第18話 危機の都賢秀
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都賢秀とレトムは領主を救うため城に潜入したが、彼らが目にしたのは、拘束されているはずの龍煒が元気に官軍を指揮している姿だった。
二人は衝撃で言葉を失っていた。
「そ、そいつは何だ…?領主だと?拘束されているんじゃなかったのか?」
〈そ、そう…なんですか…?〉
拘束されているはずの龍煒がここにいる理由もわからなかった。
「お前が都賢秀か?」
しかも都賢秀の名前まで知っていた。
「な、なぜ俺の名前を…」
「お前が本公の領地をかき回しているという噂で騒がしいのだ。知らぬわけがあるか。」
龍煒は卑劣な笑みを浮かべ都賢秀を見つめていた。
「よくも…お前を捕まえるために本公は苦労したが、気に入ったか?」
完全な罠だった。
都賢秀は領主を救うために入ったのに、完全に罠に自ら踏み込んでしまった形になった。
「くそ…どこから間違ったんだ…あれ?」
都賢秀とレトムはどこから間違ったのか振り返ってみて、違和感を覚えた。
領主のことなどどうでもよかった二人が、突然領主の救出を考えたのは…
誰かが二人に「領主が城で拘束されている」という情報を与えたからだった。
そしてその情報を与えたのは…ちょうど領主の後ろに立つ…671番の都賢秀だった。
「…お前は何者だ?なぜそこで立っている?」
都賢秀とレトムが状況を問いかけるように671番の都賢秀を見ていたが、彼は二人の視線を無視してただ俯いていた。
「クククッ!こんな情けないクズの言葉に騙されてここまで来るとは。簡単すぎて久しぶりに頭を使った甲斐もないな。」
龍煒が671番都賢秀の前に金を投げると、彼はペコリとそれを受け取った。
「あ、ありがとうございます、大人!」
龍煒に礼を言い去っていく671番都賢秀を見て、全ての状況を悟った。
671番都賢秀に裏切られたのだ。
「おい!!!」
金を受け取り慌てて立ち去ろうとした671番都賢秀は、都賢秀の怒声に体がピタリと止まった。
「お前…これは一体何のつもりだ?最初からそういう目的で俺に近づいてきたのか?」
都賢秀の問いに671番は無言でただ俯くだけだった。
〈どうなっているんだ…説明してくれ…〉
レトムも説明を求めると、671番はため息をつき口を開いた。
「俺は…言っただろ…店が借金して…閉めたって…」
「だからって?ギャンブルの借金返すために俺を売ったのか?」
「どうしろってんだ?!先祖代々300年続く店だぞ!俺の代で終わらせるわけにはいかん!!この金があれば…店を再建できるんだ!」
図々しくも大声で叫ぶ671番都賢秀を見て、さらに強い裏切り感に震えが走った。
〈俺は都賢秀のような奴らを信じたばかりに…〉
だが671番の裏切りがあったとはいえ、ここに来ることを選んだのはあくまで都賢秀とレトムの選択だった。
自分の浅はかな判断で起きたことなので671番だけを責めることはできなかった。
「消えろ、クズ野郎…人を売って得た金でどれだけ贅沢するか見てやる。」
都賢秀の鋭い罵倒に671番は唇を固く結び顔をこわばらせたが、結局何も言えず背を向けて去っていった。
龍煒はこの状況を面白そうに卑劣な笑みで眺めていた。
「さあ〜本公の村で騒ぎを起こしたお前たちをどう料理してやろうか?」
都賢秀は領主がいったい何の理由で自分を誘い殺そうとしているのか分からなかった。
「一体俺が何をしたというんだ…」
「はっ!厚かましいな。俺の官軍を叩きのめして言い逃れしようってのか?」
「笑わせるな。お前の言う官軍は市民を虐げ金品を巻き上げていた。そもそもそれを管理すべきなのはお前の責任だろ。」
官軍が村人から金品を巻き上げているのに管理できていないお前らの責任が大きいと都賢秀が言うと、子龍は少し表情を曇らせた。
一方龍煒は何が問題だというように嘲笑うだけだった。
「愚か者め…あいつらは領民の基本的な義務である税を払わず文句ばかり言う無頼者だ。だから本公の土地から追い出すため官軍を動員したのだが何が問題だというのか?」
「誰をバカにしてるんだ?!あいつらは確かに靴を売るおばあさんから場所代を取れと言っていた!税を払わない者を追放しようとしたのは確かにそうだとしても税が重すぎての話だ。どう考えてもお前のせいだ!」
都賢秀は論理的に反論したが、龍煒は鼻で笑うだけだった。
「このイェヒョンは本公の土地だ。自分の土地で税を多く取ろうが少なく取ろうが全て領主である本公の自由だ。どうしてそれが間違いと言えるのか?」
今回は都賢秀が論理で押し切られた。
領主が自分の領地で税を決めるのは彼の権利だった。
たとえその税が領民が耐えられないレベルでも…
道徳的には問題あっても法的には問題のない行為だった。
「だがその問題を越えても官吏を暴行し本公の城に無断で侵入したのは明確な重罪だ。よってお前を…!!」
都賢秀に向かってゆっくり歩み寄る龍煒は近づくと突然顔色を変えて後ろに素早く下がった。
そして恐ろしい何かを見たかのように動かずにいた。
「領主…様?」
突然言葉を失い都賢秀だけを睨む龍煒を見て子龍と官軍が戸惑っていると…
「おい!こいつらを牢に入れろ。吉日を定めて中央広場で処刑し、本公に逆らうとどうなるか見せしめにするのだ!」
龍煒は都賢秀を牢に入れるよう指示し、都賢秀とこれ以上関わりたくないかのように素早く建物の中に入っていった。
都賢秀を拘束しすぐに首を刎ねるつもりの作戦は見事成功したが、龍煒は都賢秀を殺さず牢に入れるよう命じ、子龍は首を傾げて見つめていた。
*****
子龍は龍煒の指示通り都賢秀を牢に入れるため連れて行かれていた。
都賢秀は今まで間違いなく生きてきた自分がもう二度も牢に連行されることに気に食わないらしく子龍に無駄に絡んでいた。
「官軍を攻撃するのが重罪だと?あんな奴らは官軍じゃなくヤンキーだ!」
都賢秀が何を言おうと子龍は聞こえないふりをして前だけ見て歩いた。
その様子が都賢秀の怒りをさらに煽った。
「あんなヤンキーどもを官軍と任命したお前らのレベルも見え見えだ!龍煒領主も同じヤンキーだろうな!」
捕まった事実と一対一の戦いで負けた事実に拗ねてさらに絡んでいたが…
「…今の官軍は正規軍じゃない。」
「お前も市民の血を吸う……何だと?」
村の治安を担当する官軍が正規軍ではないと言われ続けていた都賢秀の口は閉ざされた。
「元々の官軍だった者は皆罷免されて散り散りになった。」
「じゃあ今いる奴らは何なんだ?」
「奴らは…裏通りの不良や…山賊だ。」
不良か山賊で官軍を運営しているという話に都賢秀とレトムは驚いて口を閉ざせなかった。
「い、一体なぜ…」
都賢秀が理由を問うと子龍も自分も疑問に思っていることで答えられなかった。
「さあな?領主様の考えを俺のような愚か者が知るはずもない…」
子龍はそれだけを残し都賢秀を牢に入れて去っていった。
*****
子龍は都賢秀を牢に入れ領主の部屋に向かった。
「殿下!私、子龍です。」
報告のため来たが、領主の部屋から何の音もしなかったので子龍は戸惑った。
「殿下。少しお邪魔します。」
領主に何かあったのではと心配になり、無礼を承知で中に入ると龍煒領主は机に座り深く考え込んでいた。
「殿下…」
「…子龍か?」
「はい…罪人を無事に収監したとご報告を…」
「…わかった。」
龍煒は短く返事をし、また考え込んでしまった。
子龍はその様子が理解できなかった。
「殿下…私が愚かで殿下の真意を理解するのが難しいのです。」
「…何のことだ?」
「そんなに都賢秀という者を捕まえて首を刎ねようと意欲を見せておきながら、いざ捕らえてみてなぜそのままにしておくのですか…」
子龍は村の人々が監禁されているのではと誤解するほど村の出来事に全く関心を示さなかった龍煒が突然都賢秀という不穏分子を捕まえるよう命じ、作戦も見事成功したのに、なぜ殺さないのか全く理解できなかった。
何より領主が一体どうやって都賢秀という者を知っているのか謎だらけだった。
「そ奴は本宮にとって邪魔な者だ…早く殺さねばならん…」
「そうならばためらうことはありません。私に命じてください…」
「おそらく無理だろう。」
「え?」
何が無理なのかわからず、子龍は話し途中でぽかんとした顔になった。
しかし龍煒は説明するつもりもなく独り言を呟いていた。
「くそ…事がこじれるな、見当違いのところでこじれるとは…」
「な、何のことですか?」
官軍を全員罷免し山賊を雇い、その山賊が村人を苦しめているのを放置していることを除けば全て順調なのに、何がこじれているのか子龍は混乱していた。
だが領主は悩み深く何も言わなかった。
『いったい…殿下は何を考えているのか…』
ここ数年であまりにも変わってしまった主君を見て子龍は心配になった。
誰よりも公明正大で不義を許せなかった人物がなぜこんなことをするのか理解できなかった。
「子龍!」
考え事をしていた子龍は龍煒の突然の声に驚き、ぼんやりと返事をしてしまった。
「はい?」
「どこに気を取られているのだ?!」
「あっ、す、すみません!!ご命令でしょうか。」
ぼんやりした顔をしている子龍をしばらく睨んでいた龍煒は彼に指示を出した。
「…あいつらを呼べ。」
「あいつらと言いますと…?」
「先週本公の城に訪れた者たちだ。」
「えっ?!あの正体不明の男たちですか?殿下のような高貴な方がどうしてそんな礼儀も知らず正体も不明な者たちに会おうとされるのですか?」
「お前は本公の命令に従えばいい!急いで連絡を入れろ!」
子龍は疑問だらけだったが、龍煒の言う通り護衛武士に過ぎない自分が出るべきではないのも事実だった。
「承知しました。」
子龍はため息をつき領主の部屋を出た。
一人になった領主は空を見上げ呟いた。
「もう少しだ…間もなくこの力は…」
意味の分からない言葉を呟く領主の顔は妖気に満ちていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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