影神
封印の神殿は静寂に包まれていた。崩れかけた石柱が並び、中央には黒い祭壇が鎮座している。影の勇者となったさとるは、その祭壇を前に立ち尽くしていた。
「これが影神が封印されている場所か……」
レオンや仲間たちも後ろで様子を見守っている。バルゼグラドから渡された影神の遺物――漆黒の指輪をはめたさとるは、まるで何かに導かれるように手を伸ばした。
「解放の時が来た。影の勇者よ、その力で影神の封印を解き放て」
低く響く声がどこからか聞こえた。指輪が淡い黒い光を放ち、祭壇がゆっくりと震え始める。封印が解かれるのを感じながら、さとるはごくりと息を呑んだ。
次の瞬間、神殿全体が闇の波動に包まれた。重々しい気配が広がり、封印が解けるにつれ、一対の赤い瞳が闇の中から現れた。
「……我が名は影神。長き封印より目覚めた」
影神の黒いオーラが広がる。その姿は人の形をしていたが、まるで影そのもののように揺らめいていた。しかし、影神の視線がレオンに向いた瞬間、雰囲気が一変した。
「光の勇者……! 貴様のような存在を、この場に留めるわけにはいかぬ!」
影神が一気に動き、闇の刃を放つ。レオンが咄嗟に剣を構えるも、間に合わない――
「やめろ!!」
さとるがレオンの前に飛び出し、影の力を解放する。二つの闇の波動がぶつかり合い、爆風が神殿を揺るがせた。
「影神! 落ち着け!」
さとるが叫ぶが、影神は止まらない。
「影の勇者よ、なぜ光の勇者を庇う? 光と影は相容れぬ存在! 貴様もまた、影の道を行くべきなのだ!」
「違う! 俺はレオンと共に戦ってきた! 光も影も、どちらも必要なんだ!」
影神は一瞬動きを止めた。しかし、納得してはいない。影神の力が完全に暴走する前に、さとるは自らの力を解放し、影神と対峙する。
「ならば……証明してみよ! 影の勇者として、我にその力を示せ!!」
影神の宣言とともに、封印の神殿での決戦が幕を開けた。
神殿の空気が張り詰める。
さとるは影の勇者としての新たな力を感じながら、目の前に立ちはだかる影神と対峙していた。
「影の勇者!影とは本来、光によって生み出されるもの。ならば、光の勇者に仕えるなど、道理が通らぬ!」
この時、さとる含め勇者一行は
「こいつ何言ってんだー?」
と感じた。
影神の声は重く、神殿の壁を震わせるほどだった。その言葉とともに、影神の周囲から黒い霧が広がり、まるで生き物のようにさとるへと襲いかかる。
「……理屈は分からんが、俺はレオンの影としてここまで来た。今さら関係を断ち切るつもりはない!」
さとるは影の力をまとい、影神の攻撃をかわしながら距離を詰める。彼の体はこれまで以上に軽く、速い。影の勇者として覚醒したことで、影の力を自在に操れるようになっていた。
「ならば、その力、試させてもらう!」
影神が手を掲げると、巨大な影の剣がその手に形作られた。それはまるで、闇を凝縮して刃にしたかのような黒い剣だった。
影神は
「行くぞ!」
と叫ぶ。
さとるもまた影の力を用いて影神に向かって駆け出した。
「暗黒剣!」
剣と剣が激突し、闇の波動が辺りに炸裂する。
影神の剣は重く、一撃ごとに神殿の床を抉るほどの威力だった。しかし、さとるはそれを紙一重で避けながら反撃を繰り出す。
「まだまだ……!」
(すごい……!)
勇者たちは計り知れないさとるの力に驚きを隠せなかった。
さとるは、影神の攻撃を受け流しながら、さとるは自身の影を操作し、影神の足元に絡みつかせた。その隙をついて、暗黒剣を影神の胴体へと斬りかかる。
「ぐっ……!」
影神がたじろぐ。しかし、その目はなおも鋭く、むしろさとるの力を試すように光っていた。
「やはり、影の勇者としての力、確かに感じた。しかし、それだけで我を超えられると思うな!」
影神が手を振るうと、周囲の影が一気にうねりを上げ、さとるの周りを包み込んだ。まるで影そのものが彼を飲み込もうとしているかのようだった。
「これは……!」
さとるは影の檻に閉じ込められた。だが、彼の目には恐れはなかった。
「ならば、こっちも全力で行くぜ!」
影の勇者と影神の戦いは、ますます激しさを増していった……。