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【短編】百年待った運命の番。


『執筆配信』でお題『吸血鬼の運命の番』で書きました!

吸血鬼のヒーロー寄りの三人称視点。





 生命の源である血液を飲むことで、長く生きながらえる鬼。

 鬼には悠遠の時を生きる孤独を埋める運命の番が存在する。


 しかし、いつ出会えるかは、わからない。


 生まれてすぐに出会う者がいれば、百年後に出会う者もいる。数百年、孤独を味わう者もいる。

 同じ鬼だったり、はたまた人間だったりする。人間だった場合、鬼の伴侶にする儀式をして命を繋げる。



 鬼の中でも大貴族であるキアロ・エクレーロは、艶やかな黒髪は短いながらも波打つ美青年の姿をしているが、百年は裕に超えた時間を生きた鬼だ。憂いた瞳は、夜を迎える夕暮れ色のダークオレンジ。

 独り身の女の鬼の心も奪う美貌の持ち主である。



 ある日。属国の人間の国に訪問したキアロ。

 そのパーティー会場でも、注目を浴びていた。そんな視線を気にすることなく、パーティーで適当に挨拶回りをしている際のことだった。


 キアロの目に、とある令嬢が留まる。


 壁際に佇むその令嬢は、藤色のよれたドレス姿。なのに、キアロの目には何よりも美しい令嬢に見えた。

 ドレスの色よりも、深い紫の色の髪は腰まで届く長さで、ただ下ろされている。伏目の瞳は、夜に近い青色。パーティー会場の床を見つめていたその瞳が、キアロの視線に気付いたのか、上げられた。


 その瞬間、視線がかち合う。


 キアロは、悟った。


 彼女こそが、運命の番だと。


 途端に、高鳴る鼓動。カッと、身体が熱くなる感覚が襲い掛かる。体内の血が、滾るようだった。


(オレの運命の番……!!)


 彼女こそが、運命の番。百年待ちわびた存在とようやく巡り合えたキアロは、歓喜に震えた。


 その令嬢だけが、会場内でただ一人だけ輝いて見える。

 愛おしいという感情が湧き上がった。怒涛に押し寄せるかのように、凄まじい。


(オレだけの愛しい人!)


 彼女に跪きたい。手を取り、包み込みたい。そして、手の甲に口付けを落としたい。触れたい。


 すぐさま、触れてしまいたい。


 宝物のように、大事に抱えてしまいたい。

 連れ去って、隠してしまいたい。

 大事に大事にしまってしまいたい。


 そこからのキアロの行動は早かった。その藤色の令嬢の元へと向かったのである。


 その時のキアロの表情は、輝いていただろう。キアロの美貌故に、他の令嬢達は釘付けになって見惚れていた。


 運命の番との対面に、百年生きたキアロも流石に緊張を覚える。しかし、喜びの感情に突き動かされていた。

 運命の番の令嬢の瞳に、キアロが映り込む。それだけで歓喜の感情が沸いた。


「初めまして、オレの運命の番。オレはキアロ・エクレーロ。君の名前を教えてほしい」

「……」


 いきなり運命の番と呼ばれ、戸惑いを隠せない様子の令嬢。


「……ヴィオラ・ダイナースと申します。ダイナース伯爵家の次女です」


 おずおずと淑女のお辞儀をして、名乗った。


「ヴィオラ……」


 甘美な響きとして、口の中で転がすキアロ。熱に浮かされたように見つめてしまう。


(鈴の音のような声……なんて心地いいんだ。ずっと聴いていたい)


 見惚れて、聴き惚れてしまうキアロ。


 早速、キアロは片膝をついて、求婚した。



「ヴィオラ、オレの運命の番。どうか、オレの伴侶となってくれ」



 零れてしまいそうなほど、ヴィオラの瞳が大きく見開かれる。驚かれるのも、無理はない。

 鬼は運命の番がわかるが、人間にはその感覚はないのだから。


 周囲も騒然としてしまう。そんな中、二人の女性がやってきた。


「ダイナース伯爵夫人です。うちの次女が何か?」


 慌てた様子で挨拶をしたのは、ヴィオラの母親であろう。そしてキアロを見て、隣で頬を赤く染めた令嬢は。


「ダイナース伯爵家の長女、マゼンタですわ。以後お見知りおきを」


 ヴィオラの姉らしい。それにしては似ていない。

 桃色の髪を豪華にセットしていて、派手なドレスで着飾っている。ダイナース伯爵夫人もだ。


 ヴィオラの姿は、二人に比べるとみすぼらしい。


 とりあえず、立ち上がったキアロは、三人を見渡してから、改めて自分の運命の番を見下ろす。


 ヴィオラの顔色は先程に比べて、悪くなっているように見えた。母親達から目を背けて俯いている。

 胸の前に置いた手に注目すると、手首は触れるだけでも折れてしまいそうなほど、細かった。

 化粧は最低限のようだが、顔立ちは整っている方だ。しかし、やはり顔色がよくない。目の下のクマも目立つ。疲れた顔に見える。


 よくよく見ると、指先も荒れているようだし、若干震えているようだった。


「ヴィオラ? 大丈夫か?」


 傷つけないように、キアロはヴィオラに手を伸ばして、触れる。手を重ねると、びくりとヴィオラは震えた。


 怯えた反応を見逃さない。少し屈んで、視線を合わせると優しく微笑みを見せた。


「オレが怖い?」


 もしも自分を怖がっていたら悲しいが、優しく尋ねてみる。


「いえ、そんなことは……」


 ゆるゆると首を横に振ってみせるヴィオラを見て、キアロはホッと安心して息をついた。


(なら、原因は……)


 スッと目を細めて、キアロはヴィオラの母親と姉を見やる。


「あのぉ、うちの次女に何か?」


 ダイナース伯爵夫人は、再び用件を尋ねた。


「オレはキアロ・エクレーロ。ヴィオラに求婚をした」

「えっ!」

「なんで!? こんなっ」


 驚くダイナース伯爵夫人とマゼンタ。マゼンタは、すぐにヴィオラを睨みつけると、何かを言いかけた。


 またもや、ヴィオラが震える。

 キアロは、そのヴィオラの手を慎重に包み込んだ。片手ですっぽりと包み込めた。少し荒れた肌はざらついている感触がする。そして、冷たい。

 体温が低めの鬼であるキアロよりも、冷たい手。心配が深まる。労わりつつも、すりすりと温めるために擦った。


「そんな、何故ですか? うちの次女には、なんの魅力もないというのに」

「そうです、キアロ様! 愚妹は、本当に何も出来ないし、とりえもないのですよ!」


 こぞってヴィオラを貶す二人に、キアロは軽く殺意を覚える。

 しかし、この二人はヴィオラの家族だ。一度、我慢をした。


「いや。ヴィオラじゃないとだめだ。オレはヴィオラをまだよく知らないが、ヴィオラはオレの運命の番」


 二人に言い放ったあと、ヴィオラに向き合い直る。


「ヴィオラ。返事を考えてくれないだろうか? 君にはわからないかもしれないが、オレの運命の番なんだ。鬼の運命の番についてはわかるか?」

「は、はい……」

「君はオレの特別な存在なんだ。唯一無二の。この先、永久に愛するのは君だけ。どうか、オレのことも愛してくれないだろうか?」


 大事に大事にヴィオラの右手を両手で包み込み、祈るように告げた。


 キアロの懇願でもあった。愛してほしい。ヴィオラに愛してほしい。

 渇望が、胸の中に沸いていた。


 この先、百年、否、何百年とヴィオラだけを愛する。その覚悟はもう出来ている。


 愛し愛されたい。唯一無二の運命の番に。


 懇願の眼差しを、ヴィオラは戸惑いいっぱいに見つめ返す。色の悪かった顔だったが、頬に赤みが差す。


 少なからず、自分が魅力的に見えているとわかり、嬉しくなってほくそ笑むキアロ。


「だめです!!」


 そう声を上げたのは、マゼンタだ。怒りで顔を真っ赤にしている。


「ヴィオラは相応しくありません!! あたくしの方がいいですよ!!」

「あ?」

「ひっ」


 マゼンタの発言に、低い声とともに殺気が溢れたキアロ。マゼンタは、震え上がった。

 またもや、殺意を覚えてしまったキアロは、冷めた目で見据える。


「と、とにかく! 求婚の件は考えさせてくださいまし!」


 ダイナース伯爵夫人は、ヴィオラの腕を掴んで、キアロから引き離した。


「おい!」


 キアロはヴィオラを取り返そうとしたが、あまりにも細い身体が心配で、迂闊に触れられない。

 そうこうしているうちに、ダイナース伯爵夫人はマゼンタを連れ立って、会場をあとにしてしまった。


「チッ」と舌打ちをしたキアロだったが、何もしないわけではない。


 すぐさま補佐官であり幼馴染でもあるグリューンを呼び出して、運命の番を見つけたと報告し、さらに調べるように伝えた。

 同じ鬼であるグリューンは、深緑色の長髪を一つに束ねている、緑色の瞳の美青年だ。


「おめでとう、お前にも運命の番が見つかって。早速、ダイナース伯爵家について調べる」


 グリューンの行動も、早かった。


 キアロも、任せっきりにはしない。パーティー会場で聞き込みを始めた。


 明らかになるのは、ダイナース伯爵家内にある姉妹格差。

 マゼンタは伯爵夫人の実の娘だが、ヴィオラは妾の子。ヴィオラの母親は亡くなってしまい、ダイナース伯爵家に引き取られたが、その扱いはいいものではないと社交界でも知れ渡っている。

 社交界デビューをしてからというもの、ヴィオラは引き立て役のように連れ回されているし、ダイナース伯爵家では使用人のように客人をもてなしている姿も見られた。


 ヴィオラの冷遇を聞いて、キアロは憤る。


(何故オレのヴィオラが、そんな目に遭わなくてはいけない?)


 一刻も早く、ヴィオラを救い出さなければ。


 キアロはダイナース伯爵家に先触れを出して、翌日訪問する約束を取り付けた。


(ヴィオラは、何が好きだろうか? 甘いものは好きだろうか? 花は好きだろうか?)


 手土産を考えると、ヴィオラについて何も知らない故に考え込んでしまう。しかし、至福の時間でもあった。

 夜にも関わず、店を開けてもらい、贈り物を見繕う。

 藤の花のように品のある姿だったヴィオラに似合うアクセサリーを物色。眺めていれば、あれもこれもプレゼントしたくなる。


「ドレスも贈りたい」

「それは早すぎる」

「早いものか。運命の番だぞ。きっと落ち着いた色合いのドレスが似合うだろう。大人びたデザインもいいが、可憐なデザインも似合うに違いない」


 グリューンに止められてしまうが、ドレスだって贈りたい。

 あんなみすぼらしいドレスではなく、キアロが贈ったものを着てほしい。着飾ってほしい。どんなドレス姿も一番に見たい。そして隣に立ちたい。

「あれも買っておこう」と次々と購入していく。


「それを明日手土産に持っていくつもりか?」

「いや、厳選しておくが、全てプレゼントする」


 キアロは、グリューンのやんわりとした制止も振り払う。

 そうして、夜は更けていく。

 正直、キアロは寝付けなかった。運命の番と離れていることに胸が苦しくなり、ヴィオラの姿が脳裏に焼き付いて離れない。


(ヴィオラは大丈夫だろうか……)


 冷遇されているヴィオラは、今無事でいるのか。気になって眠れない。

 悶々としては、運命の番に出会えた喜びを噛み締めた。この喜びは、明日増すのだろう。


 ヴィオラを伴侶として迎えに行くことに胸が高鳴って、余計眠れなくなった。



 翌日、あまり眠れなかったキアロだったが、その美貌は衰えない。

 一晩眠れていなくとも、鬼という種族は強靭な肉体の持ち主なので、問題なかった。

 運命の番を迎えに行くということで、キアロも着飾る。仕立てた品のあるコートに腕を通して、馬車に乗り込んだ。


 間もなく到着するダイナース伯爵家。


 使用人一同が整列をして出迎えるそれを一瞥したあと、キアロはすぐにヴィオラの姿を捜す。

 しかし、ダイナース伯爵家はいるものの、ヴィオラだけがいない。眉をひそめる。


「ようこそ、我が家へ! キアロ様!」


 ダイナース伯爵家の当主を押しのけるような形で、マゼンタが華やかすぎるドレス姿で出迎えた。


 そんなマゼンタを冷たく見据えて、キアロは「ヴィオラはどこだ?」と問う。


 ギクッと強張るマゼンタの目が泳ぐ。ダイナース伯爵夫妻も、キョロキョロとしていると「ヴィオラはどこだ?」と使用人に尋ねた。どうやら、マゼンタだけが怪しいようだ。


「おい。ヴィオラはどこだ?」


 キアロは、鋭くマゼンタに問い詰めた。

 顔色悪くなって、震えつつも。


「ヴィオラは体調を崩してぇ、えっと、そんなことよりも、あたくしとお話ししましょう! ねっ!?」


 笑顔を取り繕って、マゼンタは提案する。


「はぁ?」


 ドスの利いた声を発するキアロは、いつもは隠している鋭利な牙も剥き出しにした。


「ヒッ」と肩を震え上がらせるマゼンタと、その両親。


「もういい。伏せろ」


 キアロは、鬼の威圧でその場にいた人間をひれ伏す状態に追いやる。

 そして、コートを翻してダイナース伯爵家に押し入った。


「ヴィオラ!!」


 声を上げて呼びかけるも、返事はない。

 キアロが泊っている屋敷ほどではないにしろ、初めて入る広い建物。どこから捜すか、刹那迷ったが、本能的に二階へと駆け上がった。


「ヴィオラ! 返事をしてくれ!」


 呼びかけ続けながら、廊下を進んでいく。

 ピクリ、と耳が何かの音を拾ったことで、足を止めた。


「ヴィオラ!?」


 その音を辿って、キアロは駆ける。

 辿り着いたのは、一つの扉。ガチャガチャと揺れているそれのノブを掴んで、思いっきり引いた。


 すると、そこにいたのは捜し求めていたヴィオラだ。


 床に座り込んで、紫の瞳から涙をポロポロと落としている。


「ヴィオラ!!」


 コートを脱いで、すぐさまそれでヴィオラを包み込んでは、抱き締めるキアロ。


「キアロさ、ま」


 震える声で名前を呼ばれて嬉しいという感情が湧くも、キアロの目にはヴィオラが閉じ込められていた部屋が映る。そこは物置部屋だった。掃除道具などがあるだけの小部屋。


 そんな場所にヴィオラは閉じ込められていた。しかも、泣いていたのだ。


 怒りが噴火するように湧く。それでも、両腕はヴィオラを優しく包み込む。


 サッと、ヴィオラを横抱きにして持ち上げた。


「誰に閉じ込められた?」


 そっと顔を覗き込みながら、問う。

 瞬きすれば、宝石のような涙がポロッと一粒落ちたヴィオラは、おずおずと口を開く。


「マゼンタお姉様が……出てくるな、と……」

「そうか……」


 殺意が湧くキアロだったが、泣いているヴィオラを驚かせないように、必死に堪えた。


 ヴィオラを抱えて一度屋敷の外へ出ると、まだ一同はひれ伏す状態のまま。

 キアロの代わりに、グリューンが威圧を放ち、ひれ伏すようにしていたのだ。


「ヴィオラが、物置部屋に閉じ込められていた。どういうことか、説明してもらおうか?」


 キアロは見下しながら、ダイナース伯爵家一同に尋ねた。


「閉じ込められていた!? し、知りません! 私めは何も!」

「あたくしもです!」


 ダイナース伯爵夫妻は、顔を伏せながらも左右に振り回す。


「マゼンタ・ダイナース」


 冷たい声を、マゼンタに浴びせる。


「ヒッ! あ、あたくしは……あたくしはただ! キアロ様には相応しくないから!!」


 マゼンタは、ほぼ自白した。

 マゼンタが閉じ込めたことは明白。


「オレの番に、どこまで酷い仕打ちをするつもりなんだ? 調べはついている。ヴィオラの冷遇。オレは許さない」


 牙を剥き出しにして、吠えるように言い放つ。


「そんな、冷遇だなんて! 妾の子として教育をしていただけです!」

「教育だと? 周囲も明らかにわかる姉妹格差をしておいて?」

「そ、それは……妾の子だから」

「長子の引き立て役にし、家では使用人のように働かせて? 何が教育だ。オレの運命の番にした仕打ち、許しはしないぞ」

「「ひぃい!!」」


 ダイナース伯爵夫妻は、揃って震え上がった。


「オレは、エレクトーラ公爵だ。属国の伯爵家に過ぎないお前達の家は潰す」


「そんな!!」とダイナース伯爵は悲鳴を上げる。


「ヴィオラは貰う。オレが幸せにする」


 ちゅっと、抱えているヴィオラの額に口付けをした。


「それでいいか? ヴィオラ」


 キアロは優しい眼差しで、再びヴィオラの顔を覗き込み、尋ねる。

 泣き止んでいたはずのヴィオラだったが、またウルウルと瞳を潤ませた。


「はいっ……キアロ様と……愛し、合いたいと……そう、お返事しようと思ってっ」


 言葉に詰まりながらも打ち明けられた答えに、キアロは歓喜を覚える。


(今、オレと愛し合いたいと言ったか? 言ってくれたか?)


 愛おしさが溢れて、爆発してしまいそうだった。


 閉じ込められて泣いていたのは、その返事が出来ないと思ったからだろうか。


「愛している、ヴィオラ。オレの運命の番。絶対に幸せにする。伴侶として、オレと帰ろう」


 ちゅっと、もう一度ヴィオラの額に口付けを落とすキアロは、愛を込めた。


「ヴィオラ! 助けてくれないか?」


 そこで悪足掻きをするのは、家を取り潰されたくないダイナース伯爵。

 ヴィオラは怯えて、キアロにしがみついた。


「今すぐ一文無しで家を追い出されたくなければ、黙ることだな」


 キアロは厳しく釘を刺す。

 そうすれば黙り込むしかなくなるが、もう一人、悪足掻きをする人物がいた。


「なんでヴィオラなの!? あたくしの方が絶対相応しいのに!!」


 マゼンタが金切り声を上げるものだから、不愉快そうにキアロは顔を歪める。


「ヴィオラは鈍くさいし、女としての魅力もないし、可愛げもないですよ! 愛されるべきはあたくしなのよ!!」


 キアロの殺意が沸々と沸き上がるが、大事なヴィオラを抱えているので、やはり我慢した。



「ヴィオラの全てが、オレは愛おしい。お前の魅力など欠片も感じない。醜いぞ」


「なっ……!」



 それだけをハッキリと言い放つ。

 姉妹格差で優遇されてきたマゼンタは、ヴィオラより優れていると信じて疑わなかった。だが、キアロにハッキリと真実を告げられて、ショックを受けたのだった。

 これ以上喋られてこじれては困ると、ダイナース伯爵は自分の娘の口を塞いだ。


「……ありがとうございます、キアロ様」


 小さな声でお礼を伝えるヴィオラに、キアロは微笑みを返す。


 そうして、キアロは宿泊している屋敷に運命の番であるヴィオラを連れ帰った。



 キアロの運命の番として、丁重なもてなしを受けて、あれこれ手入れをされては着飾られるヴィオラ。

 贈ったドレスも、贈ったアクセサリーも、身に着けてもらえて、キアロは幸せそうにヴィオラを見つめた。



 ダイナース伯爵家は、キアロの伝手を利用して、あらゆる取り引きを打ち止めさせ、様々な事業を廃業に追い込んだ。あちらこちらに手を回して、資金調達も阻止。ダイナース伯爵家は、まともな生活も維持出来ないことはもちろん、貴族の生活など到底無理だった。結局、ダイナース伯爵家は爵位を返上するまでに追い込まれたのだ。



 一方、国に帰ったキアロとヴィオラは、平穏な日々を過ごしていた。

 鬼の運命の番のため、鬼と人間の命を繋ぐ儀式に向けて準備をしていた。


 それまで、ヴィオラを休ませつつ、目一杯に甘やかすキアロ。


 毎日貢物は絶えず、新しいドレスやアクセサリーで着飾らせる。


 磨きに磨かれて、荒れていた肌はもうツヤツヤ。顔色もよくなり、頬もふっくらしている。

 まだまだ掴むと折れそうなほど細い手首をしているものの、よく食べてよく寝ている生活をして健康的だ。


 みるみるうちに、どんどん綺麗になっていく伴侶に、キアロは日に日に愛おしい気持ちを膨れ上がらせる。


「愛しい愛しいヴィオラ。愛している」


 毎日、愛の言葉も絶やさない。


「私も、キアロ様を愛しております」


 頬をほんのり赤らめて、ヴィオラは微笑む。花も恥じらう微笑みに、キアロは見惚れてしまう。


「キアロ様が私を救ってくださったから、私はもうすでに幸せです」

「いいや、オレが幸せにしたかったからだ。どうしても君が冷遇されているのを許せなかったから」

「ええ、それで救ってくださりました。キアロ様のおかげでです」

「ヴィオラが幸せなら、オレも幸せなんだ」

「私は幸せです。キアロ様と一緒ならば」

「添い遂げよう、未来永劫。愛しているよ、ヴィオラ」

「愛しております、キアロ様」


 うっとりと見つめたキアロは、そっとヴィオラの髪を耳にかけては、顔を近付けた。

 二人の唇は、優しく重なった。






ハッピーエンド



初の『執筆配信』で楽しくお喋りしながら、四回目で延長しつつなんとか仕上げました!

お題『吸血鬼の運命の番』でした!

激重感情を込めて! と言いつつ書いたのですが、伝わりましたか? ヒーロー、キアロの激重感情。

冷遇された運命の番を救出してハッピーエンド!


『執筆配信』に付き合ってくださった方々も、こちら読んでくださった方もありがとうございます!


よかったら、いいねのアクションボタンを押したり、ポイントを入れたり、ブックマークをしたりしてくださると励みになります!


今回のお題は『執筆配信』の第一回(https://www.youtube.com/live/1xdJeask9GQ?si=8dbMvc7Lngv0pLKG)〜第四回目(https://www.youtube.com/live/n_w8haOK5l8?si=U3mSNkMVfPmWTbYo)でした!


次のお題は以前募集していただいたリクエストから書く予定ですよ! よろしくお願いいたします!

その前にホラゲすると思います。バイオ7です。ビビリ猫を見守ってくださいね……。

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