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病院?高校?自宅?

 翌朝、朝食を食べた後、僕は身支度をしていた。

 早速、ウィンドウが現れた。

 

 A:病院に行く

 B:高校に行く

 C:自宅待機する


 Bだ。高校に行くため、制服を着た。

「学校よりも先に病院よ」

 玄関で靴を履いていると、母に呼び止められた。病院に行くのは決定事項のようだ。


 病院は老人たちの集会所のように賑わっていた。

 受付を済ませ、しばらくして、僕の名前が呼ばれたので診察室に入っていった。三十代後半とおぼしき白衣の男が座っていた。

「うーん、裂傷はあるようですが、骨や脳には異常なさそうですね」

 僕の症状を聞き、レントゲン画像を見ながら、医者が言った。あたりまえだが、記憶が戻らないかぎりは定期的に病院に通うことになった。

「お大事に」と医者。

 会計を済ませ、病院を出た。次の行動は……。


 A:学校へ

 B:公園へ


 公園に行くと、またしても襲われるのではないのだろうか。Aにする。

 高校に到着した。


 A:教室に行く

 B:美術室に行く

 C:中庭に行く

 D:保険室に行く


「調子はどうだ?」

 教室に着くなり声をかけられた。彼の名は黒田洋一くろだよういち。ちょっとお調子者のクラスメイトだ。

「真実から聞いたけど、本当の記憶喪失らしいな」

 洋一は不安げな表情をした。

「ああ。いまのところ、記憶がないこと以外、脳には問題ない」

 と僕は応じた。

「ところでさ」

 続けて僕は言った。

「記憶なくす前、最近の僕の様子でおかしな点はなかったか?」

「うーん」

 洋一は唸った。

「なんか調べていたみたいで、たまに怖い顔をしていることがあったかな」

「そうか。それ以外に何か気づいた点はある?」

「あと、リンゴがどうのこうのとか呟いていたな」

 リンゴ……?

「なに?何の話してんの?」

 中肉中背の少年が言った。彼の名は青木吾郎あおきごろう。洋一と同じくクラスメイトだ。

「ほら、こいつが記憶喪失なのは言っただろ。それでさ、最近のことを色々知りたいんだっってさ」

 洋一が説明した。僕の記憶喪失は、クラスメイトには周知の事実のようだ。

「それなら、部活の先輩に聞いてみればいいんじゃない。何か知っているかもね」

 青木が言った。

「僕の部活って何?」

「理人は基本的に帰宅部だったけど、たまに美術部に顔出していたな。ほら、うちの高校って何かしら形だけでも部活やってないといけないもんな」

 肩の埃を払いながら、洋一が答えた。

「なるほど。ありがとう」


 B:美術室に行く

 C:中庭に行く

 D:保険室に行く


「へい、ボーイ!どうしたんだい?」

 美術室に入るなり、男に声をかけられた。襟足を気にしながら気障ったらしいセリフを吐く彼は、美術部の部長のようだ。

「部長の灰島豊はいじまゆたかだ。もう忘れたのかい?」

 意味もなく上を見上げた。そこには天井があるだけだ。

 僕は、自分が記憶喪失になったこと、その手掛かりを探していることを手短に伝えた。

「ふむ。つまりボーイは、なぜ自分が記憶喪失になったのか知りたくて、私を頼ってきたんだねぇ?」

「はい」

「なるほどなるほど」

 灰島は腕組をして上や下を眺めている。いちいち言動が大げさでわざとらしい部長だ。

「そういえば」

 ハッとして彼は言った。

「なんですか?」

「最近の君の作風は、抽象的な絵画が多かったね」

「……」

 あまりこの部長は頼りにならなさそうだと思い、退室しようとすると、灰島が「そういえば」と口を開いた。

「町の図書館で君を見かけた時、古い新聞紙を広げていたね」

「あ、そうなんですか?」

「そう。あれは、五年前の八月の新聞だったかな?私は目がいいので覚えているんだよ」

 意外な事実を知った。五年前の新聞記事にどんな用があったのだろうか。

「ありがとうございます。参考になりました」

「また、いつでもきたまえ」

 灰島は気障な笑みを浮かべた。


 C:中庭に行く

 D:保険室に行く


 まだ選択肢は残っている。

 中庭に行くと、

「身体は大丈夫なの?」

 幼馴染の真実が聞いてきた。

「問題ないよ」

「そう、心配だから、あまり無茶はしないでね」

 真実は潤んだ瞳で僕の顔を覗き込んできた。

「う、うん」

 少し離れ、僕は言った。

「最近の僕、どこか変わったことはなかった?あと、人から恨みを買ってそうなこととか」

「うーん」

 と真実は首を傾げた。

「図書館とかにいって何か調べていたみたいだけど、何が目的だったかは知らない」

「そか」

「あ、あと。そうそう。雨のことを気にしていたかな」

「雨?」

「うん。詳しくはわかんないけど、"あめが"とかブツブツ言っていたよ」

 雨か……。

「ありがとう。他には何かあるかな?」

 と僕が聞くと、真実は目をパチクリさせて言った。

「ごめん。それ以外に変わったことはわかんない」

「ありがとう。また何かあったら聞くね」


 D:保険室に行く


 最後に保健室に寄った。

「病院のドクターから話は聞いているわ」

 自己紹介のあと、保健医の真鍋紫まなべゆかりが言った。

 保健医は正式には養護教諭という。“保健の先生”で実際に医師免許をもっているケースは少ないのだが、彼女はその数少ない医師免許をもっているようだ。

「医療的なこともわかるから、気軽に声かけてね」

 え、これで終わり?選択肢としてあった割には、大した内容ではなかった。


 B:公園へ


 さきほどの選択肢が一つ減って表示された。公園の選択肢がなくなると思ったが、どうやら強制的に行かなくてはならないようだ。


 公園にきた。

 僕が記憶を取り戻す手がかりがあるかもしれない。


 A:滑り台

 B:ブランコ

 C:鉄棒


 滑り台には特に何もないように思われたが、滑り台の下に落ちている紙切れを発見した。

 『赤いリンゴ』と書いてあった。またリンゴというワードが出てきた。念のため、メモをジーンズのポケットに仕舞った。

 次にブランコを選択したが、この公園にはブランコはない。そういうパターンもあるのか。

 そういえば、昔、プロ野球選手にブランコっていたなぁ(記憶喪失なのに、なぜこの情報は覚えているんだ……?)。

 鉄棒を調べてみた。僕の倒れていた位置はこの辺りだった。

 血痕らしきものが落ちている。もしかしたら、鉄棒に頭を打って記憶をなくしたのかもしれない。

「なんだよ。たいして手がかりないじゃないか」

 苛立ち、鉄棒を殴った。じいんと拳が痛む。



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