出会い
戦闘が終わり、勇者パーティーはアダマント・ベアの亡骸を確認しながら息を整えていた。重厚な甲殻は砕け散り、致命傷を負った魔獣はすでに動かない。
「はぁ……なんとかなったわね」
アイリスが額の汗を拭いながら呟く。
「リリア、負傷者は?」
レオンが尋ねると、リリアは仲間たちの状態を確認した。
「軽い傷はあるけど、戦闘に支障はないわ」
「そうか。なら、少し休んでから進もう」
レオンは剣を収め、周囲を警戒しながら腰を下ろした。
その足元に広がる影の中で、さとるはひとり思考を巡らせていた。
(やっぱり……俺はただの影じゃない)
先ほどの戦闘で、レオンの動きを僅かに補助できた感覚があった。意識を向けることで、彼の身体を一瞬だけ動かし、攻撃を回避させることができたのだ。
(これは偶然か? それとも……)
自分にどんな力があるのか。確かめるには、もっと試す必要がある。しかし、影のままでは言葉を発することもできない。どうすればいいのか。
その時——
「ん?」
レオンが何かに気づいたように顔を上げた。
「どうした?」
ガルムが警戒しながら問う。
「いや……今、誰かに呼ばれたような気がした」
レオンは周囲を見回す。しかし、この場には俺たちしかいない。
「気のせいじゃない?」
リリアが首を傾げる。
「……かもしれない」
レオンは違和感を抱えながらも、再び座り直した。
(もしかして、俺の声が届いたのか?)
さとるは驚いた。試しに、もう一度強く念じてみる。
(レオン……聞こえるか?)
レオンはぴくりと肩を揺らし、周囲を見回した。
「……誰か、俺の名前を呼んだか?」
「呼んでないわよ」
「やっぱり、気のせいか……?」
確信した。
(やっぱり、レオンにだけは俺の意識が届くんだ!)
影のままでも、彼にだけは声が届く可能性がある。しかし、まだ完全に会話ができるわけではない。何か方法を探さなければ。
その時、ダンジョンの奥から冷たい風が吹き抜けた。
「……そろそろ行こう」
レオンが立ち上がる。
「そうね。ここで立ち止まっているわけにはいかないもの」
「次がボスのようね」
アイリスが杖を握り直し、先へと目を向ける。
パーティーは再び慎重に歩みを進める。影の中で、さとるは新たな決意を固めた。
(俺は、このまま影で終わるつもりはない。必ず、自分の力を証明してみせる)
その時、突如としてダンジョンの天井が揺れ、大きな咆哮が響き渡った。
「来るぞ!」
ガルムが叫ぶと同時に、巨大な魔獣——"暗黒の暴君バジリスク"が姿を現した。
説明しよう。パジリスクとはモグラ型の魔物である。目から出る石化光線により当たった部分は石化し、また、状態異常—―鈍化のデバフがついてしまう厄介な敵だ。
禍々しい瞳が光り、全身を覆う漆黒の鱗が鈍く輝いている。
「くっ……パジリスクがボスだと!?」
レオンが歯を食いしばる。その瞬間、バジリスクの瞳が赤く光り、パーティーの動きが鈍くなる。
「しまった……身体が……!」
強力な石化の視線により、レオンたちの動きが封じられていく。
(ヤバい……! でも、俺は……?)
さとるは影の中で動けることに気づいた。
(影の中なら自由に移動できる……!)
試しに意識を集中すると、影の中をすり抜けるように移動できた。
(……これなら!)
さとるは影を通じてレオンの背後へと移動し、影を操作して彼の身体を揺さぶった。
「——ッ!?」
レオンは驚きつつも、直感的に身体を反らし、石化の視線を回避した。
「な、なんとか動けた……!?」
「おい!みんな無事か?!」
「はい。何とか」
バジリスクが再びレオンに攻撃しようとするが、その瞬間、さとるは影を伸ばし、レオンの足を僅かに引っ張ることで彼の動きを促した。
「今だ!」
レオンは気合いと共に剣を振るい、バジリスクの足元を斬りつける。
(やった……! 影の中なら、俺は間接的にだけど戦える!)
影の中にいながらも、自分の存在がレオンを支えていることを実感するさとる。
バジリスクが致命傷を受け、最後の咆哮を上げながら崩れ落ちた。
戦いが終わり、レオンは息を整えながら呟いた。
「……今の戦い、何かが俺を動かしたような気がする。俺のすぐそばにいて、俺と連携できるもの……」
彼は自分の影をじっと見つめた。
「まさか……影の中に何かいるのか?」
(ご名答!)
しかし、すぐに首を振る。
「……いや、そんなはずはない。気のせいだろう」
レオンはそう結論づけ、剣を収めた。
(惜しい……)
さとるは静かに影の中で息を潜めた。
ボスを倒し、レオンたちはダンジョンを後にし、街へと戻った。
依頼の達成報告をするために冒険者ギルドへ向かい、受付で討伐の証拠を提出する。
「お疲れ様でした。依頼は確かに達成ですね」
受付嬢が笑顔で報酬を手渡した。
「はぁ……やっと終わったな」
レオンは軽く伸びをしながら、疲れた様子でため息をつく。
「私は宿に戻るわ。少し休みたいし」
アイリスが言うと、リリアとガルムも同意する。
「俺も先に宿へ戻る。今日はゆっくり休みたい」
レオンもそう言い残し、ギルドを後にした。
宿へ戻ったレオンは、部屋に入るなりベッドへ倒れ込む。
疲労で意識が落ちかけたその時——
(レオン)
はっきりとした声が頭に響いた。
「!? 誰だ!」
飛び起き、辺りを見回すが、部屋には誰もいない。
(さとると言います。影の中にいます)
「……っ!?」
レオンの表情が驚愕に変わる。
「……影の……中にいるのか?」
(ああ。やっとちゃんと話せたな)
レオンは信じられないという顔で、自分の足元の影を見つめる。
「……まさか、本当に影が……?」
(説明するよ。俺はお前の影の中にいる。今までもお前を助けてきたんだ)
さとるは、自分が影として存在していること、影の中を自由に移動できること、そしてレオンにしか声を届けられないことを話した。
「……そんなことが……信じがたいが、実際に声が聞こえてるんだもんな……」
(これからもお前を助ける。だから、俺のことを信じてくれ)
レオンはしばらく沈黙した後、静かに頷いた。
「……分かった。信じるよ、さとる。で、さとるは何ができるんだ?」
(レオンの移動速度上昇、影移動―—職業盗賊のユニークスキル隠密みたいなもの、あいて影を乗っ取り動きを変える、とかかな)
「すごいじゃないか!?じゃあ……これからもよろしくな!さとる」
(ああ、もちろんだ)
こうして、レオンはさとるの存在を明確に認識し、影の中の相棒との絆を深めていくのだった。




