神位継承者
「さとる!」
レオンがさとるを閉じ込めた「影の檻」に向かって走り出した。
影の勇者となったさとるは、影神の力に押されながらも必死に抗っていた。しかし、影神の威圧は凄まじく、影の力を完全に支配されかけていた。
「ぐっ……! こいつ、マジで強い……!」
さとるは苦悶の表情を浮かべながらも、拳を握りしめた。その時、影神が低い声で告げた。
「影は光と相容れぬ。我は闇の摂理を司る者。光の勇者など……排除せねばならぬ!」
影神の手がレオンに向かって振り下ろされる。その瞬間、さとるの体が影の檻を破り、猛スピードで駆け出した。
「レオン、伏せろ!」
さとるの叫びとともに、彼の拳が影神の攻撃を受け止めた。黒い衝撃波が爆発し、大地を揺るがせる。
「影神! お前が影の存在を否定するなら、俺が証明してやる! 影は光を拒むものじゃない! 影があるからこそ、光は輝けるんだ!」
影神の目が驚きに見開かれた。
「戯れ言を……!」
「戯れ言かどうか、確かめてみろ!」
レオンが剣を構え、さとると並び立つ。影と光、二つの存在が共に影神に立ち向かう。
「光と影の連携……!」
影神は驚愕した。
さらにレオンとさとるの追撃。
「影切断」
「光輝斬」
「光影混合必殺!光闇刃」
レオンとさとるの攻撃を直に受け、その強さを身にしみてわかった
「どうだ! 影と光は共存できるんだよ!」
さとるの叫びが響き、影神の動きが止まる。そして、影神はゆっくりと笑った。
「……なるほど。光と影は、確かに共に在るものなのかもしれぬな。」
影神がさとるの前に降り立つ。
「わが眷属、影の勇者よ。我の力を継ぐに値する。汝に相応しきスキルを授けよう。」
さとるの体が光に包まれ、頭の中に声が響く。
『実績「影神を認めさせた者」を解除。新たなスキル「影神の継承」を獲得しました。称号「神位継承者」を獲得しました』
「影王の継承……?」
影神は静かに頷いた。
「汝の職業、『オールマスター』にふさわしき力の一つ。影の力を自在に操ることができる。存分に使いこなすがよい。」
さとるは拳を握りしめ、新たな力の鼓動を感じた。
「ありがとう、影神!あ、あと、光の勇者と、影の勇者、そして影神について教えてくれ」
「そうだな…………かつて、この世界には光と影、二柱の神があった。我は影を統べる神、そして対となるのが光の神だ。だが、光の神は己こそが正義と信じ、影を『邪悪』と断じたのだ。光と影は本来対等であるはずだった。だが、光の神は影を排し、世界を『完全なる光』に染めようとした。私はそれを阻止しようとし、結果……封印された。」
レオンが息をのむ。
「じゃあ……光の神が間違っていたってことか?」
「否。ただ、光も影も本来あるべき均衡を保つことこそが、この世界の理である。されど、人の世もまた光を崇め、影を恐れた。ゆえに我は封じられたのだ。」
「じゃあ、影神が光の勇者を攻撃するのって……」
「ああ、そういうことだ。」
「そういうことなら俺たちが光神を倒しこのレオンが新光神となる!そしてさとるが新影神になればこの世界は元に戻る。そういうことだろ!」
「はははははははは、なかなか面白いことを言ってくれる!わかった。光の勇者よ、協力しようではないか!だがな、一つ問題がある。今の神—―光神はこの世界のすべての民が信仰しているのだ」
「じゃあ、光神を敵にするってことはすべての人を敵にするということか」
レオンは覚悟を決めた。
「ああ、そういうことだ。そしてお前たちが新たなる神になったところで信仰してくれるかどうか……」
「まて、その話だと俺たちはどうなるんだよ」
ガルムが焦りながら言った。
「そうだな、お前たちも神になればよいのでは?」
影神が当たり前のように言った。
「神にって言われても……そう簡単になれるもんじゃないだろ。あと、何の神になれっていうんだよ」
「そう難しく考えるなよ。レオンやさとるだって神になる宣言をしたじゃないか」
さとるは「そんなこと言ってないよ。レオンが勝手に決めたんじゃん」と思っていた。
「でも私たちが神になるなんて……もともと私たちは魔王を倒すために勇者パーティーを組んだのよ」
アイリスが怪訝そうに言った。
「神になりたくないのか?」
「それは……」
「あと、魔王なんて序の口だがら今すぐ行ってこい」
「え!いますぐ!スライム狩りみたいに言わないでよ!」
「なに、魔王ごときでくたばってたら到底神になんて勝てないぞ。あと光神の眷属たちは低くても魔王以上の力は持っておる」
「えっ、そうなのか」
みんなが口をそろえて言う。
「当たり前だろ。魔王のほうが強かったら魔王教でもなんでも魔王が神になっておるだろ」
「それもそうか……じゃ、じゃあ影神もそれほど強いということなのか?」
「もちろんだ。さとるだってそのくらい強い」
「そうなのか!さとる」
「え、そうなの」
「『神位継承者』という称号を獲得しただろ?それは神になる資格があるものだけが得られるのだ。神になれる資格、すなわちその劣らない強さ、寛大さ、そして優しさ、それらが整っているのだ」
「神になれる資格……」
「安心せい、お前たちも光神を倒すときに得られるだろう。まあ、そういうことだから魔王城の前まで飛ばすぞい」
「え、いきなり!心の準備が……」
そうして、魔王城に行く(?)のだった―—。