第17話 領主救出計画
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レトムは探索を終えて、都賢秀がいる小屋へ戻ってきた。
〈戻りました…!!〉
レトムが苦労して戻る間、都賢秀はのんびりと座ってリンゴを食べていた。
不思議な色だと言って一度食べてみたかったあのリンゴを…
「帰ったか?」
レトムは厚かましくリンゴを噛みながら「帰ったか?」と言う都賢秀がとても腹立たしく感じた。
〈AIが苦労している間に…それよりお金はどこから出してリンゴを買ってるんですか?〉
「671番都賢秀がくれた金があっただろう。」
〈あまりない金を計画的に使えないどころか、勝手に使うなんて!〉
「じゃあどうしろってんだ!人間だって飯は食わなきゃな!」
かえって大声を出す都賢秀を見て、レトムは腹の底から怒りがこみあげた。
〈それなのに貴重な非常食をリンに全部あげてきたんですか?〉
「もう!そんなに責めるなよ!お前もあげていけばいいだろ!」
〈一部だけ渡せと言ったのであって、誰が全部あげろと言いました?〉
一日戦えばシーンがないと寂しくなる、都賢秀とレトムの口論は今回も始まった。
言い合いに疲れて、二人は背を向けて座った。
〈で…〉
続く沈黙に耐えられなくなったのか、レトムが先に口を開いた。
〈そんなに食べたかったピンクのリンゴを食べて満足しましたか?〉
「どうだろうな…満足はしてないよ…味もただのリンゴだったし…」
正直に言えないのは、大韓民国の男もAIも変わらなかった。
「ところで領主の城へ行って何か収穫はあったのか?」
都賢秀の質問にレトムはやっと思い出したかのように即答した。
〈ロンウェイ領主が監禁されていると思われる部屋は見つけられませんでした。〉
「相変わらず役に立たないな。」
〈ここで遊んでいたくせに…ともかく、それより重要なものを見つけました。〉
「もっと重要なもの?それは何だ?」
〈警備兵の警戒が厳しい部屋を見つけまして…そこからキューブの波動を感知しました。〉
「本当か?!」
キューブが城にあると言う話に、都賢秀の目が輝いた。
領主を助けようとする目的は、彼を手助けしてキューブの捜索に協力を得るためだった。
しかし城にキューブがあるなら、もはや領主は問題ではなかった。
二人は領主救出計画を脇に置き、キューブ探しの作戦へと切り替え相談した。
「じゃあマスタープランを練ろう。地図は持ってきたか?」
〈もちろんです。〉
レトムは自分で回って作った地図をホログラムで映し、都賢秀に見せた。
二人は地図を見ながら潜入ルートを議論し、夜になったら実行に移すことにした。
*****
夜になり、慎重に小屋を出て街へ出てみた。
夜なので巡回兵は減り、動きやすくなっていた。
「順調だな。領主の城へ行こう。」
〈はい。〉
レトムの案内で領主の城へ向かった。
「なにこれ…これが領主の城か?」
レトムが示した地図である程度規模は想像していたが、実際に見た領主の城は規模が巨大で、都賢秀は圧倒された。
「大きいな…景福宮にも負けない…捜索に時間がかかりそうだ。」
〈その代わり移動は楽という利点があります。〉
「それはそうだな。」
広い建物は規模だけに部屋も多く捜索に時間がかかるが、一方で警備兵同士の距離が離れているため、潜入者にとっては移動が楽という利点があった。
〈それに私はもう怪しい部屋を見つけておいたので心配いりません。〉
都賢秀はまず袖のボタンを押し、暗殺者に似合う黒い服とフードに変えた。
「入ろう。」
警備兵の目を避けるため屋根を選び、都賢秀は軽く跳び上がって屋根に登った。
しかし問題は伝統様式の領主の城は屋根も瓦なので音が出る恐れがあり、とても慎重に動かねばならないが、都賢秀はむしろ走り回っていた。
しかし素早く走っているのに足音は全く聞こえなかった。
〈…こんな技術があるとは知りませんでした。〉
「潜入は特殊部隊の基本だ。こんな訓練をやらないわけがない。」
少し褒めるとすぐに見栄を張る都賢秀だが、今回はレトムも認めざるを得なかった。
それほど都賢秀の隠密行動は素晴らしかった。
20分ほど移動すると、レトムが言っていた警戒が厳しい部屋が見えた。
「…確かに怪しいな。ほかより警備が厳しい。」
遅い夜なのに多くの警備兵が焚火まで焚いて鉄壁の警戒をしていた。
〈そうです。あそこに領主がいるかはわかりませんが、キューブの気配は感知されました。〉
「じゃあもっと詳しく調べるため近づこう。」
〈それはダメです。〉
近づこうとする都賢秀をレトムが止めた。
〈異様に敏感な武士がいます。近づくとバレる可能性があります。〉
「しかし近づかないと中に潜入できないじゃないか。」
〈それは…そうですね。〉
「奴らの中で誰だ?そいつはもっと注意して移動すればいいだろう。」
〈武士はあの中の…え?〉
「どうした?」
レトムが何かを発見したかのように領主の部屋をじっと見つめた。
〈…私の存在に気づいた武士が見当たりません。〉
「そうか?じゃあ別の所にいるのか?」
〈多分そうでしょう。〉
その武士という人物がどんな人かわからないが、面倒なことを避けられるなら都賢秀にとってはありがたい話だった。
「じゃあ今がチャンスだ。戻る前に急ごう。」
〈わかりました。〉
都賢秀はレトムが言った武士が戻る前に急いで用事を済ませようとした。
そうして部屋へ近づこうと動き出した瞬間…
ぞくっ
背筋が寒くなる感覚に慌てて横に避けた。そして…
ドンッ!!!
正体不明の存在が後ろから都賢秀を襲った。
都賢秀は過去の戦場で身に付けた危機察知能力のおかげでかろうじて回避したが、天井を破壊した男を見て驚愕した。
「武侠でもないのに何だこれ…?」
〈あれは?〉
レトムがその男を認識したように叫んだ。
「なんだ?!一体誰だ?!」
〈昨日、私の存在に気づいた武士です!〉
男の正体は部屋の前を守っていた身分の高そうな武士だった。
彼はゆっくり起き上がり剣を持ち直し、都賢秀とレトムを睨みつけた。
「私の勘違いかと思ったが、やはり侵入者か…」
レトムの存在を察知し、天井を破るほどの腕力を持つ実力者が自分の前に立ちはだかると、都賢秀は冷や汗が流れるほど緊張した。
「私は領主城警備隊長の子龍(子龍)だ。侵入者は大人しく出頭せよ。」
都賢秀の本能は危険を感じ、すぐに逃げろと言っていた。
だが、子龍という男は簡単には通してくれそうにない。
「くそっ!ここでは充電できないから安易に使いたくなかったんだが。」
都賢秀はホルスターから素早く拳銃を取り出し、子龍に向けて引き金を引いたが…
子龍は手を挙げて掌でそれを弾き返した。
「なにっ?!」
〈ありえない!〉
信じられない光景にレトムも都賢秀も驚いた。
音速の速度で飛んでくるプラズマピストルの弾丸を防ぐ反射神経もすごいが、岩をも溶かす威力をただの手のひらで防いでしまったのだ。
〈あの男、今見ると白衣の気を持つ上級聖獣を所有しているようです。白衣の気は体を硬くし、相手の攻撃を防ぐと言われています。〉
この地球が超能力者がはびこる世界であることは既に知っていたが、銃弾まで防ぐ相手では普通の人間である都賢秀は太刀打ちできなかった。
「…逃げよう。俺がどうにかできる相手じゃない。」
〈それが良さそうです。急ぎましょう…〉
「無理だ!」
都賢秀とレトムが脱出を企てようとした時、子龍が驚異的な跳躍力で距離を詰め、剣を斜めに振り下ろした。
なんとか避けた都賢秀は左手の拳を振り回し、子龍にボディブローを試みた。
しかし…
「ぐあっ!!」
痛みで叫んだのは子龍ではなく都賢秀だった。
「くそ…体は岩じゃないのに…」
体を硬くできるというレトムの忠告を一瞬忘れて拳を痛めてしまった。
〈気をつけて!!〉
拳の痛みでまともに動けないうちに、子龍は剣を横に振り払って攻撃した。
[まずい…]
都賢秀は慌てて高振動ナイフを抜き、子龍の攻撃を防いだ。
カンッ!!
子龍の長剣は単なる鉄製の剣だが、都賢秀のナイフは超科学技術で作られた高振動ナイフだった。
したがってぶつかれば子龍の剣は折れたり切り落とされたりするはずだった。
しかし破壊されるどころか、傷一つつけられなかった。
しかも途方もない筋力で押されて都賢秀はそのまま吹き飛ばされてしまった。
「うああっ!!」
子龍の力に押されて天井から落ちた都賢秀の周囲を官軍が包囲し、退路を塞いでしまった。
子龍は身長2メートルはありそうな大柄な体ながら信じられないほど身軽に跳び上がり、都賢秀の前に着地した。
「侵入者が逃げられぬよう徹底的に包囲せよ。」
子龍は口で官軍に指示を出しながら、視線は都賢秀だけに固定していた。
[くそ…あんな化け物からどうやって逃げればいいんだ?]
都賢秀も南スーダンでテロ団に奇襲され包囲されたことが何度もあったが、今ほど命の危険を感じたことはなかった。
正面からの勝負は危険なので、どうにか逃げようと動き出そうとしたところ…
「逃がさない。」
子龍は小声でつぶやきながら突きを試みたが、驚異的なスピードで都賢秀は反応できず、直撃を腹部に受けてしまった。
「ぐあっ!!」
レトムが用意してくれた防弾チョッキのおかげで貫通はしなかったが、衝撃は感じられ、胸に穴が開いたような激痛が走った。
[くそ…人間がどうしてあんなに速く動けるんだ…]
都賢秀は胸の痛みで意識が朦朧としたが、子龍は不思議そうに自分の剣を見ていた。
確かに剣は直撃したのに都賢秀の体は貫通していなかったからだ。
「ふむ…聖獣の気は感じられないが、どういうことだ?」
子龍は自分の剣を確認したが、どこにも異常はなかった。
「どういうわけか、首を斬っても無事か確かめたくなったな。」
子龍は異常がないことを知り、再び剣を振りかざして攻撃しようとした。
その時…
「やめろ、子龍!!」
誰かの声で子龍は剣を収めて退いた。
都賢秀とレトムは新たに現れた男を見て「誰だ?」と思ったとき、子龍と兵士たちが丁寧に挨拶をした。
「領主に謁見します。」
男の正体は禮縣の領主、龍煒だった。
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