彼女は自殺?他殺?真実?
僕たちは新校舎の教室で待たされていた。
居合わせた教師と生徒が順番に警察の尋問を受けている。
「お前の番だ」
体育教師の黄江保が言った。彼は筋骨隆々だが、声は金子先生に似ていてハスキーだ。
先に尋問が終わった金子はげっそりとした表情で帰っているので、現在の学校の責任者は黄江のようだ。黄江曰く「金子先生は気合が足りない」とのことだ。
近くの交番から駆けつけた赤西巡査の案内で、校長室に向かう。校長室に入ると、三十代後半くらいの男がいた。
「警部、失礼します」
赤西巡査が声をかけて退室するのを見届けると、男は話し始めた。
「T県警の上茶谷といいます。詳しいお話を聞かせてくれますか」
「はい」
僕は、発見に至った経緯、現場の状況など、思いつく限り仔細に語った。
「他に気づいた点がなければ、もう結構です」
と上茶谷が退室を促した時、僕は聞いてみた。
「あの」
「はい?何か?」
警部はきょとんとした。選択肢が表示される。
=
A:彼女は自殺でしょうか?
B:彼女は他殺でしょうか?
C:僕の彼女は真実です
=
Cはギャグ狙いの選択肢だと思うので、Aにする。
「詳しいことはわかりませんが、現場が密室だったことや現場の状況をみるかぎり、自殺の線が濃厚なのではと思います」
「ありがとうございます」
僕は退室した。
「どうだった?」
待合室にしている教室に戻ると、真実が不安げに聞いてきた。
「疲れたよ。聞かれたことは、多分みんなと同じ確認事項ばかりだと思うよ」
「記憶喪失に関して何か言われなかったの?」
上目遣いで真実は聞いてきた。
「事件と関係ないから、何も言われていないよ」
僕は苦笑した。本当に無関係ならばいいのだが……。
「あれ、洋一たちは?」
洋一と青木の姿はなかった。
「さっき、『疲れたから先に帰る』と言って、帰っていったよ」
「そうか。僕たちも帰ろうか」
「うん」
自宅に戻った僕は、泥のように眠った。
翌朝、起きたら記憶が戻っているということはなかった。はかなく期待したが、そうは問屋が卸さない。
「真実ちゃんがきたわよー」
と母の声。
真実は玄関で待っていた。
「おはよう。調子はどう?」
彼女は少し疲れた表情をしているものの、事件前と変わらない眩しい笑顔を見せた。
「まあまあかな。色々あって疲れたので、ぐっすりは眠れたよ」
「学校は……、もちろん行くよね?」
=
A:もちろん
B:いや、やめとくよ
C:その前に僕とあんなことやこんなことしないかい
=
またしてもギャグ選択肢が出ている。敢えてBを選ぶ。
「えー、そんなこと言わないで行こうよー」
「いや、だってさあ……」
僕は渋った。
「まだ、このルートは開かれていないの!だから、行こうよ」
「ルート?なんのことだ……」
結局、学校に行くことになった。
「ねえねえ」
歩きながら、真実は言う。
「さっき洋一くんがグループチャットで書き込んでいたけど、金子先生、普段かけていない色付き眼鏡をかけて出勤したみたいだよ」
今朝、LINEのグループチャットの通知があった。僕はそのままスルーし、未確認だった。
「芸能人でもなく、ただの事件の発見者なのに、わざわざ……」
僕は金子の気難しげな顔を思い浮かべた。
「そういえば、眼鏡といえば、黄江先生、実は視力悪いみたいで、普段はコンタクトなんだって」
「へえ」
意外な事実だ。脳が筋肉みたいような人なので、てっきり、彼の視力は良いものと思っていた。
「金子先生の視力は良いみたいだけど、国語教師が視力良くて、体育教師が視力悪いって、なんかイメージと逆だね」
「たしかに」
僕は首肯した。
「みんな言わないだけで、案外コンタクト装着している人は多いよね。洋一くんは裸眼だけど、たまに眼鏡かけているよね。そこまで視力は悪くないみたい。青木くんはたしかコンタクトしていたかな」
「ふーん」
「あ、こういう話も、記憶取り戻すための雑談だからね」
「はは。ありがとう」
真実の心遣いに感謝した。
校門前は、何名かの報道陣らしき姿が見え、それを牽制するように教師陣が立っている。
「おはよう」
黄江が通り過ぎる生徒に挨拶をしている。金子は挙動不審に生徒を見守っている。洋一の情報通り、色眼鏡をかけている。
=
A:黄江に話しかける
B:金子に話しかける
=
Aを選択した。
「今日ものうk――筋肉が凄いですね」
僕は褒めた。
「そうだろ。ハッハッハッ」
横江は力こぶを作った。今朝は少し肌寒いくらいなのに彼は半袖だ。
「あれ、先生、手に怪我しているんですか?」
真実が黄江の右手を見ながら言った。
「そうなのだ。昨日、猫にひっかかれてね」
「猫飼っているんですね」
などという会話している二人をおいて、僕は昇降口に入っていった。
「おっす。昨日は大変だったな」
下駄箱前で、青木が声をかけてきた。
「ああ。色々気になって、ちゃんと眠れなかったよ」
僕は苦笑した。
「あら、二人とも、おはよう」
真鍋が挨拶してきた。
「おはようございます」
僕と青木は挨拶を返した。
「昨日は、あの現場に、真鍋先生と黄江先生が駆けつけてくれなければ、もっと動揺していたかも」
と青木が言った。
「黄江先生は、今日も元気ですね」
僕は校門前の彼を見ながら言った。
「あの人は、いつだって、何があっても元気よ」
真鍋は少し馬鹿にしたように笑った。
「昨日は、警察を待つ間、職員室で筋トレをしていたみたいだからね」
「変わってますね」
と僕が言うと、
「本当よ」
真鍋は呆れ顔になった。
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