第28話 初めてのエージェントとの交戦
「次元の繋ぎ手だと!?」
ジュゼッペは都賢秀を見つけるなり、反射的に銃を構えて発砲した。
しかし射撃の腕がよほど悪いのか、至近距離にもかかわらず、弾丸は見当違いの方向へ飛んでいった。
「なんだこいつら…?」
間近の相手すら当てられないエージェントたちに呆れながらも、銃撃戦が始まってしまった以上、都賢秀は体をひねって木の陰に身を隠した。
「隠れても無駄だ! さあ投降しろ…!」
タァン!
「ぐああっ!」
都賢秀の射撃により、また一人のエージェントが倒れた。
「な、なんだあいつ…! どうしてあんな暗い夜に隠れたままで、あんなに正確に撃てるんだ?」
都賢秀の驚異的な命中率にジュゼッペはパニックに陥ったが、斎藤にはその反応すら滑稽に見えた。
「隊長! 俺たちはライトをつけているせいで、敵に完全に姿を晒しています! 早くライトを消してください!」
斎藤の助言にジュゼッペは舌打ちし、ライトを消した。
「全員、ライトを消せ!」
ライトが消えると、都賢秀の射撃は止まった。
だが弾数が限られている都賢秀も、暗闇の中で動くのが難しいエージェントたちも、互いに攻撃できず、静かな膠着状態へと入っていった。
<膠着状態に入ったようですね…>
「だな。」
レトムは、自身の視覚を担当するカメラを赤外線に切り替えることが可能だったため、夜明け前の暗い森の中でもエージェントたちの姿がはっきりと見えていた。
都賢秀の射撃の腕は驚くほど正確で、レトムが大まかな位置を伝えるだけで命中させることができた。
だがエージェントたちが恐怖にかられて木にぴったりと隠れていたため、大雑把な位置だけでは撃ちにくかった。
さらに――
「でもあいつら、プラズマガンに当たっても平気なのはなんでだ? 防弾服じゃプラズマガンは防げないはずだろ?」
都賢秀は確かにエージェントの肩を撃ち抜いたが、彼らは軽くうめくだけで、何事もなかったように立ち上がっていた。
<都賢秀様にお渡しした全身防弾服は、第1世界で市販されていた一般向け製品です。それに対し、エージェントたちが使用している防弾服は、プラズマ攻撃さえ防ぐ特別な製品で、連盟に所属する者だけが使用を許されています。>
「そんな厄介なもんがあったのか。」
対人戦能力では、都賢秀が圧倒的だった。
射撃も戦術的な動きも隠密行動も全てにおいて勝っていたが――装備で劣っていた。
都賢秀の防弾服はエージェントたちの火力を防げず、さらに都賢秀が持っているのは拳銃だけだったのに対し、彼らはライフルや小型マシンガンなど、殺傷力の高い様々な武器を持っていた。
<どうしましょう? 相手は装備も優れており、人数も多いです。>
「幸いなことに、あいつらは実戦経験が少なくてビビって動けてない。それに夜が明けて反乱軍が合流すれば、さすがに引くしかなくなるはずだ。だからこのまま長期戦で行くぞ。」
<…卑怯ですが、現時点では最善の策でしょうね。>
「卑怯って言うな! 戦略的選択と言え。」
レトムも都賢秀の選択に賛同し、とりあえず持ちこたえて夜明けを待つことにした。
だが――
「おじさん、どこにいるの? おばあちゃんが部屋を準備してくれたから、早く来て寝てって!」
天宝が都賢秀を探して森に入ってきたのだった。
反乱軍の村にも兵士は存在していたが、彼らの兵営は森の向こうにあり、この夜中に呼びに行くのは難しかった。
だからこそ都賢秀は、梅仙と唐睿山に危ないから外に出ないよう伝えてもらい、自ら森へ入り、村人たちが戦闘に巻き込まれないようにしていた――
どうやら愛和おばあさんと天宝には、その伝言がうまく伝わっていなかったらしい。子供が都賢秀を探して森の中に来てしまったのだ。
「ダメだ!!」
連盟がいくら腐敗しているとはいえ、まさか子供を人質に取ることはないだろうと思いたかったが、それでも戦闘に巻き込まれたら天宝が大怪我を負うかもしれない。だから都賢秀は、子供に出ていくよう叫ぼうとした。
しかし――
「ハハッ! 運が向いてきたな!」
ジュゼッペがすぐさま走り出し、天宝を捕まえて頭に銃口を突きつけた。
「な、なんてことを…?」
かつて都賢秀が相手にしていたテロリストたちは、子供を人質にすることが多かった。だが彼らは犯罪組織であって、倫理観など持ち合わせていない連中だった。一方で連盟は、いくら腐敗していても治安維持組織のはずだった。
その連盟が、何のためらいもなく子供を人質に取るのを見て、都賢秀は大きなショックを受けた。
斎藤も、都賢秀と同じことを思っていたようだった。
「何をしてるんですか、隊長! 恥ずべき行いです。早く子供を放してください!」
「黙れ、この野郎! 隊長は俺だ!!」
上官であるジュゼッペが一方的に命令するので、斎藤にはどうすることもできなかった。
連盟の恥のような連中と行動を共にしていると、自分まで惨めになってくるようで、斎藤は屈辱感を覚えていた。
だがジュゼッペは意に介さなかった。
「次元の繋ぎ手よ!! 出てこい! 子供が死ぬところを見たいわけではあるまい!!」
ジュゼッペに捕まった天宝を見つめ、都賢秀の胸は締め付けられる思いだった。
命は誰にとっても大切だ。だが、こんな幼い子供を犠牲にしてまで生き延びるのなら、もう正気を保つことはできない。
「…すまないな、レトム。俺たちの旅も、ここまでのようだ。」
<…今ここで逃げようと言っても、聞いてはくれませんよね?>
「当然だ。俺のせいで子供が死んだら、もう正気でいられない…すまん。」
レトムにとって、何百年ぶりに現れた次元の繋ぎ手を失いたくはなかった。
だが、これが都賢秀だった。
子供が持っていた爆弾で仲間を失った過去を持ち、子供を恐れながらも誰よりも大切に思う男――
その優しさと高潔な精神を持っているからこそ、レトムは彼にますます惹かれていった。
だから、すべての次元を繋ぐという目的ではなく、大切な仲間として共にいることを選んだのだった。
<ご安心ください。別の方法を探します。今は子供の救出が最優先です。>
「理解してくれてありがとう…少しだけ待ってくれ…!!」
「ぐああああっ!!」
都賢秀とレトムが別れの言葉を交わしていたそのとき、ジュゼッペの悲鳴が響いた。
何事かと彼らが視線を向けると、天宝がジュゼッペの手をガブリと噛みついていた。
「何やってんだあの子!?」
都賢秀とレトムは天宝の行動に驚き、急いで飛び出そうとした。
「逃げてください、おじさん! 僕は大丈夫です!」
祖母を救うために官軍に立ち向かった勇敢な天宝は、今度は都賢秀を守るために命を懸けていた――
「このクソガキがっ!!」
「うわっ!」
ジュゼッペは天宝を拳で殴り倒し、銃を構えた。
「マザーの意思に従うエージェントに逆らうとどうなるか、見せてやる!」
ジュゼッペが天宝に銃を向けて引き金を引こうとしたその時――
「待て!!!」
都賢秀が飛び出し、やめろと叫んだ。
「お前たちの目的は俺だろ…あの子には手を出さずに、さっさと俺を連れていけ。」
都賢秀が素直に姿を現して投降すると、ジュゼッペは本当に天宝に興味を失ったようだった。
「ククッ! そうこなくちゃな…マザーの意思に従い、貴様を拘束する、次元の繋ぎ手!」
ある男は子供を救うために自らを差し出し、ある男は子供を人質に取り脅しに使っていた。
斎藤は、そんな連中と同じ制服を着ているという現実に、心底嫌悪感を覚えた。
だが、自分もまた“次元の繋ぎ手”を捕らえて手柄を立てたいと思っていた。
「…結局、俺も同じく、醜い人間に過ぎないのか。」
斎藤が自嘲していると、都賢秀がゆっくりと歩み寄ってきた。
「連盟がどれだけ腐ってても、捕虜の安全保証くらいはあるよな…おとなしくついて行くから、天宝を放してくれ。」
“当たり前のことを何言ってるんだ?”と斎藤が思ったその時――
「ククク…本来なら生け捕りにして連れて行くところだが…俺をここまで煩わせたんだ。いっそ殺してやる!」
「えっ!? 何を言ってるんですか、隊長! マザーは生け捕りにしろと仰っていたでしょう!」
「黙れ!! 貴様も死にたいのか!?」
ジュゼッペが銃で脅すと、斎藤は口をつぐむしかなかったが、嫌悪と屈辱はますます募るばかりだった。
「…この件、必ず運営会に報告させてもらいます。」
「勝手にしろ。」
ジュゼッペは意に介さず、部下の一人に都賢秀を撃ち殺すよう命令した。
レトムは、もし都賢秀が牢に囚われたとしても、いずれ救出する策を考えるつもりだった。だが、目の前で殺されるとは思っておらず、動揺していた。
<まさか連盟に、こんな者がいたとは…完全な計算ミスです。>
「心配するな…」
動揺するレトムに都賢秀は落ち着いた声で言った。
<…何か策があるのですか?>
「銃弾は音速で飛ぶから避けるのは無理と思われがちだけど、実際はそうでもない。軌道さえ先読みして動けば、避けるのはそれほど難しくない。それに、あいつらの射撃の腕もひどいしな。」
弾丸は高速だが直線的に飛ぶため、引き金を引く瞬間に合わせて動けば、避けられないことはなかった。
都賢秀の自信に満ちた表情に、レトムも少し安心した。
<…なるほど。それならいっそ攻撃をかわしながら、天宝を連れて脱出するのはどうでしょうか?>
「それも悪くないな。よし、じゃあ…あれ?」
<ど、どうされました?>
拳銃やライフルならどうにか避けられる。
だが、どんなに素早く動いても避けられない武器が存在した――
「…あれ、ショットガンじゃないか?」
無数の小さな鉛弾が広範囲に散らばる、あの散弾銃だった。
「まさか、プラズマガンにもショットガンがあるのか?」
<ありますが…それが何か?>
「あれは避けられない…」
<えっ!?>
ショットガンは、素早く動く野生動物を狩るために作られた武器で、人間の動きでどうにかできる代物ではなかった。
<そ、それではどうすれば…>
レトムは焦りながら聞いたが、都賢秀にも答えはなかった。
「…まさか人生の最期が、“ウカイ”とかいうトカゲの名前を練習した思い出で終わるとはな…。俺の人生も大したもんだな…」
<ウカイ? それは何ですか?>
「白竜っていうトカゲのことだ。名前の中で唯一聞き取れたのが、“ウ・カ・イ”の三音だから、そう呼んでるだけさ…」
<こんな絶体絶命の時に、よくそんな冗談を…>
すべてを諦め、運命を受け入れようとしたその時――
何百年ぶりに現れた次元の繋ぎ手を、そう簡単に失うわけにはいかないと、レトムは最終手段を使う決意をした。
<仕方ありません…最後の手段を使います。>
「そんなのあるのか!? じゃあ早く…!!」
「やつら、何かしようとしてるぞ! 撃ち殺せッ!!」
レトムが動こうとした瞬間、それを察知したジュゼッペが射撃を命じ、トリガーが引かれてしまった。
「<くっ…!!>」
発射された散弾を見て、都賢秀とレトムは、すべてが終わったと悟った――
「………でも、全然痛くないな? もう天国に来たのか?」
撃たれたはずなのに、何の痛みも感じないことに都賢秀は困惑していた。
「何を寝ぼけたことを言っておるのか! さあ目を開けい、我が呼び声に応えし者よ!」
「えっ!?」
自分を守ってくれた存在のおかげで、銃弾は一発も命中していなかった。
それは、あの複雑な名前の“白竜”だった――。
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