そうと決まればサッサとだな
これからの話もありネシリ達の家にロムサも連れて帰って来た。
「大変な事になったわね。」
「やってくれたなって感じだぁ。」
「これはあまりにも無いよ。」
「ちょい頭が働かない。」
「文句を言っても始まらないけど。」
「ネシリこれからどうする?」
「どうしようか。」
「まずはお昼ご飯食べましょ。
もうお昼回っているもの。」
「そうだな。
朝食もあんな状態では食べられなかったもんな。」
「食堂では食べたけどな。」
「ゼストなんてまだ腹減ってないだろう。」
「ううん。
全然食べれる。」
「えっ?
食べれるんかい。」
「すごいな。
お前の胃袋。」
エリンとペイジがキッチンへ行った。
ゼストが後ろをついて行く。
それを目で追いながらロムサは呟いた。
「なんで俺もなんだろう。」
ロムサは朝からほとんど喋っておらず緊張と衝撃で頭が朦朧としてたようだ。
食堂に行ったのも覚えていない。
そんな状態なのでロムサこそ何も食べていなかった。
「考え方によったらこっちで良かったんじゃないか?
グラシア達よりマシだろ。
それにここに残されてもろくな状況じゃないと思うぞ。」
テオに言われロムサは確かにという表情。
ゼストはキッチンで味見と称し色々食べていた。
朝食みんなの分も食べたのに。
食堂でも山盛り二杯食べたのに。
ネシリは考え込んでいて会話に加わらない。
「簡単なのにしたわよ。」
クリームパスタとサラダとマナバイソンのステーキとカップで飲めるスープとパンがテーブルに並べられた。
「ロムサも座って。
ほら、ネシリ。
考え事は後にして。」
エリンが促す。
遠慮がちのロムサの横にゼストが座りニコニコしながら食べるように勧めた。
食欲なかったが食べないのはせっかく自分の分も用意してくれたのに悪いなと無理して食べる。
「あっ。
とても美味しいです。」
ロムサは一口食べて自分がお腹空いているのも分からなくなっていたと気がつく。
ホッとしたのか涙が出そうになる。
ネシリはと見ると険しい顔で黙々と食べていた。
食後いつものコーヒーを飲みながらネシリは仲間の顔を見回す。
「何言ってくれちゃってるのと思ってるけど諦めるしかないもんな。」
ネシリは大きく息をはく。
「自分の力がどんなものかも分からんのに亜空間開いて世界を創れか。
自信ないけどお前らがついて来てくれるだけでも良しとするわ。」
「俺らお前とゼストと違って神じゃないから出来る事も少ないけどな。」
「まあお前といたら退屈せんだろうし。」
「ここに未練もないからお前について行くさ。」
「未知の事をしないとならん。
お前達がいると心強い。
ありがとうな。
さてまずはどんな世界を創るか話し合おうか。」
「そうだな。
それと向こうに何も無いだろうからこっちから色々持ち込もうよ。」
「無いと最も困るのが食糧よね。」
「それは数年分必要だな。
自給自足が安定するまで。」
「飲み物は水なら魔術で出せるけど、ゼストの為に果樹水はいるわね。」
「お酒もぉ。」
「それはノラぐらいしか呑まないからノラが用意して。」
「えーっ。
冷たい。
わかったわよぉ。」
ノラは不満そう。
「料理用のお酒は私とペイジで準備するけどあくまでも料理用よ。」
こうなるとエリンは飲用には出してくれないのはノラも経験している。
「大量に食材必要だわ。
もっと時間があればね。
買い占めもできればしたくない。
この世界の人々を食糧難には出来ないもの。」
「魔物の肉で良ければダンジョンのドロップ品が食べるだけなら数年分あるぞ。」
ネシリとロムサのダンジョン攻略時の品々は手付かずで残っていた。
「そういうのなら私達もいつ狩ったのか覚えていない程以前のが結構あるわよね。」
「そういやぁあるな。」
「それなら買う肉の量減らせそう。
でも狩った魔物ばかりではなんだわね。
スフィアシープとマナバイソンとシャープクックを丸ごとと生きたままのも少し買っておくわ。
家畜として。
餌の植物なんてすぐ生やせるでしょ?」
「生やせると思うよ。
でも乾草も用意しておいて。」
「了解。
食事関係は私とペイジに任せて。」
「調理道具とか家具とか住む所はどうする?」
「この家ごと持っていけるけどなるべくならこの家はこのまま置いていかないか。
家具とかは人数分俺が買っておくよ。
寝具などもね。
調理道具は任せてもいいかい?」
「いいよ。
戻った時に何もなかったら寂しいもんな。」
「傷まないように保存魔術かけとくわ。」
「頼んだ。」
「向こうはどこに住むの?」
「考え中。
どちらにしても俺が創る。
そうか。
家具とかも創れそうだわ。」
「まずは向こうでの生活に必要なもの買い出ししよう。
今回は家具なども買っておいて。
不測の事態ってのもあるかもしれないから。
買い占めないように何件もいくつもの街もまわるよ。」
エリンとペイジ、テオとノラ、ネシリとゼストで買い物。
ロムサは自分の身の回りのものとユウラとリタに荷造りして本日の夕方ネシリ達の家に集まるよう伝言を頼まれた。
ユウラとリタも唐突な命令にしばし頭が真っ白になり何も考えられなかったらしい。
洋菓子店でエリンとペイジはリルとジゼルに出会す。
「お互い大変な事になったわね。」
朝から溜まりに溜まった愚痴をお互いに一通り言い合い気が済み解散する。
リル達の用意はハネス達ラゴーラの城の者がするから自分で必要な物ぐらいで特に準備がないらしい。
「楽なようで好きに出来なさそうなのがどうなのかしらね。」
「うん。
ネシリは神といえども長年苦楽を共にした家族だから俺らの方が気楽だ。」
「ロムサ他二体の天使らにしたらそうでもないかも。」
「ロムサは大丈夫だよ。
ネシリともゼストともダンジョンに永くもぐっていたから。」
「そうだったわね。」
二体はあちこちに転移し食材を買い込む。
「生き物は収納バックに入れられないから一度戻ろうか。」
家畜用のマナバイソンらを家の庭に即席の家畜小屋を土魔術で作り突っ込んだ。
そしてまた足りない食材を求め出掛ける。
ノラとテオは主に大量の酒を買い求め世界中の商店へ足を運んでいた。
「もう十分じゃない?」
テオはノラの酒愛に付き合いきれなくなる。
「まだまだ足りないわよ。
貯まりに貯まったお金を使い切ってもいいんだから。」
多忙で毎晩呑む酒ぐらいしかお金を使ってないので世界中の酒を買い占められそうなぐらいお金は持っていたが買い占めるなよとエリンに鍵を刺されているので買い占めたくても買い占められなかった。
テオはノラに振り回されながらも欲しい物は買えている。
ネシリは全員の寝具や家具の他に必要かもと思ったら随時購入していた。
ゼストはネシリの手伝いで少しはお金を持っていたのでチョロチョロしては買い食いする。
ネシリはこれから先はしばらく買い食い出来る店はないので好きにさせていた。
「ネシリ。
これたくさん買って。」
ゼストが冒険者になった日に食べた串焼きに似ている。
「いいぞ。」
ネシリは焼き立てをあるだけ買う。
「ネシリ。
これも買って。」
市場の出店のほとんどを買ってくれとねだるゼスト。
ネシリは甘やかしてるなと思いつつ買い占めない範囲で買ってやった。
そんなこんなでネシリは大量の食べ物を購入する羽目になる。
その日の夕方。
ロムサとユウラとリタの天使族がネシリ達の家に来た。
顔見知り程度の二体の必要性は未知数だがラゴーラにはラゴーラなりの思惑があるのだろう。
ユウラとリタも選ばれた理由が分からないらしい。
夕食後ネシリは亜空間を開いてみた。
「へぇ。
真っ白で何もないんだね。」
テオが躊躇なく中に入る。
ゼストもテオの後に続いて入って行った。
「はいっ。
そこの物見遊山の奴らっ。
楽しそうでなによりだけど邪魔だから一度出てくれないか?
俺も初めてだから何が起こるか分からんし。」
ネシリはゼストとテオがバツ悪そうに出て来てから中に入る。
「まずは住む所な。
どんなのにする?」
亜空間の口は開いているので会話が可能。
「ご主人様の城より大きな城にして。
色は白がいいな。
そして男女別の大浴場つけてね。」
ノラが言うとエリンも希望を伝える。
「広いキッチンは絶対よ。
オーブンとコンロとシンクは大きなのを二つ。
作業台と食器棚と鍋などをしまう扉付き棚。
煙を逃す換気口もね。
あっ。
保冷庫もよ。」
「冷凍貯蔵庫も欲しいな。」
「氷菓子作るんだね。」
ゼストが嬉しそうに口を挟む。
「それだけではないぞ。
今まで収納バック頼みで冷凍貯蔵庫なんてなかったから色々作ってみるんだ。」
「楽しみぃ。」
「会議室と作業室。
食堂。
お前の執務室。」
「宝物庫もいるだろ。」
「俺は訓練場。」
「高位魔術をぶっ放しても平気な訓練場な。」
「ちょっとぉ。
みんなが集まってくつろげるリビングのような部屋も欲しい。」
「家畜はどうする?」
「とりあえず飼育小屋を外に創るわ。
そしてホビット達にいずれ飼育させようか。」
「ホビット族かぁ。
それは随分と先の話だわね。」
「後はみんな一室づつと。
一応客室かな。」
「客室いるかぁ?
新しい世界は別に創るからな。
ここはあくまでも俺達の家だ。」
ネシリはそう言いながらも仲間が増えるかもと客室もいくつか創った。
「初めて創ったとは思えないな。」
「たいしたもんだ。」
入り口に群がって感心しながら見ている仲間達に声を掛ける。
「もう入っていいぞ。」
白い亜空間だったそこには青い空とデデンと大きな城が建っており、色とりどりの花が咲く庭とエリンとペイジの趣味の畑と温室もあった。
「向こうに家畜小屋をいくつかと放牧場も創った。
新しい世界が出来たらそっちで育ててもいいけど今はまだ何も無いからなぁ。」
家畜をそれぞれの快適そうな小屋に入れ餌と水を用意する。
「これ果樹?」
庭の端にちょっとした森のようにいくつもの木々が種類毎に生え実がなっていた。
「そうだ。
新鮮な果物も食べたいだろう。」
「一応果物もたくさん買ってきたけど採りたての方が美味しいわよね。」
「うん。
買ってきたのはジャムやお菓子に使えるし。
なんぼあっても困らないさ。」
「それにしてもな。
短時間でここまで創れるのか。」
「なんだか神様っぽいわね。
こんなの簡単に創ってしまうなんて。」
「簡単でもないよ。
でもどうやら自分の亜空間では全能のようだ。
想像しただけで思ったよりなんでも出来るわ。」
「へぇ。
それはここがネシリの世界だからか。」
「たぶんな。」
全員で出来たての城の中を探検して周る。
「これよぉ。
さすが良く分かってるぅ。」
キッチンがエリンの思い描いた通りだったようで大感激していた。
ペイジも使い心地を確かめ喜んでいる。
ノラは保冷庫に今日と明日呑む酒を冷やす。
あまり入れすぎるとエリンに叱られるから二日分にした。
「ねぇネシリ。
保温庫も欲しい。」
エリンのお願いに作業台の隣りに保温庫を創る。
「ネシリ。
愛してるぅ。」
抱きついてきたエリンに頬にキスされそうになり手の甲で防ぐネシリ。
「なによっ。」
エリンは怒ったふりをするが笑顔。
ノラはサッサと先に行き大浴場を見回していた。
「これよこれ。
願った通り。」
タオルやバスタオルは脱衣室の棚に揃っている。
シャンプーなどは浴室の洗い場に備わっていた。
ノラは浴室の広さを見てからシャワーの勢いを試している。
「あっそうだ。
ここにも保冷庫創って。
風呂上がりに冷たい物飲めるって素敵じゃない?」
保冷庫を創ってやると嬉しそうに半分のスペースに酒を入れた。
それからおもむろに上着を脱ぎ出したのでノラをおいて脱衣室から出る。
ついでに男性の脱衣室にも保冷庫を設置。
そこにはゼストの果実水をエリンに入れてもらった。
それからもあちこち周ってそれぞれ思い思いの場所で落ち着く。
引越しは無事終了した。
収納バックでだから苦労知らず。
「今朝までこの家を離れるなんて考えてもいなかったのにな。」
今まで暮らしていた世界に全員で別れを告げた。
向こうの世界との出入り口を閉じるとなんだか切なくなる。
亜空間では人間への変化を解きみんな本来の姿に戻ったがネシリとゼストの姿を見たことのないユウラとリタは驚いて少しの間言葉を失っていた。
ロムサも覚悟を決めたのか落ち着きを取り戻しいつものロムサになっている。
明日から新しい世界の創造を始めるので今夜は各々思うように過ごす。
ノラからロムサとユウラとリタに仲間なんだから敬語は使うなと言い渡された。
それはそれでやり難いと三体の天使族は思う。
上司であり大先輩の方々に対し急に馴れ馴れしい態度をするのは厳しいんだってとロムサは心の中で反論した。
そして新参者であるユウラとリタはロムサより敬語無しはつらいだろうなと。