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第73話 無銘故に

【龍の都:ドラゴニア】とある塔の頂上


「なん……だと……」


 白衣を身に纏う男は顔を押え、跪く。


「龍神が……倒された……?」


 黒髪を両手で掴み、頭を上げた。


「素晴らしい!!!!!!!!」


 満面の笑みを浮かべて。


「なんという事だ!!!!かの龍神を倒した!!!理性を失ったとはいえ神話のモンスター!!!それをたった6人の冒険者で!!!!はぁはぁ!!システム上では龍神は非敵対モンスター……管理者達も倒されるように設定していないはずだ!!!それなのに彼らは!!いや、もしや管理者が手助けを……?それだとしても素晴らしい研究データが取れた!!!これなら……これなら私の研究も実現出来る!!!!やった!!やったぞ!!!ついに……できる!!!!」


 男は両手を広げ歓喜を叫ぶ。


「神々の黄昏……【終焉(ラグナロク)】を!!!」


「そこまでだ」


 黒髪の科学者の首筋に刃が立てられる。

 背後には赤髪の青年、かつてのナンバーワンギルド原初のジール。


「貴様、この一連の事件の関連者だな」


「……はて、なんの事やら」


 ジールは首を傾げる。

 この黒髪の科学者には不可解な点が多い。

 プレイヤーにしては異質な出で立ち、そしてなにより、この男にはプレイヤーネームとそれを示すアイコンがない。


「NPC……?」


「NPC……ですか。まぁ、システム的にはそういう立ち位置になりますかね。管理者達は私を良いように使っているようですがね」


 科学者は呆れるように言う。


『システム』『管理者』、NPCであるなら絶対に口にしない言葉。


(アリシアはワールドクエストが出現するかもしれないと言っていたっけか)

「まさか、貴様、ワールドクエスト関連の特別なNPCか?」


 ジールは答えるはずがないと半ば諦めるように聞く。


「ワールドクエスト……ほう、なるほど。管理者達はそれに繋げたいのか。なるほどなるほど」


「貴様なにを……っ!?」


 背後に殺気。

 咄嗟に飛び上がり、攻撃を躱す。


「短剣……?」


「ヒヒッ……いやぁ!凄いですんね!流石は熟練の最古参プレイヤーだっ!」


 この場に似つかわしくない脳天気な声、なによりその格好にジールは思わず顔を顰める。


「道化……」


「お初にお目にかか……うひょ!?」


 ジールは双剣を抜き取り道化に襲いかかる。


「貴様、何を知っている。この状況はなんだ。あのNPCはなんだ」


「んー、質問が多いですねん。まぁ、後々分かりますよーん。んじゃ!僕はここいらで!」


「逃がすかっ!!」


 双剣を振りかざすが、道化の姿は陽炎のように消えた。

 そして、それに乗じて科学者の男も姿を消していた。


「アリシアに言われて独自で色々探っていたが……まさかドンピシャで見つけちまうとはな」


 溜め息を吐きながら双剣をしまう。


「……後であいつらに報告するか」


 戦いを終え、談笑する百花繚乱を尻目に、ジールはその場を後にした。


 ◆


【怨龍神:アル・ファナトリアの討伐を確認しました。ワールドクエストが進行します】


 ワールド・シーク・オンラインの世界にシステムの言葉が響いた。


 ◇◇◇


「ハイセ!まさかファナトリアを倒すなんて……」


「ギルバート、宝玉ありがとな。助かった」


「礼を言うのはこっちの方だよ。もしもの為にとハルに持たせたんだけど、役に立ったようでなにより」


 ギルバートの機転のお陰だな。

 やっぱギルマスはこんぐらい機転が利くような奴じゃないと務まらないのかな。

 だとしたら脳筋である俺にギルマスなんて務まらないんじゃ……。


「でも、ハイセの刀が……」


 ポッキリと折れた刀を見てギルバートは申し訳なさそうな顔をしている。


「刀が折れたのは俺が未熟だからだ。気にすんな」


 これで2本目か。リアルだったらじじいにどやされてるな。

 後悔はないが、苦楽を共にした相棒を失った虚無感に苛まれるのは致し方ないことだ。


「あ、だったら西風連合のギルド倉庫から好きな刀持ってってくれよ!ハイセのお眼鏡に叶うかは分からないけど、種類は結構あるんだ!」


 ありがたい申し出だが……。


「今回のクエスト報酬はあいつらに選ばしてやりたいから。自分で刀を探してみるよ」


「ん?いや、クエスト関係なく普通にプレゼントとして……」


「いやいや、そこまで貰うのは申し訳ねぇよ」


 俺がそういうとギルバートは呆れたように溜め息を吐き、肩をすくめる。


「えっと、ユニークアイテムってのはURとは比べ物にならないほど貴重なアイテムなんだ。有用なURアイテムを100個渡されたとしても譲れないほどにね。つまり、そんなアイテムを届けてくれた百花繚乱には相応のお礼をしたい。むしろ足りないくらいだ」


「そ、そうか?」


 曰く、クエスト履行書では報酬が3つしか設定できないらしく、元々クエストが完了したら俺達6人に1人1つ報酬をくれる予定だったらしい。

 律儀なこった。


「報酬を渡したいから、うちのギルドの宝物庫にいこう」


「ああ」


 ◇西風連合ギルドハウス:宝物庫


 樽から溢れる金銀。

 ショーケースには綺麗に並べられたアイテムの数々。


「四宝玉を取りに来た時にも思ったが……」


 ギラギラすぎて目を細めてしまう。


「なんか……凄い金持ち?なんだな……」


 The宝物庫!!って感じの宝物庫だ。

 どこのギルドでもこんな感じなのか……?


「ああー、僕らはトレジャーハントを生業としたギルドだからね。他のギルドよりは宝物は多いかもね」


 トレジャーハント。なるほど、PvPよりもダンジョン攻略やエリア探索に特化したギルドってことか。

 ん?でもこいつらギルコンはトップ30に入ってたよな?


 あれ、西風連合って思ったよりも凄いギルド……?


「ほあああ見て見て!アリシアさん!!この指輪綺麗!」

「綺麗ね!それに立派な宝物庫!羨ましい……」


 ハルとアリシアはうはうはしてるな。

 スミレは飾られている弓をじーっと見ている。

 キッドとシオリは金銀財宝に目を輝かせている。


「ははっ、皆好きな物選んでね。ハイセは刀でいいのかい?」


「ああ、良さげなものがあればそれにするよ」


「わかった!」


 ギルバートがパネルを操作すると、金銀財宝は消え、刀が一面にズラっと並んだ。


「おお……」


 壮観だな……。

 結構種類あるって言ってたが……とんでもない数だ。


「ギルメンの1人が重度の刀マニアでね。まぁ、もう引退しちゃったんだけど。折角のコレクションがデータの彼方に消えるのは忍びないからって宝物庫に押し込みやがったんだ」


「ほぇぇ……」


 これは!


「ほああ……」


鬼丸国綱(おにまるくにつな) UR】

童子切安綱(どうじきりやすつな) UR】

三日月宗近(みかづきむねちか)UR】

大典太光世(おおてんたみつよ) UR】

数珠丸恒次(じゅずまるつねつぐ)UR】


 なんてこった!天下五剣が揃ってやがる!

 この中の一振を貰うか……?

 いや、この名刀たちは自分の手で揃えたい気もするし、このままここで揃ってて欲しいって気持ちもある。


「あっ、そうだ。なぁギルバート、一覧みたいなのあるか?」


「あるよ、はい」


 ウィンドウが俺に向けられる。


「んー……っ!?」


 合計32本!?

 よくこんなに集められたなぁ……。

 っと、そうじゃない。

 もしかしたらこの中に……。


「……」


 ……。

 …………。

 ………………。


「……ないか」


 天下五剣も揃ってたし、もしかしたら鷹見家の宝刀『鷹神』があるかもと思ったが……。

 まぁ、ないものは仕方ない。


「それにしても色んな刀があるんだな」


「そうだね。史実に基づいた刀からこの世界独自の刀も」


 刀身が属性そのもので形成されたビームサーベルのような刀もあれば羽をそのまま伸ばしたよな刀、ゴッテゴテの装飾が施された見るからにファンタジーな刀まで。


「ん?」


 何だこの刀。

 見るからに普通の刀だ。

 徐に手に取り、鞘から刀を抜く。


「へぇ……」


 見たこともない刃文。おそらくこの世界独自の刀だろう。

 やや長めの刀身、打刀と言うより太刀に近いか?

 何の変哲もない普通の刀。

 なのに、妙に惹かれる。

 良い刀だ。


「あ、それ、"無銘シリーズ"じゃない?」


 俺の背後からヌッと出てきたシオリがこの刀を見て言った。


「"無銘シリーズ"?」


「無銘シリーズってのはね!」


 話を聞いていたアリシアがここぞとばかりに説明してくれた。


【無銘シリーズ】

 URアイテム『黒鉄(くろがね)』と呼ばれる武器素材から作成可能のプレイヤーメイドの武器シリーズ。無銘武器同士を繰り返し合成強化することにより性能を向上させることができる。強化限界値は11。壱から始まり拾まで強化され、限界値に達すると零と表記される。強化を繰り返すにつれ合成の成功確率は下がっていく。

 ※無銘以外の武器には強化や合成という概念はない。


「でねぇ、その合成確率ってのが鬼畜なの!強化値:漆を過ぎたあたりから確率がガクンって下がってね、限界値の零の成功確率は2%!2%だよ!?アイテムと鍛治スキルで確率は上げられるとはいえ、それでも極低確率なの」


「へぇ、エンドコンテンツみたいなもんか?」


「いや、あれは暇人がやるだけの暇つぶしコンテンツだよ」


 辛辣だなぁ。


「そりゃ限界値まで強化できれば強い武器だけど、逆に限界値までいかなきゃこれといって特徴のない武器なの。普通にボスドロップの武器の方が強いしね」


 アリシア曰く、無銘武器のメリットは

 ・スキル欄が全て空スロット

 スキルを好きにカスタマイズできる。

 ・固有の武器攻撃力がボスドロップのものより高い

 単純に火力が出やすい。


「明確なデメリットもあるよ。

 ・限界値まで強化しないと武器攻撃力がさほど。

 ・【豪炎天魔】や【黒翼壁】【大鷹の暴嵐】のような強力な固有スキルが無いこと。

 ・攻撃範囲拡張や会心率上昇のような【特殊効果】が付かない。

 みたいなね」


 ふむ。この説明を聞くにデメリットの方がデカイなぁ。

 えー、俺この刀いいなぁって思ってたのに。

 妙に惹かれるんだよなぁ。


「この無銘武器の強化値っていくつなんだ?」


 俺がそう聞くとギルバートはふふんと鼻を鳴らし胸を張る。


「ステータスウィンドウを見たまえよ」


 俺とアリシアは提示されたステータスウィンドウを覗き込む。


 確か【無銘の〇〇】って名前の横に強化値が記されてるんだよな。

 どれどれ……っ!?


【無銘の刀 零 UR】


「「零!?」」


 まじかよ……。


「強化限界値だ……」


「す、すごい……」


 ギルバートは懐かしそうに無銘の刀を見る。


「ヤス……その刀マニアな、鍛冶師でもあったんだ。黒鉄を集めちゃ無銘の刀を制作していた。

 途方もない作業だが、『引退する前にこいつを完成させたい』と言い心血注いで制作されたものなんだ」


 妙に惹かれる理由がわかった気がする。

 俺は普段から刀に触れているからか、製作者の執念のようなものを感じ取れる。

 へし切長谷部も加州清光も、おそらくこの2本はこのゲームの刀をデザインした製作者の拘りが感じられたからだろう。


 この刀もそうだ。

 途方もない執念。何がなんでも完成させるという魂を感じた。


「完成したのは半年前だったかな?満足そうに引退してったよ。『ファルケくらい刀を使いこなせる奴がいたら譲ってもいい』って言葉を残してね」


 ファルケほど……ね。


「固有スキルに匹敵する強力な【スキル秘伝書】があればURの中でも最強格になると思うよ?」


 ん?

 スキル秘伝書……。


「なぁ、へし切長谷部のスキルって移植できるのか?」


「固有スキルは無理だけど、その他ならできるよ!」


 なるほど。

 それだったら……。


「この刀、貰っていいか?ファルケって奴ほどの技量があるとは思わないが」


「もちろん!ハイセしかいないよ!」


 〔ピコンッ〕


【!プレイヤー:ギルバートからギフトが届いています。受け取りますか?】


 はい。


【名称:無銘の刀 零 UR スキル:空きスロット 空きスロット 空きスロット 空きスロット 空きスロット 特殊効果:なし】


「おお、空きスロット5つ。本当になんのスキルも付いてないや」


「無銘武器で大丈夫なの?聞いた感じ、他のボスドロップの方がいい気がするけど」


「大丈夫だよスミレ。"固有スキルに匹敵するスキル秘伝書"があればいいんだろ?」


 なら、問題ないな。


「貰ってくぜ、ギルバート。ありがとな」


 貰った刀を腰に挿し踵を返す。


「うん!こちらこそありがとう!何かあったらメッセ送って!すぐ駆けつけるから!」


「おう、またな」


「ちょっと!師匠!まだ選び終わってないんですけど!」


 両手の指にギラギラの指輪を嵌めたハルが必死な顔で足に抱きついてきた。


「早くしろ……」


 新たな相棒を手に、俺達は龍の都を後にした。


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