表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/72

第8話 レアだからって高値で売れる訳じゃない

 

「リーダー!!ダンジョンの扉が出現したぜ!!」


「ああ、見えてる」


 PKを生業とする盗賊ギルド【山猿】のリーダーは、ハイセ達が出てくるのを木の影からジッと待っている。


「こんな所にダンジョンなんてなかった。つまり、あいつらの誰かが宝の地図を持ってたってことだ。ダンジョンから出てすぐに襲えば直近で手に入れたアイテムを1つドロップするはずだ」


 WSOではBAでのPK (プレイヤーキル)システムが存在している。しかし、推奨されている行為ではなくPKを繰り返すとプロフィールにドクロマークがついてしまう。ゲームをするにあたって特に損がある訳ではないが、WSOの世界では嫌われ者になってしまうのだ。

 そして、そのPKを生業とするギルドも存在する。


「出てきた!あ?2人?確か、入る時は3人じゃ……」


 扉の中から出てきたのはメイスを持つ男と弓を持つ女のみ。


「ひゅー、綺麗な姉ちゃんだ」

「馬鹿か、あんな美人ネカマに決まってるだろ」


 女の容姿を見てメンバーは騒いでいる。しかし、リーダーは1人足りないことに違和感を拭えない。


「リーダー、ちゃちゃっと襲おうぜ」


「待て、あと1人銀髪の男が居ない」


「なんかトラブって『強制送還』アイテムでも使ったんだろ」


 そう言うメンバーの男の背後に影が落ちる。リーダーの男が視認した時にはもう既に遅かった。


「へー、強制送還アイテムってのがあるのか。良い情報だ」


 メンバーの男の首を銀髪の男が一撃で切り落とす。


「俺らを襲うとしたんだろ?なら、やり返されても文句は言えねぇよな?」


「ヒ、ヒィ……」


 銀髪の男の瞳が妖しく光った。


 ◇◇◇


 時は少し遡り、扉に入る前。


「なあ、扉に入って出るまでのワープって何秒ぐらいだ?」


「ん?大体3秒くらいじゃないか?それがどうした」


 3秒か……。


「スキルを発動したままワープってできるのかな」


「どうだろうな。だが、バフが乗った状態でワープは可能だから、できるんじゃないか?……ああ、なるほど」


 吾郎は理解したようだ。


「俺は隠密を発動した状態で出てみる。上手く行けばあいつらは俺を視認する事ができないだろ」


「なるほどね、その隙にハイセが裏を取るって事ね」


「そゆこと。適当に数減らすから、お前らも適当に殺ってくれ」


「「はーい」」


 準備はOKだ。

 まぁ、別に面と向かって戦ったって勝てるだろうが、色々試してみるのも面白い。


 PVPシステムについて少し解説しよう。

 PVP。プレイヤーVSプレイヤーではモンスターのように地道に体力を削る必要がないのだ。もちろん、あらゆる部位に攻撃を当てHPを削りきり倒す事も可能だが、一撃必殺が基本とされている。

 一撃必殺となる攻撃は、首を切り落としたり、心臓や頭を撃ち抜いたりと現実でも確実に死ぬだろうと言う攻撃は一撃必殺になる。


 ◇◇◇


 時は戻り現在。


「ふぃー……大体15人くらいか?」


 俺の周囲には金とドロップしたアイテムが散らばっている。


「し、死ねぇぇえ!!!!」


「お?」


 まだ1人居たようだ。しかし、そいつはスミレの矢で頭を撃ち抜かれ粒子になって消えた。


「油断しないの」


「はいはい」


 後ろに居たことくらい気づいてたし、油断してないし。なんて言ったらガミガミ言われるだろうからここは我慢だ。


「プレイヤー狩るのはモンスターより楽だな」


「おいおい、物騒なこと言うなよ」


「こいつら倒して私達にドクロは付かないの?」


 確かにPKしたことには変わりないな。


「大丈夫だ。ドクロ付きのプレイヤーだったらPKしても正当防衛扱いだ」


「ならよかった」


「痛い目で見られたくないもの」


 この盗賊のヤツらの中にはドクロが付いていないやつも居たがドクロ付きとパーティーを組んでいる時点で同じ扱いになるらしい。


「さて、じゃあこのパーティーはこれにて解散だな」


「そうね」


「お前らボコボコにできるくらい強くなってやるよ」


 そう言い吾郎は俺達のパーティーを抜けた。


「じゃ、また"向こう"でな」


 そのまま吾郎はログアウトしたようだ。


「スミレはどうするんだ?」


「え?なにが?」


 スミレはなんの事かわからず首を傾げた。


「いや、お前もやりたいことあるならわざわざ俺に付き合う必要ないんだぞ?」


「せっかくだから付き合ってあげるわよ。ハイセには私がいなきゃダメだから」


「何言ってんだ。お前が俺と離れたくないだけだろ」


 そう言うとスミレは顔を真っ赤にして睨んできた。


「ち、違うわよ!それを言うならハイセが!私と!離れたくないのよ!」


「あーもうはいはい、そういう事にしといてやるよ」


「そういう事ってなによ!」


 ギャーギャー騒ぐスミレを適当にあしらいながら俺達はフリオール大森林を後にした。


 ◇◇◇


 ◇SA【始まりの街:アルガン】


 俺とスミレはアルガンに戻ってきた訳だが、やることが色々ある。

 まずは、スミレの装備だ。スミレの装備は指輪以外全て初期装備、吾郎は貧相だと言っていたが、確かに強そうには見えないな。


「今回のダンジョンでどんくらい金貯まったかな」


「あの盗賊も結構持ってたみたいね」


「俺の所持金は……180ゴールド86シルバー23カッパーだ」


「私は…120ゴールド92シルバー45カッパーね」


 20カッパーしかなかった頃が懐かしく感じる。これならある程度の装備を揃えられそうだ。


「えー、なんでハイセの方がそんなに多いのよ」


「宝箱の報酬はアイテムだけじゃないからな」


「ズルい!!」


 ズルくないだろ…。宝の地図は俺が当てたんだ。


「これも売りに行かないとなぁ」


 ダンジョンに入って一番最初に手に入れたアイテム【ウルフの心臓】だ。SRの素材だからそこそこ高く売れるはずだが。


「アルガンに素材を買い取ってくれる所ってあるのか?」


「吾郎が言うには生産系プレイヤーは素材を買い取ってくれるらしいわ。レアな素材だと市場より高い額で買い取ってくれるみたい」


 とは言え、そんな都合よく生産系プレイヤーっているのか?


「確か、上位の生産系プレイヤーは自分の店を構えるんだっけか」


 マップを開けて見てみる。アルガンにある施設が詳しく記されている。店を構えればこのマップにもその店が載るのだ。


「えっと……」


「これそうじゃない?」


 俺がマップを見ているとスミレも俺のマップを覗いてきた、近い近い。自分の見ればいいのに。


「【アリシア武具店】か。あそこの路地を入った所にあるな」


「路地裏の店ってなんか怪しいわね」


「まぁ、行くだけ行ってみようぜ」


 俺達はアリシア武具店へ向かった。


【アリシア武具店】


 薄暗い路地にひっそりと構えられた店。看板は錆び付いており本当に営業しているのかすらわからない。


 〔カランカランッ…〕


 扉を開ける。


「へー、中は意外と綺麗だな」


「しっかり整理整頓されてるわね」


 NPCが経営している武具店とは違い安価な武器でも丁寧に飾られている。

 すると、店のカウンターの奥おそらく鍛冶場からドタドタと足音が聞こえる。


「わっ、お客さんだ!いらっしゃいませ!」


 活気の良い女性が出てきた。袖捲りしたワイシャツにつなぎを着ている。茶髪の綺麗というより可愛いよりの顔、いかにも鍛冶師って感じだ。


「ここに来るなんて珍しいね!よく薄汚い路地裏に来ようなんて思ったね!」


 自分で言うなよ……。


「あ、私はアリシア!よろしくね!今日はどういった用件で?」


 アリシアはニコッと快活な笑みを浮かべた。


「こいつの装備と、素材の買取をしてほしいんだが」


「こいつってなによ」


 すると、アリシアはスミレをまじまじと見る。


「お姉さん、そのアクセサリー以外は初期装備だね。お金は大丈夫?」


「問題ないわ。120ゴールドはあるから」


「へー!それだけあれば好きな物買えると思うよ!自分が気に入ったものを選んでね!」


 スミレは防具が飾られている場所へと向かった。


「お兄さんは、そのマントは相当な上物だけど、それ以外は初期装備ね。素材でお金貯めてるの?」


「いや、金はある。ただ俺が持ってても意味の無い素材ばかりだから売りに来たんだ」


「せっかくならお兄さんも武器とか見てったら?なんの武器使ってるの?」


 俺は腰に挿した刀をトントンと指で叩いた。すると、予想通りの反応が返ってくる。


「ああ……日本刀。ま、まぁこのお店にも数本置いてあるから、良かったら見てみてよ。お金の無駄だろうけど」


 最後はボソッと言っていたがしっかり聞こえているぞ。


「武器は必要ない。さっきSRの武器を手に入れたばかりだからな」


「SR!?すごいね!その日本刀がそう……うぇえええ!?!?」


 俺の刀を見てアリシアは腰を抜かすほど驚いている。


「びっくりしたぁ、なんだよいきなり」


「そ、それって加州清光だよね……?」


「そうだが……」


「すごいすごい!!名刀中の名刀じゃん!!それ売ったら1000ゴールドはくだらない!!超一流の装備揃えられるよ!」


 そうか。日本刀はコレクターが多いんだっけか。確かに、現実にも存在した日本刀もこの世界には存在する訳だからレアな武器は高い値が付くのか、それが不遇武器だとしても。


「日本刀は辞めてロングソードとかにしない!?"そんな"武器使ったってすぐ嫌になるだけだよ!!」


 酷い言われようだ。おそらくアリシアは古参プレイヤーだろうな。日本刀に対して"使えない武器"という固定概念が定着している。


「ハイセ、帰りましょ」


「え?お姉さん?もういいの?」


「スミレ?防具はいいのか?」


「こんな人のお店で買いたくない」


 スミレは怒りの表情を浮かべている。アリシアの言い様が癇に障ったようだ。


「ひ、酷いなぁ……」


「事情も知らないで好き勝手言って、ハイセの前であんなに馬鹿にするなんて」


「スミレ」


「痛っ……」


 俺はスミレにデコピンをした。


「やめろ。赤の他人が俺達の事情なんて知るわけないだろ」


「でも、ハイセは現実でもゲームでも我慢ばっかり……」


「あのな、WSOでは日本刀は不遇武器だってわかってるだろ?だから、こういう目で見られるのは覚悟してる。こんな事でいちいち腹立ててたらキリないぞ」


「わかった……」


 スミレは俺の代わりに怒ってくれてるんだ。その思いも無下にはできないが、この世界ではこれがふつうなんだ、受け入れる他ない。


「こんなって言ってごめんなさいアリシア。素敵なお店よ」


「い、いや、私の方こそ気に障ることを言ったみたいでごめんなさい……。えっと……」


「スミレよ」


「ハイセだ、よろしくな」


「うん!スミレさん、ハイセさん、よろしく!」


 さて、仲直りも済んだし本題に入らないとな。


「素材のことだが、なんでも買い取ってくれるのか?」


「うん!モンスター素材ならね!薬草とかの自然素材は買い取れないよ!」


「わかった。とりあえず、こんだけ」


 俺はウィンドウを開き、インベントリからダンジョンで得たモンスターの素材を全てアリシアに見せた。


「えぇ……多すぎない?どこ行ってたの?」


「ダンジョンだ」


「なるほどねぇ、それでもこの数は多いけど……」


 アリシアはそのまま勘定を始める。


「ウルフの毛皮22、牙が10、トレントの葉が32、枝が15、コボルトの爪24、キラービーの毒針16、シャドウサーバントの角!?すごいね……」


「凄いのか?」


「うん、シャドウサーバントはアイテムをあまりドロップしないんだけど、たまに角をドロップするの。ランクはRだけど手に入りづらいアイテムだよ」


 へー、なんかあのダンジョン気前がいいな。


「もしかして、【山賊のコイン】使ったんじゃない?」


 山賊のコインって言えば吾郎が当ててたアイテムか。


「効果は『1時間の間"パーティー全員"のドロップ率2倍』だね!山賊のコイン使ってないとこのドロップの多さは考えられないよ」


 吾郎のやつこっそり使ってたのか。カッコつけやがって。明日礼を言っとかないとな。


「よし!〆て89ゴールドだよ!」


「おお、結構高く売れたな」


「レアアイテムも多かったからね。素材の買取はこれだけ?」


「あと1つだけ」


 こいつを売りに来たんだった。その他はおまけだ。俺はウルフの心臓をアリシアに見せた。


「あー、ウルフの心臓ね……」


 あれ?思った反応と違う。もっと腰抜かして驚くと思ったんだが。


「レアなアイテムではあるけど、正直使い道が……」


「なんかのポーションに使うって聞いたけど」


「うん、鬼人ポーションって言うのに使うんだけど、そのポーションの使いどころが少なくてねぇ。必要な時はめちゃくちゃ便利なんだけど……。まぁ、それでウルフの心臓はSRだけどあまり求める人は少ないんだよ」


「なるほどなぁ」


 せっかくのSRだが、あまり良いものではなかったみたいだ。


「でも、必要な人が出てきた時に高く売れるはずだから、その時の為に私が預かっておこうか?」


「ああ、頼む。売れたら3割やるよ」


「いいの!?やったー!!」


 まぁ、ウルフの心臓は売れなかったが他の素材が高く売れた。目的は達成してるな。


「これにするわ!!」


 スミレが防具を決めて戻ってきたようだ。既にその装備を身につけている。


「ほう……」


 これは中々…。

 上は朱色の半着だが肩の所がはだけていて肩口と袖を繋ぐように数本の糸で繋げられており、スミレの細く白い肩と脇が少し露出している。……エロい。

 下は黒色の袴だが裾が膝上程しかなく短い。最近はキュロットスカートっていうのか。正直エロい。


「いいね!」


「でしょ!」


 いいねと言うしかない。目の保養は大切だろ?別に下心とかじゃないから。


「うわぁ!スミレさんが着るとすごく綺麗ね!」


「照れるわね……。それに"さん"は要らないわ。スミレでいいよ」

「俺もハイセで構わない」


「わかった!2人ともいい人ね!」


 アリシアは笑顔を浮かべ俺達の手を握った。


「スミレの装備は全部でいくらだ?」


「えっと…25ゴールドだけど、サービスで20ゴールドでいいよ!」


「気前がいいわね!じゃあ」


「ほら、20ゴールド」


 俺は20ゴールドを取り出し、アリシアに渡した。


「え、いいの?」


「買ってくれって前言ってたろ。結構な額手に入ったし、この位は出させてくれ」


「うわぁ……ハイセ男前だね」


「ありがと、ハイセ!大事にするわ!」


「おう、用も済んだし適当に冒険いくか」


「そうね。ありがとアリシア、また来るわ」


「うん!また来てね!あ、そうだ」


 アリシアはなにか思いついたように顔を上げた。


「さっき怒らしちゃったお詫びにとっておきの情報あげる!」


 とっておきの情報?


「スミレの武器は弓だよね?」


「ええ、そうよ」


「SRの弓、欲しくない?」


 イタズラな笑顔を浮かべながらアリシアは言った。その言葉を聞きスミレの瞳が輝く。


「欲しい!!」


「ここ、始まりの街:アルガンから北東に進んだところに街があるの。アルガン程の大きさではないけど盛んな街だよ。そこの隣にある【ゼナルド山脈】ってエリアがあるんだけど、そのフィールドに生息するモンスターのレア素材でSRの弓が作れるの!」


 そうか、モンスター素材でも鍛冶師だったら武器を生産することもできるのか。SRの武器も作れるんだな。


「SR以上の武器を作るにはマスタースミスである必要があるんだけど、そこは私に任せて!レア素材手に入れたらここに立ち寄ってね!」


 今の言い方だと、アリシアはマスタースミスなのか。

 生産系スキルを駆使するプレイヤーを"スミス"と呼ぶ。そして、その生産系スキルの熟練度を一定以上まで上げたプレイヤーのことを"マスタースミス"と呼ぶのだ。


 マスタースミスになるのは簡単なことじゃない。アリシアはこんなんだが実は凄いプレイヤーだったんだな。


「ん?なんか今ハイセに馬鹿にされた気がする」


「え!?いや、そんなことない」


 もしかしてアリシアも第六感の使い手か……?


「と、とりあえず次の目的地は見つかったな!」


「ええ!早く行きましょ!」


「頑張ってね!2人とも!またね!」


 俺とスミレはアリシアに手を振り、アリシア武具店を後にした。


ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ