表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

影の力①

 勇者パーティーはダンジョンの奥へと進んでいた。壁には古い魔法陣が刻まれ、不気味な雰囲気が漂っている。


「さて、この先どうする?」

 ガルムが大剣を肩に担ぎながら言った。


「魔物の気配が濃くなってきたわね。おそらく強敵が待ち構えているわ」

 アイリスが周囲の魔力を探るように目を閉じる。


「なら、俺が先行して囮になろうか?」

 レオンが提案するが、リリアはすぐに反対する。


「ダメよ!あなたが負傷したら戦えなくなるでしょ?まずは遠距離攻撃で様子を見るのがいいわ」


「確かにな。リリアの弓とアイリスの魔法で牽制しながら、敵の動きを見るか」

 ガルムが頷く。


「決まりね。レオンはその隙に懐へ飛び込む、でいい?」


「わかった。それで行こう」


(おお……ちゃんと作戦を練ってるんだな)


 そして、彼らは武器を構え、慎重に前へと進んでいく――。


「この先、何かいる……」


 アイリスが杖を握りしめながら警戒を促す。レオンを含むパーティー全員が武器を構えた。


(俺は何もできないのか……)


 さとるは影のまま、勇者レオンの足元に張り付いていた。自分の体を持たない感覚には、まだ慣れることができない。


(俺は……本当にただの影なのか?)


 意識はある。しかし、手足は動かず、声も出せない。レオンが動けば、それに合わせて自分も地面を滑るように移動するだけだった。


(何か、何かできるはずだ……!)


 必死に指を動かそうとするが、まるで感覚がない。影の中に閉じ込められたような、もどかしい気持ちが募る。


 周囲では勇者パーティーが慎重に進んでいた。レオンの影として存在する以上、自分も彼らと一緒に冒険しているはずなのに、何もできない。


(考えろ……影でもできることがあるはずだ……!)


 しかし、どんなに頭をひねっても、思いつくのは「動けない」「話せない」「触れられない」という事実ばかり。焦りと苛立ちが胸を締めつける。


(まさか……本当にただの影なのか?いや、それは違うはずだ……!)


 何かが引っかかる。転生したということは、何かしらの意味があるはずだ。ただの影として終わるはずがない。


(俺は……ただの影じゃない……はずだ……!)


 その時、ダンジョンの奥から低いうなり声が響いた。重々しい足音が洞窟内に反響し、地面がわずかに揺れる。パーティーの面々が警戒を強める中、レオンが剣を構えた。


「気をつけろ……この気配、ただの魔物じゃない」


 暗闇の中から現れたのは、全身を黒い甲殻で覆われた巨大な魔獣だった。四足歩行のそれは、まるで鎧をまとった獣のようで、赤く光る瞳がこちらを鋭く睨んでいる。


「……っ、アイリス、あいつの正体わかる?」


 リリアが弓を引き絞りながら尋ねると、アイリスは急いで魔導書を開き、ページをめくった。


「これは……“アダマント・ベア”! 並の攻撃じゃ傷一つつけられない、厄介な敵よ!」


 その名を聞いた途端、パーティーの空気が一気に張り詰める。アダマント・ベア――魔法も物理攻撃も効きにくい強固な防御力を誇る魔獣で、遭遇すれば最悪、全滅の可能性すらある危険な相手だった。



 レオンは剣を握りしめながら、冷静に戦況を見極める。


「硬いだけなら、どこかに弱点があるはずだ……!」


 リリアはすかさず矢を放つが、アダマント・ベアの分厚い装甲に弾かれてしまった。金属がぶつかるような鋭い音が響く。


「くっ……やっぱり矢じゃ無理か」


 アイリスも魔法を詠唱し、火球を放つ。しかし、それすらも表面の硬い甲殻に阻まれ、まるで効いている様子がない。


「……どうする? このままじゃジリ貧だぞ」


 ガルムが身構えながら問いかける。アダマント・ベアはじりじりと距離を詰め、鋭い爪を振りかざした。その一撃が地面をえぐり、土煙が舞い上がる。


 レオンは後ろに跳んで回避しながら、息を飲んだ。


「正面からの攻撃は通らない……なら、隙をつくしかない!」


 その時、さとるは影のまま、じっとアダマント・ベアの体を観察していた。そして、その巨体の下、喉元から腹部にかけての部分だけが、ほかよりも装甲が薄いことに気づく。


(ここだ……!でも声が出ないんだ。)


「レオン、あいつの腹部を狙え! 装甲が薄い!」


 レオンはすぐに頷いた。


(ガルムナイス!)


「なるほど……よし、みんな、連携するぞ!」


 パーティーは戦術を切り替え、一斉に動き始めた。


 アイリスが急いで詠唱を始める。しかし、シャドウ・ビーストはその隙を狙い、レオンへと襲いかかった。


(レオン、避けろ!!)


 さとるは叫びたかった。しかし声は出せない。だがその瞬間、彼の意識がレオンの動きに溶け込むような感覚がした。


「……!?」


 レオンの動きが、一瞬だけ速くなった。まるで誰かが彼の身体を引っ張ったかのように。結果、シャドウ・ビーストの攻撃はかすり、レオンはすぐに体勢を立て直した。


(今の……俺がやったのか?)


 さとるは確信した。影としてただ存在しているのではなく、何かしらの影の特性を活かせる可能性がある。


 戦闘が続く中、さとるは試しにレオンの動きに意識を集中してみた。すると、ほんのわずかだが、彼の動きを操ることができるような感覚があった。直接動かすわけではなく、ほんの少し補助する程度。しかし、それだけでも戦況を変えられるかもしれない。


「レオン、今よ!」


 アイリスの魔法が完成し、シャドウ・ビーストへと放たれた。光の魔法が闇の魔物を貫き、断末魔の咆哮とともに消え去る。


 戦闘が終わり、レオンは息を整えながら呟いた。


「……なんか、今日は動きやすかったな」


 さとるは微かに笑った。


(俺にも……できることがあるかもしれない)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ