第40話 新しい文明を学ばなければならない
1番地球にある次元移動管理連盟の本部。
連盟の実質的な首長である行跡局局長レオニル・ピョランドの執務室で、二人の男が膝をついていた。
彼らは、671番地球からかろうじて生還したジュゼッペ・ピョランド隊長と斎藤・レン捜査官だった。
「それで…次元の繋ぎ手すら捕らえられず、チームは全滅して帰還したというのか?!」
レオニル局長の怒りに満ちた顔を前に、ジュゼッペは顔を上げることもできず、たじろいでいた。
「い、全滅とは…確かに私の後ろに斎藤捜査官がいますが…」
「黙れ!!!」
レオニル局長の一喝にジュゼッペはしゅんと頭を下げた。
「8人も動員しておきながら、たった2人だけが生存して戻ったのが全滅と何が違うんだ?!」
「で、ですが叔父上、私の話を…」
「局長と呼べ、この愚か者め!!」
「は、はい!局長!」
無能な上にレオニル局長の甥だから隊長になったジュゼッペを、斎藤はため息交じりに見ていた。
『学閥や縁故が連盟を滅ぼすとはまさにこのことだ…あんな奴を隊長に据えるなんて…』
背後で斎藤の思考も知らず、ジュゼッペは汗をかきながらレオニルに状況報告を始めた。
「え、ええと…局長…報告書をお読みになればおわかりでしょうが、私たちが都賢秀を捕らえられなかったのはやむを得ない事情が…」
「…お前たちが提出した報告書は両方とも読んだぞ。」
「は、はい!!報告書には…」
レオニルが自分の書いた報告書をすべて読んだと聞いて希望を抱き彼を見たジュゼッペは、奇妙なことに気付いた。
「しかし…報告書が二つ?しかも一体何の報告書だ…?」
自分は確かに一つしか書かなかったはずなのに、二つ目の報告書に疑問を抱くジュゼッペに、レオニル局長はその正体不明の報告書を見せた。
「一つはお前が提出した報告書…もう一つは…斎藤捜査官が提出した報告書だ!!」
部下が勝手に報告書を提出したと知ってジュゼッペは怒りに満ちた顔で斎藤をにらんだ。
「この野郎が!!勝手に報告書を書いたとはな…!!」
「私が命じたのだ。」
報告書を書けと命じたのはレオニル局長自身だった。
「叔父上!一体何を考えて…」
職場では絶対に私的な呼称を使うなと何度も注意したのに、また「叔父上」と呼ぶ愚かな甥に頭が痛くなった。
「お前の性格はよく知っている。都合の悪い状況はすべて省いて書いて提出したに違いない。だから斎藤捜査官にも報告書を出させたのだ。」
斎藤も報告書を書いて提出したと聞いて、ジュゼッペは冷や汗をかいた。
任務中ずっと争い仲も悪かったから、悪評ばかり書かれているのではと心配したのだ。
しかし…
「ふむ…小型追跡衛星を発射し次元の繋ぎ手の位置を特定し、出動して遭遇したと…」
幸いなことに斎藤は自分に悪く書いてはいなかった。
ジュゼッペは義理堅い斎藤を見て、今後は大事にしようと思った。
終わるまでは…
「だが繋ぎ手と遭遇したにもかかわらず、大きな騒ぎを起こしたせいで最初に逃し、新人の斎藤捜査官が第二の位置も特定して敵の本拠を急襲したにもかかわらず取り逃がしたと…」
「叔父上…そ、それは…」
ジュゼッペは何か言おうとしたが、レオニルは聞く気もないように手を振って人を呼んだ。
「お前の体に流れるピヨランドの血に感謝せよ。」
拘束された罪人を連れてくるだけの簡単な仕事すらできない無能だが、甥だから殺さず免職して故郷に追放するつもりだった。
「それで…お前の考えはどうだ、新人よ?次元の繋ぎ手を捕まえるのは難しいか?」
「…正直、普通の男ではありませんでした。専門の軍事教育を受け、実績もある男のようでした。繋ぎ手の追跡を専任するスペシャルチームを編成して追うべきだと思います。」
レオニルが感情のない目で見つめているので、斎藤は背筋が寒くなったが、感心もしていた。
若い彼の冷静かつ正確な状況判断に。
「よし…お前を次元の繋ぎ手追跡チームの隊長に任命する。どうしても繋ぎ手を捕らえて連れてこい。」
「はい!!わかりまし………え?隊長を誰に?」
「お前だ。」
新人の自分がスペシャルチームの隊長に…斎藤は信じられなかった。
「ほ、他に優秀な先輩たちがいるのに、私のような新人がどうして…!!」
「今の連盟は前例のない危機に直面している。経歴や役職など些細なことで悩んでいる暇はない。」
経歴や役職を軽んじるのは難しいが、何にせよ大きなチャンスなのは確かだった。
「頑張ります、局長!!」
「頑張るだけでは意味がない。お前は…」
「もちろんです。必ず次元の繋ぎ手を捕まえて局長の元へ連れてきます!」
斎藤 蘭は計画を立てるため軽く頭を下げて部屋を出て行った。
レオニル局長は冷静で表情を変えず、去っていく斎藤の背中を見つめながら報告書を再び読んだ。
*****
次元が開き、都賢秀(都賢秀)とレトム、子龍が歩いて出てきた。
「空中でもなく、崖でもなく…完璧だ!」
今回は失敗せずにちゃんと次元を開けたと自分を褒めていると…
<面倒な方法で自殺するのが趣味ですか?>
「何だ?!また訳の分からないことを言うな…!!」
レトムがまたからかって、都賢秀の表情が険しくなり抗議しようとしたところで…
ブワァァァァン!!!
自分の目の前を車が通り過ぎて、都賢秀は凍りついた。
キーィィィッ!!!
「Bordel de merde, vous êtes tarés ou quoi ?! Qu’est-ce que vous foutez au milieu de la route ?! Dégagez-moi ça tout de suite !」
道路の真ん中に立っていたため運転手が急ブレーキを踏み、怒って抗議すると、都賢秀は謝って急いで立ち去った。
「こ、ここは何だ?!故郷に戻ってきたのか?」
車道で車が行き交う現代的な都市の風景を見て、都賢秀は自分の故郷の地球に戻ってきたと思ったが…
<ここは798番地球ではなく、46番地球ですよ。>
「そうか?うちの地球と文明の発達度が似ているから戻ってきたと思ったよ。」
<46番地球は都賢秀様のおっしゃる通り、科学技術力が798番地球とほぼ同じです。適応は難しくないでしょう。>
道路では車が走り、空には飛行機、人々は携帯電話で通話し、店のテレビではニュースが流れていた。
だからか、レトムを見ても一瞬興味を示すだけで特に気に留めなかった。ただ一人を除いて…
「そうだな、ここでは服装を変える必要もなくて楽だ…あれ?」
都賢秀とレトムが移動しようとしたが、子龍の姿が見えなかった。
「こ、これは一体…鉄でできた馬車があんなに速く走り…空には怪鳥が…じ、地獄か…?」
現代的な都市を見て子龍は呆然と見物していてついてこなかったのだ。
「おい、こら!!迷子になる前にしっかりついてこい!」
都賢秀は子龍の腕を引っ張って行ったが、子龍はまだ呆然として周囲を眺めていた。
「はあ~アニメでよく見る光景を自分が体験するとはなあ。」
過去からタイムスリップして現代文明を見て驚く時間旅行者を急かして連れて行くシーンはメディアの定番素材だが、ただ面白がって見ていただけの光景を自分が経験するとは思わなかった。
「ところでここは白人の国か?」
周りを歩く人のほとんどが白い肌にブロンドヘア、青い瞳の人が多く、東洋よりは西洋風の地球らしかった。
<現在私たちがいるのは46番地球のモンテクレール公国で、首都ロシュメールにいます。文化も言語も思想も位置も798番地球のフランスとよく似ています。>
「そうらしいな…」
『ボンジュール』と挨拶しながらパリパリのバゲットとクリーミーなラテを味わう人たちを見て、都賢秀はまるでフランスのど真ん中に立っている錯覚を覚えた。
「うわっ!!」
「ん?何の声だ?」
<誰かが驚いて叫んだ声のようです。>
都賢秀とレトムは何の声か振り返ると…
「Monsieur, vous allez bien ? Si vous ne vous sentez pas bien, je peux appeler une ambulance pour vous.」
金髪のフランス風美女が子龍に大丈夫か心配して声をかけているが、子龍は大きな体に似合わず怯えてオドオドしている。
「おい!何やってるんだ?!」
「ひ、兄貴!こ、ここに人はいなくて妖怪ばかり…」
671番地球の東方の長安国で生まれ育った子龍は、当然白人を見たことがなく、彼らを妖怪と誤解したようだ。
「おい!失礼な奴だな!心配してくれてる人に妖怪だなんて言うなよ!」
「で、でも、言葉が通じないから、この私を心配しているのかどうか分からないのだ…」
確かに都賢秀もフランス語は全くわからず、彼女の表情を見て心配してくれているとしか思えなかった。
「おい!くそお餅!仕事しないのか?翻訳機使えよ。」
<都賢秀様と子龍様の翻訳機能をサポートするだけで負荷がすごいです。>
最近自然に会話していて忘れていたが、都賢秀と子龍は実は言葉が通じていなかった。
レトムの助けがあってようやく可能なだけで…
<さらに46番地球の言語まで提供しようとするとかなり大変なのでフランス語くらいは覚えてください。>
「くそっ!とにかくやれよ!普段から何もしてないくせに!」
<はあ…AIの身にもなれよ…>
レトムが広範囲翻訳を提供してくれて、ようやく周囲の言葉が理解できた。
「大丈夫ですか?顔色も悪くて体も震えているので…やはり病院に行ったほうが…」
若い女性は子龍を本当に心配して、バッグからスマホ(のように見えるもの)を取り出して救急車を呼ぼうとしていた。
「あ!こちらは仲間です。この田舎者が美女を見て驚いているだけなので大丈夫です。心配しないでください。」
都賢秀が軽妙な口調で大丈夫と言うと、女性は安心して去って行った。
「初日から邪魔ばかり…お前も故郷に帰れ!」
「そ、それはひどいですよ、兄貴…」
子龍は都賢秀に叱られて肩を落とし、意気消沈していた。
<子龍様はもう少し頼りになると思っていましたが…都賢秀にもう一人増えましたね。>
「このくそお餅め!言葉だけで済むと思うな!」
3人は普段通り和やかな会話をしながら46番地球の目的地へ歩いていった。
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