表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Lovers Ⅱ 賢の章

作者: AI

「ふぃ~ 終わったな・・・」


泥だらけの 野球用のストッキングと 汗まみれのアンダーシャツ を脱ぎながら 


賢はちょっと ため息をついた。




夏の大会が終わって 受験を控える 三年生は 今日が最後の試合だった。


手足の長かったのを生かして ずっとファーストを守ってきた自分。


打率こそ 二割八分で 中学生のそこそこ打つ 3番4番からみると あまり振るわない成績だったが


塁に出れば 走って 点数を稼ぐタイプだった。



自分なりに精一杯やってきたという 自負もある。


「あ~あ 明日から 普通に俺らも 受験生だな・・・」


つい 賢がそう漏らすと



「ば~か 明日からじゃなくて だいぶ前から 他のやつらと同じように受験生だ。」


同じ三年の ヒデに そうたしなめられた。


「お前は余裕で推薦で受かってるからいいけどよ~ 


俺 第二志望もヤバイと こないだ担任に脅された。」


つい 愚痴ってしまう 賢に


「まだ 半年あるじゃないか 人間死ぬ気で頑張れば なんとかなるって。」


ぽんぽんと宥めるように英が 背中を叩いた。



「は~ お前や 真愛みたいな オツムがほしいぜ。」


「真愛ちゃんは どこ行くんだっけ?」


「あいつは たしか 結城北志望だったと思う。」


「え? もっとレベル上を目指すと思ってた・・・へえ じゃあ 余裕じゃないか。」


「俺からみたら 結城北でも十分 レベル高いけどね ふんっ


あいつは あまり遠くの高校は最初から行く気はなかったらしいんだ。」


「なんか 真愛ちゃんらしいな くすくす。」


こいつは 昔から 真愛のことになると 口元が緩む。



「あ~~俺は そうとう勉強しないと ものすごく遠い高校しか選べん・・・」


「賢は頑張れば 出来る奴だと思うけどな~」


「それ 俺の担任に言って。」



ははは 更衣室に 笑い声が響く。



「お疲れ~」



英と別れて 喉が渇いていた俺は 明るく洩れる照明に誘われるように コンビニに寄った。



(どれにすっかな~ 炭酸かな やっぱ・・・)



「待ちなさいっ!」



不意に 大きな切迫した声音が響く。



何事かと 店内にいた全員が 声がした方を見ると 


そこの店長らしき 丸い体躯の男が


まだ 見たところ 小学校低学年くらいの 男の子の腕を掴んで 睨みつけている。


「これ 今ポケットに入れたね?」


店長らしき男の声が 決め付けるように少年を追い詰めていくため  


小さな少年は 


青ざめ震えて いまにも泣き出しそうだ。  


(何も こんな 店内で 問い詰めなくてもいいのに・・・)


賢は見ていられなくて 店を出ようとしたが



「すみません その子 私の弟なんです。」


突然 一人の女の子が進み出て 頭を下げた。


ふわっと サラサラの長い髪が 少女の背中をすべる。




「え? なんだって・・・ほ 本当に?」


店長はうろたえ気味に 少女を見る。


「はい さっき このプリペイドカードのムツコカードで お金払わなくても買えるんだよと教えたのを勘違いしたのだと思います。 


私の説明不足なんです。 申し訳ありませんでした。」


少女が 少年のポケットから カードを取り出したように 見せたが


賢は後ろから 見て知ったのだが それは 少女のポケットから出現したもので


それをいかにも少年のポケットから だしたように見せかけただけだった・・・



「な なんだ それなら ちゃんと レジで清算してもらわないと・・・」


「そうですよね さあ お前も謝りなさい。」


少女が再び 少年の頭を抑えながら 一緒に頭を下げる。



「・・・ご ごめんなさい。」


振り絞るようにやっと少年が謝罪する。


「こ 今度から 気をつけてくださいね・・・」


店長は それで引き下がる気になったようで そう一言付け加えた。


少女はレジで カードをかざし 少年にガムらしきものを渡し


「先に帰ってなさい。お姉ちゃんはまだ 買い物するから。」


と頭を撫でた。


「・・・う うん。」


少年はコクリとうなずくと

 

後ろを振り返り 振り返り


店を出て行った。



周囲の人々は 事が一件落着したのを見て取ると 一様に興味をなくした様に 買い物や 本の立ち読みなどを再開した。



賢は この少女のことが気になって 飲み物を買うのも忘れて ちらちら 横目で見る。



(結構 綺麗な人だな・・・ この制服 結城北かな?)



少女は 雑誌をパラパラめくり しばらくすると 一冊をレジにもって行って清算し 


「本当にさきほどはすみません ありがとうございました。」


と再びお詫びをいって 店を出て行った。



賢も慌てて 後を追う。


信号を渡ったところで 少女に近寄るひとつの影が現れる。



(あ さっきの 小学生・・・)


「おねいちゃん・・・」


(ん?やっぱり 弟というのは 本当だったのか?)



「あれ まだ いたの?」


「うん さっきは ありがとうございました・・・これ ぼくお金ないから おねいちゃん もらってください。」


「それは あんたのだよ。いいから もう暗くなってきたよ 早く帰りな。」


「でも・・・ ぼくのお姉ちゃんのふりしてくれて かわりにそのカードで払ってくれたんでしょ?」


「わかってるんなら いいんだよ。 そのガム見たら もう絶対 だまって お店のもの持ってきちゃだめなんだって 忘れないでしょ? 


ガムみたら お姉ちゃんのこと 思い出してくれたら いいよ。」



「うっ うっ ほんとうにごめんなさい。」


「泣くな~ ほら このティッシュもあげるよ。 さあ 帰りな。 忘れんなよ。」


少女は 少年にティッシュを押し付けると 


さっと踵を返して 立ち去った。



(カッコええ・・・)


踵を返した際の 少女の横顔は きりりとしていて とても美しかった。


賢も 少年も 少女の後姿に しばらく見とれて 動けなかった・・・


「真愛 お前 結城北行くんだろ?」


野球部の練習に出ることが無くなって 早い時間に帰れるようになった 帰り道


前をとろとろと歩いている 真愛を見かけた。



ポンと背後から肩を叩いて 声をかけたので


飛び上がるように真愛は驚いて振り向く。



「賢・・・もう びっくりさせないでよ。 結城北だよ 私。賢はどうするの?」


小さい 真愛は俺を見上げると 長いまつげがパサパサいって

 

クリクリの目が好奇心いっぱいに見開かれる。



(くすっ ももんがとか ハムスターとか そっち系だな~ 真愛は。)



「俺も 結城北受けることにした。」


「賢も!? だ 大丈夫?」


驚きながらも 心配げに仰ぎ見る。


「大丈夫じゃない 全然・・・ だから お前に頼みたいんだっ!」



「頼みたいって 何を?」


「俺を 結城北にいける様 勉強を教えてくれ! 頼むっ」



深々~~と 頭を下げると



「け 賢 恥ずかしいから こんな道路の真ん中で そんなことしないでよ・・・


でも どうして 結城北にすることにしたの?」



真愛は顔を真っ赤にして 俺の体を起こす。


「好きな人が出来たんだ・・・」


「・・・え?」


「ひとつ先輩なんだけど どうしてもその人と同じ高校行きたい!


おれ 今偏差値 55なんだけど・・・ どう思う?」


「ウ・・・ かなり 厳しいとは思うけど・・・ 


どうしてもって 言うんなら・・・」


躊躇いがちに 真愛がそう言ったのを聞き逃さずに 俺はたたみかけるように


「じゃ じゃあ 了解って事だな? 良かった~。」


と 決め付けてしまった。


「で でも 私なんか 上手に教えること出来ないかもしれないよ。」


真愛は あわてて 言ったが こいつの頭の良さは昔からわかってる。


「心配するな 俺は お前を信じてるから。」


ぽんぽんと 真愛の頭に手をやると 


「・・・わかったよ。」


と 首を竦めるようにうなずいた。



「真愛!」



ダメ元で頼んでみたのだが やっぱり こいつはいい奴だ。


「そのかわり きびしいよ~ 私。」


キッと 見上げる真愛の瞳が なんとなく 赤かったのだが 俺は嬉しくて特に気にしていなかった。



「よおっしゃ~~ 絶対 受かってやるっ そして もう一度 あの人に会うんだ。」


こぶしを振り上げて 気合を入れた。



「ちょ ちょっと 賢・・・」


「なんだ? 前言撤回ってのは 無しだぞ。」


「そうじゃなくてさ・・・ 相手の名前知ってるの?」


「知らないよ。」


「えええっ?!」


真愛は 驚いて 目も口も真ん丸くしている。


「でも 大丈夫 しっかり 俺のこの目に焼きついているから 結城北に行けば すぐわかると思う。」


「そ そうなのかな・・・?」


真愛は 首を傾げているが 俺は確信があった。


あんな綺麗でスラッとしてて 威勢のいい女の子は二人といない。


きっと また逢える!!




その日から さっそく 真愛との受験勉強が始まった。


「真愛 今のわかんね もう一回 説明して。」


「ごめん 違う 言い方するね。 つまり賢の打席数が12だとするでしょ? そしてヒットを出した数が

・・・」


「おおっ 真愛 それなら わかるぞ つまり 打率の出し方と同じにすればいいんだな?」


「うん そうそう! 正~解! ぐりぐり お花丸~ぅ♪」


「なんだよ それ ガキくせっ」


「あ せっかく サービスで書いてあげてんのにぃ そんなこと言うなら 旗もつけちゃうよ 笑」


「おう そこまでしないで はずぃ! 笑」


真愛は 数学のガリ野より よっぽど 教え方がうまくて 

わからないところも いろんな例えを駆使して 



一生懸命教えてくれた。



俺は 日に日に 勉強する楽しさを覚えて 真愛特製のテストにつけて貰える花丸も 少しずつ割合が増えていった。




「賢 お前 この頃どうしたんだ?」


ある日 担任が 眉間に皺を寄せて 俺を呼び止めた。



「どうしたんだって・・・ 別に 受験勉強 頑張ってますけど?」



先月は この担任に 「賢 おまえ 第一志望と第二志望 考えなおせ こりゃ 全然無理だな。」 と言われていた。



「数学の狩野先生がな・・・ 賢が小テストで100点とった!!って 狂喜してたぞ。」


「え 一時間目のテスト結果ですか? まじでっ!?」


信じられない 俺 普通のテストはもちろん 小テストでも100点なんて 取ったことなかった。



「本当だよ お前 頭は大丈夫か?」


「や やだな~ 俺だって やれば出来るんすよ。」


「だな その調子でガンバレ。」


この人から ガンバレと言われるなんて・・・


俺のことなんて 野球馬鹿と思って 鼻もひっかけないタイプだと思ってたのに。


嬉しくて 嬉しくて 


猛ダッシュで 真愛の教室をたずね


「ま~~~な~~!」


ぶんぶん手を振った。


「ど どうしたの 賢?」


真愛は ちょっとはずかしそうに 頬を赤くして 近寄ってくる。


「真愛 サンキュ~~~ おまえのおかげだ!」


真愛のやわっやわの小さな手をとり きゅっと両手で握る。


「え? な なあに?」


俺は真愛の耳にそっと 唇を寄せ 


(数学の小テスト 100点だった。)


と 囁いた。



「え~~! すごいっ 良かったね 賢。」


真愛は こぼれるような笑顔を見せて 一緒に喜んでくれた。



「ああ 本当にうれしいよ ありがとう 真愛。」


こいつの笑顔を 見ていたら さっきよりも もっと嬉しくなってきた。



だが 勉強は数学だけじゃない



俺の苦手とするのは 英語 文法も何もちっとも頭に入らない。



「賢 覚えようとするより ただ聞けばいいやって 思ってみて。」


覚えの悪い俺に 愛想をつかさず 付き合ってくれたのは 真愛がはじめてだった。



今まで 俺は たいして積極的に勉強することもなく 好きな野球ばかりに明け暮れていた。


やる気のない俺の態度に どの科目の教師達も業を煮やして 叱責してはっぱをかけたが その内 諦めたのか多少遠くとも 入れる高校目指せという 姿勢でいたと思う。


「賢 ここは過去形になるんだよ。」


今日も俺の狭苦しい部屋に来てくれて 勉強を教えてくれる真愛。



今日は シャワーを浴びてから来たのか なんとなく髪から いい香りが漂ってくる。


「賢 聞いてる?」


ちょっと唇を尖らせて 真愛が 俺を睨みつける。


「ん  あ ああ 聞いてるよ。」


ごくっ


な なんだよ 唇もリップ わざわざぬってきてんのか?



真愛のテラテラとひかった唇に 魅入られて 引き寄せられるようだ・・・



(い かん いかん・・・俺には目標があるんだ。)



「クスッ 今日はこのくらいにする? あんまり根詰めても入らないし。」


と 真愛が帰るそぶりを始めて 俺はあわてて その手を掴んだ。


「ごめんっ 悪いけど もうちょっと居て。」


「え・・・ う うん 賢が頑張れるんなら もう少しやろうか?」


浮かしかけた 腰をもう一度 落とす真愛。



(は~ 良かった・・・


ん?


なんだ 俺 そんなに英語好きだっけ? 


いや 真愛が 帰っちゃうので 焦ったのか? ・・・・・まさかな 笑


俺は あの人に再び巡り合うんだ。 そのために頑張ってるんじゃないかっ!)



彼女のことは色々調べてみたのだが なにせ 名前も知らなければ住所もなにもわからない。


ただ 制服とリボンの色から 結城北高校の1年生ということが わかっているだけ


こんな あいまいな情報しかないのだが あのコンビニでの印象が強烈で どうしても もう一度逢わずにはおけないと 思っていた。


「賢 ヒヤリングも大事だからさ ちょっと このCD聞いてみよう。」


真愛は カバンから持ってきた一枚のCDを取り出して


プレイヤーにセットした。


「これね 割りと聞き取りやすい発音で 英語教材によく使われているんだよ。」


流れてきた女性の綺麗な歌声は あまり音楽に興味のない俺でも聞き覚えのある曲だった。


「このクロストゥーユーって いう部分が 好きなんだ。 私。」


真愛は ひざを抱えて 目を瞑りながら 曲に聞き入っている。



ドクン・・・



男の俺の部屋で 無防備に 目を瞑る真愛


うなじが しろく輝いて 後れ毛も細くたよりない


最近すこし 丸みを帯びてきた 胸や 腰が 妙に俺を落ち着かなくさせた・・・



(真愛・・・)



そっと ちかづくと あまいリンスの香りが漂ってきて ますます俺の体は吸い寄せられる。



真愛の耳たぶに光る 産毛を確認したところで



「ほら ここ さっき例題に出てたのと同じ 文章だよね?」


急に真愛が しゃべりだしたので 


ドテ!!


一気に退いた俺は しりもちをついた。


「賢?! どうしたの 大丈夫?」


真愛は いつのまにか真横でしりもちをついてる俺を見て 驚いた。


「 あ いや う うん そうだな・・・さっきの文章かな?」


ごまかすことで必死で もちろん そんな 文章聞き分けられたはずはない。


「先生 俺 第一志望 変えます。」



期末テストの結果をみて 俺は職員室を訪ねた。


「おお 賢 おまえ 今回すごかったじゃないか この分だと 第一志望も変えなくても大丈夫かもしれないぞ。」



「いや 俺 結城北に志望したいんです。」


「な なにっ!? 気は確かか?!」


担任は 慌てて お茶をこぼした。



「はい しごく真面目です。 だから 第一志望だった あけぼの高校を第二志望にします。」



「ウ~~~ン そうか・・・ よし わかった やってみろ。 なんだか 最近のお前見てると やれそうな気がしてきたよ。」


「先生もそう思う?!」


「ああ 五教科だけを中間と比べてみるとだな・・・ほら なんと合計で72点もアップしてるんだ。」


「本当だ~ よっしゃああっ 俺ぜったい 受かって見せるぜ 先生!」


「ああ 楽しみにしてるぞ。」


「真愛 俺 なんか 本当に受かるような気がしてきたよ。」


「ははは 賢ったら 実は自信なかったりしてたんだ。」


今日は 真愛の部屋で 勉強をしている。


ひとり娘の真愛は (まあ俺も一人息子だけど・・・)


喫茶店をしているおじさんとおばさんの手伝いをよくしているのだが 


普段は 夜遅くまで母屋で 一人で居ることが多い。



俺と一緒に毎晩勉強することになってもう2ヶ月


金曜日や土曜日など 忙しいときは 


「ごめん賢 ちょっと洗い物だけ手伝ってくるわ。」


俺にテキストをいくつか置いて 店に向かう。


(真愛 忙しいのに いつも ごめん・・・な。)



いくら 余裕とはいえ ふつう 同じ受験生なのだから


俺の勉強を見る余裕など ないはずだ。


なのに 真愛の親もとくに 今までと変わってそぶりはなく


むしろ 俺を歓迎してくれているようだった。 


「お待たせ 賢。」


真愛がエプロンを外しながら戻ってきた。



トン



「おおっ プルプリプリンちゃん♪」


「お駄賃 お駄賃 いつもアルバイト代もらってないからね~」


「偉いな 真愛。」


「賢の方がえらいよ おばさん居ない時 ひとりで 洗濯でも ご飯でも作ってるんでしょ?」


「いや 俺 ひとりの時は適当だから。」


「うちはお店やってるし あまり家を空けることないから 私ひとりぼっちで何日も過ごすってしたことないな~ やっぱり偉いよ。


今 賢がいるから いいけどさ お店にいることわかってても 一人でいるの嫌だもん。

だから お店に出るの 好きなのかもしれない。」


案外 真愛は 寂しがりなのかもしれない。


もっと 今までも 夜たずねてやれば良かったか?


小学生低学年の頃までは 普通に行き来して あそんだり そのまま一緒の布団で眠ったりしたこともあったが 

だんだんと 遊ぶ仲間が変わって


縁遠くなってしまっていた・・・


今 こうして 一緒にいるのが 心地いい



「うん 賢 結構できてるよ 英語もだいぶ進んだね。」


実は中一の部分から おさらいをしていて 今 一学年三学期後半くらいの所をやっている。


「真愛のおかげだよ サンキュ。」


「私もまた賢と同じ学校だと うれしいな。 


賢の頑張り すごいよ。


こんなに賢が頑張れるほど 好きになった人って どんな 人なのかな・・・ 


会えるといいね。」



プリンを小さなスプーンで口に運びながら 真愛がそう言って微笑んだ。


ズキ・・・


なんで ここで 胸が痛くなるんだろう?


「あ ああ 俺 絶対 会って見せるよ。 真愛にもいい報告できるよう 頑張るからっ。」


「よし! 朗報をまつ。」


それから 中学2年の分はかなり手こずりながら 進んでいく


俺 2年の分になると こんなの習ったっけか? と頭を抱える事が多くなってきた。



「賢 大丈夫。  基本がわかっているから すぐ理解できるようになるよ。」


冬休みが近づくにつれ 少し焦る俺に対して 真愛はいっこうにあわてず 


ひとつずつ 俺の脳になじむよう 教えてくれる。


受験時期だから 真愛の友人達とも 学校でおしゃべりする程度で


放課後の行き来はお互いしてないらしい


俺も 野球部の仲間はもちろん 他の友人達も一様に塾などで 追い込みをかけているため 会わない


だから この時期 俺と真愛がこれほど 近くで 毎晩顔を突き合わせることになるなんて


今年の夏までは思っても見なかった・・・


塾などにいくお金がない俺んちでは 一人で焦りながらも 必死に勉強するしかないと 思っていた。



冬休みに入ってやっと 中学の三年生の一学期に差し掛かり ほっとすると同時に


後 真愛とこうして 勉強するのも わずかなのだという 思いがよぎり



それが なぜだか ひどく 残念で つまらなく



はたして 自分は勉強がもっとしたくて そう感じるのか


それとも・・・


「賢なら 大丈夫。


花丸いっぱいの実績を信じて ガンバレ!」


真愛がポンと俺の胸を拳骨で叩く。



「おう お前と同じ高校絶対 受かってみせるぜ。」


俺が真愛に教えて貰ったのは 本当の基礎で中学の1年から3年までをきっちりおさらいしただけだ。


有名塾でやるような 特別な問題とか 特殊な応用問題までは手が回らなかった。



結城北の試験会場では ひとつ置いて真愛が座り 


俺は それだけで すごく 落ち着いて取り組むことができて


二人で まだ勉強の続きをしているような 錯覚があった。



「賢 おつかれ  私 結構 楽しかったよ。」


「真愛・・・」



真愛に これでおしまいという雰囲気で 「楽しかったよ」と言われたのが なんだかショックで


すぐにお礼を言うことが出来なかった。



「発表 ・・・一緒に見に行こうぜ。」


「うん。」


俺が なんとなく元気がないと思ったのか


「大丈夫 賢なら 合格してるよ。 きっと 彼女にも会える。」


真愛が俺のほっぺをふにっとつまんだ。


「はにふんだよ~(何すんだよ~)」


しかえしに 真愛のわき腹をくすぐる。


「きゃっははは やめてよ 賢 はははッ」


ぐっ


気がつくと俺は真愛の体を思いっきり 抱きしめていて


「・・・ありがとう 真愛。」


と いまさらながらに礼を言った。


「・・・・・」


ほんの数秒だけだった 真愛を胸に抱きしめていられたのは


真愛は ぐっと 俺から逃れるように離れると


「私のしたことなんて・・・ 賢の努力だよ  


賢の願いが 叶うこと わたしも 祈っているから・・・」


そう言って 真愛は 背中を向け 俺を置いて 先に帰ってしまった。



置いてかれた・・・



小さい子供のように そんな 風に感じて


何 すねてんだ!? 俺 と 改めて 今までも 試験中までも 真愛に頼りきりだった自分の不甲斐なさにため息をつく。



それから 幾日も真愛に学校以外で 会うこともなく  


それぞれの友人達と 遊び歩いた。



卒業式の日は 俺の親と 真愛の両親は一緒に現れ


ひさしぶりに一緒に外で食事でもしようということになる。



「よおっ」


「うん」


あれほど 約半年間 毎晩顔を突き合わせていたのに  


少し 離れていただけで なんとなく 気恥ずかしかった。


「卒業おめでとう 真愛 賢。」


俺の母さんは もうハンカチで目頭を押さえている。


いい加減  式場でも 泣いていたのだから 勘弁してほしい・・・


「真愛ちゃん このおばかな 賢の勉強みてくれて・・・おばさん どんなに感謝しても足りないくらいよ・・・」


「そんな 私 賢に勉強教えたんじゃなくて 一緒におさらいしながら 受験勉強してたんですよ。」


真愛はあわてて 手を振ってそう言った。



「そうですよ 賢ちゃんが 毎晩来てくれてたから わたしら安心して 店に居られたし


逆に 受験勉強終わっちゃって このごろ 真愛は しょんぼりしてたから。」



真愛のおじさんがそんな風に言ったので 俺はびっくりして 真愛を見た。



「だ だって なんだか 急にすることが無くなって 時間を持て余しちゃうんだもの・・・」


と 真愛が説明するのへ


「へえ そうなんだ。」


クスクス 笑いながら おじさんが真愛をからかう。


「何? もう~~。」


顔を赤くして頬を膨らませる真愛。




真愛が俺にしてくれたことに対して  


おじさんにからかわれてるのを見た俺は居てもたってもいられず



「真愛は 本当に 一所懸命教えてくれたよね  テキストも手作りでさ 


俺の方が 焦って まだ 二年生のこんなところしか 進んでない・・・って パニくるのもさ


真愛が 大丈夫って 言ってくれたから なんとか 頑張っていけたんだ。


本当に 本当に ありがとう。」


俺は 心から頭を下げて お礼を言った。



「賢・・・頭上げてよ。」


真愛の手が肩にそっと乗せられる。



顔をあげると



「賢ちゃんの頑張り 真愛から聞いてたよ。 本当にふたりとも 今回は偉かったね。


一人っ子同士だけど 兄妹みたいに 仲良くしてくれて なんだか おばさんもうれしかったよ。」



真愛のおばさんも そう言って ハンカチを取り出していた。




合格発表の日



俺は 真愛と 一緒にでかけ 


受験生や その親たちが集る 掲示板に足を進める。



「恵 そっち もっと引っ張って。」


さすが 高校生と思える ガタイの大きい人の良さそうな男が 丸まった紙を広げながら 相方である女子生徒に向かって指示をしている。


「イシちゃん ちょっと 上げすぎだって この辺くらいの方がいいよ。」


その声にはっとして よく見ると


顔を覆っていた長い髪の毛が 風で巻き上げられて


うつくしい 彼女の容姿が 再び俺の目を釘付けにさせた。



「彼女だ・・・」


「え?」


真愛は なんのことか 最初わからなかったようだが 俺の視線の行方を見て



「あの人が・・・?」


「うん やっと会えた・・・」


俺は 合格を確認する前に 彼女との再会と その名前を知ることが出来た。




「おめでとう 賢。」


「真愛も おめでとう まあ 真愛の場合は当然だろうけどな・・・」


「それから こんなに 賢の憧れの人に会えるなんて 私も思わなかったよ。

今日は すごい日だね。」


「ああ びっくりした・・・」



恵さんは すぐ姿を消してしまって 合格発表の喧騒の中で 俺と真愛は 自分達の番号をたしかめると


吐き出されるように会場を後にした。



「これからも よろしくな。」


「うん こちらこそ。 賢 頑張ってね。」


「ン?・・・なにが」


「なにがって 嫌だな 恵さんに 告白しないの?」


真愛にそう言われて 本来の目的を今更ながらに 思い出し 


「もちろん・・・ そうするつもりだよ。 見てろよ~ ぜったい OK取らせるから。」


とおどけてみせた。


「ガンバレ。」


そう言った 真愛の笑顔が 


また 俺の胸を ズズッと 細いナイフで刺してくるようで


「あ ああ」と 言うことしかできなかった。



真愛と クラスは離れてしまったが 俺は時々あいつを眼で追っている。


売店でパンを買う真愛


移動教室で廊下をあるく真愛


でも 声を掛けようにも 何を話していいかわからない。



「やべっ 現国の教科書忘れた。」


「現国の田辺は うるさそうだぞ~ どっか借りてきたほうがいいじゃね?」


「そうだな・・・」



俺が 真っ先に 思い浮かべたのは 真愛だった。



真愛の教室にいくと 


真愛は クラスメイト達と おしゃべりをしていて こちらに気づかない。


「真 愛!」


思い切って 大声で呼んでみた。



真愛たちのおしゃべりが ぴたっと止まって みんなこっちを振り返る。


(うぅっ そんな 注目すんなよ・・・)


「どうしたの 賢?」


真愛は 立ち上がって 俺の方へ近づいてくる。


(結城北の制服 似合ってるじゃないか・・・)


上から下まで 見てたものだから


「賢?」


と真愛が目の前にくるまで 気づかなかった。



「あ 現国 わすれちった 貸してくんないか?」


「うん ちょっと、 待っててね。」


真愛が教科書を取りに行っている間 


真愛の友人達の 遠慮のない視線が 痛い・・・



「はい。」


「おう サンキュ!」


教科書を受け取ると すぐに 立ち去ってきた。


(ふぅ~~ やべ 汗かいちったじゃね~~か~)




「え~ この時 みどりが何を感じていたかですが・・・」


現国の授業中 真愛の 教科書を隅々まで見てみたが いたずら書きひとつなく アンダーラインも引いてない

綺麗な教科書だった。



これでテストをやらせれば 常に10番以内はいるのだから 


賢とは別の生物に違いない。



真愛 せっかくいっしょの学校なのに 俺に会いにも来ないのはどうしてなんだ?


なんとなく 鬱屈して つい 自分の教科書のようにいたずら書きしてしまう。


(ひげも 描いてやる~ とんと俺んちにも顔をださないから 罰だ。)


・・・いや 用事もないのに 来るわけないか。


教科書を返しによると


真愛は すぐに気がついて 出入り口まで来てくれる。


「これ サンキュ。」


「うん あ 賢 あのことどうなった?」


「ん ああ とりあえず サッカー部に入ろうかと思って。」


「サッカー部? なんで 野球じゃないの?」


「恵さん  サッカーのマネージャーなんだ。」


「・・・そうか サッカーかぁ 賢は何でもすぐ 出来ちゃうよね。」



(そうだった 真愛は 俺が恵さんに会うことが出来るようにと 半年間協力してくれてたんだ・・・


朗報をまつなんて 言ってくれたのに いつまでも ボーっとしてらんないよな?)



入部届けを持って サッカー部が練習している グランドに向かうと


「おらおら 遅いっ もっと まわり込め!」


とガタイの大きな男が 声を張り上げていた。


恵は まだ顔をだしてないのか 姿は見えなかった。


キョロキョロしていると


さきほどまで 大声を張り上げていた男が近寄ってくる。


「ほい 入部志願者?」


よく見ると あの恵さんと 合格発表の際 掲示板で作業をしていた男だった。


「はい 1年の須藤 賢です。」


「ふ~ん サッカー歴は?」


男は賢の体をじろじろ見ながら 聞いてくる。


「サッカーは未経験です。 5年間野球をやってました。」


「野球? どこ守ってた?」


「ファーストです。」


「100メートル何秒だ?」


「11秒8くらいは出せます。」


「ほう・・・で 彼女いんの?」


男がにやりと笑いながら 聞いてくる。


「いえ まだ・・・でも」


俺は一瞬とまどっていると


「イシちゃん 関係ないでしょ!」


と 彼女の声が



「メグ こいつ 入部希望者だから よろしく。 

じゃあ 賢 後でな あ 俺は 石毛 いちおう キャプテンしてっから。」


「よろしく お願いします。」




恵さんは トレーナーとハーフパンツ それにスニーカーというスタイルで 


長い髪はまとめて 後ろで括っている。


普段の制服姿とは別の 颯爽とした雰囲気だが 彼女に合っていると思った。


「須藤 賢くん・・・ 野球やってたのに どうして サッカーに?」


ちろりと 視線を上げた瞳が ゾクゾクするほど 綺麗で 俺は思わず 


「恵さんに 会いたかったからです!」


と 大声で口走ってしまった。


「ン・・・?」


グランドに戻りかけていた石毛キャプテンが 振り向く。


「・・・は? 私に会いにって・・・・ 何で?」


「俺 去年 偶然 恵さんが コンビニで 小学生の男の子が万引きしているのを庇った現場に立ち会ってるんです。」


「ああ あの時 ね・・・それだけで?」


恵は 少し驚きながら 入部届けと俺を見比べる。


「はい 俺 あの時の事 忘れられなくて 恵さんに会いたくて この高校に志望を変えたんです。」


「・・・信じらんない。」


「メグ すっげえ おもしろいじゃないか! よし 俺も応援するぞ 賢。」


ガバッと もう馴れ馴れしく 石毛が賢の肩を抱いた。


「イシちゃん ちょっと!」


恵が抗議するように キロっと石毛に視線を送る


賢に対して にらんでいるわけじゃないのだが すごい目力で ドキッとする。


「おお 怖っ いいじゃんか ちょっと見 かわいいし まあ 俺より劣るけど


背も高いし でも 俺よりか 3センチくらい低いか?


それに 馬鹿そうだし  それは俺 かなわねえ クスッ」


「・・・たしかに 馬鹿ですけどね。」


賢は むっとしながらも 自分でも そう思っているので 言い返せない。


「くすっ まあ 私 結構 厳しいから 幻滅すると思うけどね。


こっち来て 部室案内するから。」


と恵が歩きかけると キャプテンの石毛が


「メグ いたいけな少年が勇気ふりしぼって 告ッたんだぞ。


お前も ごまかさないで 態度決めろよ。」


と 言い出した。


びっくりした俺は 


「い いや 別に俺 そんなすぐに・・・」


と どうしたものかと 慌てている内に


「わかった。」


「え・・・?」


恵は 振り返り 


「いいよ 付き合っても 


その代わり 中途半端な気持ちでサッカーやってたら 即 退部してもらうから そのつもりでね。」


「それって 真面目にサッカーに取り組まないと 彼氏として不合格って事か? 

あいかわらず 意味わかんね~~。」


石毛が首をかしげながらも


「にしても 良かったな 賢。 俺の おかげだぞ!」


と ぐりぐり頬をすりよせてきた。


「ウ・・・あ ありがとうございます。」


(なんだか よく 展開についていけなかったが 俺は 晴れて 恵さんの彼氏にしてもらえたらしい・・・)



俺は 真っ先に 真愛に報告するため 


ひさしぶりに 隣に出向いた。


「賢・・・」


驚いて目を見開いた真愛。



「よおっ。」



「珍しいね 賢・・・入って 今 焼けたばかりのシフォンケーキ すこし貰ってきたんだ。」


「おお ラッキー!」


真愛の家に入るのは 3ヶ月ぶりだろうか


懐かしい 空気と 


真愛とこうして 同じテーブルを囲んでいる心地よさが


俺をほっとさせた。


「チョコシフォンだよ 紅茶でいい?」


「ああ。」



真愛の笑顔が 甘い香りをまとって俺を誘う・・・


「真愛・・・」


「キャ・・・け 賢?」


あれ・・・? また 俺 真愛を抱きしめちゃってる?



でも やわらかい感触が俺の腕を緩めさせない・・・


「俺 今日  サッカー部 入ったんだ。」


「・・・そうなんだ。」


「それから・・・ 恵さんと 付き合うことになった。」


「え?も もう 告白したの?」


驚いた真愛の体がビクッと震える。


「真愛のおかげだよ・・・ありがとう。」


ぎゅ~~


「・・・く 苦しいよ 賢。」


「ご ごめん。」


あわてて 体を離すと 真愛はにっこり笑って


「良かったね おめでとう。ケーキでお祝いしよ!」


真愛は 自分の事のように 喜んでくれて 


こいつによい結果を報告できたことで 俺もすこしホッと出来た。


それから 恵さんとは 


部活動の帰りが遅くなれば送ったり


土日には 川沿いのジョギングを自転車で付き合ってもらったり と


一応 本当に彼氏と彼女という関係を築き始めた。


いっこ 年上な事以上に 彼女は大人で


反面 とても無邪気なところがあった。


まず 彼女はその見た目に似合わず 大食いで


サッカーの試合などで持ってくる おにぎりは 


男の俺でも どうかな?と首をかしげるほど大きな塊を


3つも平らげる。


ジョギングに付き合ってくれるときもそうだが メガホンを持って サッカー部員達をけしかける際の掛け声は


「おらおら~~!もっとピッチ上げて!それでもチ●ポついてんのか!」


と 周りが振り向くほど 威勢がいい。


「賢 それ 私が選んだカツサンドじゃないの! よこしなさいよ。」


「いいじゃないですか 恵さん もう 5つも食べてるでしょ? 


さっき 俺の 卵サンド食べたくせに・・・」


「だって 賢がおいしそうに食べてるからさ。 クスクス」


「メグ お前 いいかげんにしろよ。 マネージャーが一番沢山食べるって どういうことだよ。」


石毛先輩が 苦笑して 


「ほら お前はこれでも食っとけ。」


「え~~ トマトサンドじゃないの これ・・・」


「文句いうな 太るぞ。」


「ご心配なく~  太らない体質ですからっ」


「賢 お前 よく こんなのと 付き合ってるな~ 偉いぞ。」


「何を~~!」


「ああ 鏡見てみろ 口の周り パンくずだらけだし・・・


ったくよ~~


そう言えば 昨日 賢としゃべってた あの子 かわいかったな~


女の子は あの位 おとなしい子の方が いいよな~。」



石毛先輩に いつのまに 見られていたのだろうか 


俺は 恵さんと付き合うようになってからも 真愛になんとなく会いたくなると


あいつの教室に顔をだして わざと忘れたことを装って 教科書を借りたり


部活の時も 帰るあいつを見かけると つい声を掛けたりしていた。



「ああ そういえば 時々 賢としゃべってる子でしょ? ウサギちゃんみたいな感じの子。」


恵さんにも しっかり確認されてた?!



「真愛は 隣に住んでる 幼馴染なんです。」


いいわけじみているだろうか?


「へえ 彼氏は いるの?」


「・・・たしかに イシちゃんのモロタイプだね あの子。」


恵さんが苦笑して うなずく。


「え どうなのかな・・・」


おそらく いないだろうとは 思う。 けど・・・



「賢 明日の朝から 母さんまた 一週間 講習会に 行くからね 

そっちの和室 荷物広げてるけど わかんなくなるから 掃除するなら 明日にしてね。」


「はいはい わ~ッたよ。」


俺の 母さんは 礼儀作法の先生で 時々こうして 講師として 企業や学校などに呼ばれて 数日家を空ける。


その間 俺は一人で 飯を適当に作って 掃除や洗濯をして過ごす。


一人分だし 家も狭いから 全然たいしたことはないし 中学の頃から 泊まりの講習会をするようになっていたから もう 慣れた。



「あ それからさ クリーニング悪いけど 取りに行って。ごめん明日 着ていくスーツもあるんだ。 

じゃ 母さんもう 出ないとならないから~。」


バタン!


あわただしく 俺にクリーニングの引換券を置いて 出かける母。


「ちょっ・・・ったく もっと前もって取りに行っとけよ~~」


こんな日は 茶碗も流しに持っていったままで 


洗うのは俺だ。


母親と二人暮らしというより 父子家庭のような雰囲気かもしれない。



「やべ もう 朝練はじまるっ」


慌てて クリーニング券を かばんに突っ込んで 家を出る。



「げ・・・まじでリーダー忘れてる。」


当然のごとく 俺が向かうのは 真愛の教室で


毎度のことなのだが 俺が顔をだすと やっぱり 真愛の友人達はひそひそと俺をちら見してざわめく


「真~愛 リーダー貸してくり。」


真愛は すぐに 机から教科書を持ってくると


「落書きしないでよっ」


と睨みつけながらも 笑って バシッと 俺の胸に押し付ける。


「わかってるよ んなの しねえよ サンキュ。」


と言いながら 毎度 なにがしか 俺の形跡を残してしまうのだが・・・クス


アイツのまっさらな 教科書は 俺の落書きで徐々にしっくり馴染んできて


自分の教科書のように 使いやすい。


(どんだけ 借りてんだ? 俺・・・笑)


そして 今日もまた くりくりと髭を 描きくわえて にやりとほくそ笑む。



「恵さん 俺 今日 クリーニング取りに行くの頼まれちゃってさ 少し早めに上がるよ。」


「クリーニング? 何時までなのそこ。」


「えっと 6時だから 5時半には帰んないとならないかな。」


「しょうがないわね~。」


だが ふと気配を感じて 横を向くと 真愛を見つけた。


「あ 真愛 ちょっと待て。」


でかい声で 呼び止めたので真愛は ちょっと首を竦めて驚く


(小動物な やつ くすっ)


「何? もう 帰るんだけど・・・」


ちょっと迷惑そうな態度を取るけど  それはいつものことで 


真愛は たいてい 頼みごとを断らない 本当に いい奴なんだ。



「悪い 後で 取りに行くからさ 帰りにクリーニング屋寄ってくれね? 


明日 母さんが 着てくからって 引き取りに行くの頼まれてたんだ。


俺 店が閉まるまでに帰れるかどうか わかんないしさ。」


かばんからくしゃくしゃの引換券を渡すと


「え~~ 沢山あるじゃん 重たそう・・・」


「悪い こんど 昼おごるから。」


小柄な真愛には ちょっと気の毒かもしれない。


「賢 ドリブルの練習! 急いで。」


恵さんの声にせかされて 俺は


「今 行く。ま~な 頼むよ この通り。」


と 手を合わせて 真愛に頼み込んだ。




「・・・わかった  ちゃんと忘れず取りに来てよ こっちからは持っていかないからね。」


やっぱり 真愛は いい奴だ。



「おう サンキュッ!」



真愛に頼んでから 練習に戻ると


「賢 真愛ちゃんと 何しゃべってた? あ~~ん?」


と いきなり 首に腕をまわされて石毛キャプテンに絡まれる。


「あの子 かわいっすよね~ ずるいよ 賢 恵さんが彼女なのに あんな おっぱいでかい子とも友達なんてさ~。」


他の部員達も 俺を小突いてくる。


「お おっぱい? そうかな ちょっと 太ってるだけじゃね?」


だが 俺も 気づいていた 高校に入ってからの真愛は どんどん 女らしく 丸みを帯びてきて


同じクラスの男子の中でも 真愛の名前を聞くことが多い。



「今度 誘っちゃおうかな~ 俺。」


「あ キャプテン 抜け駆けずるいっすよ。」


「アイツは!」


「なんだよ・・・賢 でっけえ声。」


「いや あいつは いつも店を手伝ってるから 誘っても 乗らないことの方が多いっすよ。」


「店? 真愛ちゃんちは何やってるんだ?」


「高級レストランです。」


本当は喫茶店なのだが そういうと こいつらは大挙して押しかけそうなんで こうやって予防線を張っておいた。


「レストランか~ じゃあ 真愛ちゃんは 白いエプロンつけて フロアをまわっているのかな?」


「も 萌えるぅ~!」


股間を押さえるふりをして 騒ぎ立てる 部員達


なんとなく イライラしてくるのは なぜなんだ?




真愛のおかげで いつもどおり 暗くなるまで練習に明け暮れて


「あ 恵さん 待って 俺 送るっすよ。」


後片付けを終えて 更衣室に入る際に 恵がグランドを出ようとするのを見て 


あわてて 声を掛ける。


「いいよ 今日は帰りに寄る所あるから じゃね~!」


とぐっと手を上げて さっさと帰ってしまった。


付き合いはじめて一ヶ月 まだ 色っぽい出来事はいっさいなく


かっこいい どちらかというと男の先輩と親しくなったような そんな感じの俺と恵さん・・・


でも それを別段 不服とも思わずにいる。


ざっとシャワーを浴びてから 制服に着替えて 


(あ そういえば 真愛に クリーニング頼んでたんだった・・・)


慌てて かばんを持って 寄り道もせず 家路を急ぐ。



普段は恵さんを送ったり コンビニによって 飲み物を買ったりして帰るから


もっと家に着くのは遅いのだが 


久しぶりに 真愛の家に行くのだという 


自分の中でだけのちょっとした イベント? に 心が浮き立ち


しらず ほころんでくる顔に 自分でも首を傾げる。



商店街に入ると 普段と違って シャッターが下りている。


(そういえば 商店街の温泉旅行があるとか 聞いてたっけ・・・)


普段の賑わいと違う 雰囲気の通りを抜けて 家に着く。


まだ 母は帰っておらず 今日も 遅いのかもしれない。


かばんを置いて着替えてから 真愛の家を訪ねた。


インターホンを押したが なかなか出てこない。


真愛の喫茶店もシャッターを下ろしていて おじさんおばさんも旅行に行った様だ。


ガチャ


ドアは鍵はかかっておらず すんなり開いてしまった。


(無用心だな・・・)



「真愛~? いないのか・・・入るぞ。」


鍵がかかってないまま 放っておくのも・・・と思い 部屋で待たしてもらうことにした。


居間に上がると ふわんと いい香り。


グーキュルキュル 


(う~~ 腹減った。 あいつ 二階にいるかな?)


「ま~な クリーニング取りに来たぞ~。」



構わず 階段を上り 真愛の部屋を訪ねた。


「真愛 寝てんのかよっ!」


「ちょっ 待って!」


ギッ


ドアを開けたとたん 俺の目の前に しろくすべすべの真愛の裸体が・・・


いや 正確にはパンツ(パンティーか ショーツか?)と ブラがチラ見出来る状態で


なぜだか ウールの服を胸元辺りで固めてもがいている。


「真・・・ 」


しばらくと言っても 数秒なのだが 俺は呆然と真愛の体の隅々まで魅入っていたようだ。


「賢っ 何で勝手に入ってくんの 馬鹿っ あっち向いてよっ!」


と怒鳴られて 我に帰る。


「俺が来るからって そこまで サービスしてくれなくてもいいのに・・・」


焦る 真愛がおかしくて 可愛くて どうしても 触れたくなってしまった俺は・・・


「はあ? 何言って・・・ ちょっと こっち 来ないでよ!」


半泣きな真愛に構わず 近寄り


「ま~な お尻 でかくなったね くすっ」


と 可愛く膨らんだヒップを 間近で確認して


「け~ん 馬鹿! あっちいけ~~!」


じたばたする 真愛を押さえつけると



「どら 俺が取ってやる 暴れるな・・・」


甘酸っぱい 彼女の香りにうっとりとしながら その肌に触れた。


「いい 自分で外すから・・・・・嫌だ 恥ずかしいっ」


俺に触れられた事で 真愛が 極端にビクッと震える。


「遠慮するなって ニットだから 丁寧に取らないと 編み目に穴が開くだろ?」


落ち着かせようと ヒップとバストの膨らみのわりには 細い腰まわりに腕を回して 引き寄せた。


「キャッ」


ふわん ぽにょんと 俺の太ももに 真愛のかわいい お尻が乗っかった。


(やわらけ~~!?)


恥ずかしがる 真愛の体温はちょっと高くて 


「ちょっとの間 動くなよ。」


「・・・・・」


すこし 大人しくなった 真愛 ニットのワンピースらしく ブラに網目が引っかかってしまったようだった。


ちょっとブラを引くと その弾力とボリュームが感じられ


すぐ取れるのに わざとゆっくり楽しむように 真愛をひざに乗せて 息を吹きかける。


ビクビク・・・


その度に真愛の体が震えて 俺を興奮させた。


(やべ・・・変な気分に なってくる。)


「・・・よし 取れたぞ」


それでも なんとかありったけの理性を振り絞って 


ワンピースの裾をおろしてやった。


(俺って 偉い・・・)


「・・・ありがと。」


ほっとしたように真愛が お礼を言った。


「どういたしまして。」


俺の方が ちょっと楽しかったかも・・・ 変態かっ?!



「賢・・・」


「何?」


「腰に回した手 


どけてくれないと 立てないんですけど。」


(あれ 本当だ つい・・・)


「あ ああ ごめんごめん 抱き心地良かったから~ くすっ」


正直 まだまだ 真愛を膝から下ろしたくなかったが


しかたなく 手を離したとたん 飛び上がるように真愛は離れていく


(そんなに 嫌かよ~~)


だが真愛はもう階段を下りながら


「クリーニング 下にかけてあるから。」


と余韻も楽しませてくれない。


「ああ 重かっただろ 悪かったな。」



俺も 真愛について階段を下りる。



「はい これっ!」


真愛は クリーニングを 俺に押し付けると 下を向いたまま 帰れといわんばかりに背中を向ける。


だが 俺はこのまま ひさしぶりに来た真愛の家から出るのが 惜しまれて・・・


「おう ・・・なんか すっげえ いいにおいするよな~ 今日の おまえんち。」


と 振ってみた。




「あ・・・炊き込みご飯・・・」


真愛は 思い出したかのように口に手を当て


「いま パックに詰めるから もっていって。」


と台所に向かっていった。



「おおっ すっげえ うまそうっ」


真愛のおばさんの炊き込みご飯は 以前も食べたことあるけど めっさうまい!


しっかり味の染み込んだ筍が これでもかっ!ってくらい 入っていた。


ぎゅるぎゅる~~~ 



それを見た俺の腹もそうだけど 真愛の可愛いお腹からも 聞こえてくる。


パックに詰めようとする 真愛を慌てて制して



「真愛 今 食いたいよ~~っ」


と ダダをこねてみた。


「何 言ってるのよ 隣でしょ あんたんち。」


と冷たく言う 真愛。


(ウ・・・それを言われると でも まだ帰りたくないっ)



「いいじゃん 帰っても 一人だし おまえんちも 今日 いないみたいだし 一緒に今食おうぜ。」


どうせ 真愛だって おじさんたち旅行に行って ひとりなんだ


俺が少しの間いた方が 安心だろう~


と勝手に決め付けた。



(おおおっ う うっめえ~~っ!)


「うまぃ~~ うまいよ 真愛。」


焦って 食いまくる俺を見て 真愛の顔も ほころんだ。


「良かったね。 くすっ」


炊き込みごはんなんて いつぶりだろう?


あっという間に一杯目を平らげると 真愛は 黙って おかわりをよそってくれる。


(いいな~ こういうの・・・)


一人で 適当に作ったご飯を食べるより


こうして 気の置けない相手と食べることの 心地よさを実感し 


ますます食欲が止まらない。


真愛も めずらしくおかわりをして 


遠慮がちに出した 俺のちゃわんにも 5杯目のごはんを盛ってくれた。


「もう いいの?」


ほとんど食べきった 5杯目を見て 真愛が声を掛けてくれる。


少し迷って 茶碗を浮かせたが・・・


「やっぱ やめとこう 他人家よそんちだから・・・」


と言うと 真愛は くすっと 苦笑する。


そのまま もう帰るべきなのだろうけど


そうだ  練習試合 見に来ねえかな? と思いついた。


野球ばかりじゃないってとこ 見てほしい。


「真愛さ・・・ 今週の土曜日 空いてる?」


「何? また 勉強? テストは終わったばかりじゃん。」


勉強・・・それは また 時々 面倒見てもらいたいけどよ~


「いや そうじゃなくてさ。」


まだレギュラーでもないのに こいつを 今回誘っても どれくらい俺の出番があるかわからない。



「じゃあ・・・何?」


ちろりと 見上げる眼差しが 訝しげに 光る。


「なんだよ そんな うさんくさそうに 見られると 言いづらいだろ?


サッカーのさ・・・ 練習試合を 土曜日 N校とするんだ。



そん時 補欠だけど ちょこっとだけ  もしかしたら 出させてもらえんじゃね? と思って・・・」



「・・・ふ~ん」



いまひとつ 乗り気でないような 真愛。


「あれ? 俺じゃ 無理だと思ってるっしょ?


失礼じゃね?


これでも 結構 はじめたばかりにしては 勘がいいって 褒められてんのよ。」



(こいつにしてみれば  俺が野球やっていようと サッカーやっていようと関係ないか・・・)


「じゃあ 一応 場所と時間 聞いとくよ・・・行けるかどうか わかんないけど。」


(一応かよっ!?)


「つれないな~ 店番か? たまに土曜日 さぼらせてもらえよ。」


思わず 文句を言うと


「う~ん 忙しかったら 抜けづらいからさ 暇だったら 行くって。」


「暇になれ~ 暇になれ~」


「なんだとっ こらっ」


バシッ ちょっと きつめにおでこを張られてしまった・・・




(いって~ う 俺 もしかして

 

今日はずいぶん 真愛に対して もやもやしてたか?)


おでこを張られたことで ちょっと 我に帰った。


「ふん・・・ やっと おまえらしくなったか。」


(だいたい 真愛が そんな 色っぽい ワンピなんか 着てっから・・・)


「はあ? なに 私らしいって?」


真愛の声が不穏な空気をはらみ 顔も高潮してくる。



「おまえが女の子っぽいと 調子狂うんだよ! バーカッ」



「な なによ! 


調子狂うって そっちの 方が よっぽど 失礼じゃん!


早く 帰れっ  今日は 私 ひとりなんだから いつまでも いるなっ!」


(な なんだよ 俺 邪魔だってのか?)


真愛の剣幕に こっちも引き下がれなくなってしまった。



「ああ そうかいっ 帰りますっ


せっかく 女の子ひとりで 心細そうだから しばらく居てやっかなと 思ったけど


必要ありませんでしたね!? じゃ~な。」



(ふんっ くそっ あああ 胸くそ悪りいぃ~~ 早く 帰って寝よっ)


「ちょっと賢!」


靴を履きかけた俺の背後から 真愛の声が追いかける。


「あんだよ?! やっぱ 居てほしいのか?」


(いまさら 帰らないでって 言ったって・・・)



ボフッ


「クリーニング 忘れんなっ。」


「ぐっ・・・ ったく やっぱ かわいくね。」




真愛の家を出て 俺はすぐにざっとシャワーを浴びて 


髪の毛も乾ききらないまま ベッドに潜り込む。


母はまだもどってなかったが


幸い 今日は 真愛のところで 炊き込みご飯をごちそうになっているし


練習試合に向けた 部活で体もくたくた・・・


勉強をしようとか そんなことは考える余裕もなく まぶたが落ちてくる。



だが すとんと眠りにつきかけた その時



インターホンが鳴っている・・・


(母さん 鍵忘れたのかよ・・・ 勘弁してくれ。)


無理やり瞼を こじ開けて ベッドから 降り 玄関に向かう。



「はい・・・何?」



そこには さきほど 俺を追い返した 真愛が 震えながら立っていた。




「賢 ごめん うちに 誰かが無断にはいってる!」


泣きそうな 顔で いや 実際 真愛の目には涙が滲んでいた。



「はあ? 嘘 強盗?」


寝起きの俺は いまひとつ 真愛の言っていることが 脳に入ってこない。



「わ わかんない い いま 私の部屋にいると思う・・・」


青ざめ よく見ると 髪も濡れたままで 真愛は心細そうに 突っ立っていた。


(マジか!?)


「とにかく 入れ 警察呼ぼう!」


やっと 頭が目覚めてきた俺は 真愛を部屋に引き入れた。


「あぅっ・・・」


真愛の顔が苦痛でゆがみ 前のめりになった。



「どうした! 怪我してるのか?」


「う うん 足の指に きっと ガラスが・・・」


サンダルから ちらりと見える指先に 血が流れてきている。


(真愛・・・ おまえ この俺を頼って)


「え ええ ?」


真愛の体を抱き上げ (お姫様だっこってやつ?) 玄関に戻る。


「暴れんなっ ますます 重たくなるだろ・・・」


驚いた 真愛が 身じろぎをして 抵抗するが ここで下ろすわけには行かない。


「な 何よ・・・ひやっ 高っ」


真愛の細くて すべすべの腕が俺の首にまわされた。



むにゅ きゅぅうう



(う・・・ いい匂い やばい 気持ちいいじゃねえかっ)



真愛の体から香る 甘酸っぱい香りと 体の柔らかさと 暖かさが


俺の下半身を 危険な状態に していく・・・



(このまま ずっと 抱きしめて いたい。)


だが 狭い我が家のこと 数歩で 居間のソファにたどりつき


しばらく 真愛に抱きつかれている この状態を 惜しみながらも



「真愛 おい 離せ 降ろせないだろっ


それとも もう少し抱っこしてもらいたいのか?」



と 声を掛けてみた。


俺の首にしがみついていた真愛は はっと我に帰り



「あ・・・ ごめん。」


とすぐに 体を離してしまう・・・



足を傷めている 真愛を ソファにそっと下ろしてから 俺は 警察に電話をする。



警察に 真愛から 聞いた情報を伝えて


真愛は自分のところで 預かっていることを説明。



振り返ると 真愛は ショックからか まだボーっとしている。


「真愛 どっちの足だ?」


俺はひざまずいて 真愛の目線で 声を掛ける。


「あ いいよ 自分で取るから


この辺かな あ 血でてる・・・」


足を持ち上げて 初めて 血が出ているのに気づいたらしい。


「どら 俺が取ってやる。」


いくら 体がまだ 柔らかいとはいえ ガラスだと 取り除くのは大変だ。


「いいの ピンセットある?」


ピンセットなんかで 取れるのか?


「いいからっ」


俺は抵抗する 真愛の足を くぃっと 持ち上げた



「大人しくしてろ・・・ここだな。」


真愛は 驚いて抵抗したが 構わず血の出ている部分を調べる。


「血が出てて よく わからないな・・・ ちょっと くすぐったいかもしれないけど


暴れんなよ。」


ガラスがどこまで 食い込んでいるかわからないため ピンセットは使えないと思った。


(吸い出すに限るッ!)


次の瞬間 自分の指にするように 真愛の足の指を咥え


吸い出す。


「ちょ ちょっと 賢~~。」


焦った真愛が更に動いたので 一度 口から外されたが 微かな感触を感じていた俺は更に口に咥えて

慎重に吸い込んでみる。


「大人しくしてろ・・・ここだな。」


「ひゃあああああアッ!」


思わず 悲鳴をあげて 暴れたので 真愛のワンピースの下の下着が見えてしまったが それどころではない。


「ん・・んん 取れた。」



さびっぽい血の味と 小さな異物感を舌の上に確かめて 飲み込んでしまわないよう


そっと 唇を外した。


血と共にティッシュにガラス片を吐き出すと 真愛はボーっと惚けたようにそれを見ている。


(ちょっと 強引だったかな・・・ 汗っ)


ふと見ると 真愛の太ももはまだ露になっており 改めて ズキンとあらぬ場所に動悸を覚える(汗×2)


ピンポーン!


「あ 警察かな ちょっと そこで待ってろ。」


「・・・・・」


くったりして 足を崩している真愛は 声も出せず 妙に色っぽい・・・




(やべ こんな姿 警察だろうと 他の野郎共には見せらんねえ!)


俺はすぐに玄関に向かい



「はい そうです。


今 僕のうちに避難してます。


あ ちょっと待ってください。」



まだ 同じ姿勢で 座り込んでいる真愛に


「女子高生の生足・・・オッサン達には刺激が強すぎるからな


これ掛けて置け 


いま警察の方で 状況を聞きたいそうだ。」


と 毛布を 放って 渡した。


真愛は 今更ながらに 気がついたようで 慌てて 毛布で隠す。



(ったく さっきのニットワンピといい 今の生足といい 無防備すぎんだよっ 怒!)




警察官が2~3人入ってきて 真愛を囲む。


まだ 濡れ髪で しかも ぴったりとしたニットワンピ(よりによって! 怒)を着た真愛は


童顔の癖に おっぱいが大きいので 変に じろじろ見られているような気がする・・・



(俺が そう見てるんだから こいつらも刑事とはいえ 男なんだから 


おそらく おんなじだよな!?)



案の定・・・



「~ずいぶん長風呂だね・・・


どうやったら そんなに 時間かかるのかね?」



と いやらしそうに 下から目線で


(おやじ警官は しゃがんで 真愛の視線に合わせて 質問している。)



どう考えても いらない 質問をしてきた!




「え べ 別に 頭洗って 体あらって 暖まって・・・」



真愛は どう答えたものかと 顔を真っ赤にしながら おろおろしている。



「女の子はそれくらい普通でしょ?

関係ない質問はセクハラになりますよ。」



かっかきていた俺は 早く 真愛を 他の男達の目から 守りたくって 仕方なかった。



(俺の真愛を~~~~! こんなとこで 卑猥な質問だらだらしてねえで さっさと 犯人捕まえに行けよ!)



「あ いや 別に・・・何か他の事をしていたりするんじゃないかと思ってね。」


俺に思いっきり にらみつけられて さすがに引いたのか 刑事はいいわけじみたことを言っている。



だが やっと 


「ホシが確保されました!」


と 声がかかって。


「あ~ わかった。 いや では これで 


また お伺いするかもしれません。


それから 今日は 貴重品だけもって こちらに泊まらせて頂いたほうがいいですよ


玄関の窓ガラスが 壊れていますからね。」


と言うと そそくさと 出て行った。



犯人が無事 つかまってくれて 幾分ほっとした真愛は それでも まだ青い顔で 


親に連絡を取ってみると言う。



(かわいそうに 真愛 どんなにか 怖かっただろう 今日は おじさんもおばさんもいなかったのに・・・


よし! 心配すんな 今日は 俺がずっと そばに居てやっからな!)



当然のように 俺は 自分の部屋に 布団を敷いた。


俺の部屋も狭いのだが なんとか スペースを見つけて 真愛の寝る場所を確保。


だが まだ おじさん達とは 連絡がつかなかったのか



捨てられた子犬のようにしょんぼりする真愛。



真愛は強盗の入った家に 貴重品を取りに行こうとしてたので 


とりあえず 血が出たままの足を先に消毒してやった。



先ほどとは違って おとなしくする 真愛。



ふたりで 真愛の家に行くことになって 


真愛はちょっと 足を引きずりながらも居間を出る途中



「ありがとう 賢。」


と 俺を見上げた。



真愛の瞳がきらきらしていて 


なんだか グッとくる。



ちょっと 照れてしまった 俺は 先に立って 玄関を出ると



「・・・なんだか 今日は 紳士だね 賢。」



背後から 更に真愛はそんなことを 言う・・・


さっき ワンピーの下の 下着を見たことや 


妙にくっきりと浮かび上がった太もも おっぱいに 変な 動悸を覚えてしまったことが 後ろめたく 思い出される・・・



「いつもだろ?」



少し 焦りながらも そう言うと



「紳士は いきなり 足の指を咥えたりしないよ。」


(な なんだよ!?  あれは マジで お前の 足のガラスを取ってやりたくて やったことだぞ!


そ そんな 変な意味で やったわけじゃねえのに・・・)



俺は真愛に向き直り



「ピンセットなんかでやったって ますます ガラス片が奥に刺さっていくだけだろ?


あれが一番いいんだよ。」



(ここんとこは 勘違いしてもらっちゃ困る! うん 絶対!)



と 勢い込んで言ったが



真愛は 静かに微笑んで 


「うん 賢がいてくれて良かった。」



感謝してくれたんだ。



(な 何だよ・・・  わかってんなら いいんだよ・・・)




夜で良かった


きっと 俺 まじで 顔が赤くなってる・・・


無事 真愛の家から貴重品と 抱き枕(まだこんなの抱いて寝てんのか? 笑)を回収して 俺の家に戻る途中


恵さんから 着信があった。



「賢 今 いい?」



恵さんは 美しい見た目と違って さばさばした人で いつも単刀直入だ。



「キャプテンから 部室に 賢がシューズ忘れてったって 預かってるわよ。」


「ああ そうだった ごめん。」


「ちゃんと 毎日泥おとして 手入れしないとだめだよ。」


「うん だよね ハハハ」


マネージャーである 恵さんには しょっちゅうこんな具合に 怒られる。



「それから ちゃんと宿題もしてよ~ うちの学校は 成績落とすと 部活動できなくなるんだから。」


(ウ・・・痛いところを)


「それがさ さっき 真愛の家に強盗入ってさ。」 



「え!! 賢の幼馴染のうちが?!」


恵さんの声も すごく驚いている。



「うん そう すっげえびっくりした。」


(なんだよ? 何 こいつ慌ててんだ?)



意味がわからないながらも 構わず 話を続けると



いきなり 真愛の手が伸びて 携帯を取り上げられた。



「なにすんだよ?!」


(ありえん・・・こいつ 今 話中だろ?!)


怒るより あきれて 真愛を見ると



真愛は 顔をこわばらせ


「あたしが泊まりに来てる事知ったら 恵さん 誤解するでしょ?!」



と興奮した口調で 声を張り上げた。



「ハァ? 何だよ なわけないだろ

ありえんし  ばか かえせ っこら。」


(なんで こいつ こんなに 怒ってるんだ?)



「・・・ あ あんたは 女の子の気持ちわかってないっ!」


(な 何で 泣く・・・)



俺の思考は停止し


真愛の 瞳から ボロボロと落ちていく涙を呆然と見つめた。


「真愛?」




真愛が なんでこんなに 感情を高ぶらせているのか まったく意味がわからなかった・・・



(おまえの言うとおり  俺  今  お前がなんで 泣くのか 全然 わかんね・・・)



だが やがて



とまどうばかりの俺を見て 



真愛はひとつため息をつくと


すんなり 携帯を 返してくれて



「恵さんが もし勘違いしても・・・私が いつでも  説明する


だけど・・・ 余計なこと 言って  不安にさせるのは  やめなよ。」



と言って目を伏せた。



(こいつ 俺と恵さんの 仲を 心配して くれてるのか・・・?)



「・・・あ ああ わかったよ。」



とりあえず 真愛は 落ち着いてきたようなので そう 返事をしておいた。



俺はそれから もう一度 恵さんに電話をかけると



「なんで いきなり切るのよ! 賢のくせに 生意気~~。」


と言いながらも 声は 笑っている。


「ごめん 真愛のやつ 恵さんが 誤解するから あまり しゃべるなって 怒ってよ~


ちょっと びびッた・・・」


泣かしたことまでは なんとなく 言えず・・・



「ははは 賢は 鈍感だからね~ 真愛ちゃんの優しい気遣いが わからないんだ~。」



(ほら見ろ 恵さんは 俺んちに幼馴染が泊まることくらい 気にしねえよ。)


それから 警察が来たときのことや 真愛がまだ 抱き枕がないとダメなことまで ひとしきりしゃべってから家に戻った。



真愛は ちょうど 洗面所から 和室に向かうところだったので



「あ 真愛 お前の 布団 そっちじゃないよ。俺の部屋だから。」



と 教えると 心底びっくりした顔で


「・・・な 何で?」


と ちょっと あとずさる・・・



(なんだよ~~ 俺が 守ってやるって いうのに その態度は 汗っ)



「別にいいだろ? 和室 明日から 母さんまたしばらく 講演旅行にいくんで荷物広げてたからさ


動かすとわかんなくなるって うるさいから。」



別に母さんも事情を知れば もちろん 和室を明け渡して 真愛の寝るスペースを作れというに決まってるが


どうしても 自分のすぐ傍に置いておきたかった俺は 若干の嘘をついた・・・



「そ そうか・・・でも それなら わたし 居間で寝てもいいよ。」



(そんなに 俺と一緒の部屋で寝るのが 嫌なのかよ?!  傷つくな・・・・)



「ここで? そんな スペースねえのは 見てわかるだろ?」



俺の家は母さんと二人きりだとしても 狭い。


通常 他人は泊まれない。



それでも 昔はよく ちいさかったから 余裕で真愛は 俺と同じ布団で寝てたのにな・・・ 



「じゃ じゃあ もうしわけないけど おばさんの部屋に・・・」



(こいつ~~まだ 言うか?!)


真愛は なかなか 諦めない。



「だめ 母さん あしたからの講演にそなえて ゆっくり一人で休ませてやりたいから 

寝相の悪いお前は 行かせられない。」


こいつの寝相が悪いのは本当だ。


(今は どうか 知らんけど・・・笑)


「え~~ わ わたし そんなに 寝相悪くないよ?!」


案の定 おしとやかを装っていた真愛は 顔を真っ赤にして 声を張り上げる。



「はあ? 誰の寝相が悪くないだって? 


冗談いうなっ  お前の隣に寝てて いままで 俺が いくつ 青あざつくったと思ってるんだ!」



かなり大げさに 言って 脅してみる。



「・・・そうなの? 知らんかった ごめん。」



とたんに 真愛は 申し訳なさそうな 顔で ぺこりと頭を下げる。



(ちょっと 言い過ぎたかな・・・? でも これくらい 言わないと 首を縦に振りそうにないし・・・)



「わかったら 素直についてこい。 間違っても 俺を 襲うなよ。」


と強気で 言ってみる。



「あたりまえでしょ?!」



くすっ 真愛は目を三角にして 声を荒げたが しぶしぶ俺の後についてきた。


「よし もう 電気消して 寝るぞ。」


素直に真愛がついてきたことで 俺はほっとして 急激に眠気が襲ってきた。



「うん おやすみ。」


と言う真愛の声も すでに はるか遠くから聞こえるようだった・・・




チチチチ・・・ピチピチピチ・・・


「ン・・・」


朝5時 


「ふぁあああっ」


大きく伸びをしながら ベッドを降りかえたところで


フワッ


「えっ!?」


足の裏に柔らかい感触を感じ 慌てて足を引っ込める


床があるはずの場所に 何が?!と 


下を見ると


ムニッとした 太ももと ゆで卵のようにすべすべの二の腕


チラッと覗ける 白い下着・・・


どっき~~~ん!! 


(お 女の子? 俺の部屋に 寝乱れ女子!! だ 誰!?)


ものすごい 慌てて のけぞってしまい


ぼよぉん~~


ベッドにしりもちをつく賢。


だが 身じろぎもせず

眠れる彼の人・・・ 


スゥースゥースゥー


「あ  真 愛・・・?」


そこで やっと 昨夜の出来事を思い出す。


「ったく やっぱり 寝相悪いじゃんか・・・」


毛布をかけなおしてやろうとして


ぴたっと 途中で腕が止まる。


ジ・・・・・


すっかり捲れ上がった ニットのワンピース


その神秘のエリアに視線を投げかけたが・・・


(い いかん いかん・・・)


すぅうううっ はあああ~~っ


一度 深呼吸をしてから ぐっと視線を逸らして 毛布をかける。


ほぅっ


思わず 安堵の吐息をついてしまう賢。



朝練に向かう自分と違い 真愛が登校するには 早すぎる時間。 


賢はそーっと起こさないよう部屋を抜け出した。


「おはよ 玄関に靴あったけど もしかして・・・真愛ちゃん来てる?」



スーツを着て すでに起きていた母が 妙ににやにやしながら聞いてきた。



「ああ 来てるよ。 昨日の夜 真愛んちに強盗入ったんだ。」



カアッと 一気に赤面してくるのがわかったが つとめて 平静を装って 答えた。


「ええっ!? そうなの 大変じゃない。そういえば 昨夜は商店街の温泉旅行があった日よね?」


「うん まだ 連絡取れてないんだけど とりあえず 貴重品だけ持って うちに避難してきたんだよ。」


「そうだったの。真愛ちゃん 心細かったでしょうね。 かわいそうに・・・


でも あんたの部屋じゃあ 狭かったんじゃないの? 和室の荷物 少しどけて使ってくれても良かったのに。」


ドキッ


「い いや 真愛が すごく おびえて ひとりじゃ恐いみたいだったから 俺が傍にいてやったんだ。」


「ふ~~~ん そう。」


ちらりと母に視線を投げかけられたが 


「ああ 腹減った。 早く食って行かなきゃ。」


「ごめん 母さんも もう 出かけるから 真愛ちゃんにいつでも 愚息を頼ってねと言っておいて。行ってきま~す。」


「愚息って・・・自分で言うのかよ(苦笑) 行ってらっしゃい。」


賢は トーストと牛乳で簡単に朝ごはんにする。


小さい頃から ご飯に味噌汁といったような食事にも憧れはあるが 


そんなものを作る時間があったら もう少し寝ていたい。


基本 自分のことは 自分でというスタイルなので 


生活パターンの違う 母と自分は 朝夕別々ということがほとんどだった。


まあ 別にもうそれで慣れているため 特に不自由も感じない。


かばんを取りに もう一度 部屋に戻ってみたが 相変わらず真愛は 気持ち良さそうに寝ている。



(こいつ ちゃんと起きれるのかな?)


あんまり ぐっすり眠っているので 心配になって顔を覗きこむ。


「真 愛・・・」


微かに開いた 唇は ただ甘い香りを放っているだけで


目覚める気配はない。


(襲うぞ こらっ・・・)


真愛の顔の両脇にひじをついて ぐっと 顔を近づける。


ごくっ


長いまつげが 水蜜桃のような頬に 青白い影をつくり


こんこんと眠るおとぎ話のお姫さまを思い出す。


(お城じゃないけど 俺の部屋で こんな無防備に熟睡して・・・


なんて 可愛いんだ・・・)


チュッ


ブブブブブ ブブブブブ!


いきなり 枕元に置いてあった 真愛の携帯が震え


バッ!!


と 真愛に口付けていた 顔を引き起こし 賢は我に帰る。


(お 俺 今 何した?! やっべ まじ やっべ!!


このまま 真愛のやつが起きねえと  俺 何するかわかんね・・・)


しかたなく 賢は少々早かったが真愛を起こすことにした。



「真愛 おきろ。」


「・・・」


「真愛 俺 もう いくぞ 起きろ~」


「ん・・・」


「こいつは~~~」


ガバッ


とうとう 賢は真愛の毛布を引き剥がした。


「起きろ~!」


「うぅ 寒い~~」


体を丸めて 縮こまっていたがすぐにここがどこなのか気づき真愛は 体を起こす。


「やっと 目が覚めたか  俺はもう 朝練 行くぞ  おまえ勝手にパン焼いて食っていけ 母さんは もう出たから。

 

鍵しめたら 休み時間にでも 俺のところに持ってきてくれな。」



「え 賢 もう行くの?」



目を擦りながらも 時計を見上げる真愛。


布団の上に女の子すわりをした様子が なんともかわいらしい・・・



「ああ 朝練も 俺は一年だから 準備あるし 早めに行ってるんだ。」


「そうか ごめんね 起こしてくれて ありがとう。」



にこっと 微笑んだ真愛を見て また ドッキリと胸を貫かれるような衝撃が走る。



(ああ なんで 昔っから見慣れているこいつに いちいち反応しちゃうんだ? 俺・・・)


しかも 人が足の傷の心配をしてやってるのに


「・・・賢の雑菌が入ってないようで良かったよ。」


などと言う・・・


頭にきて 真愛を再びふとんに押し倒し


「何だと?! こいつ~~ またくすぐってほしいのかッ」


と 昔からくすぐったがりの真愛の脇腹に 手を伸ばす。


「きゃっ うそ うそ 悪かったって はははっ」


抵抗する 真愛が 妙に セクシーで 危ない 欲望が頭を起こしかけるのがわかった・・・


「・・・襲うぞ こらっ」


先程の唇のやわらかさと 甘さを思い出して 


(もう 一回・・・)


スーッと引き寄せられるように  真愛の顔に寄っていき 後少しというところで


(ダメだ!)


真愛の驚きに満ちた 真ん丸の瞳に気づき なんとか方向を修正する。


だが 自分の体は勝手に真愛を両腕に抱え込んで 


ギュウウッと 思いっきり 抱きしめてしまった・・・


(お おっぱいの感触が・・・)


ものすごい 動悸と 


妙に持ち上がってしまった欲望に 


賢は必死に抵抗を試みる。



(馬鹿か俺・・・ 真愛に 変に思われるだろ?!)


「さっき 言ってただろ 俺の雑菌がどうのって。


訂正して おわびしろ


賢様の お口で癒されて わたしめの 足の怪我は 快方に向かっております


ありがとう ございました だっ」



強気な発言にも 真愛はちゃんと乗ってしゃべってくれて 


あっという間に時が過ぎていく・・・


(やべ もう こんな時間!?)


賢は やっと 朝練を思い出したが 胸に当たっている 柔らかい膨らみに離れがたさを覚える。


モミモミ


(なんで 勝手に!?)


いつのまにか 自分の両手が 真愛の胸に伸びて


おもいっきり持ち上げるように触るのを 目の当たりにする。


当然 真愛は怒り 枕を投げつけてきたが


俺は 「治療費 治療費。」と 誤魔化しながら ダッシュで玄関を出たため 難を逃れた・・・


「賢 なにぼさっとしてるんだ! もっと周りをみろ!」


先輩達にどやしつけられながらも 賢は必死にボールを追う。


足には自信があったが サッカーはもちろん それだけではなく 瞬時にまわりの状況を見て判断しなければならない。


最初こそ先輩達に軽くあしらわれて ボールを奪われていたが 


徐々に盗りにいけるようになってきた。



「よし 解散。」


石毛キャプテンの号令で 朝練の終了。



授業があるまでの2時間 ずっと走りっぱなしで かなりばてる。


8歳から 少年野球をやっていたため 基本的な体力はあるつもりだったが


野球はそれほど試合の間激しい運動をするわけではなく


攻めの場合はもちろん 守りに入っても ピッチャーが優秀であれば あるほど 内野 外野は暇である。


そこへ サッカーに急に転向したため その運動量の違いに当初はかなり戸惑っていた。


朝練も 最初は 吐くほどばててしまったものだった。




(まだ かなりへとへとだけど 入ったばかりの頃からみると まだ 平気なのかもな・・・)


サッカーの長い折り返しのあるソックスもあらわになる足も 最初は抵抗があったが すぐに慣れた。


野球は身体をサポートするためにウエアの下には アンダーシャツ(長袖も多い)やスライディングパンツ ソックスの上にさらにストッキングとかなり 着込んでいたため 夏は結構 汗だくになる。


その点サッカーは シャツにパンツ ハイソックス まあ アンダーパンツ位は履いているが全然 爽快感が違うのだ。


「賢 おつかれ 真愛ちゃんと一緒に来るかと思ってた。」


恵が髪を後ろで束ねながら歩いてくる。


「ああ あいつ なかなか起きなくて 出かけにやっと目覚ましたんだけど 置いてきました。」


「・・・ やっぱり 泊まっていったんだ。」


「え もちろんそうですけど 言いませんでしたっけ? 俺。」 


恵さんはくすっと笑って


「ううん 本当に泊まるとは思わなかったから だって ご両親だって 連絡がとれれば飛んで帰ってくるだろうし。」


「真愛の両親は結構 お酒飲んだりカラオケしたりするらしいから きっと圏外だったり 着信音が聞こえなかったりしたんだと思うけど。」


(真愛のやつ ちゃんと学校来れたかな・・・)


自分の教室に鞄を置くと すぐに真愛の教室に向かう


(いた・・・) ほっと胸を撫で下ろして


「真愛!」と声を掛けた。


真愛は俺の顔を認めたとたんに妙に 落ちつかなげに視線を泳がせ


ちょっと足を引きずり気味に近づいてきた。


「真愛 足 だいじょうぶか?」


「うん 平気だよ。 どうしたの 今日は何借りに来たの?」


(何だよ・・・ 用がなきゃ 来ちゃ悪いのか?)


真愛が 視線を合わさないのも気になる・・・


「バカ 何もねえよ。 じゃな 無理すんなよ 歩けなかったら 俺が帰りおんぶしてやるから。」


(あいつ 今日一日持つのか・・・?)


真愛の教室を 後にしながら 


(せめて 同じクラスだったら・・・)と後ろ髪が引かれる気がして 何度も振り返り 自分の教室に戻った。


授業中も 真愛のことが気になってしかたない


(でも さっき 行ったら 何しに来た?みたいな 顔してたしな・・・ ちっくしょ~)


昼休みにコンビニ弁当をかっ込んでから 我慢できずに真愛の教室に行くと


真愛はいなくて その友達が


「あ 賢くん・・・ 真愛は他でお昼とってるみたいだよ。」


と 教えてくれた。


「あ そうか どうも」


(他でって あんな足でドコに行ったんだ・・・ そうか 今日は俺んちに泊まったから お弁当持って来てないんだ・・・)


急ぎ 売店に足を運んだが 姿はなく 諦めて とぼとぼと教室へ帰る。



放課後 


「キャプテン あの 俺 最近 脚なまってるんで 外走ってきて いいっすか?」


真愛を送りたくて 考えた苦肉の策だ・・・


「そと? グランドじゃなくて?」


石毛キャプテンは俺の申し出に 驚いて聞き返してくる。


「はい えっと・・・」


(んん・・・っと さっきまでいいわけも考えてたのに なんて言うんだっけ・・・)


焦っていると 横から恵さんが


「坂道とか 階段とかでも 走りこみした方が 良いって わたしが言ったのよ。」


「そ そうです。」


「ふ~ん そうか 練習試合に向けて 気合入ってるんだな 賢。


ははは ヨシ! 行ってこい。」


(ほう~~ 良かった。)


「賢 真愛ちゃんを 送ったら さぼらずすぐ戻ってくるのよ。」


「恵さん・・・ありがとう。 じゃあ 行って来ます。」


(やっぱ 大人の女だな~~ 恵さん。)


じ~~ん



真愛はまだ 半分ほどの距離を ゆっくり 足を庇いながら歩いていた。


(あいつ・・・ ひと声 かけてくれればいいのに)


「真~愛 まだ こんなところ とろとろ歩いてたのか。」


バシッ


追いついた勢いで少し 強めに真愛の背中を叩いてしまった。


「痛い・・・ 賢 なによ 部活どうしたの?」


「ランニング中よ ついでだから おまえ丁度いいウエイトだから 担いで はしっちゃる。」


「はあ? 何よ ちょうどいい ウエイトって?」


文句を言うのにも構わず 屈んで真愛の身体に手をかけた。


「そらっ」


ダッ!


驚きすくみ上がる 真愛は 俺の首にしがみつき悲鳴をあげる


「け 賢 はずかしいっ 恐いっ お 降ろして~~!」


(やっぱ やわらけ・・・ それに いい匂い・・・)


「うるさいっ ランニングの邪魔するな。」


だが 真愛は まだ やれ部活に戻れだの 恵がどうのと気にして 大人しくしていない。


(俺がお前を心配して 何が悪いんだよ?)


相変わらず 下ろせと言ってきかず とうとう


「だから おせっかいなんだって! わたしが嫌がってるのわかんないの?!」


と顔を強張らせて 訴えてきた。


(嫌がってる? おまえ 俺が嫌なのか・・・ 違う 恥ずかしがってるだけだろ?)


体中に衝撃が走り 腕の力も保てなくなり 


そっと 真愛を下に降ろした。


真愛は下を向いたまま まだ俺から視線をそらしている。


(何なんだよ・・・)


「こんな事くらいで 恥ずかしがって・・・ やせ我慢な奴だ ・・・おまえは  かわいげねえっ。」


つい 放ってしまった言葉に


「もう 十分だよ!  恵さんのところに戻りなよ・・・ じゃね。」


と 俺に背中を向けた。


「わかったよ・・・ だけど 無理するなよ。 真愛。」


ここまで言われちゃ・・・ もう 引き下がらざるを得ないじゃないか。


(あいつ 俺と恵さんのこと そんなに気にしてるのか? 


もちろん 恵さんだって 俺にとって特別な人だけど・・・


真愛


おまえだって すごく すごく大事なんだ・・・ どうしてわかんないんだよ!)


部活が終わって 恵さんをいつも通り家まで送り届けると


「あの子のことも ちゃんと 送ってきた?」


と 試合の話を熱心にしていたのにいきなり がらりと変えて恵が真愛の事を聞いてくるから 一瞬戸惑ってしまった。


「あ 真愛ですか? 気を使ってもらって ありがとうございました。


それが あいつ・・・ 迷惑そうに もう戻れって 言うこと聞かなくて・・・ ったく やせ我慢しやがって。」


「あら それで 割とすぐに戻ってきたんだ。 大丈夫なのかしら・・・ つらそうだったら また 送ってあげた方がいいよ 賢。」


(いい人だな 俺の幼馴染のことを こんなに心配してくれて・・・)


「それじゃあ おやすみなさい。」


恵さんの家を後にして 軽くまたランニングしながら帰る。



商店がを抜けて 真愛の家の前を通ると もうちゃんと営業していた。


裏に回ると 玄関もちゃんと直っていて ガラスも片付けられていた。


「ん? なんだこりゃ。」


カギを開けようと ドアノブに手をかけると 新聞受けに切手のない封筒が入っていた。


家に入って着替えてから 中を確認すると

{賢ちゃん 昨夜は本当にありがとう 


おばさん もう 感激で 泣いちゃったわ。


良かったら お母さんが帰ってくるまで 毎晩 おばさんのところに晩御飯食べに来てちょうだい。


真愛もよろこぶから。}


真愛のおばさんからだった。


「やったっ!」


今日は何して食べようかと ちょっと悩んでいたので 正直うれしい。


遠慮せずにさっそく 真愛の家に行くと


「あ 賢ちゃん  上がって上がって!」


「はい。」


おばさんに勧められるまま 食卓テーブルに座っていると


真愛も間も無く部屋から降りてきた。


「よおっ」


と声を掛けると 俺が来ることを知らなかったのか


「なんで?」


と逆に聞いてくる。


「今回 賢ちゃんにすごくお世話になったんでしょ? 賢ちゃんのお母さん 公演旅行で 1週間いないようだから その間 うちでご飯食べてもらうことにしたのよ。」


だけど さっきより 真愛は俺に打ち解けているようで ちゃんと目を見て受け答えをしてくれる。


(やっぱり 恥ずかしがってただけか・・・)


かなりホッとして とたんにお腹がぐぅ~と空いてきた。


ちゃんと具が沢山入っているナポリタンで めちゃ旨い


「おお すっげえ 嬉しい~ よし 真愛 お前も負けずに食えっ!」


「食えるか そんなに~!」


(コイツも いつも一人で食べてるんだろうな・・・ 

それを 知ってる奴が 今回忍び込んだんだろうか・・・ 


今回たまたま 真愛がお風呂に入っていたから 助かったものの もし 二階にいたら・・・


もしかして 俺 こいつを失ってたかもしれないのか?!)


思わず ぞっとして お茶を入れようと立ち上がった真愛の腕を掴む。


驚いて振り返る真愛。


お茶は俺が淹れるとごまかしたけど 


「お前 最近さ・・・」


(一応 コイツにも 自覚しておいて貰った方がいい・・・ あんまり無防備じゃ あぶねえっ)


「うん?」


(なんで そんな プルプルの唇なんだよ・・・)


「その・・・ なんて言うか。」


(腰 細っせえ・・・)


「なに?」


(だから む 胸でかいんだって・・・)


「う~~ つまり この辺とかこの辺とか 肉付き良すぎんだよ!」


俺の手が 俺の意思を無視して・・・ いや 俺の気持ちを最優先して


真愛の凸部分や 凹部分に 堰を切ったように手を伸ばしやがる~~~


(バカ やめろ 俺!? 死にたいのか?)


「きゃっ」


バシゥッ


当然のことながら 手痛い制裁が左頬に浴びせられる。


(結構な パンチ力もってるじゃんか 真愛よ・・・)



(まず 落ち着け 俺・・・)



左頬に熱を感じながら


俺は お茶を淹れて 真愛の向かいに座る。



(真愛に近寄りすぎちゃだめだ・・・ またすぐ 触りたくなってしまうぅ・・・


落ち着いて 言葉で伝えないと 


こいつは俺と違って 頭で理解するタイプだった・・・)


俺はとつとつと真愛に いかに普段から 周りに危険がひそんでいるかを説き始め


ついでにサッカー部の連中も 虎視眈々と真愛を狙っているらしいことも 話して聞かせた。


なのに こいつときたら・・・



「考えすぎだよ それに 賢は関係ないでしょ?」


(とこうだ・・・ ったく 世間知らずな奴!


とにかく俺以外の野郎が 真愛に近づくなんて 絶対ゆるせなくて かなり奮闘して説明したんだと思う。



俺の大事な・・・幼馴染 ?


いや それよか もっと・・・大切な お前を 絶対 誰にも渡したくないんだ・・・


変かな? それって・・・たしかに 恋人でも なんでもないのに


俺は お前の他に ちゃんと 恵さんっていう かっこいい 彼女だっているのに・・・)



翌日 あれだけ 言い聞かせたのに 真愛はもう石毛キャプテンに捕まってるし・・・


ったく 油断も隙もあったもんじゃねえぜ!



(ああ 俺 なんで 真愛のことになるとこんなに頭に血が昇るんだろう・・・)


石毛キャプテンの真愛に向ける視線は 胸とか お尻とか チラチラと動いて 気になってしょうがない・・・


自分も どちらかと言えば 最近 そういう部分に目がいっていることには気づかない。



(真愛・・・ 俺は もしかして お前を・・・)



今朝も 夢に真愛が出てきたから 尚更 意識してしまっているのかもと いったん否定してみるが それでもやはり 部活中も考えるのは 真愛のことばかり・・・


家に帰って 今晩も真愛の家を訪れる。


部屋中に かつおダシのよい香りがして ますます俺の腹は空腹を訴える。


「いらっしゃい。」


今日は忙しいのか おばさんは顔を出さず 真愛が迎えてくれた。


昨日のナポリタンとがらりと変わって 


今日は 上品な香り高いだし汁と 香ばしい掻き揚げのそばだった。


歯ざわりと のど越しの良さに 感動する。


だが


ふと正面に目をやると 


真愛が ちらちらとこちらを心配そうに 伺うのに

気がついた。


(ん? どうしたんだ?)


(も もしかして このそばは 俺のために コイツが・・・)



(絶対 そうだ・・・)



じわわわわわ~~~ん



(泣きたいくらい 嬉しいぞ・・・真愛。)


「料理上手だな 真愛。」


と すらっと褒め言葉が 口をついて出る。


「え え? ど どうして 私が作ったって・・・」


(やっぱり そうか!)


「わかるよ 全然 味付けがちがうもん。 

お前の母さんの作ったのは どちらかというとしっかりした味付けだけど


これは あっさりしてて だけど ちゃんとダシをとってあるから すごく 旨いよ。」


「あ ありがとう・・・」


うっすら涙を滲ませている 真愛


そんな真愛を見ていると 胸の奥が妙に熱くなってきてしまう


俺の大事な・・・幼馴染 ?


いや それよか もっと・・・大切な お前を 絶対 誰にも渡したくないんだ・・・


変かな? それって・・・たしかに 恋人でも なんでもないのに


俺は お前の他に ちゃんと 恵さんっていう かっこいい 彼女だっているのに・・・)



翌日 あれだけ 言い聞かせたのに 真愛はもう石毛キャプテンに捕まってるし・・・


ったく 油断も隙もあったもんじゃねえぜ!


俺の中で 真愛の比重がいっきに増えて


ついつい ヤキモチからなのか 石毛キャプテンに近寄らないよう 言い過ぎてしまい


返された言葉がこうだ。


「だって 私が誰に襲われようと 賢には関係ないじゃない。いつも おせっかいなんだって。」


真愛にとって 俺の忠告なんて おせっかいなのか?


翌日 数学の退屈な授業を受けていると グランドで一年の女子達が マラソンの授業を受けていた。


(あの いかにも どん臭い走りは 真愛だな・・・)


真愛が近くを走ると 隣のグランドの野郎共が囃し立てるのか かなり 無理して走っている。



(あいつら・・・)



自分以外の人間が真愛の横に並ぶだけで 嫉妬してしまうことに気づいてから


俺は もう 迷わないと誓った。



(あれ 真愛ちゃんじゃねえの? すっげえ ぷりぷり!)


俺のクラスの真愛ファンの連中がコソコソ退屈な漢文の授業中に窓の外を指差している。


それは俺自身とうに先週から真愛の時間割はチェックして この時間体育があることは、わかっていた。


(一応・・・気にはしてるようだけど。どうしてもめだっちゃうんだな くそっ)


かわいそうに 真愛は必死にとろい足を前後させて 身体を他の生徒の後ろに隠すように走っていた。


「コホンッ」


あんまり まわりの席の奴が真愛を見るから 咳払いをすると


定年すぎて特別職にまわった 漢文の教師が


「はい では次 鈴木君 読んでみて。」


「え あ えっと・・・」


真愛に見とれていたひとりが あわてて教科書を開く。



「しっかし すっげえ いいよな~ 真愛ちゃん。」


「だよな 俺 漢文どころじゃなかったし くすっ」


昼休みになって 窓側の席の奴らが また 真愛の噂をしだして イライラが頂点に達した俺は


「おまえら 真愛に手出すなよ!」


「・・・なんだよ 賢。 真愛ちゃんはフリーなはずだろ?」


「ちがう!」


「なんだよ 違うって・・・ 彼氏でもできたのかよ?」


周りの問いには答えず


俺は一息にカレーパンの残りを頬張り リンゴジュースをがぶ飲み。


そこへ 


「け~ん!」


石毛キャプテンが 俺の教室へ顔をだして 手招きをする。


「どうしたんすか?キャプテン」


俺がちかづくと キャプテンはニコニコしながら


「あのさ 俺 真愛ちゃんのこと マジで考えちゃってんだけどさ 本当に練習試合くんのかな?」


「え マジって?」


あまりに衝撃で うまく言葉がつなげない。


「ばか 耳詰まってんのかよ! だから 俺 真愛ちゃんのこと好きになっちまったみたい。ハハハ」


「・・・キャプテン。 あの・・・真愛は」


「ああ お前も協力しろよ。 幼馴染なんだろ?」


「すんません 真愛は・・・ 絶対無理です!」


俺はキャプテンに腰を折り曲げるように頭を下げた後 


「失礼しますっ!」


と教室を飛び出した。


「なんだよ あいつ・・・恵と付き合ってるくせに。」


もう 俺に恵さんという彼女がいるとか 真愛が俺を迷惑がっているとか なにもかも関係なくて


とにかくひたすら あいつにこれだけは わかってもらいたい


真愛 俺は おまえのことが・・・


「真愛!」


他の友人達とお弁当を食べている あいつを拉致し


とにかく 二人きりになれる場所を 思い浮かべる。


(人の行かないところ・・・ よし あそこなら 一年中 誰も来やしまい・・・)


☆注:あくまでも 賢の主観なので 図書室の郷土資料棚にも利用者はいます。☆


「なに?こんなところに呼び出し・・・」


とまどう 真愛を我慢できずに抱きしめる。


「真愛・・・おまえ もう 体育出るな。」


「ど どうして・・・?」


(ごめん 俺 理不尽なこと言ってるよな・・・でも)


「俺・・・お前を 他のやつらに見られたくない。」


「見られたくないって・・・ 私にどうしろって言うの?」


「生理とか なんとか 言って 休めるだろ?」


「何で そんなことしなくちゃ ならないの?」


(それは・・・)


「真愛は 俺のだから。」


「もう 意味わかんないっ! だから それが横暴なんだってばっ 何で 私のこと自分の物みたいに扱うの?」


怒った真愛は、俺の腕から逃れようと 暴れだす。


しかも 石毛キャプテンが自分を好きだと知って 嬉しそうな顔しやがるし・・・


ゆるさんっ!



おもわず 愛しい真愛のおでこをお仕置きとして どついて




それから いつまでたっても反抗的な唇を塞いでしまった。


(塞ぐっちゅうか・・・ ごめん ことわりもなく 突然こんなことしちゃって・・・)


でも どうして 俺の身体はこんなにコントロール不能になるんだ?


真愛に対してだけ 何で?


夢中でいたから いつのまにか 真愛が脱力していることも気がつかず 


抱きしめる腕に荷重がかかって初めて気がついた。


「ま 真愛ッ ごめん いきなりっ」


ぐったりと崩れ落ちそうな真愛は そのうち



「・・・ひどい。」


と言って 泣き出してしまった。


「え えっ? な 泣いてる?」


「賢は うっ うっ 恵さんと つ 付き合ってるくせに 


私も 好きだなんて・・・ ふざけないでよ。


えっ うぐっ


き キスだって あんたは 慣れてるかも し しれないけど 


私は  は 初めてなんだからねっ」


「誰が 慣れてるって?」


(真愛・・・ごめんよ 泣かしちゃって)


溢れる真愛の涙を吸い取って


(俺は こないだ もう お前にキスを・・・)


呆然と見上げる真愛の唇に もういちど キスを落として


「これで 二回目。」


と白状した。


「・・・に 二回目?」


上目遣いに むっとしだす真愛。


(やばい・・・また ここでケンカしたくねえ)


「そう さっきのが 俺も 初めてで 今のが二回目。」


と 言い繕う・・・ (ごめん 許せ 真愛・・・ 汗)


でも 俺が恵さんを恋愛対象として見られなかったことや 真愛が気になってしょうがないことを 本当にまじめに話したんだ・・・


(もう二度と言えねえ・・・こんなことっ!)


「だから 俺の真愛になってよ・・・ 真愛。」


(真愛・・・好きなんだ。)


俺のせいいっぱいの気持ちを聞いた真愛は 昼休みの予鈴を聞くと


「私・・・ 賢のものにはなれない。」


と 言って 涙を拭った。


「真愛・・・」


(俺のひとりよがりなのか・・・ お前にとって俺は・・・ やっぱり 邪魔でおせっかいなだけの幼馴染?)


力を出し尽くした俺は がっくりと 真愛から 身体を離し 


きりきり悲鳴をあげるように襲ってくる胸の痛みをおさえて 


なんとか 笑って 教室に戻ろうとした。


「だけど 賢の恋人には なりたい。」


「へ?」


ギュッ


とまどう 俺を真愛は抱きしめてくれて・・・


「大好きだよ 賢 ずっと 前から・・・


わたし 賢の恋人になれる日 夢見てたの・・・


でも それは 賢のものになるってことじゃなくて


私が いつも賢の傍にいたいってことなんだよ。」


「どう違うんだよ・・・」


(な 何だよ・・・ もっと 解り易く 言ってくれよ。)


だけど まだ 納得がいかない俺に 


な なんと真愛は背伸びして キスをしてくれたんだ!!


(真愛・・・すっげえ 本当に? 夢じゃないよな? 朝起きたらまた 夢精してるってパターンじゃないよな?)


「賢が心配しなくても 私は賢以外の人に恋はできない


だから・・・毎日 教室に様子見に来たり


サッカー部の誰かに声を掛けられてるからって あわてて 飛んでこなくても 


心配しないでってこと。


私は 賢以外の男の子と いっさい おしゃべりできなくなっちゃうでしょ?」


今度は 非常に わかり易く 説明してくれる真愛


(さすが 付き合い長い分 俺の理解力 わかってるじゃないか。

だけど わかったからって 納得したわけじゃねえんだからな。)



「う~~ 堪えられるかな 俺・・・ 真愛が そう言うなら 努力してみる。


でも 会いたいからって 理由なら いいだろ?」



そう言うと 真愛は嬉しそうに頷いた。


「うん・・・」


(真愛・・・好きだよ。 また無茶なこと言っちゃうかもしれないけど 


それも全部 


お前を愛してるからなんだ・・・ 



だから  少し 大目に見てくれな。 笑)


俺のキスは歯止めがきかなくて 真愛を離したくなくて


始業ベルが鳴って 真愛に怒られるまで 続いたんだ。



続きは 帰ってからだな 



覚悟しとけよ 


真愛。 


賢の章 終













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ