幽霊は僕?本当に見た?幽霊は友達?
「おはよう」
教室に入ると、洋一が近づいてきた。
「金子、眼鏡かけていただろ?あれ、レイバンなんだって」
クスクスと笑って、続けて言う。
「今朝、眼鏡のことを指摘したら、『何をかけようが私の自由だ。昨日も出勤前はかけていた』だってさ」
彼は肩を竦めた。その時だった。モブの女子生徒がなにやら騒いでいた。
「私、本当に見たんだよ」
「見間違いだって」
洋一も気になったらしく、近づき、
「どうした?」
と声をかけた。
「この子がね、昨日の夜、旧校舎の理科室で人影を見たんだって。幽霊を見たとか」
モブ子が言った。
=
A:その幽霊は僕だ
B:本当に見たの?
C:幽霊さんはお友達
=
正解はBしかないのだが、僕はAを選んでボケてみた。
「ヌハハ。その幽霊は僕だ!」
僕の発言で、一瞬、教室は静まり返る。滑ったとはまさにこのことだな。胃がきりきりと痛んだ。
真実が僕の横腹を無言で小突いてきた。
「本当に見たの?」
僕の発言はなかったことにして、洋一が聞いた。
「ほ、ほんとうだもん!」
モブ美は真剣に言った。
「理科室……。現場の隣だよね」
真実が僕の耳元で囁いた。
「科学実験部が昨夜、理科室を使っていたから、部員の誰かを見たのでは?」
洋一は疑問をもった。科学実験部、そんな部活動が校内に存在していることを初めて知った。
「昨日は、掃除した後、18時にはみんな帰っているよ」
後ろからモブ夫がぬるっと現れて、言った。
「それ以降は誰もいないと思うよ」
「私が見たのは、20時くらいだから、やっぱ幽霊よ!」
モブ美が腕をさすりながら震えた。刹那、チャイムが鳴り、担任教師が教室に入ってきた。
午前の授業中、僕はずっと事件のことを考えていた。その間、ぬぐい切れない違和感があった。
僕と真実は中庭で昼食を食べていた。
「違和感?」
真実はかわいらしく首を傾げた。
「うん」
「事件現場とかの違和感かなー」
「僕もそう思ったんだけど、何か、どこかで、ヒントを拾ったような、拾っていないような、違和感があったんだ」
「ふーん」
真実はタコさんウィンナーを頬張った。
ブツブツと言いながら考えていると、僕の弁当の卵焼きがひょいと奪われていた。
「もう、考え事ばかりで、会話しないから、全然楽しくなーい」
真実が笑いながら頬張った。
「あっ」
僕は声をだして立ち上がっていた。
「え、なに、びっくりした」
真実が目を見開いて僕を見ていた。
「わかったよ。違和感の正体が……」
「正体って、なに?」
選択肢が表示される。
=
A:この中庭だ
B:化粧だ
C:眼鏡だ
D:筋肉だ
=
「化粧だよ。真鍋先生の化粧が昨日と今日で違うんだ」
僕は確信して言った。
「女性は、気分でメイクを変えることはあるけど?」
「いや、何か証拠を隠すためにやっているに違いない」
「そうかなぁ……」
真実は納得できない表情だ。僕の選択肢は間違っていないはずだ。
=
A:アイシャドウがおかしい
B:ファンデーションがおかしい
C:口紅がおかしい
=
「口紅がおかしい。練炭事件に関わった、なにかがあるのかも」
僕が言うと、
「ふうん」
真実は気のない返事をした。
ランチタイムの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「放課後、真鍋先生を問い詰めてみよう」
僕たちは教室に戻った。
放課後、僕は重要参考人とおぼしき真鍋を探した。
「すみません。真鍋先生知りませんか?」
廊下ですれ違った黄江に尋ねた。
「知らないな」
黄江は胸筋を見せつけながら答えた。
次は見回り中の赤西巡査とすれ違ったので、同じことを尋ねた。
「真鍋先生?旧校舎の方で見かけたような、そうではないような……」
僕は旧校舎に向かった。
旧校舎は事件現場になった多目的教室は黄色いテープが張られ、進入禁止になっている。事件のせいか幽霊騒ぎのせいかはわからないが、生徒はほとんど寄りついていない。
僕はまずは一階の教室を覗いてみたが、人気はなかった。
次に、多目的教室や理科室のある二階に行ってみた。まだ明るいのに、森閑としていて、夕焼けがやたら不気味に感じた。
不意に、肩を叩かれて、僕は驚いた。
「お待たせ」
真実だった。
「お、おう」
「夕方だけど、旧校舎って不気味だね」
先ほどの僕と同じ感想を言った。
ガタンとどこかで音がした。僕は音の出処あたりを恐る恐る近づいていった。
突然、何かが飛び出してきた。
「う、うわ」
つぶらな瞳をもったその生物は、呑気にニャアと鳴いた。
「なんだ、猫か」
平静を装いながらも、心音は激しくなっている。狼狽したところを真実に見られ、僕の顔は紅くなっていた。
「誰かいる?」
誤魔化すように僕は理科室を覗いた。
「うわっ」
僕は理科室の中の光景を見て、声をあげた。
「なに?また猫がいたの?」
真実が中を覗こうとしたので、僕は「だめだ」と制止した。
理科室の端っこのほうで、女性が仰向けに横たわっていた。血が滴っており、顔には生気がない。
「救急車と警察を呼んでくれ……。人が死んでいる」
か細い声で僕は伝えた。その顔は、僕たちのよく知っている人物だった。
――保健医の真鍋先生だ。
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