封印の神殿
光が収束し、視界が開けると、レオンたちは広大な神殿の中に立っていた。
黒曜石のように黒く輝く床。天井は見えないほど高く、壁には不気味な紋様が刻まれている。空気は静寂に包まれ、まるでこの場に存在すること自体が許されないような錯覚を覚えた。
その時だった。
突如、神殿の奥から圧倒的な魔力の波動が押し寄せた。それは嵐のように荒々しく、しかし底知れぬ威厳を持っている。
「来たか……試練を乗り越えし者よ」
低く、重厚な声が響き渡る。まるで大地そのものが語りかけてくるような声音。
巨大な影が神殿の奥から現れる。その正体は、一匹の 古龍 だった。
漆黒の鱗に覆われた巨体。瞳には深淵のごとき輝きを湛え、その翼は広げるだけで空間を支配するかのような威圧感を放っている。大地を踏みしめるたびに神殿が揺れ、呼吸一つで魔力の奔流が巻き起こる。
「我が名はバルゼグラド。影の神よりこの神殿を護る使命を賜ったもの……」
レオンは剣を握りしめながら、慎重に問いかけた。
「俺たちは影の神の遺物を求めてきた。」
「我は 影の継承者を試す者。資格なき者には、影の遺産を手にすることは許されぬ!」
バルゼグラドの翼が大きく広がると、周囲の空間が歪み始めた。
「来るぞ!」
次の瞬間、古龍の口から黒き炎が奔流となって吐き出された。
レオンたちは即座に散開する。レオンが跳躍しながら叫ぶ。
「ただの火じゃねえ!」
「はい、これは古代魔法 黒炎」
黒い炎が床を焼き、瞬く間に消え去る。しかし、その跡には影のごとき黒い痕が残り、なおも空間を蝕んでいた。
「影すら焼き尽くす炎……か。これは厄介だな」
レオンは剣を構え、古龍の次の動きを見据えた。
「試練だろうが何だろうが、俺たちは進むしかない。行くぞ!」
レオンたちは古龍バルゼグラドの前に立ち、戦闘の準備を整えた。
「この試練を乗り越えねば、先へは進めぬ……行くぞ!」
バルゼグラドが口を開き、灼熱の炎を吐き出した。その炎は影すら焼き尽くすとされる古代魔法の一撃だった。さとるの影が炎に飲み込まれ、一瞬にして焼かれたかのように見えた。
「さとる!」
レオンの叫びが響く。しかし、その炎が消えたとき、そこには焼き尽くされたはずの影が、まだ存在していた。
「……無事、なのか?」
さとるはゆっくりと姿を成し、そこに立っていた。
バルゼグラドの巨大な瞳が細められ、興味深げにレオンを見つめる。
「この我が見誤るとは……貴様、一体何者だ?」
レオンが叫んだ。
「さとる!姿が……人に戻ってるぞ!」
「やっとだ!やっと姿を現せた」
「このオーラこの感覚……もしや、影の勇者様でございますか!」
バルゼグラドが敬意を示しながら言った。
さとるはきょとん顔で、
「そうなのか?」
と尋ねた。
バルゼグラドは鋭い目を光らせ、
「でなければ、何者なのだ!」
「勇者レオンの影だ!」
さとるが自信満々に答えた。
その瞬間——
目の前に突如として光るステータス画面が表示された。
『実績「古代魔法黒炎に耐える」が解除されました。』
『影が実体化しました。』
『あなたは封印されし影の勇者になりました。』
「影の勇者⁉」
さとるは目を見開き、思わず叫んだ。
バルゼグラドは目を細め、深く頷く。
「やはり影の勇者でしたか。……ならば、これを受け取るがよい」
古龍が爪をゆっくりとかざすと、空間が歪み、漆黒の指輪が浮かび上がる。
指輪は黒曜石のように深い闇を宿しており、かすかに紫色の光が揺らめいている。
「影神の遺物……『虚影の指輪』。 影を操る者にのみ真価を発揮する。」
指輪はふわりと宙を舞い、さとるの手元へと引き寄せられた。
指にはめた瞬間、冷たい感覚が全身を駆け巡る。
「っ……!」
一瞬、意識が遠のく感覚。だがすぐに、自分の影が揺らぎ、新たな力が宿ったことを理解する。
「これが……影の勇者の力……?」
こうして影の遺物を手に入れたのだった―—