それは予想の上をいく
その日は夜も明けていない早朝。
突然ラゴーラの使いの者が訪れた。
ネシリ以外はぐっすりと眠っている。
そんな各家のドアを使者は壊れんばかりにドンドンと叩き大きな声で呼ぶ。
気分悪く起こされほとんどの者が不機嫌。
使者の方は緊急だから至急呼んでくるよう言われていた。
眉間にしわを寄せ苛立ちながらドアを開ける者は誰も彼も使者より立場がかなり上。
それを無理矢理起こしたのだから叱られないかとビクビクしながら封筒を渡す。
そして封筒を受け取ってすぐこの世界を守護する主要な者達がラゴーラの城へ招集されていた。
悪魔族の長オザガラ、天使族の長フィリ、SSランク冒険者として日々多忙な囁く音色のエリン、テオ、ノラ、ペイジとネシリ、ゼストそして同じくSSランク冒険者の輝きの雫のグラシア、アッシュ、ジゼル、フリッツ、リルに何故かロムサ。
「やっと夜が明けたぐらいよ。
呼び出すにしてもちょいと早過ぎない?」
「ため息が出ちゃう。」
「俺寝ついたばかりにもう起こされた。」
「あっ。
悪いな。
預けた仕事してくれたのか?」
「うん。
ようやく終わって寝れたのにさっ。」
「おっ。
ありがとう。
助かった。」
「何かあったのかな?」
「それにしても錚々たるメンバーだ。
重大な案件あるのかも。」
「みんな明け方に使者が来たの?」
「そう。
ノラなんてまだ酒抜けてないんだぞ。」
「毎晩呑み過ぎ。
呑まない日も作ってみろ。」
「それは無理というか嫌よ。
私の唯一の楽しみなのに。」
「おやっ。
ゼストめっちゃ久しぶり。」
「うん。
久しぶり。」
ゼストはオザガラに頭を撫でられまんざらでもない。
「ゼストとロムサも呼ばれたなんてなんだろうな。」
「特に問題ある報告は上がってないわ。
もしやご主人様になにか?」
「それならまずは俺とフィリが呼ばれるだろう。」
「なんか嫌な予感しない?」
「するする。」
疑心暗鬼にみんな囚われている。
そんな中マイペースなゼストがネシリに絡んでいた。
「ネシリ眠い。」
「ゼスト。
お前はもう寝なくても平気なはずだけどな。」
神は寝ても寝なくても変わらない。
「えーっ。
やだ。
平気じゃないもん。」
「人前ではもう子供のふりはやめとけ。
背丈も以前の大きさに戻ってるだろ。
するなら俺の前だけにしなさい。」
「えーっ。
俺まだ子供だもん。」
ゼストはすっかり甘えっ子に戻っている。
魔族との戦い辺りは大人っぽくなっていたのに。
一緒に暮らす仲間は慣れているので嗜めはしないがネシリはゼストの幼児返りな状態をなんとかしようとしていた。
「皆様。
早朝にかかわらず至急のお集まり感謝いたします。」
執事のハネスが丁寧な態度でラゴーラの元へ案内してくれた。
「こちらでお待ちです。」
人数が多い為かいつもと違う部屋へ通される。
そこには食事の用意がされており、テーブルの上座に人間の姿のラゴーラが座っていた。
「朝早くから悪かったな。
よく来てくれた。
好きな場所に座ってくれ。」
ラゴーラに挨拶してから各々好きに座る。
ゼストはネシリの隣りが定位置かのように自然に隣りに座りロムサはゼストが座るのを見届けてから反対隣りに座った。
「朝食まだだろう。
食べてから話そう。」
機嫌があまりにも良過ぎるラゴーラにゼスト以外の者はどうせろくでもない事を思いついたんだろうなと身構える。
特にネシリとロムサの警戒は尋常ではない。
ラゴーラの配下の中でどこをどうとっても一番はネシリ、二番はロムサが何かと面倒事に巻き込まれている。
ラゴーラからすれば数少ない娯楽にこの二体をいかに困らせるか又は驚かせるかがもっとも世界に迷惑をかけない遊びであった。
いつもいつも否応なしに巻き込まれる二体は想像のつく限りの最悪を想定して驚かないように気を引き締める。
その表情や様子を観察しながらラゴーラはウキウキわくわくしていた。
二体の緊張がうつり周りも緊張し空気が張りつめる。
何も考えず食べ物に集中し幸せそうにパクパク食べれたのはゼストだけ。
ほとんどの者が食欲わかず目の前の料理をゼストに渡していた。
「なんだ。
せっかく用意させたのに食べぬのか。
美味いぞ。
遠慮なく食え。」
何がそんなに楽しいのか笑いを抑えきれず終始ニヤニヤするラゴーラ。
他者から回ってきた大量の料理をなんの疑問も持たず食べているゼストを眺めながらラゴーラの話を皆聞きたくなかったのでなんとか聞かずに済まないか水面下で模索していた。
今まで一度もこんな時間に呼び出された事はない。
そしてあからさまにニヤけるラゴーラも見たことがなかった。
絶対良くない話だとゼスト以外は感じている。
緊急時はハネスがそれぞれを訪ねて来ていたのに今回はこれだけの人数だからか使者を使い呼び出されたのも不安の一因。
全員を巻き込んだ何かを命じられそう。
回避する名案も出ない内にとうとうゼストがデザートも食べ終わってしまった。
逃げようがないので一同覚悟する。
そんなみんなをまだニヤニヤしながらラゴーラは見ていた。
「食事も終わったようだ。
まあ大半は食べなかったがな。
せっかくの我の好意を無にした件は突然の呼び出しに応じた事で良しとしよう。」
ラゴーラはニヤけるのを止めて真剣そうな表情を作る。
「ネシリ。」
「はっ。」
ネシリはラゴーラの呼びかけに答えたくなかったけど答えた。
「お前は神の力が解放され様々な事が出来るようになった。」
ネシリはそっちかぁ聞きたくないわと耳を塞ぎたくなっている。
ここに集められた面々はネシリの件を知っていたのでネシリが神の力を使えるのは驚かない。
「そこでだ。
ネシリは神として亜空間を創る力を使いこことは別の新たなる世界を創造し発展させよ。
そして囁く音色のメンバーとゼストとロムサはネシリの補佐として働くように。
また天使族から聖騎士のユウラとリタも付けてやる。
ロムサだけ天使族ではバランスがとれぬだろうから。」
予想してなかった命令。
誰もが目を丸くして驚いている。
「はい?
何馬鹿な事を。
この世界はどうなるんですか?」
ネシリは思いもよらない提案に思わず突っ込んだ。
「続きを聞け。
我も別に新たな世界を創る。
我にはハネスを筆頭にこの城の者達と輝きの雫を連れて行く。
この世界はオザガラとフィリと五体の神々に我が新しい世界を創っている間を任せる。」
ハネスはすでにラゴーラから聞いていた様子。
動揺が一切見られない。
一方他の者は寝耳に水。
動揺が隠しきれなくざわついている。
「ご主人様にお尋ねします。
何故新しい世界を二つも創る必要があるのですか?」
オザガラが尋ねた。
「この世界は我が創ったものではない。
魔族の最後の一体は我が捕まえてある。
故に大きな脅威はしばらく起こらないだろう。
以前より我は初めから世界を創りたかった。
今がいい頃合いだろう。」
いつまで経っても残りの魔族を見つけ出せないのはラゴーラが捕まえていたからだった。
ギルドが頑張って捜しているのを報告済みなのだから知らないはずもなし。
ならばせめてオザガラかフィリに言おうよと周りは思ったがラゴーラには言ったところで無駄と分かっている。
「ご主人様がそうされたいのは分かりました。
ですがネシリは本人が望んでもいないのに何故新世界を創らねばいけないのでしょうか。」
フィリが次に尋ねた。
「何故かと申すか。」
ラゴーラは吹き出しそうなのを我慢している。
「それはネシリが困ると我が面白いからだ。」
答えて我慢しきれなかったのか高らかに笑う。
「結局それかぁ。
ここにも大きな子供がいる。」
ネシリは呟いた。
ゼストとハネスとラゴーラ以外は呆れたように深い深いため息をつく。
ゼストは何か楽しい事が起こるかと瞳をキラキラさせてネシリを凝視していた。
「ネシリよ。
これは我の命である。
早急に亜空間を開き新たな人類の世界を創れ。」
こうなると誰もラゴーラを止められない。
「これきりにして下さいよ。」
ネシリは渋々引き受けるとラゴーラは満足げに言う。
「どちらが立派な世界を創るか競争だな。」
ラゴーラの城からの戻りは帰宅せずに阿吽の呼吸でオザガラの執務室にみんなで転移していた。
「なんだってこんな事思いついたんだろうな。」
オザガラの執務室は人数多くてギュウギュウなので隣の会議室に移る。
ゼスト以外の表情は重い。
「この世界に飽きたんじゃない?」
「ネシリいじりも壮大な話になったわね。」
「どちらが立派な世界を創るか競争だじゃないって。」
「新しい世界を創れって簡単に言ってたけど何千年もかかりっきりになるよ。
この世界もそうだったから。」
「馬鹿じゃないの。
あいつ。」
「あいつって呼んだらダメだぞ。」
「馬鹿もダメだ。」
「言いたくなる気持ちも分かるけどね。」
ゼストとロムサを除き他の者はこの世界のほぼ始まりから存在していた。
「しかもネシリだけが神って。
神の数少なっ。」
「ご主人様の腹の中には大戦時にさ何百もの神々入ったもんな。
この世界はその何百もの神々が創ったんだよね。」
「そうそう。
綺麗に言っても喰われたって事な。
ご主人様はその力を使えるけどネシリは一体じゃない?」
「ゼストもあるけど神の力。
でも下位の力しか無いもんな。」
「この世界より年数は必要だわ。」
「全然やる気にならん。」
ネシリのパーティの会話を聞いていたグラシア達。
「あなた方は仲良しだけで良いわね。
二体天使族が増えてもあの子達は気がいい子だし。」
「俺らなんてご主人様とだよ。
今までネシリとロムサがいたから俺らは面倒事に巻き込まれてなかったけど。」
「これからは私達が相手しないといけないなんて。」
ネシリとロムサは苦笑いをした。
「私達だってあなた方がいなくなったら手が回らなくなりそう。
オザガラと私だけ残されるって無いわぁ。」
「下の者を育てたらいいでしょ。」
「残りたくないなら変わるわよ。
平穏なこの世界の方が数万倍もましだもの。
代わりにご主人様と行って。」
「うーん。
それは嫌だわ。
こっちで頑張るよ。」
「そうなるよな。
はぁ。
気が重い。」
それぞれ不安しかないがラゴーラには逆らえない。
どんなに嫌がっても従うしかなかった。
それならばラゴーラと一緒より緊張しないし意見も通るネシリと一緒の方が気楽で楽しいとネシリサイドは切り替えた。
ラゴーラサイドは目の前が真っ暗になっている。
「まあ気分を変える意味でも何か食べましょうか。」
「そうね。
さっきは何も食べ物を受け付けなかったけど今なら食べれそうだわ。」
「美味しいもの食べよう。
どれにするかな。」
「もうここの食堂のご飯は食べに来れなくなるから最後に思いっきり食べとこうか。」
「そうね。
後悔ないようにたくさん食べときましょう。」
みんなで食堂に移動する。
ゼストはここでも食べる気満々。
山盛り運んでは食べている。
「ゼストを見ているとなんとかなりそうな気がするな。」
「あんな目にあったのに元気だわ。」
ゼストの件を思い出しまた今回の件もありラゴーラに対しての信頼が薄れているのをそれぞれに感じつつも言葉に出す者はこの時点ではいなかった。
ネシリは食べ終わると感慨にふけているみんなを尻目にサッサと食堂の全メニュー人数分かける十食以上を作ってもらっては料理を収納している。