第14話 村の状況
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突然起こった都賢秀の襲撃に、レトムはあまりの驚きに呆然としていた。
しかし、彼が言葉を最後まで発する前に、都賢秀が不良どもを一瞬で圧倒した様子を目の当たりにして、ただ驚いていたわけではなかった。
「ど、ど、到底、いったい何をなさったのですか?!」
レトムは慌てて駆け寄り、一体何をしてるんだと都賢秀を叱責したが、彼は全く臆することなくその場に立っていた。
「何が?」
〈そ、それを――彼らに手を出してはいけません。私が話している最中にこんなことを…〉
「哎哟,小伙子!快跑啊!再不跑就没命啦!」
レトムが都賢秀を責める間にも、靴屋のおばあさんが何か叫びながら彼の背中を押していた。
「な、なんだ?どうして聞こえないんだ?」
〈…あまりに焦って翻訳機を忘れてましたね。少し待ってください。〉
レトムは、都賢秀の奇妙な行動に動揺しすぎて、翻訳機の操作すら忘れてしまっていた。
再び翻訳機を作動させると、おばあさんの言葉が翻訳されて聞こえてきた。
「なにしてんの、若いもの!ぼーっと突っ立ってないで、とっとと逃げなさいってんだ!」
「逃げろ」という切迫した言葉だった。
都賢秀は、心配してくれる気持ちには感謝しつつも、ああいう連中に逃げろと言われるのが何となくプライドが許さなかった。
「私は、ああいう奴らに負けたりしませんから、ご心配なく。」
「君があの連中に屈するとでも思って――うちのばあさんをどこに送りつけようってんだ、このクソババアが!!」
おばあさんは背中を押しながら逃げろと迫る一方、不良の一人が声を荒げ、会話が途切れた。
「おばあさん、お前も反乱軍の疑いで捕まりたいのか?!」
「いやあ…この仕事、どうしたものか…」
不良どもが勝手に「反軍容疑」などと大げさに騒ぎ立てている。
その上、おばあさんは過剰に彼らを恐れており、慧眼のレトムでさえ不安を覚えるほどの怯えを見せた。
「雰囲気が変だな…こいつら、一体何者なんだ?」
〈だから言ったじゃないですか? あれらは…官軍です!〉
レトムが言った「官軍」という言葉に、都賢秀は驚きのあまり目を白黒させた。
「官軍って……警察のことだろう?警察が何で市民にあんなことをするのか?」
〈それは私にも分かりません。でも、官軍に逆らえば…〉
「我々に反抗する者はすべて反乱軍である!お前も反軍参加の疑いで逮捕してやる!!」
〈…そうなるでしょうね。〉
「はあ、本当に…面倒くせえな。さっさと逃げ――」
“面倒なことから逃げる”が、軍を除隊して以降の人生モットーとなった都賢秀は、すぐにでも逃げ出そうとしていたが。
「どこに逃げるってんだ!!」
官軍の兵士の一人が撃った――まるでプラズマピストルのように見えるレーザー光線が、都賢秀の耳元をかすって通り過ぎた。
「こ、これなんだ?あいつらにもプラズマ…なんとかっていう銃があるのか?」
〈あれはプラズマではなく、“聖獣”と呼ばれるものです!〉
「聖獣?」
〈この地球にだけ存在する特殊な存在で、人が生まれた時に憑依し、亡くなるまで守護すると言われる守護神です。〉
「聖獣だって?聞くだけだとわけがわからんが……これは、ここが確かに中国ではないな、と思わされるな。」
「ははは!この私の上級聖獣を見て、震え上がったか?だが遅い、喰らえ、この野郎!ゆっくり苦しめてやるぞ!」
官軍の一番号が再びレーザーと思しき攻撃を何発も放ってきた。
しかし射撃の腕前がひどく、至近距離でさえ一発も命中しなかったものの、その威力は十分に脅威だった。
「……今ここで後ろ向きに逃げたら、もっと危ないかもしれない。先にこいつらを倒してから逃げる。」
〈はぁ〜…方法がないようですね。〉
戦うという選択に、レトムも同意し、ついに官軍1、2、3と都賢秀の戦いが始まった。
この場所では電気が使えず、プラズマピストルを充電できなかった。
そのため射撃戦は不可能と判断した都賢秀は、格闘で制圧するべく素早く接近しようとしたところ。
「この私に自ら近づいてくるとは!度胸があるな!!」
官軍2が巨大な偃月刀を振り下ろしたが。
「うわっ?!」
人間の振るいとは思えない速度で振り下ろされ、都賢秀は必死で横に体を滑らせて避けた。
次の瞬間――
ゴワァンッ!!
その偃月刀が地面に深く突き刺さった。
「な、な、なんだこの力は……」
〈どうやらあの人物に憑依した聖獣は、中級の白鳥のようです。その聖獣は筋力と反射神経を高めるんですよ。〉
「それってやりすぎじゃないか……え?」
官軍たちは聖獣の力のおかげで驚異的な力と能力を誇っていたが…腕前は結局お粗末だった。
近距離で射撃をまったく当てられず、官軍2は不器用にも剣を地面に突き刺したまま抜けずに苦しんでいる。
「や、やるな……。」
自分の武器を抜けずにもがく官軍2を見て、都賢秀は小さく不敵に笑った。
「お、良い子だ……そのままじっとしていろ。」
汗だくになっている官軍2の顎に拳を突き込もうとしたその時――
「ぐッ!!」
突然、見えない縄のようなもので身体が締め付けられ、動けなくなった。
「な、なんだ、これは?!」
〈あの人物です!〉
レトムの声と共に、存在感を放っていなかった官軍3の姿が見えた。
〈中級の黄鳥の場合、仮想の縄によって相手を拘束できるんです。〉
「それって何だ?!ずるいだろう!!」
他の官軍とは違い、この官軍3が最も厄介で、最も威圧的な存在だった。
「ククク…。今までよくも調子こいていたな。さて、どうしてくれようか?」
都賢秀が捕縛されたのを見て、官軍1と2が嘲笑しながら距離を詰めてきた。
非常にまずい状況になり――とにかくどうにか抜け出そうと身体をよじったものの、一切解ける気配がなかった。
「くそっ!これ、どうすれば……」
都賢秀がパニック状態で次を考えていると、官軍3の姿が視界に入った。
無言で、眉ひとつ動かさず、じっと都賢秀だけを見つめている。
【まさか…あいつを見つめていなければ拘束が発動しないのか?】
自分の推測が正しいかどうか分からなかったが――そんなことを考えている暇もなかった。
「おい!レトム!!あいつの視線を遮れ!」
〈え?なぜ…それよりどうやって?〉
「そんなの、自分で考えろ!!」
都賢秀に叱責されたレトムは、慌てて官軍3の前に飛び出し、自分の身体でその顔をふさいでしまった。
「え?!な、これは何だ?!」
官軍3の視線が遮られた途端、都賢秀は動きが自由になった。
「さすがだ!!」
身体が解放されると、まず官軍2のみぞおちに拳を打ち込み、腰を曲げさせたまま首の後ろを叩いて気絶させた。
「この野郎!!」
官軍1は、都賢秀が仲間を倒したのを見て、隣にいる赤い狼に命じてレーザーを撃たせたものの。
相変わらず腕前が悪く、的をまったく捉えられず、都賢秀は低い体勢から突進して顎を打ち抜いて気絶させた。
ふたりの官軍を倒した後、残るは官軍3だけとなった。
「こいつ、いったい誰の聖獣なんだ?!!早く――ぐッ!!」
官軍3は、レトムを面倒くさい蝿のように扱いながら腕を振り回していたが、都賢秀が投げた石に正面から命中し、そのまま気絶した。
三人の異能力者たちを瞬く間に制圧した都賢秀を見て、レトムは再び感嘆したが――余裕を見せている暇などなかった。
というのも、異変を報告され官軍が増援を呼んでいるからである。
〈追加兵力が来ています!すぐ撤退を……!!〉
レトムは兵力が多いから早く逃げようと言おうと振り返ったが――都賢秀はすでにひとりで遠くへ逃げていた。
〈あああ…このクソ野郎…〉
自分を置き去りにしてひとりで逃げてしまった都賢秀を見て、思わずレトムの口から本音の罵りが飛び出した。
〈人がどうしてそうも冷たいんですか?!!私を置いて先に行かれるなんて!!〉
慌てて追いかけて抗議するレトムに対しても、都賢秀は厚顔無恥なほどに堂々としていた。
「お前は空を飛べるんだから、自分で逃げられるだろう!まずは俺が生き延びなきゃ!!」
〈そうですか?!では私は飛んで自力で脱出しておきますので、都賢秀様はご自由になさってください!〉
「言った通りに飛んでったらどうしよう、この冷酷な野郎!!」
〈冷酷なのはどっちですかね…〉
レトムは呆れ顔でため息をついたが――ともかく、このクソ野郎にすべてを託した身としては、安全に逃がさねばならなかった。
〈まずはあの路地に入ってください!この村は裏通りが入り組んでいるので、官軍でも簡単には追って来られないはずです。〉
「道が複雑なら俺も移動しづらいじゃねぇか!」
〈私が上から道案内をしますから――黙って早く行ってください!〉
「言葉くらい綺麗にしろ!」
都賢秀は不満を言いつつも、焦って進路を変えて路地へ入った。
レトムの言う通り、その裏路地は狭く、曲がりくねっていて、土地勘がないとすぐ迷いそうだった。
都賢秀はレトムの導きのお陰で迷うことなく道を進めたが、官軍たちは同じ所をぐるぐる回って道に迷ってしまった。
幸いにも無事脱出した都賢秀は、路地の隅で息を整え、しゃがみ込んでいた。
「はぁ…はぁ…一体この場所は何なんだ?警察が市民を弾圧するなんて…ああいう腐敗した警察どもを見て見ぬふりするほど、この地は腐ってるのか?」
〈私が5年前に来たときは、そうではなかったのですが…理由が分かりません…〉
「はあ〜…お前、知ってることって何なの?無駄に賢そうなAIくん。」
レトムは内心怒りで煮えくり返っていたが、情報不足を認めざるを得ず、言い返すこともできなかった。
「…これからどうしようか?」
〈…まずは森に戻りましょう。数日間森に滞在して情勢を見つつ、偵察を再開しましょう。〉
「…そうしたほうがいいな。」
村にとどまるのは危険だと判断した都賢秀は、まず森へ戻ることに決めて路地を出たところで…
「さっきの、官軍と戦った男じゃないか?」
「関わるとこっちも反軍として捕まるぞ!みんな逃げろ!!」
大通りの人々は都賢秀を見つけるやいなや、一斉に逃げ出した。
「な、なんだよ?!どうして人が俺の顔を覚えてるんだ?」
〈たった今の騒動を見て、都賢秀様の顔を記憶したのかもしれませんね?〉
最初に路地から入ってきた入口へ戻ったので、人々が顔を覚えるのは確かに納得がいく。
だが、人々がどんな路地を抜けてもすぐ俺を認識して逃げ出すのには違和感があった。
「これ、おかしいぞ?村で騒動があったって噂は立つかもしれないが…俺の顔を即、覚えるのは妙じゃないか?」
〈確かにおかしいです…都賢秀様の顔は個性的にブサイクですけど、それだけでこれほど覚えられるとは思えませんし…〉
「この野郎、ほんとに…」
都賢秀を罵倒する側をも完全に無視して、レトムはどういう事態なのか考え込んでいた。
その時…
〈あ!〉
レトムが何かを閃いたように、声を上げた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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