公園を左?右?そのまま?
目を覚ますと、見知らぬ公園にいた。
「ここは、どこだろう……?」
僕は不安げに呟いた。
周りを見渡しても、どこにいるのか分からない。ただ、何か大切なものが失われたような感覚があった。
「こんな場所で寝ていたのだろうか?」
僕は自分の身体を確認した。怪我はないようだが、頭はズキズキと痛む。あれ、おかしいぞ。僕は血を流して倒れていたような気がする。
僕は……。僕は誰だっけ……。
突然、目の前にウィンドウが現れた。
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A:公園を出て、左に曲がった
B:公園を出て、右に曲がった
C:そのまま公園に留まった
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なんだこれ?頭を打って、おかしくなったのだろうか。
文字が表示されているウィンドウは掴もうとしても掴めない。空中に浮かんでいるホログラフィーのようなものだろうか。
僕は、Cの選択肢を手でなぞった。すると、ウィンドウは消えた。疑問に思いながら公園を出ようとするが、出られなかった。何かしらの強制力が働いて、見えない壁みたいなものがあった。
僕はぼんやりと公園に佇んでいた。一時間経過……、二時間経過……、いつの間にか夕方になっていた。
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A:公園を出た
B:さらに公園に留まった
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またしてもウィンドウが浮かんできた。どうやら、現実世界でノベルゲームのような選択肢が出てしまうようだ。
頬を叩くと痛い。夢ではなく現実だ。
Bの選択肢を手でなぞると、先ほどと同じようにウィンドウが消えた。これは”選択した”と解釈していいのだろう。
あたりはすっかり暗くなった。遠くから猫やカラスの鳴き声が聞こえる。
「おい」
誰かの声が聞こえ、振り向こうとした時、僕は何か鈍器のようなもので殴られていた。
消えゆく意識の中で、その人物の足元と、滴る血液を見続けていた……。
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コンティニューしますか?
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やり直しができるのか?僕は迷わず「はい」を選んだ。
*
目を開けると、僕は公園で倒れていた。どうやら、最初の選択肢まで戻ったようだ。
公園に留まっていると暴漢に襲われるようなので、僕は『A:公園を出て、左に曲がった』を選択した。
公園を出て、左に曲がり、しばらく歩くと繁華街にいた。雑踏の中、僕は立ちすくんでいた。
「あれ?」
目がくりくりとしたボブカットの少女が話しかけてきた。
「なにやっているの?」
誰だろうと考えていると、
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A:君は誰?
B:僕は誰?
C:うるさい!話しかけるな!
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選択肢が出た。
AとBはたいして内容が変わらなさそうなので、僕は思い切ってCを選んでみた。
「うるさい!話しかけるな!」
「ひ、ひどい」
少女は泣き出しそうな顔で去っていった。
どうやら傷つけてしまったようだ。公園に戻ろう(強制力が働き、公園に戻ることになった)。
僕はまたしても襲われ、再度コンティニューした。
*
ボブカットの少女のシーンで、僕は『A:君は誰?』を選択した。
「何言っているの。君は理人くんで、私は君の隣の家に住む真実でしょ」
僕がぽかんとしていると、真実がクスッと笑った。
「今日はどうしたの?とりあえず、私は今から帰るよ。理人はどうするの?」
おっと、こういう場合は選択肢が出るな。
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A:僕も家に帰るよ
B:僕は公園に戻るよ
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殴られるのはもう勘弁なのでAを選ぶ。
僕は自然を装いながら、真実の少し後をついていった。自分の名前が判明したはいいが、いまだにふわふわとしていて実感がない。
お互い無言のママ、歩いていた。辺りはもう暗い。
真実が足を止めた。
「それじゃ」
と真実が手を振った。
「ん?なに?」
僕は困惑した。
「まだその遊び続いているの?私の自宅はそっちで、理人の家はこっちでしょ」
彼女はベージュを基調とした家を指差した。一般的な二階建ての家で、僕の家は金持ちというわけではなさそうだ。
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A:僕の家のチャイムを鳴らした
B:真実の家のチャイムを鳴らした
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Bを選ぶ。
「ちょっと、そこは私の家でしょ」
真実は苦笑いしていた。
「あ、ごめんごめん」
僕は自分の家(と思われる)のブザーボタンを押し、チャイムを鳴らした。
カチャと開錠の音が聞こえたので、僕は玄関のドアを開けた。
「おかえりなさい」
玄関には中年女性が立っていた。
「……」
「どうしたの?不思議な顔して」
僕が沈黙していたので、彼女が尋ねた。
「おう、帰ったか」
奥から中年男性が現れた。
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A:あなたたちは誰ですか?
B:お父さん、お母さん、ただいま
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記憶喪失で確証がもてない。Aを選択する。
「誰って……。あなたの母親と父親よ」
いぶかしげに母が言った。
「実は……」
僕は記憶がないという状況を伝えることにした。両親は、最初は半信半疑だったが、僕の熱を帯びた説明で信じてくれたようだ。
「ともかく、一緒に病院へ行きましょう」
と母が言った。
「今は痛みはないのか?」
と父が聞く。
「大丈夫……。一度寝て、明日病院に行くよ」
今は一人になって休みたい。疲労困憊だ。
「僕の部屋はどこ?」
僕の問いに、母は階段を指差す。
「階段を昇って、二階の左があなたの部屋よ」
「ありがとう」
僕の部屋は綺麗に整理整頓されていた。メモや日記などがあれば、記憶がなくなる直前の行動がわかるかもしれない。
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A:本棚を調べる
B:机を調べる
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なるほど。記憶喪失になった原因を部屋で調査する流れのようだ。
Aを選択した。本棚は様々なジャンルの本が置かれている。
作家名順に並んでいる中、ひとつの本が「な」と「に」の間に挟まれているのを発見した。タイトルは「リンゴの歴史」で作家名は「エリカジャニク」である。
不自然な位置に本があるので、記憶喪失前の僕は林檎について調べていたのだろうか。
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B:机を調べる
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選択肢がひとつだけになった。調査なのでひとつずつ選択肢を潰していくようだ。
机の中はごちゃごちゃと文具や筆記用具が入っている。
その奥から日記が見つかった。日記はあまり活用されておらず、覚え書きみたいなものがいくつかあった。
僕が記憶喪失になった前日の日付ページには意味がわからない文章があった。
『赤いリンゴとは?』
赤いリンゴというフレーズがでてきた。どういう意味だろうか。続けて、次の言葉が書かれていた。
『赤いリンゴはなぜあの行動をとったのか』
どうやら、赤いリンゴは実際の林檎ではなく、綽名や隠語の類のようだ。他のページも目を通してみたが、日記にこれ以上の手がかりはなさそうだ。
トントン。部屋のドアがノックされた。
「理人、ごはんはどうする?」
母がドア越しに聞いてきた。
「ありがとう。今日はもう食べずに寝るよ」
返事をすると、階下に降りる足音が聞こえた。
「疲れた」
僕はベッドで横になり、そのまま眠りに落ちた。
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