第1話 次元が開く
昔、東京に留学して日本語を学んでいましたが、当時は小説を専攻していたわけではなく、また韓国に帰国してからも長い時間が経っているため、日本語がかなりぎこちなくなってしまいました。
翻訳もあまり上手ではありませんが、温かい目で見ていただけると嬉しいです。
面接で何度も落ちてきた就活生、都賢秀は、いつものように「またダメか…」と落ち込みつつも、ある求人広告からどうしても目が離せなかった。
〈外部出張に耐えられる体力に自信のある方、どなたでも歓迎。履歴書のみお持ちください♥〉
会社名も仕事内容も一切書かれておらず、最後には謎のハートマーク。怪しさ満点の求人だったが、体力には自信があった都賢秀はとりあえず行ってみることにした。
面接当日、履歴書を持って緊張しながら会場に入る都賢秀。
「ここって、今話題の龍山にできた新しいビルのとこだよね?怪しいと思ってたけど、もしかして結構いい会社だったりして?」
案内係のいる受付へ進む賢秀。しかしそこで…
「すみません、長州都氏ではなく、星興都氏ですね。残念ながら不採用です。」
受付は、面接者の名前を確認し、“長州都氏”でない人を全員帰しているようだった。
さらに…
「面接者様は長州都氏で間違いありませんが、お名前の漢字が“賢秀”ではありませんね。申し訳ありませんが不合格です。」
“都賢秀” という名前でも、正確に「長州都氏」で、漢字が「賢秀」でなければ合格にならないらしい。
「なんだこれ…体力さえあればOKって書いてなかったっけ…?」
妙ちきりんな面接だと思っていると…
「お名前は合っていますね。それではこのゲートをお通りください。」
空港にあるような金属探知ゲートのようなものを、指定された名前の男性に通らせていた。
通り抜けると…
「残念ですが、お探しの方ではありません。落選です。」
…また落ちてしまった。
不可解で不安になりつつも、自分は通れるのだろうかと心配になる都賢秀。
「次の方、履歴書はお持ちですか?」
自分の番になり、深呼吸して案内係の前に立つ都賢秀 。
「はい。こちらに書いてきました」
「なるほど。それでは失礼しますね…」
案内係は履歴書に目を通し、
「お名前が合っていますね。それでは、このゲートを通ってください」
「かしこまりました。ですが…」
都賢秀は他の人と同じようにゲートへ向かおうとしたが、ふと宙に浮かぶ何かが気になった。
餅のようにぷくっとしたぬいぐるみが、空中に浮かんでいるのだ。
「ん?これ、バルーンかな?それとも会社のマスコットかな…?」
餅っぽいぬいぐるみに目を奪われ、「これ何ですか?」と聞くと、案内係やぬいぐるみの視線がピシャリと変わった。
「な、なに…?」
「…ゲートを通ってください」
相変わらず丁寧で穏やかな案内だが、 都賢秀には表情の変化がしっかり伝わった。
不審に思ったが、とりあえずゲートをくぐってみることにした。
〔怪しい人たちだな…さっさと終わらせて帰ろう…!!〕
早く終わらせたい一心で進んだその先に、開けた景色が広がった――
「な、なにこれ…?なんで…砂漠?」
都賢秀は突然、砂漠のど真ん中にいたのだ。
人口密度が高いはずのソウル、しかも人でごった返すヨンサンのビルの中にいたはずなのに――いつの間にか、焼けつくような太陽、広がる砂、そしてサボテンしかない砂漠の真ん中にいた。
慌てて振り返り、スタッフに声をかけようとしたが…
「な、なにだ、これは…!!!」
彼がくぐってきたゲートは跡形もなく消えていた。
一体何が起きたのか分からず茫然としていると、空中に煙のような塊がもわもわと現れ、ほどなく眩しい光を放ち始めた。
そしてその中から、驚くべきことに人々が大勢、現れ始めた。
都賢秀は案内してくれた人たちかと思って歓声を上げそうになったが――
「 都賢秀!! 無断で次元移動をするとは許せない!次元移動管理法違反の容疑で、お前を逮捕する!!」
迫力満点の男性たちが、「逮捕する」と叫びながら近づいてきて、もはや救助隊ではないと一目でわかった。
突然の“逮捕”宣告に、都賢秀はショックで手をあげるも、彼らがなぜ自分を脅すのかわからずぽかんとするしかなかった。
「えっと!ここ、立ち入り禁止区域みたいだけど、俺、自分で入ろうとしたわけじゃ…!」
「スペース移動してここに来たくせにそんな言い訳が通じるか?!」
「空間移動って何だよ?! 俺、そんなことした覚え…」
「798番地球にいるお前が372番地球にいるってこと自体、お前が空間移動した証拠だ!」
「空間移動」だの「798番地球」だの意味不明な言葉ばかり聞かされ、都賢秀は頭を抱えてしまった。
「はぁ、なんだよ…おっさんたち何言ってんだよ?!今どき“空間移動”とか“次元移動”とか言う若者いると思ってるの?!」
「ふんっ、空間移動を知らないとは…まさか798番地球から来たからか、未開もいいところだな」
「いい加減にしろよ!突然訳わかんないこと言い出すし…酔ってんのか?!」
都賢秀がつい毒づくと、彼らはぴしりと武器を構えた。
「我々は“マザーの意思”に従う次元移動管理連盟のエージェントだ!その冒涜は重罪に値する!」
突然出てきた「マザー」という存在に、その手にした棒を向けてくる。
都賢秀は頭が真っ白になりながらも、涙ぐむ興奮気味の声で叫んだ。
「ちょちょっと待ってくださいよ!あなたたち警察じゃないっしょ、何なのそれ?!訴えるぞ…え?!」
訴えると言って暴れまわる都賢秀は、そばにいたエージェントにテーザーを撃たれて電気ショックを受けて倒れた。
支配されていく意識の中、またテーザーの衝撃が彼を襲うのが最後の記憶だった。
*****
「はっ!!」
都賢秀は目を覚ました。
「ここ…どこだ…?」
まだ朦朧とする中、周囲を見回すと、どうやら牢屋にいるらしい。
「本当に逮捕…されて、連れて来られたんだな…どれくらい寝てたんだろう…」
「約8時間経過しました。」
「うわっ!!」
どれくらい寝ていたのかも分からず呟いていると、突然声が聞こえ、それに驚いて都賢秀は悲鳴をあげた。
「知りたいこと教えてやったのに、なんで悲鳴を上げるんだ?」
「急に声かけないでよ…」
鉄格子の向こうに立つ男性は、顔は初対面だが、服装は先ほどのエージェントと同じ制服だ。
「くそ…一体お前らは何者なんだ?」
都賢秀は「捕まった理由」よりもまず、彼らが誰なのか知りたくて尋ねたが、エージェントは冷たい目線で見返すだけだった。
「もう忘れたのか?お前を逮捕に来た我々の所属を名乗らなかったか?我々は“次元移動管理連盟”の下部組織『治安局』のエージェントだ。」
都賢秀はその説明に思わずあきれ、反応に困るほどだった。
「まもなく裁判が始まる。立ち上がるように」
「一体俺、何をしたっていうんだよ…」
「説明はマザー様がしてくださる。マザー様のお話を聞くのだ」
「マザーって何だよ…」
エージェントは「バカでもどうしてこうも馬鹿なんだ…」という顔をし、説明するのも面倒だったのか、都賢秀を裁判所へ連れて行った。
都賢秀は多くの疑問を抱えつつも、説明しない彼らに苛立ちが増すばかりだった。
「座りなさい」
「ここって人権とか無いのかよ…本当もう…!!」
説明もなく強引に扱われ、不満を抱く 都賢秀だったが、周囲の光景に声を失った。
そこは天井がエンパイア・ステート・ビルディングほどの高さ、サッカー場50面分ほどの広大な空間に見えた。
「な、何これ…柱もないのにどうやって作ったんだよ…あっ?!」
柱がない広い建物に驚いた都賢秀は、自分の座っている被告席を見てさらに絶句した。
ただ地面に置かれた柵の中に椅子があるだけかと思いきや、よく見ると空中に浮かんでいる装置に座っていたのだ。
「な、なんだこれ…」
都賢秀は知識を超越した科学に圧倒され、口がきけなくなっていた。
そして、ここが本当に異世界なのだと、改めて実感したのだった。
「マザー様がいらっしゃいます!皆、ご起立!」
この広大な空間に十万人ほどの人々が、マザーの名を聞いて一斉に立ち上がった。
「いったい“マザー”って誰なんだ…?」
そのとき、空間中央に巨大なホログラムが現れ、女性の姿を投影した。
“裁判中にホログラム…”と思っていると、人々はその像に向かってコールを始めた。
「全宇宙の摂理はマザーの意思に従う!!!」
「まさか…マザーってこの…ホログラムのこと?」
「そうだ。厳密には連盟を運営する“マザー・コンピューター”のAI オペレーティングシステムで、初代連盟創設者が、自分の意思をプログラムに落として宿した偉大な存在なのだ」
AIによって導かれるこの世界を知り、都賢秀は衝撃を隠せなかった。
そして、いよいよ裁判が始まった。
「それでは裁判を始めます。事件番号298762、被告ト・都賢秀さん、ご挨拶を。私は連盟のOSを管理する“マザー”と申します」
—AIであるマザーが、人間のように話しており、都賢秀はこの科学に改めて驚かされた。
「は、はじめまして…」
「では質問を始めます。 都賢秀さんは、連盟が禁じている“違法空間移動”を自認しますか?」
「はい…」
「現在、次元間移動は連盟を通さないと不可能なよう強く規制されていますが、誰かに手伝ってもらったのですか?」
「誰にも頼んでいません。私はただ面接のため、面接会場のゲートを通っただけです。でも気づいたら砂漠に立っていました」
「なるほど。システムエラーでゲートが自動で開くことがあり、そういう事例もあります。都賢秀さんがどのような過程で空間移動したのか調査し、嘘でなければ軽い処分で釈放します」
優しい口調で話すマザーに、 都賢秀はようやく救われたのかと安堵の表情を浮かべた――が、
「…繋ぎ手ですか?!」
都賢秀にレイザーのような光を当ててスキャンしていたマザーが、不意に「繋ぎ手」という言葉を発し、固まってしまった。周囲もざわつく。
「繋ぎ手、って何…?」
「連盟の援助なしで移動したと思ったら…どうやら都賢秀さんは“繋ぎ手”のようです」
マザーの言葉に、人々のざわめきがますます大きくなり、都賢秀の胸の不安も膨らんだ。
「残念ですが…繋ぎ手なら放すわけにはいきません。判決を下します。被告都賢秀を…死刑に処します」
「え!何それ?!こんなのありえない! 弁護士呼べー!ベンゴシーーー!」
抗議し騒ぐ都賢秀だったが、エージェントたちに電撃を受け、再び沈黙させられた。
そして、もとの牢屋に戻された都賢秀は、「明日死刑」と告げられ、絶望にうなだれていた。
一生懸命生きてきたのに、こんな馬鹿げた理由で死ぬなんて――
「いたずらだったらいいのに…カメラ…ドッキリ…」と、せめてその希望を抱くだけだったが、鉄格子の扉はびくともなかった。
都賢秀が嗚咽する中、足元から“スッ”と何かが飛び出した。
「うわっ!!何だこれ!!」
餅のようなぬいぐるみが、彼のマスコットとして面接会場にいたあの“バルーン”だった。
しかも…
〈都賢秀さん。〉
わずかな囁きと共に、“バルーン”は喋った。しかも都賢秀の名前を――
「な、何なのこれ…?どうして喋るの…」
〈ちゃんと辿り着きましたね。僕の名前は レトム です。〉
「名前聞いてるんじゃないよ、あんたっていったい…」
〈僕が、都賢秀さんを脱出させるお手伝いをします。〉
レトムと名乗る、この正体不明の“ぬいぐるみ”が、都賢秀を助けると言い出した――
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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先に第5話を公開し、本日20時に第10話まで公開いたします。
連載再開イベントとして、8月3日までは毎日12時と20時の1日2回更新を行い、8月4日以降は1日1話ずつ公開してまいります。