第35話 世界の災い
都賢秀と子龍が激闘を繰り広げている間、梅仙は兵士たちを指揮し、順調に領主の城を制圧していた。
「さらに押し込め!!もうすぐ領主の部屋だ!」
反乱軍が徐々に領主の城を占拠していく一方で、官軍の戦死者は増えているのに、城壁を守る兵士たちは味方がやられているのに全く諦める気配がなかった。
結局、勝ち目がないと判断した寄せ集めの官軍は逃亡者が続出し始めた。
「逃げる者は無理に追うな!占領が最優先だ!」
逃亡者が出るのは勝利が目前である証拠なので、追って殲滅するより城の占領を優先すべきだった。
しかし、勝利できた秘訣が自分の指揮のおかげではないことくらいは梅仙も分かっていた。
現場に子龍がいないおかげだった。
「子龍が来ていないということは…都賢秀公が子龍を捕らえているか、倒したのだろう…本当にすごい方だ…」
期待通り、都賢秀が子龍を抑えてくれていたおかげで、思った以上に順調に制圧できた。
「逃げるな!!それでもお前たちは禮縣の官軍か?!」
考え込んでいた梅仙は男の声に我に返った。
子龍の副将周韓が逃げる官軍たちに怒鳴りつけている姿だった。
彼はどうにか収拾しようとしたが、金で集まっただけの山賊出身の官軍はもう命令に従わなかった。
まだ残っている山賊もいたが、彼らは忠誠心から逃げなかったのではなく、逃げるタイミングを逃したか、包囲されて逃げられなかった者たちに過ぎなかった。
「お前は確か周韓ではないか?!」
周韓は梅仙の声を聞き、指揮していた声がぴたりと止まった。
護衛隊長の副官に過ぎない自分を梅仙が知っているとは思わず、少し驚いたが彼女は領主の娘だった。
立場は逆になったが、彼女もある意味自分の主君だったので礼を尽くした。
「…お嬢様にお目にかかれて光栄です。」
「護衛の仕事に励みご苦労さま。しかしもう終わった。だから速やかに降伏しなさい。」
「しかし、お嬢様…」
「十分にやった。ここで降伏しても恥ではない。すぐに剣を捨てなさい。」
護衛官として主君を守れないことは何にも代え難い屈辱だったが、自分は領主の娘の命令に従うのだと自分に言い聞かせ、周韓は剣を捨てた。
これで反乱軍の完全な勝利となった。
「うわあああああ!!!」
勝利が確定すると反乱軍は歓声を上げたが、ここに来た目的は官軍の制圧だけではなかった。
「まだ終わっていない!!早く領主のいる部屋へ行くぞ!」
梅仙の号令で反乱軍は再び武器を点検し、龍煒がいる部屋へ向かった。
梅仙は高貴な身分で育った女性で、一日にこれほど走ったのも生まれて初めてだった。
息が詰まるほどだったが、疲れた体を引きずりながら兵士たちと共に父を救うために駆けた。
そして領主の部屋に着き、扉をバッと開けて入った。
部屋の中では祭壇に座って祈りを捧げている龍煒…正確には火竜に意識を奪われた領主がいた。
「カリョオォォン!!」
梅仙は火竜に向かって怒りの一喝を浴びせた。
「よくも我が父上を弄び、父上と村を破滅に追いやったな!!許さない!!だが今すぐ父上を解放すれば情けをかけてやろう!!」
まだ完全な融合が成されておらず、火竜の力が弱いことは白龍から聞いて知っていた。
だから梅仙は勇ましく叫んだが…
「クククッ!!」
返ってきたのは火竜の嘲笑だけだった。
「…強がっても無駄だ!お前がまだ力を完全に使えていないことは知っている!」
梅仙は再び降伏を促したが、火竜の態度は変わらなかった。
「クククッ!!下劣な奴らが本座の生け贄となるためにわざわざ足を運んでくれたとは。」
「下劣な舌で我を嘲ろうとしても無駄だ!今すぐ父上を…!!」
梅仙は無駄な脅しは通じないと叫んだが、後ろを振り返る龍煒の顔を見て口が閉じてしまった。
龍煒の顔や肌は赤い鱗に覆われ、目は獣のような目に変わっていた。
融合が完全に成されたのだ。
「そ、そんな…」
梅仙は信じられないように後ずさった。
「クククッ!!これで本座の時代だ!!本座は今から都へ行き、世界の主を気取る猿どもを皆殺しにしてこの世界の支配者となるのだ!!クハハハハ!!!」
龍煒は世界を焼き尽くすかのように巨大な炎を放ち始めた。
「危険です、お嬢様!!」
梅仙の護衛兵の中で黒の聖水を持つ兵士たちが水の結界を張ったが、圧倒的な火竜の火力の前に瞬く間に蒸発してしまった。
「お嬢様、早く逃げてください!!」
兵士長が梅仙に近づき、急いで逃げるよう促した。
「逃げろだと?!しかし父上が…」
「もうあの方は閣下ではありません…後日のためにもお嬢様は必ず生き延びてください!」
兵士長の言葉にも梅仙は退く気配を見せず、兵士たちに命じた。
「早くお嬢様を連れて行け!!」
兵士長は兵士たちに梅仙を連れて逃げるよう指示しつつ、自分はそのまま残って黒の聖水を操る兵士たちと共に火竜を食い止めた。
「兵士長!!」
「我々はここに残って時間を稼ぎます!!どうかご無事で!!」
梅仙は兵士たちに連れられて逃げながら、もはや自分の父ではない存在を見つめて涙を流した。
*****
かろうじて逃げ出した梅仙を見て人々が駆け寄った。
「どうしたのですか?!」
確か領主からキューブを奪おうとした梅仙が数人の兵士だけを連れて慌てて飛び出してきたのを見て、671番が何事かと近づいて尋ねたが…
「クハハハハハ!!!」
火竜が建物を破壊し、巨大な炎を吹き上げていた。
その姿だけで何があったか尋ねなくても分かった。
「…我々は遅かったか。」
この日のために耐え忍び準備してきたが、火竜という思いもよらぬ変数によってすべてが水泡に帰した。
「これからどうしますか?」
反乱軍の兵士の一人がどうすればいいか尋ねていたが、座り込んで頭を垂れている梅仙は衝撃が大きすぎて口を閉ざしていた。
「ところで都賢秀はどこに行ったのか?白龍様にどうすれば…!!」
671番は白龍にどうすればよいか聞こうと都賢秀を探したが、無言の梅仙の声が聞こえた。
「彼はもう去ったでしょう。」
「去ったですって?!」
「命が危険になるほど状況が悪化すれば他へ去る…それが出発前の約束だった。」
梅仙と都賢秀がそんな約束をしていたことを671番は全く知らなかった。
火竜が龍煒の体と意識を奪い火竜の力を完全に使えるようになったので、都賢秀は間違いなく逃げたのだろう。
「おじさんが逃げるはずがない!!絶対来てくれる!!」
天宝は都賢秀が逃げたはずがないと言ったが、責めることではなかった。
旅人の都賢秀にここまで危険を冒すよう強いることはできなかった。
ここまで助けてもらったことに感謝すべきだった。
「全員撤退する。全員集合だ。」
梅仙の命令を聞き671番がどこへ行くのか尋ねた。
「反乱軍の村に戻るのですか?」
「…いいえ。火竜の業火が届かない場所まで行きます…」
梅仙は禮縣…いや、この国を去ろうとしていた。
火竜が覚醒したならばこの世界は終わったも同然なので、遠くまで逃げて後日を図るのが正しい話だが、生まれ育った土地を離れなければならない事実に、人々は涙を禁じ得なかった。
「急いでください。遠いのでできるだけ多くの馬車を確保し、禮縣の人々にも早く逃げるよう伝えて…!!」
「おじさんだ!!」
梅仙が兵士たちに出発の準備を急がせている時、天宝の叫び声が聞こえた。
天宝が「おじさん」と呼ぶ存在は都賢秀だけだった。
人々は天宝の言葉を信じられず、子供が指差す方を見たが…
本当に建物の屋根の上で火竜を睨みつける都賢秀がいた。
*****
〈離れないと言うのか?!それはどういう意味だ?〉
去ろうとするレトムと白龍の言葉を拒否する都賢秀に驚いたレトムが何のつもりか尋ねたが…
「何のつもりかって…火竜を倒しに行くんだ。」
都賢秀は火竜の元へ行くと言っていた。
「契約者よ。ここまで助けてくれただけでも十分感謝している。だからやめるのだ。」
白龍もやめるよう説得したが、都賢秀は装備を点検しているだけだった。
「本座と火竜は同じ四方神と言われているが相性は良くない!本座の鉄の気は火の気と相剋で火竜の攻撃を完全に防げない!本座はお前を守れないと言っている!!」
気の相剋で都賢秀を守れないと白龍が説明しても…
「そんなことは関係ない。」
都賢秀は頑固だった。
〈なぜそんなに頑固なんだ?危険だと言っているだろ!!〉
レトムはもどかしく大声を上げたが、都賢秀は断固たる表情のままだった。
「俺がやるべきことだからだ。」
〈都賢秀様がやるべきことだと…それはどういう意味だ?〉
都賢秀が訳の分からないことを言っていてレトムと白龍は呆然と見つめていたが…
「兵士の使命は市民の財産と命を守るため命を賭けて戦うことだ。今あの下では無実の市民が脅かされている。だから行って食い止めなければならない。」
市民が危険だから離れられないと言う都賢秀の姿にレトムも白龍も止められなかった。
特に子龍は大きな衝撃を受け、目を赤くしていた。
自分も軍人だが、子龍は軍人として市民を守る使命より恩人を守る個人的なことを優先してしまった。
一方都賢秀はどうか…
この土地の者でもないのに人々を救うため危険を承知で戦いに向かっていた。
子龍は自分が敗北したのは技量の差だと思っていたが、技量だけでなく人格や使命感においても全く敵わなかった。
都賢秀は装備の点検を終え火竜のいる場所へ向かおうとした時…
「都賢秀公!!」
子龍が都賢秀を呼んだ。
「…何だ?まだ戦うのか?」
都賢秀は龍煒の元へ行こうとする自分を止めようとしていると思い、子龍を睨んだが…
「どうか私の剣を持って行ってください…公の短剣より間合いの戦いで有利でしょう!!」
驚くことに子龍は皇室から賜った名剣「天雷」を都賢秀に託そうとしていた。
「…何を考えているのだ?」
「他意はありません。これでどうか…市民を救ってください。」
子龍は動けない自分に代わって市民を救ってほしいという思いを伝えたのだった。
都賢秀は無言で子龍を見つめ…
「心配するな。俺を信じろ!」
自信満々の顔で子龍の剣を受け取った。
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