おれの妻に捧げる、独学で5年極めた和菓子
何度も君と繰り返した、女王とナイトとしての人生…その中でも女王ではなくなった君と結婚して一緒に過ごした、おれのルキリアとの大切な時間。
そんな記憶の中にある、君のために料理や菓子作りを極めた日々…おれは君の喜んだ顔が大好きだ。だから今の蒼弥も、今一緒にいる君の笑顔が見たくて、まだ手を出した事のない“和菓子”を動画を見て独学で勉強した。
「早く完成させないと…」
今現在、君には家の裏庭でゆっくり羽を伸ばしてきてくれと朝から出かけてもらっている。もうそろそろ準備を終えなければならない時間のはずだ。
女王の玉座を下りた君と共におれのナイトとしての役目も終わり…いつかのおれ達が過ごしたこの家の庭で、君と過ごしたとても古い記憶の中の頃の城に咲いていた魔力結晶植物をイメージして作った2つのテーブルいっぱいの和菓子をすべて君に捧げる茶会を企画している。
いったい君はどんな反応をしてくれるだろうか?いつも以上の笑顔をおれに向けてくれるだろうか、それとも美味しくないと下手くそだと気に入ってもらえないだろうか…とても不安だ。もし君に喜んでもらうどころか機嫌を損ねたらと思うと気が滅入るし、今作っている魔力結晶大桃の和菓子の形が歪になるどころか加減を間違えて握り潰してしまいそうだ。
『蒼弥の負けだね〜』
設定していたタイマーが、可愛い君の声で終わりを告げる。完全におれのミスだ。もう、勢い余ってさっき作り終えた魔力結晶薔薇の形にした和菓子までも叩き潰してしまいそうだ。
そんな言うことを聞かないおれの手は一度、その桃の形になるはずの和菓子を作業台の上に置こうと思う。まずはこの、君に振り回されっぱなしの心を落ち着けなければ…深呼吸をしようと和菓子を放そうとしたおれの手が急に何かに掴まれた。
「うわっ!?ルキリア!?」
いつの間に帰って来たのか、君にかき乱された精神状態ではその気配に気付けなかったらしい…いつものおれなら問題無く誰の気配にも気付いて対処することができるが、やはり君だけは別格だ。
慌てまくっているこんなおれを見上げてくる君の黒い瞳は、何よりも美しく吸い込まれそうだ。そして君は悪戯をする時の顔でおれの手の中にあった作りかけの桃を一緒に持ち上げると、迷いなく自分の口に運んで…嬉しそうに頬張る。
「!!?…ああ、もう全てだいなしだ!」
頼むからそんな、魅力的な表情をしないでくれ…蒼弥の心臓には毒にしかならないから!