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勇者パーティー

依頼を達成したのか、勇者パーティは冒険者ギルドへ向かっていた。昼過ぎのギルド内は活気にあふれ、酒を片手に談笑する冒険者、受付嬢に依頼の確認を求める者などでごった返している。

「お疲れ様です。依頼達成の報告をお願いします」

 勇者――レオンが受付嬢に声をかける。レオンは銀髪に蒼い瞳を持つ青年で、背中には聖剣が輝いていた。

「レオン様、ご苦労様です。討伐対象の証拠となる魔物の核を確認しますね……」

受付嬢が魔物の核を確認し、処理を進める。

「はい確認が取れました!こちら、報奨金です。なかなか討伐されない分上乗せしました。またおねがいしますね!」

「ああ、ありがとう。あと、ミスリルスライムが出るところにシャドー・ウルフがいた。念のため伝えておいた」

「本当ですか?ありがとうございます。ギルドマスターにも伝えておきます」

(ダンジョン、ギルド、ギルドマスター。めっちゃ異世界だ!)

 俺はこの時、影であることをすっかり忘れていた。


 その夜、酒場の喧騒の中で勇者パーティは食事をしていた。

「かんぱーい!」

 ジョッキを掲げ、酒を飲み交わす。酒場の中は、他の冒険者たちの笑い声や、酔っ払いの陽気な歌声で賑わっていた。

「いやー、今日の依頼も大変だったねー」

「まさかシャドー・ウルフまで出てくるとはな」

「ええ、ミスリルスライムの討伐だったのにね。でもこれで、新しい装備が整えられるわ!」

 皆が談笑する中、レオンはジョッキを傾けながら、ふと呟いた。

「そういえば、今日の戦い、戦いやすくなかったか?」

「そういえばそうかも」

「ステータスオープン……ええ!?レベルが30も上がってる」

「ほんとだ!」

(俺が転生してきたからか……?俺の存在に気づいてくれ!)

「でもなぜだ?」

「そんなこといちいち気にすんなって。悪いことじゃないからいいだろ?」

「それもそうだな」

(きづいてくれないかぁ……)

 さとるは、一刻も早く気付いてほしかった。

 やがて、食事を終えた勇者パーティはそれぞれの部屋へと戻っていく。


 その日の深夜、レオンの部屋。

 ロウソクの明かりが揺れ、外からは時折、遠くの酒場の喧騒がかすかに聞こえてくる。レオンはすでに眠りについていた。

 さとるは、自分の状況と状態を整理することにした。

——俺は現世で車にはねられ死亡。気づいたら勇者の影。勇者パーティーは、勇者レオン、タンク兼大剣使いガルム、賢者アイリス、ヒーラー兼弓使いリリア、の四人

状態は……

(動けないか? ……ダメだ、ピクリともできない) (文字は? 指を動かしてみる……ダメか) (声は……? 出ないな……)

 何を試しても、影である自分には何もできなかった。

(やっぱり何もできないか。このままじゃ、俺は一生ただの影のままなのか?)

 焦りが募る。しかし、どうすることもできないまま、夜が更けていった。


 翌朝、勇者パーティは新たな依頼を受け、ダンジョンへと向かった。

「今回の依頼はダンジョン探索だ。魔物の討伐も含まれているから、気を引き締めろよ!」

 ガルムが気合を入れる。ダンジョンの入り口は、鬱蒼とした森の奥にあった。

「土属性の魔物が多いらしい。地震や地割れの攻撃に注意してね」

 アイリスの言葉に、パーティは頷く。

 ダンジョンに足を踏み入れると、ひんやりとした空気が漂っていた。そして、奥へ進んだその時――

「ぐおおおおおっ!!」

 突如としてテラントル—―土の甲殻で覆われた蜘蛛型の魔物が現れた。大地が揺れ、足元が割れる。

(ぐっ……!? 影の俺にとって、これは……ッ!!)

 影であるさとるにとって、地震や地割れの衝撃は激痛となる。影であるが故に、大地の揺れが直接響くのだ。

(やばい、これ……めちゃくちゃ痛い……!!)

 しかし、叫ぶこともできない。死ぬことのない苦痛。つらい……!

戦闘が始まり、勇者たちは魔物と激突する。

「アイリス、魔法を頼む!」

「了解! フレイムランス!」

 アイリスの炎の槍が魔物に当たる。しかし、甲殻が固くはじかれてしまった。

「効いてない!」

「なら、俺がぶち抜く!」

 ガルムが大剣を振るい、魔物の体を叩き割る。

「レオン! 今よ!」

「分かってる!」

 レオンが聖剣を構え、光を纏わせる。

「《ホーリー・スラッシュ》!」

 閃光が走り、魔物の核を正確に切り裂いた。轟音と共に、魔物は崩れ落ちる。

(す、すごい……これが勇者の力……)

 しかし、息をつく暇もなく、ダンジョンの奥からさらなる咆哮が響いた。

「やばいな、まだ終わりじゃねぇみたいだ」

「気を引き締めていきましょう!」

 勇者パーティは戦闘態勢を整え、ダンジョンの奥へと進んでいく。

(俺も、何かできれば……)

 さとるの中に、何かが芽生え始めていた――。

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