ラゴーラの娯楽の為に
ラゴーラの世界では強くなる前に人類は死に絶えるを繰り返していた。
「つまらぬ。
つまらぬぞ。」
ラゴーラは荒れる。
「ご主人様。
それではそろそろ例の件に移行されてはいかがでしょうか?」
ハネスはラゴーラを宥めるように導く。
ラゴーラはニヤリと笑いそれから高らかに声を出して笑った。
「予定よりかなり早いが良いわ。
あやつらなら少しは楽しめるだろう。
ついでに足枷なる者もつけてやる。
ハネス。
お前は我の楽しみに裏切らないな。」
ハネスは無表情で頭を下げる。
リルの部屋に輝きの雫のメンバーは何かと集まっていた。
「ねえねえ。
連れて来られてからどれぐらいたった?」
「そうね。
百年は過ぎたかしら。」
輝きの雫は一向に呼ばれずただただ暇な生活を送っていた。
外へ出ても庭すらなく役目も無く訓練もしなくなり向こうの世界から持ってきた菓子類をムシャムシャ食べ尽くし部屋でゴロゴロして過ごす。
「そういえば最近使用人が少なくなった気がしない?」
「そう?
気が付かなかったけど。」
「何か別な仕事を言いつけられてるのかもな。」
「いいわね。
私も仕事したいわ。」
「だらだらしていても時間は流れるけどどうせなら何かしたいわね。」
「ここには必要最低限の物しかないから暇を持て余す。」
「毎日一緒じゃ話題も尽きたよ。」
「二万年弱で今が一番する事ない。」
「連れて来られた意味ないわよね。」
「うん。
意味ないわ。」
などなどぼやきながら過ごしていた。
ジゼルが感じた使用人が減ったのは当たっている。
ラゴーラは人類を創り飽きて城の者をラゴーラの世界に落としていた。
「ご主人様。
あんまりです。」
「死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。」
「どうか助けて下さい。」
「私達に戦闘は無理です。
城に戻して下さい。」
「いやぁーっ。
死ぬなんて。」
「私達が何をしたというのですか?」
「五千年以上尽くしてきたというのに。
恨んでやる。」
「お前こそ死んでしまえ。
ラゴーラぁ。」
「あんたなんか神ではない。
大きいだけのトカゲがっ。」
助けを求めても恨みごともラゴーラの心には届かない。
武器も無い攻撃魔術も使えない城勤めの天使族達が無惨に魔物に食われていく。
空に逃げたとてそこには飛行型の大型魔物が口を開けて待ち構えている。
あっさり一飲みで食われる天使達。
獲物で遊ぶ魔物には腕を食われ足を食われても首を落とされない限り死ねない。
痛みで気を失いそうになりながらも自動回復で失った手足がはえ何度も何度も食われ再生しを繰り返す。
「殺してくれっ。
もう耐えられない。」
そんな叫びもラゴーラには少しだけ楽しいと思わせるだけだった。
引きちぎられ振り回された翼の羽根が雪のようにふわふわと舞っている。
血がその羽根と周りに広く飛び散っていた。
すぐに見飽きたのかつまらなさそうにラゴーラは自分の使用人らが魔物に食われ死んでいくのを眺めていた。
「天使族といえども弱いな。」
「それは仕方ありません。
戦闘要員ではないのですから。」
「それもそうだが戦おうともせぬのは甘やかしだな。
ハネス。」
「申し訳ありません。
もっと厳しく指導を行うべきでした。」
メイドやコックに誰も戦闘に強くは求められていない。
戦闘の担当は騎士がいるのだから。
ハネスを責めるのは御門違いである。
「では輝きの雫も含めこの城にいるハネス以外を我の世界へ落とす。」
「かしこまりました。」
グラシアが目覚めるとそこは見知らぬ湖のほとりだった。
結界の中、輝きの雫のメンバーや城の使用人らが同じように横たわっている。
「みんなぁ。
起きて。」
グラシアは全員を起こした。
「ここどこ?」
「なんでこんな所に?」
誰も状況が分からない。
「部屋で寝ていたはず。」
「俺も。」
みんな部屋で寝たまでは覚えていた。
なのに家具や寝具以外の個人の持ち物が側に置いてある。
「こんな事が出来るのはご主人様しかいない。」
輝きの雫のメンバーは確信した。
ラゴーラならどこかで見ているはず。
「ご主人様。
これはどういう事でしょうか?」
グラシアは空に向かって尋ねてみた。
「さすがはグラシアだな。
こんなに早く我と分かった者はいない。」
笑い声も聞こえる。
「ここはどこでしょうか?
もしやご主人様の新しい世界ですか?」
「それもさすがだ。
そう。
そこは我の世界。
これからお前達は魔物を根絶やしにするまで城へは戻れぬ。
我の創りし強大な魔物を堪能させてやるのだ。
感謝せよ。
ちなみに転移は出来ぬぞ。
それと身体から首が離れたら即死となる。
せいぜい首を取られぬよう気をつけたまえ。」
「はい?
私達は防具も武器もありますが城勤めの者達は武器も防具もない状態でどう戦えというのですか?
それと何の為に戦えと?」
「どう戦うか?
そんな事は知らぬ。
戦えないのなら死ぬがよかろう。
先の者らも戦わずに死んでいったわ。
我に助けよと言いながら。
自分の身は自分で守るがよかろうに。
愚かな。
それと何の為にか?
それは我を楽しませる為に決まっておろう。」
悪びれもなく言い放つラゴーラにグラシア達は呆れて物が言えなかった。
「これにてお前達を守っていた結界は消滅する。
我を失望させるなよ。
では頑張りたまえ。」
それを最後にラゴーラは何も答えなくなった。
言った通り結界が消滅した音がした。
「まずはアッシュとリルで結界張って。」
「了解。」
すでに魔物が集まって来ていた。
「いつまでも結界は張ってはいられないわね。
いずれ魔力も尽きる。」
城の使用人は二十体ほどで私物に武器や防具などは持っていない。
「あなた達はここにいて。
輝きの雫はこっちで作戦会議よ。」
使用人達は不安で顔が青ざめていた。
結界の中の片隅で輝きの雫のメンバーが集まった。
「弱い者は死ねってか?
あれはないな。」
「ネシリがいなくなって本性が出たって事?」
「知るかっ。」
「その話は後よ。」
「収納バックはあるわね。
売り残したドロップ品の武器とか持ってない?」
輝きの雫のメンバーは各自の収納バックを確認する。
「ゴミに近いのしかない。」
「それでもないよりはマシだな。」
五体で出し合いなんとか剣はあるが防具は足りない。
「だよな。
防具は身体に合わせて作っていたし。」
「武器だってレベルが合わないと重くて持てん。」
「やらかしてくれるわ。
ご主人様。」
「こんな仕打ちされてもご主人様って呼ぶ?
俺はヤダな。」
「そうね。
私達の本当のご主人様が創った龍で私達より一万年は若いのに。
裏切られてまでご主人様って呼ぶ意味はないわ。」
輝きの雫はラゴーラを見限った。
「それにしてもこの数を俺らだけで守りきれるかなぁ。」
「はっきり言って足手まといだ。
それもあいつの思惑のひとつなんだろうな。」
「俺らだけなら大概の魔物に負けんからだろうよ。」
「腹の奥から大嫌いが溢れるわ。」
「腹立つのはみんな同じ。」
「今は結界の保持にも時間は惜しい。
動き出すわよ。」
「どんな魔物がいるか分からないし隠れ家を見つけましょうか。」
「洞窟掘るのも手だぞ。」
「そうね。
でもこの世界を見る為にも一度は森を抜けたいわ。」
「それもいいけど食べ物も必要よ。」
「こんなことなら前の世界でもっと買っておくとよかったな。」
「分かっていたら無理にでもネシリについて行ったわよ。」
「ほとんどバックの中の食べ物食べちゃったわね。」
「それもあいつの狙いだったら救いようないな。」
「天使族って攻撃魔術不得意よね?」
「冒険者にさせられた俺らや聖騎士にでもならないと苦手だろうな。」
「代わりに結界は張れないかな?」
「普段の生活に必要ないから訓練しないとダメかも。」
使用人達で攻撃魔術や結界、支援魔術を使える者はいなかった。
回復魔術ならば数体が使える。
「酷な言い方するけど俺達だけでは全員を守りきれない。
怪我したら自分達で回復して隠れ家が見つかるまで遅れずに付いてきてくれ。
脱落者を助ける余裕もない。
助かりたかったら俺達から離れるな。」
フリッツが使用人達に今後を伝えている間にも大型魔物が増えていく。
「これは無いんじゃないの?
馬鹿なの?
あいつ。」
あいつとはラゴーラを指す。
ジゼルがサーチで地形と魔物が薄い箇所を探している。
湖の大型魔物も集まっていた。
「うわぁ。
厳しい。
これを通り抜けるのは。」
ジゼルは魔力の続く限り結界を移動させながら進むしかないとグラシアに提案する。
「分かった。
まずはアッシュ。
次にリル。
そしてジゼルで進めるまで進みましょう。
森を抜けたら見晴らしも良くなるかも知れないし生き残りがいるかもしれない。」
武器を全員に配り出発する。
グラシアはフリッツと二体で結界から出ると足止めに肉付きの良さげな大型魔物を数体倒した。
倒した魔物にグラシア達を取り囲んでいた魔物らが食らい付く。
「よしよし。
道が開けた。」
グラシアとフリッツは先行し魔物を倒しながら行く。
残りは結界を維持しながら後に続く。
ラゴーラは一部始終を見聞きしていた。
「我をあいつ呼ばわりか。
まあ良いわ。
これは面白いな。
簡単にはくたばりそうもない。
輝きの雫を投入して正解だ。」
ラゴーラはニヤニヤしながら眺めている。
「食べ切るのを待っていたが待ちくたびれたのだ。
魔物も食べれるしお前らだけなら食糧に困らぬのにな。
だからこそ親切にお荷物をつけてやった。
仲間意識の強いお前らは弱く使えぬ奴らさえ死なすわけにはいかぬだろ。
そのピンチを楽しみたまえ。」
神としての慈悲はどこへいってしまったのだろうか。
収納バックの中身を空にしなかっただけマシかもしれないと考えるべきなのだろうか。