表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/75

第32話 子龍の葛藤




子龍(ズィーロン)は闇に沈む城壁にもたれかかり、夜風に髪を撫でられながら過去を思い出していた。


6年前、部下の戦功を横取りした上司の横暴を朝廷に訴えたが、逆に濡れ衣を着せられ追放された子龍(ズィーロン)


すべてが虚しく感じられ、目的もなく彷徨った。飢えに苦しみながら数ヶ月…ついには力尽きて倒れ、これが天の呼びかけかと意識を失った。


しかし――


「うっ!」


目覚めた子龍(ズィーロン)はまだ息があった。見知らぬ部屋、見慣れていない景色に警戒しつつ周囲を見渡すと、愛剣は傍らにない。


「それを探しておるのか?」と、見知らぬ男が部屋の隅に座って剣を握っていた。


「…我が剣を返せ。」


「果たしてそなたの剣であったか。この“天雷”と呼ばれ、朝廷でも戦功者にしか下賜されぬ代物ぞ?」

「その通りじゃ。」


揺るぎない答えに男は鼻で笑った。


「はは!長安国随一の武士子龍(ズィーロン)が、なぜここで乞食同様に過ごしておるのか?」

「貴様には関わる筋合いはない…早く剣を返せ。」

「ははは、急ぎすぎじゃ。それよりまず食事を…丁度来るところじゃ。」


男の言葉に子龍(ズィーロン)が視線を移すと、まるで天女のような麗しい女性が部屋に入り、粥を運んできた。


「父上、ご指示通りの粥を作ってまいりました。」

「よくやったな、梅仙(メイシェン)。あの武士に渡せ。」

「かしこまりました。」


梅仙(メイシェン)というその女性は子龍(ズィーロン)に近づき、熱い粥を差し出した。


「熱いので、ゆっくり召し上がってください。」

「あり…がとう…ございます…」


女性は置いてすぐに去っていったが、子龍(ズィーロン)の視線はなおもドアへと向いていた。


「冷めぬうちに、さあ…」


食欲のなかった子龍(ズィーロン)も、梅仙(メイシェン)が作ったと知れば惜しくて、ゆっくり味わうように粥を口にした。


やがて男は落ち着いた声で問うた。


「さて、食事も済んだようじゃ。どのような事情か、本宮に語ってくれるか?」


沈黙を破り、子龍(ズィーロン)はこれまでの顛末をすべて話した。


話し終えると、男は席を立ち、こう告げた。


「明け方とともに本宮と共に出発せねばならぬ。今は休むがよい。」

「ご一緒するとは…何処へ?!」

「行き先?もちろん皇宮じゃ。」


その言葉と共に男は退出した。


子龍(ズィーロン)は一瞬狂気かと思ったが、皇宮に着くと、すべてが正常へと戻っていた。


「不当な汚名を着せられた子龍(ズィーロン)を赦免し、部下の功績を横取りした上将軍 李安豪(リアンハオ)を免職する!」


男が皇宮で弁護した結果、信じられぬ素早さで事態は好転した。


「あ、あの方は一体…?」


「本宮か?本宮は禮縣(イェヒョン)の領主、龍煒(ロンウェイ)じゃ。」

龍煒(ロンウェイ)…」


それが子龍(ズィーロン)龍煒(ロンウェイ)の初対面だった。


彼の威厳と高潔な人格に魅せられ、皇宮から戻るよう促された子龍(ズィーロン)は、忠誠を誓い禮縣(イェヒョン)に仕えた。


しかし、特異な“火竜”という千変のせんすが彼に憑依していると知っていながら――


忠義を受けた龍煒(ロンウェイ)を、子龍(ズィーロン)は裏切ることができなかった。


「本官は…決して殿下を裏切れぬ…それが殿に悲しまばれても」


その人の悲しげな顔を思い浮かべると胸が痛んだが、子龍(ズィーロン)は月明かりを見つめながら自らを戒めた。


その時――


「隊長!」


満月の下、信頼する数少ない部下、部長ジュハンが息を切らし駆け寄ってきた。


「どうした?」


「反軍が城を攻撃しています!」

「反軍?梅仙(メイシェン)か…!」


「雑兵に交じった山賊出身の連中では対応しきれず、混乱が広がっています!」


報告しながらも自らの無力を悔いていたジュハンだったが、部下への忠義よりも城の防衛を優先した。


子龍(ズィーロン)は淡々と聞き取り、振り返って命じた。


「行くぞ。」

「はっ、隊長!」


自らの役目を果たすため、子龍(ズィーロン)は闇の中へ足を進めた。


*****


一帯では、おびただしい数の馬車によって反軍の村人全員が禮縣(イェヒョン)を目指していた。


西門の守衛長はその行列を目にして、呆然と立ち尽くした。


「お、お前たちは何者だ?!」


阻止も想定済みか、反軍側は兵士長が商人に扮して守衛長へ近づいた。


「お勤めご苦労様です。我々は遊商でして、今回こちらで商いに来た者どもでございます。」


あまりに卑屈なまでに頭を下げ、馬車には女性や子どもが混じっていたため、遊商団と違和感なく見えた。


守衛長は疑問を抱かず受け入れようとしたが、人の数に戸惑いを感じた。


「何の商人がこんなに多いのだ?」

「いや、我らは…」


次の兵士が今度は遊芸団だと偽り、口を挟んだ。


「こちらはエンターテイナー一行で、今宵ゆるやかに見せものをしに来た者でございます。」


さらに説明は続いた。


「我らはこの村に移住するため親戚一同で参りました。」

「こちらは労働罷業の求人を聞いて、小隣村から来た者どもです。」


説明が複雑かつ多様であったため守衛長は混乱し、目が回り始めた。


「判ったが、なぜ今日これほどの来訪者が一度に現れたのだ?」


禮縣(イェヒョン)は周辺最大の集落ゆえ、遊商団が来ることは珍しくなかった。だがここまでの大群衆は初だったので、管理を委ねられた守衛長の疑念が募った。


「領主城へ連絡を入れ、許可を確認せねば…少々待ってくれ!」

「こ、これは…心ばかりの品ですが…」


兵士長は守衛長に賄賂を差し出した。


賄賂を受け取った守衛長は、顔に笑みを浮かべながら疑念を払い去った。


「はは!これほどの誠意を示されては断れぬわな!だが騒ぎを起こすなら容赦はせぬぞ!」

「はい、そんなつもりは…!」


兵士長は安堵しながら馬車を城内へ導いた。


無事に村人たちを城内へ引き入れた兵士長は中央広場で止まり、


「あがた。到着しましたぞ。」


到着した言葉と共に、梅仙(メイシェン)が馬車から降りた。


同行していた671番と都賢秀(ドヒョンス)も、慎重に足を地につけた。


「ついに…すべてを取り戻す時が来ましたね。」

「すべてはお嬢様の尽力あってのことです。重ね重ね感謝申し上げます。」

「私など何を…すべては小姐の努力のおかげです。」


もとより反軍を率いるのは梅仙(メイシェン)であり、なぜ671番が「長官」と呼ばれるのか理解しきれぬままだったが、感謝の言葉に来る運命を信じていた。


「互いに挨拶を交わすのはよいが、まだ終わったわけではない…これからが始まりじゃ。」


都賢秀(ドヒョンス)公の言葉通りです。計画通り、我らは如何なることがあっても子龍(ズィーロン)を抑えておきます。公には、どうか…少女の父君をお救いください。」


梅仙(メイシェン)は腰を屈め、両手を差し出し、深い礼を以てアバターへと祈るように父君を託した。


「できなければ逃げよ」と言った者へ無理に頼む姿に重圧を感じつつも、都賢秀(ドヒョンス)も少女を助けたい一心だった。何より――


「おじさん、頑張って!」


天宝(ティエンバオ)と子どもたちの未来のためにも。


*****


梅仙(メイシェン)率いる反軍の攻撃が、ついに城へ向け始まった。

「全軍!!突撃せよ!!」


梅仙(メイシェン)の号令と共に、兵士たちは雷鳴の如き雄叫びをあげ突入した。


官軍は8000、反軍は5000と数的不利ながら、勢いは反軍にあった。


もともと官軍だった精鋭兵が反軍側に増え、現官軍は山賊や盗賊を集めた雑兵であり、戦闘力では相手にならなかった。


都賢秀(ドヒョンス)はその光景を遠巻きに見守っていた。


官軍がようやく劣勢に立たされたところで、子龍(ズィーロン)が現場へ出てくるはずだった。


彼が反軍に応じて現れたところを見極め、動くのが計画であった。


「…このくらいで良かろう。」

〈私の目にも、そう見えます。〉


予想以上に官軍は脆く、防衛陣が次々と突破され、すでに城門付近まで後退していた。


この状況であれば、子龍(ズィーロン)も確実に出動しているはずだった。

あとは領主の間へ赴き、キューブを破壊するのみである。


「おい、チョルトク!地図を表示しろ。」

〈相変わらず…他人の名前をなぜいつも変に呼ぶのです?〉


レトムは梅仙(メイシェン)から提供された城の地図を呼び出した。


以前は城の構造が分からず移動が遅れたが、今回は最短経路で領主城へ到達できる。


「ここだ。小姐が教えてくれた抜け道が…」


さらに、領主一族だけが使う脱出口の秘密通路まで示されていた。

〈では迅速に移動しましょう。〉


長年の願いであった最初のキューブ破壊の瞬間が迫り、レトムは高揚していた。


都賢秀(ドヒョンス)も迅速に領主の間へ向かった。


城内に兵士はなく、梅仙(メイシェン)の案内で最短ルートを進み、順調だった。


〈しかし…まさか子龍(ズィーロン)という武士が我々を迎え撃つため待ち伏せしているのでは?〉


長い廊下を進む中、レトムは念のため不安を漏らした。


「そんなはずはないだろ?梅仙(メイシェン)から聞いたところじゃ、あの男は忠誠心の塊のようなやつだ。そのような者が反軍の姿を見て黙っているか?誰よりも先に駆けつけ、事態を収束させに行くだろう。」

〈確かに…でしょうね。〉

「ともかく、お前は憂い性だからな。」


都賢秀(ドヒョンス)とレトムは笑いながら進んだ。しかし――


「小姐!!」


城門を攻める先頭に立つ兵士長が、指揮所の梅仙(メイシェン)へ駆け寄った。


「何事ですか?」

「その…どうやら子龍(ズィーロン)はここにはいないようです。」

子龍(ズィーロン)がいない…だと?!」

「拙者の目にも見えず、何よりも捕虜になった官軍の話を総合すると、子龍(ズィーロン)は現場を指揮していないように思われます。」


龍煒(ロンウェイ)への忠誠と責任の塊である子龍(ズィーロン)が、なぜ現場にいないのか?


悩む梅仙(メイシェン)にひとつの結論が浮かんだ。


「まさか…都賢秀(ドヒョンス)公と?」


予測通り、子龍(ズィーロン)現在龍煒(ロンウェイ)の寝所へ潜入するため、別行動を取っていたのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

気に入っていただけたら、ブックマークしていただけると励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ