第10話 自責に浸る暇はない
8月3日までは毎日12時と20時の1日2回更新となります。
都賢秀は村長と共に遺体を収拾していた。
かつては80人もの人々が暮らしていた村だったが、村長を含めて生き残ったのはわずか8人だけだった。
都賢秀はこの悲劇的な光景に、とうとう涙をこらえきれなかった。
「また…またしても俺の誤った判断のせいで…」
レトムと村長は、彼の「またしても」という言葉の意味が分からず戸惑ったが、その悲痛な涙を目の前にして簡単に言葉が出なかった。
都賢秀は偏見に囚われた誤った判断のせいで、子供たちを失った自分を責め、胸を叩きながら嗚咽した。
「君のせいじゃない、責めるな。村の人々が死んだことも、子供たちが連れ去られたことも、君のせいじゃないんだ。」
村長は、自分たちのために涙を流す都賢秀に感動し、慰めようとしたが、都賢秀は…
「なんですって?」
突然涙を止め、村長をじっと見つめた。
「な、何が…?」
「子供たちが…子供たちがどうなったんですか?」
「連れて行かれたみたいだが…?
「死んだわけじゃないんですか?」
混乱の中、気付かなかったが、改めて見渡すと子供たちの遺体はなかった。
「…君はこの土地の出身ではないか?子供たちは貴重な労働力だ。見つかれば奴隷にするために誘拐され、売られる。あの子たちも多分、奴隷商人に売るために連れて行かれたんだろう…哀れなことだ。」
子供たち…そしてリンが生きていた。
まだ遅くはないと知った都賢秀は、すぐにどこかへと走り出した。
<またどこへ行くのですか、都賢秀さん?!>
走り去る都賢秀を見て、レトムが慌てて後を追った。
しかし都賢秀は全身が燃え盛るような怒りに包まれ、駆けていた。
<いったいどこへ行こうとしているんですか?!>
「盗賊団だ…」
<盗賊団ですか?どうして?!>
「奴らを皆殺しにして…子供たちを救い出すんだ。」
<臆病者のくせに、今日はどうしたんですか…それに都賢秀さんは戦いもできませんよね!!>
戦いができないくせにどこへ行くんだとレトムは止めるよう指示したが、都賢秀は聞かずにただ走り続けた。
*****
「クハハハ!ちびっ子だけで6匹も拾うとは!運がいいな!!」
村人の血にまみれた盗賊たちが、子供たちを誘拐したことを喜び、にやにや笑っていた。
「これを売り払えば当分は食料の心配はないな。だろう、親分?」
「とはいえ、寄生できる村をすべて吸い尽くしたから、しばらくは新しい寄生先の村を探さないといけない。無駄遣いは禁物だ。」
「ええい、それは惜しいな!クハハハハ!!」
このクズどもは、人を殺し子供たちを誘拐して売り飛ばそうというのに、何がそんなに楽しいのか、けらけら笑っていた。
「しくしく…お姉ちゃん…」
盗賊団の牢屋馬車の中で、リンと子供たちは固まって座っていた。
このまま奴隷商人に売られれば、鉱山や農場の奴隷として売られ、死ぬまで過酷な労働から逃れられなくなる。
その恐怖に耐えきれず、子供たちはリンの腕に抱かれ、涙を流していた。
「…心配しないで…お姉ちゃんがいるから…」
リンは子供たちを励まそうとさらに強く抱きしめたが、彼女も15歳の少女に過ぎなかった。
3歳のとき、親に売られ綿花農場で強制労働を強いられた。
11歳でなんとか逃げ出し自由になったが、幼い女の子を世話してくれる大人がいなくて盗みをしながら生きてきた。
しかし、食べ物を盗もうとして見つかり、また奴隷となったが、13歳の時に再び脱走に成功した。
自由になったのは良かったが、今回も受け入れてくれる場所がなく彷徨い、今の心優しい園長が運営する孤児院に入る幸運を得た。
貧しい村だったが、自分の人生で最も心が安らいだ2年間だった。
そうしてやっと平和が訪れたかと思った矢先、今度は盗賊団に捕まってしまった。
『自分で思っても、本当に惨めな人生だ…』
リンは無駄な期待だと分かっていても、もしかしたら助けに来てくれる大人がいるかもしれないと願ったが…
やはり誰も来なかった。
短い15年の人生で、リンは一度も大人に助けられたことがなかった。
大人はいつも子供たちを見捨てた。助けてと手を伸ばしても、その手を掴む者はいなかった。
親は自分を売り、奴隷だったときは同じ境遇の大人たちにさらに苛められた。
脱走しても、路上で飢え死にしそうになっても、誰も助けてくれなかった。
都賢秀という、その背だけは立派な男も…
『どうせ大人なんて信用できない…信じられるのは自分だけだ…』
それがリンが15年間で得た唯一の真実だった。
しかしその時…
「おじさんだ!!」
子供たちの一人がどこかを見て「おじさん」と叫んだ。
リンは最初、子供たちの叫びを信じなかった。しかし砂漠を横切って走ってくる男を見て、思わず目を見開いた。
都賢秀だった。
「あいつ、バカなのか?なんでここに来るんだ?」
子供も追いつけず荷物も奪われるほどの体力なし、盗賊がいると聞いてすぐ逃げ出し、助けてと言っても冷たく立ち去るだけの、背だけは立派なバカが、命惜しげもなくなぜ来るのか…リンは助けに来るはずがないと固く信じていた。
「しつこくなんでここまで追いかけてきたんだ?!おじさん、変態か?!荷物も全部返しただろ!!」
リンは都賢秀を疑い、わざと冷たく叫んだが…
「はあはあ…リン…」
「…なに?」
「怪我は…ないか?」
そんなはずがない…絶対にないと信じながらも、もしかしたらと期待していた…都賢秀はやはり自分たちを助けに来てくれたのだった。
自分の荷物や盗んだ盗賊のためにここまで来てくれたあのバカのせいで、リンは思わず涙が溢れ出てしまった。
「おじさんは…おじさんは本当にバカだよ…」
*****
盗賊たちは後ろで聞こえた騒ぎに振り返り、追ってきた見知らぬ男、都賢秀を見つけた。
「あいつは何者だ?」
「そうだな…入団希望でついてきたのか?」
メンバーたちがざわつく中、ボスが前に出て都賢秀を呼んだ。
「お前は何者だ?入団希望者か?」
盗賊団のボスが問いかけたが、都賢秀の視線は、村人の血にまみれてくすくす笑う盗賊たちと、傷だらけで怯えながら囚われている子供たちに向けられていた。
都賢秀は全身の血が煮えたぎり、燃え上がるような怒りを感じた。
「己の欲望のために人を傷つけるとは…お前らは生きる価値のない存在だ。」
都賢秀の非難に、盗賊たちは一瞬目を見開き驚いたが、大笑いし、呆れたように言った。
「クハハハハ!!よく見りゃただの頭の狂った奴だったな!」
嘲笑う盗賊たちに、レトムがようやく追いつき、都賢秀の隣に立った。
<普段はあんなに鈍いのに、今日はなぜこんなに速いんだ…都賢秀さん!>
レトムが呼びかけても、都賢秀は盗賊だけを睨んでいた。
<戦いもできない奴が、なぜこんなことを?さあ行きましょう、別の地区へ。>
「そうだ!臆病なくせに無駄に命を捨てるな、バカなおじさん!」
レトムとリンが止めるのを見て、盗賊たちの嘲笑はさらに大きくなった。
「ハハハハ!女の言うことはよく聞け、ガキ。今日の気分がいいから、さっさと帰らせてやるからな…!!」
「今すぐ子供たちを解放すれば、できるだけ苦しまずに殺してやる。」
慈悲を見せようとした盗賊のボスは、都賢秀の言葉に笑顔が崩れた。
「助けようとしたら駄目か…面倒だ、さっさと殺せ。」
盗賊のボスが合図を送り、2人の手下が銃を装填しながら前に歩み出た。
「うちのボスが助けてやると言ってるのに、自ら命を絶つとは馬鹿だ。」
2人の盗賊は都賢秀を射殺するため銃口を向けていた。
レトムとリンの「ダメ!」という言葉が出る前に、2発の銃声が鳴り響いた。
そして見事に眉間を射抜いた。
だがそれは都賢秀の眉間ではなく……盗賊たちの眉間だった。
「な、何だと?!!」
なぜ都賢秀ではなく自分の部下の頭が吹き飛んだのか理解できず、盗賊のボスは都賢秀がいつの間にか銃を抜いていたのを見つけた。
「い、一体いつの間に…」
信じられない速さで銃を抜いた都賢秀は、わずか2発の射撃で2人を倒す神技を見せていた。
「ぼーっとしてんじゃねえ!早くあいつを殺せ!!」
タンタン
「うわあっ!!」
都賢秀の射撃はあまりにも速く正確で、撃つたびに命中し、盗賊は額から血を流して倒れた。
わずか数秒の間に仲間4人が倒れる様子に、盗賊たちは恐怖で動けなくなった。
「この愚か者め!いくら射撃が速く正確でも数の前では無力だ!左右に分かれて突撃しろ、この野郎ども!!」
ボスはすでに馬車の陰に隠れ、声だけで指示を出していたが、盗賊たちは仕方なく左右に分かれて突撃した。
タンタン
再び都賢秀の射撃で2人の盗賊が倒れたが、止まらず突進を続けた。
プラズマピストルの威力がいくら良くても、マシンガンやショットガンではない拳銃で多数を制圧するのは無理だった。
ついに反対側から迫る盗賊に近距離を与えてしまった。
「死ね、この野郎!!」
人の頭ほどもある巨大な斧を振り下ろす盗賊を見て、今回は大変だと思った瞬間…
「クアアアアアッ!!」
苦痛の叫びが響いた。都賢秀の叫びではなく盗賊のものだった。
都賢秀は斧を振るう敵に逆に近づき、攻撃を無力化し、その腕を捕らえ、いつ抜いたのか右脇の下から肩までナイフで切りつけ、二度と腕を使えない状態にしてしまった。
そして他の盗賊たちも左手で相手の腕の関節を折り、防御を無効化し、心臓か首を刺して即死させた。
<こ、こいつは一体…>
戦いを避けていた都賢秀に、こんな実力があるとは少しも思っていなかったレトムは、ますます彼に惹かれた。
都賢秀のナイフ格闘術で、30人もいた盗賊たちはあっという間に全滅した。
残ったのは盗賊のボスただ一人。
都賢秀がボスに近づくと、彼は慌てて手を振り交わし、交渉しようとした。
「は、はは!すごい腕前だな!どうだ?俺の部下にならないか?副ボスの席を…!!」
副ボスの座を提案したが、都賢秀は止まらず歩み寄った。
「そんなガキどもの取引の金を半分にしようなんて、大金が……ぐっ!!」
都賢秀の閃光のような斬撃に頸動脈を断たれた盗賊ボスは、何が起きたのか分からぬまま絶命した。
盗賊を全て片付けた都賢秀は、子供たちが囚われている馬車を開け、リンを呼んだ。
「おい、リン!さっき忘れてたことがあった!」
「な、何ですか?」
「人の荷物を盗んで人を苦労させたから、こづいてやる、シッ!」
都賢秀の冗談に、リンは涙を止められないままも微笑み返した。
「ほんとに…バカなおじさんだよね。」
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