第37話 ついに最初のキューブを破壊する
都賢秀の渾身の一撃が正確に龍煒の指輪を直撃すると、指輪に付いていたキューブが「バリバリッ」とひび割れ、
ドオォォン!!!
爆音とまばゆい光を放ちながら消え去った。
「せ、成功だ…」
キューブが砕けたのを確認した都賢秀は、地獄のような熱気に耐え切って力が抜けたのか、その場に崩れ落ちてしまった。
「ば、ばかな…この本座の力が…」
火龍の気と龍煒の肉体をつないでいた媒介であるキューブが消えたことで、気が徐々に散り、龍煒の身体は次第に人間の姿へと戻っていった。
「ならぬのだあああ!!! 本座の…長年の夢がこんなにも虚しく…ならぬ!!!」
火龍は散っていく自らの気をつかもうと腕を振り回したが……
火の気が体から抜けていくのを止めることはできなかった。
「グアアアァッ!!」
ついに火龍は龍煒の身体から完全に抜け出し、龍煒もまた都賢秀と同じように意識を失って倒れた。
白龍のように実体のない炎だけの姿となった火龍は、契約者がいないため現世で力を発揮することが難しく、白龍と比べると非常に小柄でかわいらしい姿をしていた。
「こんなことで終わるものか!! 本座はあの身体を再び手に入れてやる!!」
火龍が再び龍煒の身体を手に入れようと、意識を失って倒れている龍煒に飛びかかろうとした、そのとき!
「ピイイイイィィィ!!」
キューブの影響で席を奪われていた、本来龍煒領主の聖獣である黄金の鷲が、火龍の前に立ちはだかった。
「こ、このような下等な獣ごときが、この本座に逆らうとは…」
現世では契約者のいない聖獣は力を発揮できず、通常であれば相手にすらならぬ鷲にさえ道を塞がれた、哀れな状態となっていた。
「見苦しい抵抗はやめて、罪を受け入れるのだ。」
気の相性が相反し、通常は自分より劣ると見下していた白龍が近づいてきて「抵抗は無駄だ」と言ってきたことに、火龍は歯を食いしばって睨みつけた。
「こ、この生意気な白トカゲめが…」
「その“白トカゲ”って呼び方、そろそろ飽きないか? とにかく大人しく罰を受けるのだ。」
「この本座が何をしたというのだ?! なぜ罰を受けねばならんのか?!」
なおも自らの過ちを理解しない火龍を見て、白龍は思わずため息をついた。
「我らを創造された皇玉上帝さまは、人間を守るために我らを創られた。己の存在理由を否定した時点で、それは罪に他ならぬ。」
白龍の核心を突く言葉が突き刺さる。
己の存在理由を否定したのだから罪は明白だという、まさに正論で押し切った白龍に対して、火龍が自分の過ちを悟り、涙を流して悔い改めながら消えていく……というのが定番の展開ではあるが……
「てめぇこの野郎!! 白トカゲごときが誰に口をきいてやがる!! このクソヤロウ!! くたばれ!!」
火龍はもう上品ぶるのも面倒になったのか、ありったけの罵声を浴びせながら暴れ回っていた。
「はあ〜同じ聖獣として恥ずかしいから、さっさと消えてくれ。赤トカゲめ。」
いつも自分を「白トカゲ」とからかっていた火龍に「赤トカゲ」と呼び返し、ささやかな仕返しをした白龍は、火龍を封印し、与えられた使命を果たした。
「お、終わっ……たのか?」
顔色が真っ青な都賢秀は、本当にすべてが終わったのか心配になり、辺りを見回した。
<はい、その通りです。>
いつの間にか近づいていたレトムが、すべてが終わったと告げた。
<空を見ればわかるはずです。>
「空?」
レトムに言われるまま、空を見上げると――
「うわっ?!」
空中に浮かぶ巨大な球体から、四方八方へ光の筋が放たれていた。
<ゲートが回復しています。これから671番地球にあるゲートが、順々に開かれることでしょう。>
「そっか……よかった……」
自分の成果を眺めていた都賢秀は、力尽きてそのまま倒れこんでしまった。
<都賢秀様!!>
倒れる都賢秀にレトムが駆け寄って様子を見たが……
「ぐお〜…」
ただ眠っていただけだった。しかもいびきをかきながら。
<はあ…まったく心配ばかりさせて…私のメインCPUがさらに不調になった気がします。>
「ハハハ! あまり責めないでくれ。契約者のおかげで、私もお前も望んだものを手に入れたではないか。」
レトムのため息に、白龍がそう返してお互いを慰め合っていたが、とにもかくにも厄介だった事件は全て終わったのだった。
「レトム公! 白龍様!」
レトムと白龍が互いをねぎらっていたとき、梅仙と子龍が反乱軍の兵士たちとともに駆けつけてきた。
「空に奇妙な球体が現れましたが……まさか、あれが……」
「見事に見抜いたな。キューブは砕けたのだ。」
白龍がすべてが無事に終わったことを知らせると、梅仙はすぐさま地面にひれ伏し、礼を捧げた。
「おめでとうございます、白龍様、レトム公。悲願を果たされましたね。」
「祝いの言葉は我らではなく、困難を耐え抜いたお前たちが受けるべきだ。これまでよく頑張った。」
その労いの言葉に、梅仙は感極まって涙を流し始めた。
「この上ないお言葉にございます……」
これまで誰よりも心を痛めていた梅仙の涙を見て、人々はついに平和が訪れたことを実感した。
「ところで、都賢秀公は……?」
子龍が辺りを見回して都賢秀の姿を探すと、レトムが答えた。
<あちらで情けなく眠っています。特に外傷もないので、ご心配には及びません。>
火龍と戦ったにもかかわらず外傷一つないと聞き、梅仙と人々は改めて都賢秀の実力に感嘆していた。
「やはりすごい方なのですね……でも、あのままお眠りになって風邪でも引かれたら大変です。宮女たちを呼んで、寝所へお運びしないと……」
梅仙が宮女を呼ぼうとしたそのとき、低いうめき声が聞こえた。
「うぅっ……」
意識を失っていた龍煒が、ゆっくりと身体を起こしたのだった。
子龍と反乱軍の隊長は警戒し、梅仙を守ろうと前に出た。
火龍が封印されたことを知らない反乱軍たちは、梅仙を守るために当然の警戒を見せていたが――
「心配は無用だ。火龍は封印された。」
白龍がやって来て、安心させてくれた。そして実際の龍煒は――
「こ、ここは……本殿ではないか? い、一体何が起きたのだ……?」
自分がここにいる理由も、建物が破壊されている理由もまったく分からない様子で、周囲を見回していた。
「お父様……? ご無事にございますか?」
梅仙は、本当に火龍が龍煒の体から抜け出したのかを確認するため、不安な表情でそっと声をかけた。
「メイ? 一体どうなっているのだ? なぜ建物がこんなにも壊れている?」
普段から優しく穏やかだった龍煒の口から、いつものように娘を呼ぶ愛称が飛び出した瞬間、梅仙は本当に父が戻ってきたのだと実感した。
「お父様っ!!」
感極まった梅仙はそのまま父に抱きつき、涙を流した。龍煒は顔を真っ赤に染めた。
「お、お前ももういい歳だろう? 人前でそんなことをするものではない。」
口ではたしなめながらも、娘の抱擁がまんざらでもなさそうに、優しく背を撫でていた。
「小女がどれほど心配したか、お分かりになりますか?! 二度とお父様にお会いできないのではと思っておりました!」
心配だったという言葉に、龍煒は一瞬戸惑ったが、ぼんやりしていた記憶が少しずつ蘇ってきた。
「そうか……私は火龍に……」
「記憶が戻られましたか?」
「断片的ではあるが……」
火龍に肉体を乗っ取られ、意識が徐々に薄れていった記憶が、龍煒にはあった。
「わしは……村に大きな被害を与えてしまったのか?」
誰よりも禮縣を愛していた龍煒は、村の無事を真っ先に気にしたが――
「心配することはない、領主殿。村は無事だ。」
不安げな顔の龍煒に、白龍が穏やかに声をかけて安心させた。龍煒は白龍の顔を見て、大きく目を見開いた。
「そ、その方は……?」
「本座のことを思い出したか?」
「や、やはり!!」
龍煒は目の前の存在が白龍だと気づき、慌てて地面にひれ伏した。
「身分卑しき龍煒、西方の主にご拝謁いたします。」
「そんなにかしこまることはない。」
「それより、村が無事とはどういうことですか? わしの体を乗っ取っていた火龍は……」
「そこに寝ている都賢秀によって封印されたのだ。もう心配は無用。」
皆の視線が、ぐっすり眠っている都賢秀に集まった。
「あの男が、禮縣を救ったのか?」
「はい、お父様。火龍の炎も恐れず、人々を救うために立ち向かわれた、勇敢な方にございます。」
「伝説の聖獣である火龍に立ち向かい、村を救ったとは……まさに禮縣の英雄だ。」
英雄、都賢秀。
領主龍煒により、都賢秀に正式に「英雄」の称号が与えられた。
「英雄都賢秀、万歳!!」
人々は英雄都賢秀の武勇を称え、拍手と歓声をあげた。
そして英雄都賢秀は……
「んにゃ……寝てるのにうるせぇ……すぅ〜……」
寝言で文句を言っていた。
「ん?」
目を覚ますと、都賢秀は見知らぬ天井を見つめていた。
「ここは……?」
自分がなぜ見知らぬ場所で目覚めたのか理解できず、周囲を見回した都賢秀は、火龍との戦いを思い出した。
「そうだ! キューブはどうなった!?」
キューブのことが気になった都賢秀は、勢いよく起き上がろうとしたが――
<ご心配なく。>
レトムが安心させるように言った。
<記憶があまりないようですね。火龍は封印されましたよ。>
「あ、そっか、そうだったな……」
都賢秀は、白龍が火龍の封印に成功した瞬間を思い出して、ふらりと座り込んだ。
「ってことは……キューブを壊すのに成功したってことか?」
<その通りです。我々の最初の任務は、無事に完了しました。>
キューブを破壊するという任務が成功したという報告を受けても、都賢秀は喜ぶよりため息をついた。
「はぁ〜……一個壊すだけでもこんなに大変なんて、先が思いやられるな……」
<若いくせに、なんでそんなにネガティブなんですか? 始まりが半分って言葉もあるんですし、もっとポジティブにいきましょうよ>
「バカヤロウ! 誰のせいでこんな目にあってんだ!」
<だから言ったじゃないですか、最初から旅に出ておけばこんな苦労はなかったって!>
都賢秀とレトムがいつものように口げんかを始めたそのとき――
「ハハハ! お二人は相変わらずですね。」
梅仙と子龍が部屋に入ってきた。
「お体のほうは大丈夫ですか? 都賢秀公」
「ちょっと疲れてるだけで、大きなケガはありません。」
「伝説の聖獣と戦ったというのに、ただの疲労だけとは……やはり凄い方ですね。」
梅仙は、子龍を倒すほどの実力に加えて、民を救うために逃げず火龍に立ち向かったその人柄、さらに世界を救うために旅に出ているという使命感までも背負っている都賢秀を、まるで神話の中の英雄のように感じていた。
「ど、どうも……」
だが、梅仙があまりにもキラキラした目で「本当にすごい」と見つめてくるので、都賢秀としてはただただ気恥ずかしいばかりだった。
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