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第72話 天上之雷(インドラ)

 

 俺の残りHPは既に1割を下回っているが、咄嗟にキッドが俺を庇い【エピックガーディアン】を発動。ダメージを肩代わりし、パッシブスキル【根性】でギリギリ耐えていた。

 それを見たシオリがすかさずヒール。それに続いてハルもキッドをヒールし、難を逃れた。


 だが、影はまだ晴れない。


「っ!!」


 ステータスバーに見慣れないアイコン。

 見るからにバッドステータスだ。

 ってことは……。


「くっ……継続ダメージ……」


 体感5秒で10ダメージってとこか。

 俺の残りHPは数字にして100。

 耐えられる時間は50秒か……。


「この影を止める方法は?」


『本体を倒す他あるまい』


 当然だと言わんばかりにファナトリアはそう言うが、如何せん隙がない。

 おそらくこの【天下之影(ヴリトラ)】は一定HPを下回った時に発動する奥の手だろう。

 それに加えレーザーにホーミング弾。

 今の俺が掠りでもしたら即死だ。


 だが、やるしかない。

 リンクを解いてビールしてもらうって手もあるが、シオリとハルのMPも連戦により残り僅かだ。強力なスキルを使うこともできない。

 ファナトリアの残りHPは1本を切っている。


「ファナトリア、奥義で残りHPを削り切れるか?」


『ふむ、彼奴のHPバーは残り1本……それも残り8割といったとこか』


「どうなんだ?」


『可能だ。弱点である脳天に攻撃を当てるかつ、防御力を無視するパッシブスキルがあれば……だが』


 防御力を無視するパッシブ……。

 なるほど。


「なら、いけるな」


【宝斬】のリキャストは残り30秒。

 ギリギリ間に合うな。


「ふぅ……」


『覚悟は決まったか?』


「……ああ」


 やれるだけやってやる。


「キッド、お前は下がって回復に専念しろ」


「1人で行くつもりですか……?」


「時間が無い。全速力でいく」


「わかりました」


 さすがに状況を理解するのが早いな。

 キッドは重装備のタンクだ。俺の全速力についてこれるはずも無い。


「ハル、お前も下がってキッドの回復を優先してくれ」


「……はい。わかりました」


 若干の迷いを見せたハルだが、快く頷き後方へと下がる。


「もし、奴のHPを削りきれなかったら、後は頼むぞ。百花繚乱」


「「「「「了解!!!!!」」」」」


 まぁ、やられるつもりなんて毛頭ないがな。


「いくぞ、ファナトリア」


『うむ』


【スキル:龍迅】


 龍迅の効果で俺のAGIは大幅に上昇。

 グッと脚に力を入れ、地面を強く蹴り出す。


 龍迅の効果により俺は黄金のオーラを身に纏う。

 地を這う黄金の彗星が如く戦場を横断。

 もちろんファナトリアもそれを黙って見ているはずがない。

 放たれたレーザーは俺を迎え撃たんと正面から迫ってくる。

 だが、足を止めてる暇は無い。

 トップスピードを維持したままヒラリと躱し、難を逃れる。

 次に迫るは無数のホーミング弾だ。

 難なく躱すが、弾は俺を追尾する。

 これに関しては問題ない。


 背中はあいつらに任せてある。


 〔バァン!〕〔タンッ!!〕


 迫り来るホーミング弾を片っ端からスミレとシオリが撃ち落としていく。


 俺が見据えるのはファナトリアだけだ。


 ファナトリアはオーラを集約させ無数の紫紺の槍を生成する。


「くそっ……」


 厄介極まりないな。

 紫紺の槍は俺に向かって放たれる。

 迎撃するか?

 ダメだ。迎撃だと速度が落ちて、最悪間に合わなくなる。

 スミレとシオリはホーミング弾を撃ち落とすので精一杯、ハルはキッドの回復があるしリボルバーじゃこの距離は撃ち落とせない。


 頼ってばっかじゃいられない。

 俺がやるしかない。

 トップスピードを維持したまま、この攻撃を"受け流す"。


 集中しろ。

 自分本来の身体能力とこの世界のステータスが合わされば不可能では無い。

 第六感を最大限まで研ぎ澄ませ、相手の動作を見て先を予測。


「ふぅ……」


 ヒリついた空気。

 寸分でも違えばゲームオーバーの超ハードモード。

 足がすくんでもおかしくない局面だ。


「……はっ、上等」


『この局面で笑うとは、とんだマゾじゃな』


 マゾて。


「なんとでも言え」


 俺はトップスピードを維持したまま、紫紺の槍を受け流す。

 ホーミング弾と違って槍型だから受け流しやすいが……デカイ上に迫るスピードが段違いだ。


 まぁ、それがどうしたって話だが。


「ふっ……」


 全ての槍を捌き切る。


「な、なにあの動き……」


 シオリは若干引き気味にそういう。


「あの……シオリさん。俺にAGI上昇のバフをかけてくれませんか?」


 そういうキッドは確かな決意を持って頭を下げた。


「ちょっと、頭なんて下げなくて良いわ。……もしもの時の保険ってことね。わかったわ」


 そういいAGI上昇のバフをかけ、キッドはファナとリアの元へ走っていった。


「よっ、ほっ……っと、あっぶねぇ……」


 なんとか紙一重で躱せているか。

 現実なら有り得ない動きだ。ゲームならではだが、フルダイブという特性上、動体視力と反射神経が追いつかないと出来ない芸当だ。


 一重に第六感のおかげだが。

 じじいには頼りすぎるなって言われたが、こればっかりは体が勝手に動いてしまうから仕方ない。


「っと」


 迫る爪を躱し、伸ばされた腕をそのまま駆け上がる。

 肉薄したことにより、俺を狙っていた攻撃の数々は無くなった。


「……隙がないな」


 流石にこのまま脳天に攻撃はファナトリアからしたら格好の的だろう。

 なんとか隙を作らないと……。


「っ!!」


 俺の背後から2本の矢が飛来する。

 1本は大鷹を模した風を纏い、1本は氷気を纏う。それに追尾するように大量の氷柱がファナトリアに直撃した。


「スミレ……!」


 そして、ファナトリアの足元が若干凍りついた。


 この程度の状態異常ならすぐに解除されてしまうだろうが。


「この僅かな隙が欲しかった」


 ファナトリアの腕を伝い、大きく跳躍する。

 眼下には脳天。


 この一撃に全てを込めろ。


「……ありがとな、ファナトリア」


『礼を言うのは妾の方じゃ。ハイセ、ありがとう。頼んだぞ』


「ああ」


 任せろ。


「ふぅ……」


 1つ息を吐き。瞳を開く。

 構えは上段。

 使用する型は【鷹見流『轟雷』】

 脱力し、ファナトリアを見やる。

 そして、唱えた。

 龍神の奥義を。


【ーーーーーー天上之雷(インドラ)


 刹那。

 静寂が訪れる。

 時が止まったと錯覚するほどに静寂。

 しかし、その静寂は1人の男が放つ轟雷によって打ち破られた。

 鳴り響く万雷は龍の如く。

 埋め尽くす轟雷は神の如く。

 神々しい雷光を纏う男の一撃は、影に支配された戦場を取り戻さんと拮抗する。


「なっ……」


 脳天に直撃する直前、ファナトリアと俺の間に紫のシールドが展開されていた。

 だが、抵抗虚しくシールドは難なく打ち破られる。


 電撃を纏う刀はファナトリアの脳天に直撃した。


 雷光は次第に収束し、衝突した衝撃から爆煙が溢れる。


「や……やったか……?」


 キッド……。

 それはフラグだ……。


 煙は次第に晴れる。


「……くそっ」


 そこには、瞳をぎらつかせた手負いの獣がこちらを睨んでいた。


 HPはドット。


「やられた……」


 あの紫のシールド、俺の打点をズラすのが目的だったのか。

 打点をズラされたことによりクリティカルが発動できなかった。

 俺が当たり前にクリティカルを出してるから、ファナトリアはクリティカルが前提で話してたんだな……。


 あと1発大技をぶち込めば倒せるのに……。


 ファナトリアは口を大きく開き口内では紫紺のオーラが収束されていた。

 ブレスだ。

 衝突の勢いで俺は空中に放り投げられた状態、身動きが取れない。


 ファナトリアから放たれたブレスは俺の全身を包み込み、焼き焦がす。

 そして、俺のHPは底を尽きた。

 視界は暗転し、眼前には文字が浮び上がる。


【HPが0になりました】


 焼かれる直前。

 とある光景が視界の端に映っていた。


【宝玉の効果により蘇生します】


 宝玉を掲げるハルの姿が。


 光の粒子となりかけた俺の身体は緑色の光を発し、粒子は元に戻る。


「まだ……終わらねぇよ」


 ファナトリアとの約束がある。

 終わらせない。


【豪炎天魔】×【限界突破】


 纏う赤黒い稲妻のようなオーラは俺の体面を迸り、溢れる力を刀に収束させ、猛々しい炎が放出される。


 俺は刀を振り上げる。


 しかし、ファナトリアはそれを阻止せんと攻撃を繰り出した。

 迫り来る爪と俺の間に黒い鎧を身に纏う大盾を持った男が間に入る。


「俺は……百花繚乱の盾だ……!!」


 〔ガンッ!!!!〕


 しかし、背後からは無数のホーミング弾が襲いかかる。


【水花の帳】


「させないよ……!!」


 アリシアのスキルだ。助かった。

 俺の周囲には美しい華の形のバリアが展開され、ホーミング弾を相殺した。


「最高だ、お前ら」


 キッドに爪を弾かれたファナトリアは若干体勢を崩している。

 ここだ。


「十分暴れただろ。もういい加減……眠れ」


 ファナトリアは最後のあがきとシールドを展開するが、それも意味をなさず容易に破る。

 全てを焼き尽くす天魔の炎は再びファナトリアの脳天へと直撃した。


「硬ぇなくそ……」


【宝斬】の効果はもう無い。

 こっからは力技だ。

 ここまでお膳立てされて、おいそれと殺られてたまるかよ。


 かつてないほど全身に力を入れる。


「オォラァァァォァアアア!!!!!」


紅焔天斬(こうえんてんざん)


 へし切長谷部に亀裂が走る。

 躊躇いはない。

 信長に謝らないとな。


 ファナトリアの鱗に刃が通る。

 そして、豪炎を纏う刃は脳天から股下まで斬り裂いた。


「はぁ……はぁ……」


 豪炎は切り口から燃え広がり、ファナトリアを焼き尽くす。

 HPは0になり、ファナトリアは光の粒子となって霧散した。激しいノイズを残して。


 街を覆っていた影が晴れていく。

 影の隙間から漏れる光のカーテンは幻想的で、この戦いの終わりを告げるものだった。


 なんとなく振り返る。

 疲労困憊と言わんばかりの百花繚乱は俺を見て笑顔を浮かべている。


「俺達の、勝ちだ」


 俺も、それに釣られて、笑った。


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