第23話 子龍と再対決(2)
8月3日までは毎日12時と20時の1日2回更新となります。
都賢秀が自分に向かって素早く突進してくると、子龍は思わず苦笑いを漏らした。
「前回あれだけ叱られても、まだ懲りていないのか。」
昨夜、いい加減な潜入術だけを頼りに宮殿に侵入し、何の抵抗もできず敗北した男がまた突撃してくるのだから――
勇敢というよりも、ただの愚か者に見えた。
「領主様はお前の首を取れとお望みだ。今回ばかりは、手加減などしない…!!」
バキィン!!!
剣を振るう子龍だったが、低い天井に阻まれ思うように振り下ろせなかった。
子龍は2メートルを優に超える大男で、手にしている愛剣「天雷」は刀身だけでも130センチはありそうな長剣だ。
しかも、『白ひげクジラ』という茶店の奥の部屋は古くて狭く、天井も低かった。
これら全ての条件が絡み合い、自然と状況は都賢秀に有利に傾いていた。
都賢秀は満足げな笑みを浮かべながら、剣を握る子龍の手首めがけて短剣を突き刺した。
「クヘヘヘ!死んでしまえ!!」
悪党のような台詞を吐きながら――
カァァン!!!
しかし、人の手首に刺したとは思えないほどの鈍い音が響き、都賢秀の攻撃は失敗に終わったことを知らせた。
「くそっ!ちくしょう!!」
〈台詞だけ聞くと誰が悪党かわからないな。〉
「うるせぇ、この野郎!!」
レトムの口うるさいツッコミが入り、ふたりの仲良し(?)な掛け合いが再び始まった。
周囲の者は皆『戦ってるのに何やってんだ?』と呆れ顔で見ていたが、子龍はひたすら自分の手首だけを見つめていた。
今回も、自分の聖獣が体を守ってくれたから助かったものの、もし別の聖獣だったら右手首はもう存在していなかっただろう。
そのことを考えると背筋が凍る子龍だった。
「…本官の聖獣が反応する前に繰り出される素早い突き、しかも有利な場所を選ぶ戦術…予想以上に危険な奴だな。」
子龍は都賢秀の実力を再評価し、警戒心をさらに強めた。
この場所では邪魔になる自分の愛剣を迷わず捨て、小さな短剣を手に持ち替えた。
「あれ?」
子龍が武器を変えたのを見て、今度は都賢秀の方が緊張した。
たとえ状況が不利であっても、実戦に慣れた自分の武器を捨てて別の武器を選ぶことは、普通の決断力ではできないことだ。
だが、王室にも認められた達人子龍に迷いはなかった。
子龍は都賢秀の首を狙って素早く刺しにかかった。
大男とは思えぬ素早さで襲いかかる子龍の突きを、都賢秀は慌てて首を横にそらし回避した。
都賢秀も負けじと短剣を振り上げ斬りかかったが、子龍は左腕で受け止めた後、水平に振り抜いて反撃した。
都賢秀は腰を後ろにそらすスウェイでかわし、反動を利用してそのまま突きを狙った。
子龍は首をわずかに回避し、攻撃した腕を掴んで都賢秀の肩を突いて戦闘不能にしようとしたが、都賢秀は手首をひねって逃げ、子龍を肩で押し返した。
子龍はバランスを崩してよろめき、都賢秀が斜め上から斬りかかったが、子龍は足で蹴り返し距離を開けた。
間合いができると、ふたりの戦闘は一時的に静まり、呼吸を整えていた。
その高次元の戦いを見た反乱軍と官軍の者たちは、言葉を失うほど感嘆していた。
「な、何が起こっているんだ…?」
「さ、さあ…何か光ってた気もするけど…」
だが、皆の感嘆も子龍ほどではなかった。
『昨日とはまるで違う…凶暴な蛮族の中でもこれほど素早く正確な動きをする者はいなかった…この男の正体はいったい…?』
子龍は、前回戦った時とはまるで異なる都賢秀の腕前に驚かざるを得なかった。
一方、都賢秀も「初めて聖獣を見て戸惑ったが、再び会えば前のようにはならない」という自分の言葉を守っていた。
だが、状況は都賢秀にとって有利とは言えなかった。
【くそっ…でかい体なのに何であんなに速いんだ?】
有利な場所で戦えば違う結果になると思ったが、現実は甘くなかった。
子龍は聖獣の保護を受けて攻撃が通じるが、都賢秀は違った。
体力が削られる後半戦では危険になるのは都賢秀の方だが、打開策は見えなかった。
「どうしよう?どうしよう?」と頭を悩ませていると、突然部屋の中に小さな玉がいくつか転がり込んできた。
それを見て「何だ?」と思っていると、レトムの声が聞こえた。
〈それは煙玉です!!〉
「えっ?!」
レトムの言う通り、小さな玉が“チャラン”と音を立てて爆発し、刺激臭の煙が立ち上り部屋中に広がった。
都賢秀は慌ててハンカチで鼻と口を覆いながらも、『671番地区にこんなものもあったのか?』と不思議に思ったが…
「何だ?!急に煙が?反乱軍の新兵器か?!」
慌てる子龍の反応を見るに、あれは彼の仕業ではなさそうだった。
なら一体、誰が現代兵器の煙玉を使ったのか?
その時、部屋に新たな乱入者が現れた。
「クハハハッ!!798番都賢秀!!連盟の手から逃げられると思ったか?!!」
連盟から派遣されたジュセペ隊員だった。
部下8名を率いて都賢秀を捕らえるため、先制攻撃として煙玉を使ったのだ。
まだ連盟の隊員が671番地区にいることを知らなかった都賢秀とレトムは、隊員の到来に絶望に近い驚きを隠せなかった。
「あれらは隊員じゃないか?なんでこんなに早く来たんだ?」
〈…原因はわからないが、本当に危険だ。なんとか逃げなければ。〉
レトムは逃げるべきだと言うが、すべての退路が塞がれた状況でどうしたらいいか、いいアイデアが浮かばなかった。
都賢秀とレトムが絶望に沈もうとした時、ジュセペは『これで昇進は決まった』と思い込み、部下に命じた。
「マザーの意志に従い、都賢秀を逮捕せよ!さあ、早く捕まえろ!!」
ジュセペは部下に都賢秀を捕らえるよう指示したが、動く者はいなかった。
「何をしている?!都賢秀を捕まえろと言っているだろう!!」
「でも…」
「でもって何だ?! 」
「こんなに煙が濃い場所で、都賢秀がどこにいるかどうやって知って捕まえろと?」
部下の指摘にジュセペも部屋を見直した。元々狭い室内に煙玉を使ったため、煙が立ち込め視界が遮られ都賢秀の位置は特定できなかった。
さらに煙で咳き込みながら観軍が飛び出し、さらに混乱を招いていた。
「まったく…先に一言言ってから煙玉を使えよ…」
「ゲホゲホ!」
「これって毒じゃないよな?」
こんな状況で連盟隊員が突入すれば混乱が増すばかりだった。
事前連絡もなく煙玉を先に使ったことが仇となったのだ。
「くそ…煙が晴れるまで待て!!みんな入口を警戒せよ!!」
部屋は反乱軍の秘密アジトに使われていたためか特に狭く、換気窓も小さかった。
そのため10分ほど経っても煙は晴れなかった。
だが根気強く待つと徐々に煙は薄くなった。
「よし!煙が晴れた!中に入り逮捕せよ!!」
隊員たちは武器を構え「うおおお!」と叫びながら中へ突入した。
「動くな、都賢秀!!マザーの意志により、お前を…あれ?!」
昇進の夢を膨らませ自信満々で銃を向け叫んだジュセペだったが、目の前にいたのは…
真っ赤な顔で必死に怒りを抑えている子龍だけだった。
「…何だ?都賢秀は?」
呆れた顔で都賢秀の所在を尋ねるジュセペに、子龍は超人的な忍耐力で耐えながら辛うじて答えた。
「こちらが聞きたい。お前ら愚か者は…外で警戒していなかったか?」
確かに外で警戒していたはずだが、中から出てきたのは観軍だけだった。
その時ジュセペの頭に文句を言っていた部下の言葉がよぎった。
『まったく…一言言ってから煙玉を使えよ…』
未開文明レベルの671番地区で煙玉の存在すら知らない中、煙玉の話が出たのは…
都賢秀が管理人たちの間に紛れて脱出したからだった。
他の反乱軍も一緒に…
さらに隊員たちが騒ぎ立て煙をまき散らす煙玉を使ったせいで、周囲の商人や通行人が「何事だ?」と見物に集まり混乱が一層深まっていた。
「ふむ…つまり…勝手にこの煙を使って混乱を引き起こし、警戒を怠らせて罪人を逃した…そういうことか?」
「え…いや…その…」
どうにか言い訳しようとしたが、残念ながらジュセペには巧みな弁舌を振るう舌は持ち合わせていなかった。
持っていたらとっくに出世していただろうに…
子龍は自分の弁護もできないジュセペを見てため息をつき、「こんなバカに怒っても自分が損するだけだ」と思い怒りを抑えた。
「いったいどうやってここを知って来たんだ?」
正直子龍は邪魔になると思い一部隊をわざと置いてきたのに、それを知って追跡してきた隊員たちに驚いていた。
それで秘訣を尋ねると…
「ふん!それは小型衛星のおかげだ。お前ら未開人には到底真似できぬ最先端技術だ!」
ジュセペは小型衛星という小さな玉を見せ、得意げに自慢を始めた。
小型衛星が何なのかもわからず、得意げに話すジュセペの姿も気に入らなかったが、あの奇妙な玉さえあれば都賢秀の追跡は可能かもしれなかった。
「そんな素晴らしいものがあるのか?それなら都賢秀がどこへ逃げたかも分かるな。早く見つけてくれ!」
子龍は希望の糸が切れていないことに勇気づけられ、都賢秀の所在を尋ねたが、なぜか隊員たちの顔は暗かった。
「それが…」
「どうした?何で言えないんだ?」
「実はこれ…使い捨てで…」
「使い捨て?まさか…」
「そう。もう…使えない。」
指をくねらせながら、都賢秀の追跡道具がもう使えないと告げるジュセペを見て、子龍は「もう一気に切り捨ててしまおうか?」と真剣に考えた。
子龍は地が抜け落ちそうなほど深いため息をつき、頭を後ろに倒した。
「はあ…領主様に何と報告すればいいのやら…」
龍煒に叱られることを考えて頭が痛くなった子龍は、彼の言葉を思い出した。
「…俺の力では捕まえられないと言ったが…これがその意味だったのか?あの男の隠れた実力を見て?」
子龍は浮かぶ疑問に頭を抱え、領主に報告するため城へ戻った。
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