第19話 都賢秀を求める反乱軍
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ガチャッ!!!
生まれて二度目の牢獄に閉じ込められた都賢秀は、ぼんやりと鉄格子を見つめていた。
「…おい。」
〈……〉
「なんとか…言って…みろ。」
〈…申し上げることはありません。〉
「チクショウ!お前、領主の城に行こうって言ったんだろ?!これからどうすんだよ!!」
都賢秀は怒りを抑えきれず暴れ回っていたが、レトムは言葉を失っていた。
レトムも671番都賢秀に騙されたのは確かだが…
領主の城に行き、彼を助けて恩を受け協力を得ようという提案をしたのは確かに自分だった。
〈心配しないでください。私が出て助けてくれる人を探します…!!〉
「レトムとかいう変な精霊が見えなければ、すぐに罪人の首をはねろという領主陛下の命令だ!!」
実体のないAIであるレトムが先に脱出して助けを求めようとしたが、領主はすでにそれを見抜いていた。
「…どう考えてもおかしくないか?」
〈…一つや二つじゃありません。〉
都賢秀が街で暴れていたならその存在が領主の耳に入るのもわかるが、名前まで正確に知っているのはおかしい。
しかもレトムの特徴を正確に把握し、対策まで用意しているのは説明がつかなかった。
「…671番が俺たちのことを全部吐いたのか?」
〈そうかもしれませんが…領主は一体なぜここまで警戒しているのでしょうか?〉
「そんなの俺にわかるかよ。あんなクズに村の治安を任せてるんだぞ…領主って実はすごい人間のクズなんじゃないか?」
〈5年前に見た龍威領主は決してそんな人ではなかったのに…〉
領主の行動と政策は疑問だらけだが、今まず考えるべきはどうやって脱出するかだった。
まず鉄格子に触ってみた都賢秀はその堅さに諦めた。
「C4爆弾でもあれば別だが、人間の手じゃどうにもならない…」
〈トンネルを掘るとか?〉
「地面を掘るのは大工事で時間がかかる。一人じゃ無理だ。」
〈そうですね…〉
「そういえば、お前人前で姿を隠すことがあるよな…あの変装技術で俺も隠せないか?」
〈すみません…人間大ほどの巨大な物体を隠すのは不可能ですし、もしできても気配に敏感な子龍がいる以上、逃げている途中で捕まる可能性が高いです。〉
「…本当に使えねえな。」
都賢秀とレトムはあれこれ試案を重ね、夜遅くまで議論したが結論は出なかった。
〈…もう遅いので休みましょう。明日また話し合いましょう。〉
「そうしよう。」
結局結論が出ず、夜が更けて眠りにつくしかなかった。
*****
『我が呼びかけに応ずる者よ、御主は何者じゃ?』
眠っていた都賢秀は、邪魔する声に苛立った。
「またお前かレトム?静かに寝かせてくれよ…」
『我が呼びかけに応ずる者よ…起きよ。』
昨夜のように眠りを妨げるレトムに、都賢秀は苛立ちながらベッドから飛び起きた。
「おい!!うるさいから黙れって言っただろ?!お前、まじで…」
レトムに怒鳴った都賢秀は、目の前の存在に圧倒されて呆然となった。
眩い白光を放ち、山よりも大きな…ドラゴンが都賢秀を呼んでいた。
「こ、これは一体…」
恐怖を覚えるほど巨大な体躯だが、慈愛に満ちた瞳で都賢秀を見下ろした。
『我が呼びかけに応ずる者よ…汝の名は何だ?』
「わ、私は都賢秀と…」
『都賢秀か…ならばこれで契約は成立した。』
「契約だと?それはどういう意味ですか?!」
契約の意味を問う都賢秀に、ドラゴンはさらに明るい光を放ち、ゆっくりと消えていった。
『我が名を覚えよ、契約者よ…我が名は白竜……』
「え?名前なんて?」
『我が名は白竜……』
「都賢秀!!」
突然揺さぶられて起こされたため、重要な白竜の名前を聞き逃した。
「また夢だったのか?」
あまりにも鮮明な記憶に、夢なのか現実なのか分からなかった。
「どうした?夢でも見てたのか?寝言がすごかったぞ。」
「え?誰だ…」
牢の中でレトムしかいないはずなのに、誰が自分を起こしたのか見回した。
「え?お前は…」
「はは!そうだよ、俺だ。」
彼は自分を裏切った671番都賢秀だった。
都賢秀は確かに裏切って去った671番が目の前にいて、口を開けて呆然としていた。
671番は自分を歓迎されていると思い、いつものように笑いながら肩をポンポン叩いた。
「はは!そんなに嬉しかったのか?もう安心…うげっ!!」
都賢秀の振り上げた拳が、671番の鼻の下に正確に命中し、後ろに倒れ込んだ。
「このクソ野郎!!!貴様をぶっ殺してやる!!!!」
金を受け取り自分を売った671番に容赦なく殴り続けた。
「ぎゃあああ!!助けてくれ、レトム!」
671番がレトムに助けを求めると、レトムも待機モードを解除して立ち上がった。
〈 AIが気持ちよく寝てたのに、どうしてそんなにうるさいんですか?〉
671番はレトムが助けてくれると期待していたが…
「671番、このクソ野郎が現れた!!」
〈なんですって?!すぐに始末しましょう!!〉
レトムも671番を排除しようと協力していた。
「ひいぃ…ひどいよ、レトム!」
*****
さんざん殴られた671番は鼻血を出し腫れた顔で、都賢秀とレトムの前にひざまずいていた。
「お前、なんでここにいる?まさか領主に俺を売って得た金も全部ギャンブルで使い果たして捕まったのか?」
「はは!全部使ったよ。」
『こいつらしいな』と少しも情けをかけない都賢秀とレトムだった。
「看守を取り込むのに全部使ったんだ。」
「…何だと?」
ため息をつきそっぽを向いていた都賢秀は671番の言葉に顔を向けた。
671番は一瞬ぼんやりした愚かな表情が消え、鋭い眼差しに変わった。
「最初から目的は領主に近づくことだった。お前を領主に近づけて捕まえさせて、俺は領主から金をもらって看守を買収し…こうしてお前に近づいたんだ。」
全てが671番都賢秀の計画通りだったと言われ、混乱する都賢秀。
「…いったい何のために?」
不信感満載の表情を見て、671番がにやりと笑って答えた。
「お前を反乱軍に連れていくためだ。」
671番は都賢秀を反乱軍に引き入れるために全てを計画したと打ち明けた。
〈二重スパイですね。〉
「確かにそうなら説明がつくけど…それより反乱軍って本当に存在してたのか?ただの観軍に反抗するやつらのことじゃなかったのか?」
都賢秀は「反乱軍」は単なる犯罪者の意味だと思っていたため、本当に領地を覆そうとする者がいることに驚いた。
「さっきも言ったが、領主が突然おかしくなったのは5年前だ。公平で誠実で、誰よりも領民を愛した領主は中央の役職も断り、生涯この禮縣の発展と均衡のために力を尽くしてきた人間だ。」
「レトムも同じこと言ってたな…領主がいい人だったってのは本当だったんだな。」
「そうだ…でもなぜか5年前から領主は変な行動が増え、ついには税金を上げて反抗者を殺すか追放した。しかも観軍を追い出し、ならず者を観軍に入れてしまったんだ。」
「それで…不満が爆発して反乱軍が組織されたってわけか。」
「そうだ。狂った領主を追い出し、かつての禮縣に戻すのが俺たちの目的だ。」
南スーダンで内戦を経験した都賢秀は、反乱軍という言葉を聞くだけでテロというイメージがあったが、ここの反乱軍は自分の知るものとは少し違っていた。
「で…反乱軍が俺を探してる理由はなんだ?」
「ははは!それは俺も知らねえよ。」
再びぼんやりした顔で笑いながら、自分でも理由はわからないという671番を見て、都賢秀は額に血管が浮いた。
「なんだと?!死にてえのか、このクソ野郎!!」
「なんでそんな怒るんだよ…俺は言われた通りに動いただけだ。」
「指示?誰の指示だ?」
「それは…反乱軍の指揮官だ。」
671番が地球に来て驚くことばかりだったが、今回は反乱軍の指導者が自分を探しているという。
都賢秀は驚きで口を閉じられなかった。
「反、反乱軍の指導者が俺を探してるって?」
「さあな?そいつの考えを俺がどう知るんだ…直接会って聞いて、とにかく脱出しようぜ。」
反乱軍指導者が自分に会いたがる理由がわからず不安だったが、確かに閉じ込められてじっと死を待つよりは脱出したほうがよかった。
「…それにしてもレトム、こいつのおかげで捕まって、別の都賢秀に助けられるという繰り返しだな。」
〈…他人の傷をえぐるのは楽しいですか?〉
「事実じゃん!」
レトムは怒ったが、自分の軽率さが危機を招いたのも確かで反論できなかった。
「ところでどうやって脱出するんだ?」
「あれだろ。看守に賄賂を渡して取り込んだ。もう道は開けると約束済みだ。」
「何だって?いくら金をもらっても俺たちを放すわけがないだろ。」
納得はできないが自分は間違いなく罪人なのに、金を渡したら解放されるという話を信じられずにいた。
「今の禮縣はそういう状態だ。人を殺しても金を積めばその日で即釈放、金がなければ軽い罪でも許さない…」
思った以上のめちゃくちゃな状態だった。
領主が直接投獄した罪人を看守が金で釈放するなんて、聞いても信じられなかった。
「呆れたもんだな…」
「まあまあ、いい方に考えようぜ。おかげで自由の身になれたんだしな。」
671番都賢秀は前向きに考えようといい、都賢秀を連れて去っていった。
*****
「 陛下!小官、子龍でございまする。」
忠誠心が強い子龍は毎朝挨拶に来るので、龍威は今回も朝の挨拶だと思い特に反応しなかった。
しかし…
「陛下がお呼びになった男たちが来ました。」
呼び寄せた者が来たと聞き、龍威は嬉しそうに飛び起きた。
「はは!呼んでからほんの数時間で来るとは、さすが優秀だな。どこにいる?」
「応接室で待っています。」
「さあ行こう。」
嬉しそうに歩く龍威を見て子龍は理解できなかったが、家臣の疑問は価値がなかった。
ただ自分の責務を果たすのみ…
龍威は笑顔で応接室の扉を自ら開けて入った。
「ようこそ、禮縣へ!我が領地へ!我は貴殿らを歓迎する。」
一地域の領主という高貴な身分の龍威が、めったに見せない丁寧な挨拶をする来客。
彼らの正体は、なんと次元移動管理連盟の使節たちだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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