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ネシリの箱庭

翌日。


ゼストがお腹が減ったと大騒ぎしてみんな起こされる。


ネシリだけは起きており考え事をしていた。


ちょうど考えがまとまらず決めかねていたその時。


ゼストのいきなりの大声。


さすがにイラッときたネシリは廊下を走り回りまだ大声で騒いでいるゼストを捕まえリビングに引きずって来るとソファにダンッと座らせる。


そしてゼストは経験したことのない勢いでネシリにしこたま叱られた。


エリン達が部屋から出て来るとソファに膝を立て顔を埋めているゼストを発見。


そして近くで窓際に仁王立ちするネシリの様子で事態を把握する。


「叱られたのね。」


顔を上げずに頷くゼスト。


「ネシリが叱るなんて珍しいわ。」


「そいつ甘ったれにも限度がある。」


「堪忍袋の尾が切れたってやつだな。」


「少しは反省させろ。

今後も腹減ると騒ぐぞ。」


エリンは仕方ないわねという表情でゼストの頭を軽くポンポンとして食事の用意にその場を離れた。





ネシリはしつこく怒りを持続させない。


ゼストも反省したようなので食事前に許している。


そして食後そのまま全員がバルコニーに集合。


すでにバルコニーの先には新たな世界を創るべく白い亜空間が広大に広がっていた。

 

「ここよりずっと広いのね。」


ノラが何気なく言う。


「何言ってんだ。

世界を創るのにここと同じじゃ狭すぎるだろ。」


テオが揚げ足を取る。


「あーっうるさい。

そんなの分かってるわ。」


いつもの事ながらどちらも引かず。


ああ言えばこう言うを繰り返す。


「あんた達こんな時まで戯れ合わないで。

私を本気で怒らせたいの?」


エリンは普段女性らしく可愛らしくも優しい声で話すが怒るとドスのきいた男性並みに声が低くなる。


ノラとテオは身の危険を感じ一瞬で静かになった。


ペイジはどんな場面でもノラとテオはいつも通りだと微笑ましく思う。


「ここも広げられるけどな。

そこまで必要ないだろ。」


「そうね。

これでも持て余してるもの。」


「何から創るの?」


「そうだなぁ。

まずは海と空でも創ろうか。」


ネシリが手を前にかざすと一面の海と空がひろがった。


青い空にふわふわと白い雲が浮かぶ。


深い底まで見えそうなほど透きとおったキラキラ光る碧い海。


「風が潮の香りを運んでくるのね。」


女性陣が揃ってこの光景に目を奪われていた。


「次は大陸と島を創ろうかな。」


「それがいいよ。

生き物がいたら大変だ。

地震で津波や地割れに飲み込まれるかも。」


「地震は危険よね。」


「じゃあ最初の大陸創るよ。

細かい所は後回しな。」


ネシリは海のど真ん中に大きな大陸を一つ創った。


「ここは唯一のダンジョンと魔物の大陸だな。」


「ダンジョンひとつなの?」


「向こうの世界のようにあちこちにダンジョンあると管理が面倒だろ。

ダンジョンノアより大きなダンジョンをひとつだけにする。

魔物は各地に中ランク以下を点在させて、高ランクのはここ一箇所にして。」


ロムサは申し訳なさそうにネシリの近くまで歩み寄る。


「ネシリ様。

お願いがあります。」


ロムサがまだ敬語なのをノラは気に入らない。


何か言い出しそうなノラをテオが後ろから口を押さえる。


「何よ。」


テオの腕を振り解きノラは文句を言う。


「今はダメだって。

ネシリとエリンに叱られるよ。」


ネシリに叱られるのは大したダメージではないがエリンを怒らすのはダメ。


最も怒らせたくないのでノラはネシリとエリンを慌てて見た。


ネシリはロムサと話していてノラに意識を向けていないがエリンはギロリとノラを睨んでいる。


ノラはビクッとなり咄嗟にテオの後ろに隠れテオからはみ出る部分を少しでも隠そうと身を縮めた。


「なっ。」


ノラはテオの影から悔しそうにチッと舌打ちをする。


「お前好き勝手いう割に弱いとこあるよな。」


「うるさいっ。」


テオは珍しくそれ以上何も言わなかった。


ロムサは向こうの世界で龍の世話をしていて懐かれておりなんだかんだと可愛がっていた。


だからかこんな風に離れたのが淋しいらしく龍を創って欲しいと願う。


「まだ創り始めだ。

いいぞ。

龍の大陸な。」


ネシリは中央の大陸の北西に龍の大陸を創る。


「龍の餌に魔物も必要だな。

どちらにしても生き物は後回しだ。」


西側に獣人族の大陸。


南西にドワーフ達の大陸。


南に精霊の大陸。


南東にそこそこ大きな島を二つ。


東南東に魔人族の大陸。


東北東にエルフやハイエルフの大陸。


北東に何にするか決めてない大陸。


そして北に人間族の大陸を創った。


「それぞれ大陸にしたんだね。

島規模じゃ小さかった?」


「周り海だから何かから逃げる時狭いと逃げられないだろ?」


「そっか。

何か起こっても大丈夫なようにかぁ。」


何かってお前の創った世界にお前の分からない何かは起こらないだろうと大半の仲間は思う。


「まあな。 

逃げ場なくて死なせたら俺の責任だから。」


「備えあれば憂いなしってか。」


「ネシリは心配症で過保護なところあるものね。」


「そうか?

自分では分からんけど。

さて。

ここから細かい所創るわ。

みんなであの大陸の上まで行くぞ。」


「なぁ。

何か起こるのか?

起こらんだろ。

創造神お前だし。」


テオは思ったらすぐに口にする。


みんなも思ってはいたが黙っていたというのに。


「ネシリの好きなようにさせてあげて。

今までラゴーラが神を代行して以後ほとんど自由がなかったんだから。」


ノラに止められテオは仲間の表情からみんなの気持ちを汲み取った。


ネシリも本当は考え過ぎと理解している。


ネシリがこの世界の全体を把握できる高さの空中にみんなを連れて浮かぶ。


「ネシリ。

神様に見えるね。」


ゼストがニコッとして言う。


「お前もだからな。

ちゃんと手伝えよ。」


ネシリに頭を撫ぜられゼストは子供のようにはしゃいでいる。


ネシリと変わらぬ背丈で青年の見た目のゼスト。


過去を知らない者が見たら少々異様な光景に映らないかロムサは心配になりユウラ達の方を向いた。


二体はネシリの神の御技に釘付けになっていてゼストの行いなど眼中にない。


「この大陸は魔物とダンジョンで中央にこの世界で一番高い山を創る。」


粘土細工のようにミヨォンと切り立った山が出来た。


「それでなっ。

俺だけで全部創るのもつまらないだろ?

みんな暇を持て余すのも勿体無いし。

だからゼストは説明通りに森とか湖創れ。

他のみんなは自然や生き物はいじれないけど建物などの人工物は作れるだろ。

まずはドワーフ達の大陸に必要だなと思う物を作ってくれ。」


「それは楽しそう。」


「了解。

引き受けた。」


ネシリはみんなをドワーフ達用の大陸へ連れて行く。


みんなを安全な場所に降ろすとドワーフ達の大陸の山脈や湖や川や森などを創り後は仲間に任せた。


そしてゼストを連れ他の大陸の地形を整える。


「人工物ね。

橋とか作ろうかな。」


ユウラとリタは橋を作る事にした。


「俺とエリンは畑作る。」


「周りは山脈で囲うって言ってたけど本当にそうなんだわ。

海に出る道の反対側の内側に湖で森が広がっている。

湖から川が平地の真ん中を流れて山脈近くで地下に潜って海に流れ出すのね。」


「海への細い道を海側で塞ぐと要塞になるな。」


「何人創るのかしら。」


「各種族百で男女半々からスタートって昨夜言ってたじゃん。」


「聞いてなかった。」


「ドワーフとケットシーとノームとホビットがこの大陸の住人になるんだね。

職人種族を集まるんだ。」


「ここだけ発展早まりそう。」


「四種族なら四百家必要?」


「最初から快適な暮らしはかえってダメだよ。

大きめのを八つ程でよくない?」


「ひとつに五十人は狭くない?」


「それでいいって。

嫌なら自分達で建てるだろ?

屋根だけあれば雨も防げる。」


「壁ぐらいつけてあげようよ。」


家で揉めている間にも川向こうに畑が次々と作られていく。


「壁はそうだなぁ。

つけるか。

雨風しのげれば上等。

キッチンとか風呂とか作るなよ。」


「ねえ。

ドワーフといえば酒じゃない?」


「嗜好品よりまずは生活だろ。」


「えーっ。

まずは酒でしょ。」


「お前バカ?

話にならんな。

エリン呼ぶぞ。」


「私がいつでもエリンを怖がるとおもうなよっ。」


エリンが遠くにいて姿が見えないと強気だ。


ノラとテオは言い合いになる。


「はぁっ。

なんで俺はお前となんだろうな。」


「それはこっちのセリフよっ。

なんでいっつもテオとなんだろう。」


この二体は意見が合わず作業が進まない。


テオとノラが家を作るならとロムサは湖からも川からも遠い山脈の麓に井戸を二つ作る。




ネシリはみんなが待たずに作業出来るよう魔人族と獣人族と人間族の大陸を整えた。


エルフは森があれば良いので後回し。


「ゼスト。

森を作るの上達したな。」


初めは木が斜めったり木と木の間隔が近すぎて小動物しか通れなかったりしたが何度も作り直し数を重ねる内に森らしく作れるようになってきた。


「ネシリ。

これ楽しいね。」


規模がデカいが物作り。


ゼストでなくとも楽しい。


ネシリは頭の中が忙しなく楽しめていないが気持ちは理解していた。


今はゼストにこの世界で最も大きな森を作らせている。


「さて。

ここはゼストに任せて次だな。

精霊の大陸へ行くか。」


精霊の大陸は切り立った崖の上に山脈で周りを囲んだ自然の要塞型にした。


山脈内側すぐにぐるりと輪のような湖。


その更に内側は湖に沿って森があり森の内側は色とりどりの花畑で枯れる事なく年中咲き乱れるようにした。


花畑の真ん中に一本の虹色に光る大木が生えそこになる実から精霊が産まれる。


ネシリの精霊は向こうの世界と異なったところが多い。


何者にも侵入されないようにネシリが強固な結界を張り精霊の大陸は過ごしやすい気温を安定して保つ。


精霊を脅かさない草食動物と小動物を創り森に放す。


湖には魚を創り泳がせた。


「ここは完了だな。

不備があったらその時々の対応でいくわ。

初の植物以外の誕生か。

なかなか感慨深いものだ。」


ネシリは自分が創った美しい精霊の大陸を眺めながら感無量になっていた。





一日で全部創れやしない。


ネシリとゼストを除く仲間達は睡眠も不可欠だ。


今日はここまでにしてドワーフ達の大陸を見に行く。


「畑は出来ているな。

野菜の種植えとくか。」


ネシリはエリンとペイジの仕事ぶりを褒めた後畑にさまざまな野菜の種をまいた。


「これで野菜には困らないな。」


天使三体の仕事を確認。


「橋も井戸もよく出来ている。」


天使三体もしっかり褒めてからエリン達と天使三体引き連れノラとテオの所へ向かう。


「おいおい。

ノラとテオは何してたんだ?」


ネシリは言い合いでどちらも譲らなかった事にガッカリする。


「この件はテオが正しいよ。

不自由だからこそ知恵がうまれる。

何事も最初が肝心なんだから。

それに酒造りを急がせないよ。

先に安定した生活を手に入れてからではないとダメだ。」


ノラも分かっているがテオには引けなかった。


「悪かったわね。

酒はたくさん持って来ているから私も急いではいないのだけどテオに言われると引けなくなるの。」


「なんだそれ。

なぁネシリ。

俺とノラの組み合わせやめようや。

気がつくといつもノラだったけど。」


「私もテオはもう嫌よ。」


「分かった。

戻ってから話そう。

ここの家は明日で良いわ。

急いで失敗するより納得するまで話し合おう。

時間も決められてる訳ではないから。」


城に戻るとみんな大浴場で疲れを癒す。


今日一日いいとこなしのノラは元気が無くなっていたが大浴場の脱衣室の保冷庫に酒を冷やしてある。


冷えた酒を呑むと心配ご無用とばかりに元気になった。


今後天使族の女性二体とノラがセット。


テオはロムサと組む事になる。


天使族はガッカリしていたようだがあんなんだけど実はノラは面倒見も良くカラカラしているので慣れると仲良しになると思われた。




ネシリはこの時点でまだ世界の夜を創っていない。


対して住まいを構えた空間の夜は睡眠が必要な仲間の為に城と共に創ってある。


自分に躊躇いなくついて来てくれ当たり前のごとく助けてくれる仲間達に可能な限り不自由をかけたくない。


ネシリは心からそう想う。


夕食後単独で陽射しの中一晩かけ大陸を整えた。


ゼストは神の力が低いせいか眠くなる。


それに独りの方が気楽に動けるので寝かしてきた。


大陸を整え終わってから世界の夜を創ったときにはすでに朝を迎えていたので星空は今日の夜までお預け。


「エリンとペイジはもう起きてそうだな。

取り敢えず帰るか。」


戻るとエリンとペイジはすでに朝食を作り終わっていた。


「おはようネシリ。

お疲れ様。」


いつものコーヒーを出してくれる。


「ありがとう。」


ネシリはコーヒーを飲みながら今日の予定を組んでいた。




















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