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第11話 次の次元へ旅立つ時間が来た

8月3日までは毎日12時と20時の1日2回更新となります。




頭に傷を負ったリンは子どもたちの手を握りしめながら、村へと戻っていた。


「まさか本当に殴るなんて思わなかった…バカなおじさん…」

「子どもを正しい道へ導くのも、大人の役目ってもんだろう?」

「何言ってるの? それって児童虐待ってやつよ!」

「言い回しはうまいな…ところで、あなたたちの村って…例え盗賊がいなくても、食べ物はあるのか?」


村に食料があるかという都賢秀(ドヒョンス)の問いに、リンの表情が少し曇った。


「当然少ないですけど…でも過去に残された缶詰とかキューブ食を探せば見つかるかもしれなくて、飢え死にはしないんです…でもそれも全部奪われて、これからどうしたらいいか悩んでるだけで…」

「そうか…」


都賢秀(ドヒョンス)は何かを考え込むようにしながら、子どもたちを連れて村へ向かって歩いた。そんな中、彼は突き刺さるような視線を感じた。


「…何だ? 何か言いたいのか?」


視線の主はレトムだった。


〈…どうしてそんなに戦いが上手いんですか?〉

「…前の職場で教わったのか?」

〈前の職場? まさか職歴があるんですか? あなた、その歳までニートじゃなかったんですか?〉

「この野郎…! 俺な、俺は707特任隊所属の特殊部隊出身だぞ!! しかも普通の特任隊じゃねえ、キャプテンまで昇進したやつなんだぞ!!」


798番地球の都賢秀(ドヒョンス)が“次元の繋ぎ手”の資質を持つことは知っていたが、彼の過去までは調べていなかった。故に、レトムは彼が特殊部隊出身だとは全く知らず、「次元の繋ぎ手が欲しかった」だけの認識だったが、そんな経歴を持っていたとは飛び上がるほど衝撃だった。


〈…臆病なビビりかと思ったのに…完全に騙されましたね。〉

「何回俺を“ビビり”って言えば気が済むんだ?! 俺、特任隊のキャプテンだったんだぞ!!」

〈子どもに手を掴まれただけでビビる人を、“ビビり”と呼ばずして何と呼びます?〉

「ふっ!!」


助けを求める少年に手を掴まれて驚いた件でチャカすレトムと、それに笑うリンを見て、都賢秀(ドヒョンス)は顔を真っ赤にしていた。


「ぎゃんっ!!」


またリンに軽く頭突きを食らったが、都賢秀(ドヒョンス)はレトムをにらみ付ける。


「おい、テメエ!! 子どもが手を掴んできたぐらいでビビったわけじゃない! ただ…」


何か言おうとして言葉を濁す都賢秀(ドヒョンス)を見て、リンは事情を覗き込むが、レトムはにやりと知っている様子だった。


〈…昨日の朝に見たあの悪夢…何か関係ありそうですね。〉


レトムが尋ねるが、都賢秀(ドヒョンス)は再び口を閉ざした。


〈…過去に一体何があったんです?〉

「…ありがちな話さ…」

〈普通って、どんな話なんですか?〉

「…士官学校を卒業して特任隊の訓練を終えた後、最初の配属が南スーダンの平和維持軍だった…そこでテロ鎮圧、邦人救出、治安維持までやって、そこそこ名をあげてた…」


都賢秀(ドヒョンス)は南スーダンに派遣され、任務を次々と成功させて同期より早く昇進したが、そのストレスは大きかった。単調な派遣生活の刺激と疲れから、ある日、公園でサッカーボールを持った少女と出会った。それは彼と同僚にとっての心のオアシスだった。


しかし翌日、その少女がボールを持って現れた時――すでに遅かった。反政府勢力が仕掛けた自爆テロで、彼女はサッカーボールに爆弾を仕込み、わざと近づいて自爆したのだ。都賢秀(ドヒョンス)はなんとか難を逃れたものの、親しかった同僚が目の前で爆死するのを目撃してしまった。


その出来事以降、都賢秀(ドヒョンス)の心に残ったのは、人間不信だけだった。


「そのときの記憶が蘇るんだ…今でも子どもが近づくだけで背筋が凍るようで…」

〈そ、そうだったんですね…〉


都賢秀(ドヒョンス)の過去に、レトムもリンも静かに聞き入った。


〈で、“判断を誤った”というのは何の話だったんですか?〉

「ん?」

〈燃える村を見て、『判断を誤った』って――そんなことを言ってましたよね?〉

「ああ…それもよくある話さ…南スーダンであんな経験をして、人間不信に陥って、誰が反政府勢力で、誰が善人か区別できなくなったんだ…そんなとき、助けを求める子どもがいてな…」


反政府勢力に村が占領されたと助けを求めてきた少年がいたが、彼は疑いをかけて突き返してしまった。そのときの自分を否定するように静かにしていたが――後から別ルートでその村が実際に占領されていたと知らされた。慌てて出動したが、UN軍が来るころには村人はほとんど殺され、助けを求めたあの子もすでに亡くなっていた。


「不信と偏見が原因で、助けを求める人を無視した結果、たくさんの人が死んでしまった。あの時から、今度こそ――と言い聞かせてたんだ。」

〈ちょっと待ってください!〉

「何だ? 話してる途中だぞ…」

〈今、話矛盾してませんか?〉

「矛盾って?」

〈最初に“もう人を助けて生きたくない”って言ってたのに、今度は“助けを求める人を無視しない”って…まるで真逆じゃないですか?〉


レトムが核心を突くと、都賢秀(ドヒョンス)はまた口を閉ざした。


〈今度はまたどんな事情があるんですか?〉


レトムが問うと、都賢秀(ドヒョンス)は沈黙し続けた。


「…村に着いたようだ。もう聞かなくていい。疲れた。」


先に行ってしまった都賢秀(ドヒョンス)を見つめながら、リンは心配そうにつぶやいた。


「ねぇ、このおじさん…何かあったのかな?」

〈さあ…人間には誰しも、絶対に隠しておきたい過去があるって言いますからね。〉


都賢秀(ドヒョンス)が口を閉ざすと、レトムもリンと一緒に彼の後を静かに追った。


*****


「リン!! みんな!!」


無事、子どもたちを連れて戻ってきた都賢秀(ドヒョンス)を見て、村長は涙を流して駆け寄ってきた。


「ごめんね…本当にごめんなさい。あなたたちを連れていかれるのを見て見ぬふりして…ごめんね…」


子どもたちを抱きしめて号泣する村長を見たリンは、最初は彼を責めたが――


武装した盗賊相手に、無力な老人が何ができるだろう?という思いに至り、その涙は偽りではないと感じた。村長の真心に触れ、リンも子どもたちもやっと泣きながら安心した様子だった。


「うあああん、村長さん!」


涙するリンと子どもたち、そして村長を見つめる都賢秀(ドヒョンス)の目にも涙が浮かんでいた。


〈ご覧になってどうですか? 都賢秀(ドヒョンス)さんが作り出したこの光景は。過去の傷、少しは癒えましたか?〉


レトムの問いかけに、都賢秀(ドヒョンス)はにっこりと微笑んで答えた。


「もう、“誰かを助けて生きる”なんて考えてないと思ってたのに…人の人生って思い通りにいかないもんだな。」


言葉とは裏腹に、彼の表情は明るかった。


都賢秀(ドヒョンス)さん…やっぱり考え直してくれますか?〉

「何だ?」

〈次元を繋ぎ直す旅――一緒に行ってくれませんか?〉

「またそれか?」

〈今、次元の流れが閉ざされ崩壊しつつあるのは問題ですが…それは未来の話。しかしもっと大きな問題は、リンみたいな子たちが今、まさに苦しんでいるということです。〉


リンのような子どもたち…彼らはこの次元やあの次元でも、誰かの助けを待っていた。


〈閉ざされた次元は全部で385もあります。798番地球のように自立している世界もありますが、大半は崩壊する前に滅亡の危機にさらされています。つまり、第2、第3のリンたちが、都賢秀(ドヒョンス)さんの助けを待っているんです。〉


「……」


助けを求める子どもたち。そしてそれを見過ごしてしまった恐ろしい記憶――。


都賢秀(ドヒョンス)さんにも理由があって、人を助けて生きないと誓ったのかもしれませんが…あの子たちは今まさに危険に晒されていて、誰かの手が必要なんです。どうかその力を貸していただけませんか?〉


レトムの言葉通り、誰かがやらねばならない。しかも何より――。


「いいだろう。一緒に行くか。」


レトムによれば、この世界には1298人もの“同じ存在”がいるらしい。旅を続ければ、あの子にもまたきっと出会うはずだ。


だから都賢秀(ドヒョンス)は旅立つ――かつて守れなかったあの子を、今度こそ…。


〈本当ですか?!〉

「言わせるなよ、何回も同じことばっか…」

〈ありがとうございます、本当にありがとうございます、都賢秀(ドヒョンス)さん! 今後ともよろしくお願いします!〉


ほぼ顔も手抜きのホログラムなのに、声が高揚してるのを聞けば、喜んでいるのが伝わってくる。


「さて、出発の時間だな…」

〈そうです。次に行く次元はもう決めてあります。覚えたイメージをしっかり記憶していますよね? じゃあ…〉


「ちょっと待てよ、バカ野郎。子どもたちとちゃんと挨拶してから行くわ。」

〈そ、そうですね。私、興奮しすぎました。〉


いつもなら口うるさいレトムも、今日は機嫌が良いようで遮られても怒らなかった。


都賢秀(ドヒョンス)はリンに歩み寄る。


「リン!」

「おじさん!」


リンも笑顔で駆け寄った。


「村長さんが言ってたんだけど、おじさん、ここにいてもいいって。おじさん、私たちとずっとここで暮らしたらどう?」

「…悪いな、でも行かないといけないんだ。」

「行くって?! どこに?」

「…まあ…世界を救いに、かな…」


「何それバカバカしい。そんなこと言って、どこ行くのよ!」


都賢秀(ドヒョンス)の「世界を救いに行く」という言葉に、リンはあきれた顔で返した。


「…本当に私のこと何だと思ってる?」

「もういい! とにかくここにいて。どこ行っても使い物にならなそうだし、私がちゃんとおじさん守ってあげるから。」


子どもにそんなことを言われるなんて…都賢秀(ドヒョンス)は自分を振り返らざるをえなかった。


〔俺ってそんなに頼りないのか…〕


「その気持ちは嬉しいけど、でも本当に行かないと。」


「…バカ。」

「言うなよ…」


涙を浮かべるリンの頭を優しく撫でながら、彼は慰めた。


「あと、これをあげるよ。」


都賢秀(ドヒョンス)はリュックから箱を取り出して渡すと、レトムが驚いて止めた。


〈正気ですか?! それはうちらの唯一の非常食じゃないですか!!〉


都賢秀(ドヒョンス)は10年分の非常食を、びったり全部リンに渡そうとしていた。


「そんな…大丈夫かな? おじさん、旅に出るって言ってたし?」

「俺は大丈夫だ。量が多すぎるかもしれないが10年分しかない。頼りすぎず、大事なときに使って…。それから、一生懸命生きろよ」

「うるさいなぁ…大丈夫。私、リンだから。村長さんも、おかあさんも、子どもたちも、ぜんぶ私が守るから。」


自信満々で宣言するリンの姿を見て、都賢秀(ドヒョンス)は微笑んでいた。彼女ならきっと、大丈夫だろう――そう思えた。


「じゃ、俺は行くよ。みんないつまでも元気でな。」


「おじさんも!!元気でね!」


リンや村の皆から見送られ、都賢秀(ドヒョンス)は次元の門を開き、旅立っていった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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