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第39話 再び次元を開く




朝になると、子龍(ズィーロン)は旅の準備を終え、自身の愛剣である「天雷」を手に取った。


そして、ベッドの上に座り、自分を見つめる聖獣の白猫の頭を撫でた。


「これから別の場所へ行くことになるが…お前は一緒には来られないだろうな?」


子龍(ズィーロン)は自分の聖獣に一緒に行けるのかと尋ねたが、聖獣は――


首を左右に振るだけだった。


子龍(ズィーロン)はすでに予想していたことだったので、ただ聖獣の行動に苦笑を漏らすだけだった。


聖獣は671番地球を守る存在であるため、他の地球には行けなかった。


幼い頃からずっと共にしてきた聖獣と別れるのは名残惜しかったが、旅立つという自分の意志を止めることはできなかった。


子龍(ズィーロン)は背負い袋を背負い、部屋を出ようとした――


子龍(ズィーロン)っ!!!」


梅仙(メイシェン)が恐ろしい勢いで駆けてきていた。


「…お嬢様にお目にかかります!」

「今そんな挨拶してる場合!? いったい何よ? なんで行くなんて言うのよ?!」


子龍(ズィーロン)の話を聞いて急いで来たのだろう、梅仙(メイシェン)は汗でぐっしょりだった。


「村を再建しなければならないこの大事な時期に、どうして行こうとするの?」

「村を再建するために、拙者は去らねばならないのです」

「はぁ?!」


村を再建するために自分が去らなければならないという言葉を理解できず、子龍(ズィーロン)は仕方なく続けて説明した。


「領主が正気を失い、不適格な官軍たちが暴走していたことを、市民はすでに知っています。しかし、それでも不満を抱く市民は少なくありません」

「…それで?」

「だから拙者が去るのです。拙者は官軍の大将でしたから…」

「そんなの、無茶苦茶よ!! 二万人もの官軍をどうやってあなただけが管理できるのよ!それに、これはあなたのせいじゃない!」


「しかし市民は、そうは思わないでしょう…それゆえ、閣下も厳しい言葉をかけながら、私の辞職を受け入れてくださったのです」


前日、龍煒(ロンウェイ)が厳しい言葉で子龍(ズィーロン)を追い出したのは、彼がここにいれば市民の非難をまともに受けることになってしまうため、あえて去る口実を与えるためだった。


「お嬢様の活躍のおかげで村は正常化し、市民の心も慰められました。そんなお嬢様の傍に拙者がいれば、治世の妨げになるだけです」

「でも…反乱軍に私を送ってくれたのは、あなたじゃない!」


龍煒(ロンウェイ)の状態が次第に悪化していたとき、子龍(ズィーロン)梅仙(メイシェン)を城から脱出させ、反乱軍へ送り出し、未来への備えを託したのだった。


「それに…官軍の捜索から私たちが見つからないように、捜索範囲を変えて守ってくれたのも、あなただったじゃない…それなのに、どうして非難を受けるのよ!」

「…拙者はただ、お嬢様を守るためにそうしたまでです」


どんなに言っても去ろうとする子龍(ズィーロン)の言葉に、梅仙(メイシェン)の目からは大粒の涙がこぼれ、恨めしそうに彼を見つめた。


「それじゃあ…私たちの関係はどうなるの…?」


その言葉に、子龍(ズィーロン)も一瞬たじろいだ。


「私の求婚を受け入れてくれたじゃない…これから一緒に歩むはずだったのに、どうして…?」


お互いを愛し、未来を誓い合った梅仙(メイシェン)子龍(ズィーロン)。だが、龍煒(ロンウェイ)の異変により、子龍(ズィーロン)梅仙(メイシェン)を逃がし、離れ離れになっていた。


すべてが正常に戻った今、結婚を期待していた梅仙(メイシェン)には、それが裏切りのように感じられた。


「… 申し訳ございません。」


最後まで去ると言い切る子龍(ズィーロン)を見て、梅仙(メイシェン)は堪えきれず――


パチン!


彼の頬を打った。


「…私、男を見る目がなかったわ。消えて。二度と私の前に現れないで」


子龍(ズィーロン)は頬を静かに撫で、黙って頭を下げた。そして、静かに背を向けて去っていった。


自分がこれほど引き留めても、あっさり去っていく子龍(ズィーロン)を見て、梅仙(メイシェン)は壁に寄りかかり、声もなく泣き始めた。


「そんなに悲しまないでおくれ、メイ。」


後ろから聞こえた声に、梅仙(メイシェン)は驚いて身を起こした。


「あっ、お父様!」


龍煒(ロンウェイ)梅仙(メイシェン)の涙を拭って慰めてくれた。


「あいつが不器用で融通の利かない奴だってことは、誰よりもお前がよく分かっているだろう。あれはあれなりに責任を取ってるつもりなんだろう」

「で、でも…」

「言いたいことは分かってる。あいつのせいじゃないって言いたいんだな」


龍煒(ロンウェイ)の言葉通り、子龍(ズィーロン)の責任ではなかった。だが、彼が結婚まで放棄して去ろうとするのかと、梅仙(メイシェン)には理解できなかった。


「だが、市民の不満などはただの口実にすぎん。あいつは…都賢秀(ドヒョンス)公に憧れて、広い世界を見てみたいんだよ」

「広い世界…」


都賢秀(ドヒョンス)を追って広い世界を見てみたい…それが男の夢であることを、女性である梅仙(メイシェン)が理解できないわけではなかった。


だが、それが自分との結婚よりも大切なことなのだろうか…梅仙(メイシェン)はやはり、裏切られた気持ちを拭えなかった。


「もっと大きな男になって帰ってくるあいつを、信じて送り出してやろう」

「…子龍(ズィーロン)は本当に戻ってくるのでしょうか」

「当然戻ってくるとも」

「え…?」


うなだれていた梅仙(メイシェン)は、龍煒(ロンウェイ)が断言するその言葉に、顔を上げた。


「男ってのは、どれだけ外を回っても、最終的には自分の伴侶の元へ戻ってくるもんさ」


「伴侶」と言いながらウィンクする龍煒(ロンウェイ)を見て、梅仙(メイシェン)の顔は真っ赤になった。


「し、知っておられたのですか…?」

「ははは! 娘のことを分からん父親がどこにいる? お前の顔見てたら何を考えてるか一目瞭然よ」

「あ、ああもう、お父様!」


龍煒(ロンウェイ)の冗談に、梅仙(メイシェン)はぽかぽかと軽くたたきながら抗議した。


だが、そのおかげで梅仙(メイシェン)の心は少し軽くなった。


「わしの後継者は、娘婿になる子龍(ズィーロン)以外にはおらん。だから、広い世界で多くを学んで帰ってくるあいつを信じて、わしらは我々の務めを果たそう」

「はい、お父様」


龍煒(ロンウェイ)梅仙(メイシェン)は、まっすぐ進む子龍(ズィーロン)の背中を温かい目で見つめていた。


*****


「そういう事情で、私の居場所がなくなったため、兄上について行こうと思っております」


子龍(ズィーロン)が仕組んだことではなかったが、村人たちを抑圧していた官軍の大将だった男が、これから治世を担う梅仙(メイシェン)のそばにいるのは邪魔になるという気持ちは、都賢秀(ドヒョンス)にも理解できた。


だが――


「それはいいとして、なんでお前が俺について来るんだ? あんだけ死ぬ気で戦ったこと、忘れたとは言わせねえぞ」

「忘れるはずがありません。あの時は本当に多くを学びました」

「学んだぁ? ふざけんな。面倒くさいから、出て行くなら他の場所に行けよ」

「はははっ! お厳しいですね」


かつては堅物で真面目一徹だった軍人の典型であった子龍(ズィーロン)が、図々しい笑顔でそんなことを言ってのける。


「どうか私もお供させてください、兄上」

「兄上だと? どの口がそんな馴れ馴れしく…いつ俺がお前の兄貴になったよ」


子龍(ズィーロン)がしつこくついて来ようとするのを、都賢秀(ドヒョンス)は面倒そうに追い払おうとしたが、その言葉に妙な違和感を覚え、ふと口をつぐんだ。


「ていうか…お前、なんで俺のこと『兄上』なんて呼ぶんだ?」

「はい? たしか兄上は31歳だとお聞きしましたが、違いましたか?」

「合ってるけど…」

「でしたら、やはり兄上ではありませんか」

「…お前、何歳だ?」

「今年で24になりますが?」

子龍(ズィーロン)の年齢を聞いて、都賢秀(ドヒョンス)は天地がひっくり返ってもこれ以上の衝撃はないという顔をした。


「…いくらなんでも、その反応は傷つきます」

「反応しないほうがおかしいだろ!? その顔で24歳だって?! 44歳じゃなくて!?」


年齢を偽ってるんじゃないかという都賢秀(ドヒョンス)の言葉に、子龍(ズィーロン)もとうとうムッとして反論した。


「私が兄上より整っているからといって、そんなふうに決めつけないでください!!」

「誰が? お前が? そんなに自己評価が甘くて、この厳しい世の中でどうやって生きていくつもりだ!」

「私に想いを寄せてくれる女性がどれほどいるか、兄上がご存じになれば驚きでひっくり返るでしょう!」

「俺だって故郷ではモテたんだぞ! 美人の彼女だっていたんだからな、このやろう!」

ほんの昨日まで、男のプライドと命をかけて戦っていたとは思えないほど、9歳の子どもよりも幼稚な口げんかを繰り広げる都賢秀(ドヒョンス)子龍(ズィーロン)だった。

その様子を見て、レトムは思わず心の中でつぶやいた――

<はあ〜…この溜息が止む日は、いつ来るのやら…>

溜息が止まらなかった。


「いい加減にしろ! いい年した大人が何をやっているのだ?! これから共に旅をする仲間なのだから、仲直りして争いはやめなさい!」


ついに、最年長(?)の白龍(ウカイ)が出てきて、2人を止めに入った。


「誰が旅の仲間だって?! 俺は認めてねえぞ! それに、お前こそ、なんでまだここにいるんだよ?! さっさと星界に帰れよ!」


都賢秀(ドヒョンス)は、ちゃっかり子龍(ズィーロン)を旅のメンバーに加えてしまったことに腹を立て、文句を言ったが――


「申し訳ないが、そのつもりはないのだ」

「は? なんで?」

「この本座も広い世界を見てみたいのだ。よって、お前たちと共に行こうと思ってな」


白龍(ウカイ)が同行したいと言い出したことで、都賢秀(ドヒョンス)よりも子龍(ズィーロン)が「えっ?」と驚いていた。自分の聖獣はついて来られないと言っていたのに…


もしかして、 白龍(ウカイ)ほどの最上位聖獣なら他の世界へ行けるのでは?と期待してみたが――


「星界に戻らなくてもいいのか?」

「聖獣には与えられた使命があるだけで、去りたいと思えば、誰もそれを止めはしない」


聖獣とはいえ、行きたいならどこへでも行けるらしい。


つまり、子龍(ズィーロン)の聖獣・白猫は、ただ子龍(ズィーロン)と一緒に行きたくなかっただけだった。


「ちっ! もう面倒くせぇ! ついて来ようが来まいが、勝手にしろ!」


都賢秀(ドヒョンス)はどうでもよくなって、中央庭園へと向かった。


一緒に育ってきた聖獣に見捨てられたという裏切り感に、呆然としながらも子龍(ズィーロン)もとぼとぼと後を追っていった。


*****


都賢秀(ドヒョンス)子龍(ズィーロン)が庭園に出ると、人々がすでに集まって待っていた。


「もう出発されるのですか?」


龍煒(ロンウェイ)が代表として都賢秀(ドヒョンス)に挨拶をした。


「ええ。ここの“くそお(レトム)”が早く行こうとうるさくて、もう出発しようかと」

<ちょっと!勝手にAIの名前を変えないでください!>


「 お餅」などと言う都賢秀(ドヒョンス)の発言に、レトムは怒ったが、周囲の人々には仲の良い仲間同士のじゃれ合いにしか見えなかった。


「ははは! それもすべて都賢秀(ドヒョンス)公のことを思っての、レトム公の配慮ではありませんか。あまり責めないであげてください」


龍煒(ロンウェイ)梅仙(メイシェン)を呼び、ひとつの袋を差し出した。


「旅の助けになればと思い、資金を支援しようとしたのですが、レトム公の話によれば、別の世界では我々の貨幣が通用しないとのこと。それで、これを用意しました」


都賢秀(ドヒョンス)は「これって何を?」と袋の中を覗くと――


「こ、これは…銀じゃないですか?」

「その通りです。この世界の貨幣がどうであれ、人の住む場所であれば銀が通じない所はありません。そう考えて準備いたしました」


ざっと見ただけでも、数百万円相当はあるだろうと思える量の銀を前にして、都賢秀(ドヒョンス)は大いに恐縮した。


「でも、こんなに大量の銀を…」

「ははっ! 村と娘を救ってくださった恩人に、これぐらいは当然のこと。むしろ、旅の妨げになるかと心配して、もっと渡せないのが心苦しいくらいですよ」


「ご厚意、ありがたく頂戴いたします」


都賢秀(ドヒョンス)は礼を言い、ゲートを開こうとしたそのとき――


「おじさん!! これ持って行ってください!」


天宝(ティエンバオ)が駆けてきた。


彼の手には、愛和(アイホー)おばあちゃんが用意した料理の入った袋があった。


「おばあちゃんが、旅の途中で食べるようにって料理を作ってくれたんです。持って行ってください」

「ありがとう。愛和(アイホー)おばあちゃんに、美味しくいただくって伝えてくれ」


都賢秀(ドヒョンス)天宝(ティエンバオ)の頭を撫でて、お礼を言ったあと、ゲートを開いた。


「それじゃあ、みんな元気でね」


都賢秀(ドヒョンス)子龍(ズィーロン)はゲートへと入り、新たな旅に出発しようとしていた。


「おじさん! 僕、大きくなったら絶対おじさんみたいな英雄になります!」


「ははっ、楽しみにしてるよ!」


のちに、天宝(ティエンバオ)は帝都へ渡り、科挙を首席で合格し、帝国史に名を刻む名宰相となるが、当時の都賢秀(ドヒョンス)はそれをただの子どもの夢として微笑ましく受け止めていた。


都賢秀(ドヒョンス)は手を振りながらゲートに入り、それが閉じた。


龍煒(ロンウェイ)と村人たちは、ゲートが消えたその場所を静かに見つめながら、遠くへ旅立った者たちの無事を祈った。


「どうか彼らの旅路が、平穏でありますように――」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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