美
人生は、生まれた時から決まっている。いや、生まれる前からか。運命と言うのは初めから決まっていて、これからどんな人と関わり、どんなことを学び、どんな道を歩んでいくのか、全て計画通りに進んでいくのだ。
容姿だって同じ。神様が両手で丁寧に丁寧に作った顔もあれば、福笑いのようにパーツを雑に組み合わせて作った顔もある。ちなみに私は後者だ。目を瞑って足で適当に作ったような顔。この顔のせいで、今まで散々な目に遭ってきた。結局、全て顔で決まってしまうのだ。
見た目が良くなければ、中身まで見てもらえない。どんなに心が優しい人でも、顔がブスならその時点で終わっている。つまり、この世で一番重要なのは、顔。確実に顔なのである。この意見に異論のある人が美しい場合、勝ち組だからそんなことが言えるのだろう。反対に醜い場合、己の醜悪さを認めたくないのだろう。
自分で自分をかわいい、かっこいいと思っていても、周りからの評価が普通かそれ以下では、所詮その程度と言うことだろう。私は自分の顔を鏡や写真で見るのも辛いので、ナルシストは正直羨ましい。自分に自信があるから。それに加えて顔も整っていれば、もう完璧に近いのに。
容姿なんて、今更な悩みだ。生まれ持ったものなんだから、どれだけ泣いても叫んでも可愛くなれるわけではない。整形でもしない限りは一生、死ぬまでこの顔のままだ。そんなの耐えられる? 私は絶対に耐えられない。メイクも自撮りもプリクラも、何にも上手くいかない。上手くいくはずがない。だって、元が悪いんだから。
私は、学校一の美少女と廊下ですれ違った。さらさらの長い髪の毛。ぱっちりした大きい目。鼻筋の通った小さな鼻。ほんのりピンク色で形のいい唇。モデルのようなすらりとした手足。しかも残り香まで美少女だ。あの子のシャンプーやら香水を真似したところで、可愛くはなれない。絶対に。
あーあ。あんな可愛い顔だったら、鏡見るの楽しいんだろうなぁ。プリクラは当然、集合写真ですら盛れるんでしょ。メイクなんてしたらもう文句なしだし、自撮りだって無加工で十分なんでしょ。私はメイクしても加工しても下の下なのに。ああもう、ムカつく。どうしてなんだろう、同じ人間なのに。
その美貌を分けてほしい。そんなに綺麗だと困っちゃうでしょ? もう有り余ってるでしょ? そろそろ飽きてきたでしょ? だから、ねえ。私に頂戴よ。このブスな私に! そのせいで死んじゃいたい私に! 超可哀想な私に!
うん、可哀想。私って本当に可哀想。最近なんて鏡を見る度に泣きそうになる。ショーウィンドーに映る自分も、服屋さんの姿見に映る自分も、真っ暗なスマホの画面に映る自分も、みんな大っ嫌い。整形したい。誰にも見られたくないが為に、私はいつも下を向いて、背中を丸めて歩く。そのせいで二重顎になって、猫背になった。
私は、デパートのコスメショップはもちろん、プチプラコーナーでさえ居ずらくなってしまう。コスメを物色したりテスターしてる周りの人達は全員綺麗なのに、私は。なんか、もう無駄に思えてきちゃった。お金も時間も努力も、何もかも。全部全部。私、何頑張ってんだろ。ブスは何したってブスなのに。ずっと昔から分かってたのに。
可愛ければ、全部上手くいく。さっきすれ違った子みたいに可愛ければ、自然とクラスメイトが寄ってくる。先生に贔屓してもらえる。街中でイケメンに声をかけられる。とにかくモテる。自分を好きになれる。可愛ければ。
来世は美しくなれますように。