。
「デザイン、かっこいいな。」
「ありがとう。席に座ってくれ。うちの名物のコーヒーをご馳走するよ。」
何気ない表情でカフェのインテリアを眺めていた都賢秀だったが、“コーヒー”という言葉を聞いた瞬間、首を音が鳴るほど回して46番を見た。
「コーヒー?!」
「コーヒーが好きなのか? じゃあすぐに淹れてくるから、ちょっと待ってて。」
コーヒーを“淹れてくる”という言葉に、都賢秀はカウンター席に素直に座り、早く出てくるのを心待ちにしていた。
〈今まで一緒にいて、そんなにコーヒー好きだとは初耳です。〉
「現代社会を生きる人間で、この生命水を嫌いな奴なんているかよ。」
朝起きれば一日の始まりに、食後の一杯に、運転中の無事故祈願に、残業時の効率向上に……あらゆる口実で飲む現代人の生命水、コーヒーは当然都賢秀の好物でもあった。
その“生命水”という表現が気に入ったのか、46番は楽しそうに笑った。
「ははは! コーヒーが生命水とは…詩的感性のあるやつだな。」
そう言いながら、46番は都賢秀が待ち望むコーヒーを淹れた。
そしてコーヒーが出されると、都賢秀はまず香りを楽しんだ。
「はあ〜…魂まで染み渡るな…」
久しぶりに感じるコーヒーの香りに、都賢秀はうっとりした。
「ほう〜これが“コーヒー”という茶の香りですか?」
「我も初めて感じる香りだが、心を落ち着かせてくれる香りだな。」
子龍と白龍も、コーヒーの香りに感動していた。
46番はコーヒーと簡単な茶菓子を出しながら、話を始めた。
「前にレトムと約束した通り、ここを拠点にしてもいいよ。一階が店で、二階が俺の家だから自由に使っていい。あと、最近は連盟のエージェントも46番地区には現れていないから、街を歩いても心配ないさ。」
「連盟のエージェントが来ないって?」
「うん…今46番地区はパンデミック状態だからね。」
「パンデミック?! 何か伝染病でも流行ってるのか?」
伝染病という言葉に、都賢秀も子龍も表情が固まった。
「そう…神経侵蝕症候群…通称NESと呼ばれる病気で、まるで認知症のように脳の機能が徐々に麻痺していき、初期には記憶力が薄れ、次第に思考力も失い、運動能力もなくなって…最終的には死に至る…非常に長く苦しんだ末に死ぬ恐ろしい病気さ。」
「そ、そんな病気があるなんて…予防薬や治療薬はないのか?」
「治療薬はあるよ。」
あれだけ怖い病気だと言っておいて治療薬があるというので、都賢秀は「ふざけんな」という顔で睨みつけた。
「この病気が最初に報告されてからもう60年が経つが、人々はそれほど深刻には捉えていなかった。でも薬が作れなくなってから、次第に脅威的な病気に変わってしまったんだ。」
「薬が作れなくなったって? どうして?」
「薬の主要成分である“プラミナの花”という薬草が…次元の向こう側の地球にしか育たない植物なんだ。」
46番の説明を聞かずとも、すぐに理解できた。
予防が不可能な以上、治療が重要だが、治療薬の原料が連盟の横暴で輸入できない状況にあった。
「おかげで、病気にかかるのが怖くて連盟のエージェントすら来られないから、安心していいよ。」
「でも、予防薬も治療薬もない病気がこんなに蔓延していたら…」
「…ニュースによると、世界中で毎年10万人がこの病で亡くなっているそうだ…このままだと、次元が崩壊して滅ぶよりも先に、人類が滅ぶかもしれないな…」
都賢秀と仲間たちは、46番地球の人々が危機に瀕していることを知り、急いでキューブを破壊しなければならないと決意を固めた。
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