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第71話 天下之影(ヴリトラ)


 時と場所は戻り【龍の都:ドラゴニア】


「チッ……」


 爪が掠った。

 さて、どうする。

 順調にファナトリアのHPは削れているが、それ以上に俺達の消耗も激しい。


「ファナトリア」


 〔何用だ〕


「リンク解除したらもう一度リンクできるのか?」


 〔無論、無理だ〕


 だろうな。


 〔本来であれば24時間後に再リンク可能となる〕


 本来なら?

 妙な言い回しだな。

 だがまぁリンク解除後すぐ再リンク可能だったら流石にゲームバランスがぶっ壊れちまう。

 なるべく被弾を避けながら、リンク状態を維持しないとな。


【龍迅】


【リンクスキル:龍迅 -- 説明:龍が如き神速を得る。【龍迅状態】となり、60秒間AGIを大幅に上昇させ、他リンクスキル発動時に追加効果を付与する。リキャストタイム:70秒】


「俺が隙を作る。スミレ、ハル、シオリはその隙に攻撃を」


「「「了解」」」


「キッドはタンクに集中してくれ」


「はい!」


「アリシア、前衛にバリアを」


「はーい!」


 各々の役割を確認し、俺はファナトリアに肉薄する。


【炎雷之神】


 今回は【龍迅】の効果付だ。

 思う存分炎雷を味わいやがれ。

 多段ヒットにファナトリアは仰け反る。

 しかし、体勢を崩したように見せかけて尻尾で攻撃を仕掛けてきてやがる。


「甘いんだよ」

【龍牙一閃】


 〔パァン!!〕


 パリィと同じエフェクトが放たれた。

 どうやらパリィは成功らしい。これで【龍牙一閃】のダメージは2.5倍だ。


「これは中々……難しいな」


 だができないことは無い。

 リキャストタイムも他に比べて少ない方だし、このスキルを中心に立ち回っていくか。


「そういや、刀の耐久値の表示が--になってるけど」


 〔リンク状態ならば得物に負荷がかかることはない。安心して振り回すが良い〕


 こんなとこにもお得情報が。

 だが順調に体力は減っているもんだからやるせない。


「?」


 ファナトリアの動きが止まる。

 ラグったか?いや、なにやら様子がおかしい。

 5本あるHPバーの2本目を全損したタイミングでのこの動作。


「やっぱあるか……第2形態」


 もしあのままだったら若干拍子抜けだったし、丁度いい。


「おい、ファナトリア」


 〔なんだ〕


「お前、あとどれ位変化残してるんだ?」


 〔変化?何を言っておるかはわからんが……〕


 素っ頓狂な声で答えるファナトリア。


 〔妾の強さは純然たる力だ。変化もクソもない〕


 その言葉を聞いた瞬間だった。

 闇属性を纏ったファナトリアの拳が俺の眼前に迫っていた。


「やべっ……!!」


【龍牙一閃】


 鈍いエフェクトが発生する。

 咄嗟に拳を弾こうとするが、さすがに間に合わない。パリィ失敗だ。


「ぐっ……」


 HPが5割を切った。

 そろそろ回復しないといけないが……いや、まだいけるな。

 ワンパン圏内ってわけじゃないし、まだまだリンク状態で楽しみたい。


 〔体力が半分を切ったが……ふむ、剛毅な男だ〕


「今回の戦いではもうリンク状態にはなれないんだろ?なら、ギリギリまでねばるさ」


 〔……そうか〕


 歯切れの悪い返答をするファナトリアを他所に、俺は刀を構える。


 って、おいおいおい……冗談だろ……。

 眼前に広がる光景に俺は冷や汗を流す。

 ファナトリアの周囲を浮遊するホーミング弾の数が倍ほどに増え、無差別レーザービームの威力も段違いに上がり、迫るスピードも増している。


「なぁ、リンクを解除したらお前はどうなるんだ?」


 〔妾は思念体だ。泣け無しの魔力を振り絞って貴様に力を与えている。リンクを解除すれば、妾は消えるだろう〕


「消える……」


 やっぱテイムできた訳じゃないのか。

 いやそもそもファナトリアの本体は今俺達が戦ってるもんな。テイムもクソもない。

 言うなればテイムというシステムを流用してファナトリアが力を貸してくれてるって理解の方が合点が行く。


 〔貴様……いや、ハイセ〕


「なんだ?」


 〔頼みたいことがある〕


「あとじゃダメか?今ちょっと忙しいんだけど」


 〔妾に後はない……聞いてはくれんか〕


 随分としんみりとしたしょぼくれた声だ。

 余程の事情があるようだ。


 〔妾は……この国を庇護する立場であった。だが、あろう事か不覚を取り、身体を狂気に染められた。そして……この国を……〕


 自らの手で滅ぼした。

 その結末は、この世界に無知な俺でも知っている。

 独立型AI……NPCといえど人と変わらず感情を持ち合わせているはずだ。

 それは……この震えた今にも泣き出しそうな声を聞けば嫌でもわかる。


「お前はもう正気には戻らないのか?」


 〔……うむ。もう、取り返しのつかん状態まで来ておる〕


「そうか。できれば……殺したくないな。お前は、良い奴だ」


 〔良い奴……〕


 ふっと笑う声が聞こえた。


 〔妾に遠慮はせんで良い。"アレ"はもう龍神:ファナトリアではない。【神話級モンスター 炎雷龍:ファナトリア】だ〕


 神話級モンスター?

 モンスターにも階級があるのか?

 それに、炎雷龍って……賢龍じゃないのか?

 情報量が多すぎる。後でまとめないと。


「まぁ、どうせ倒してもリスポーンするだろうし」


 〔ぬ?妾は1度死ぬと再起(リスポーン)はせんぞ?〕


「は……?」


 リスポーン……しない……?

 攻撃の手が止まり、思わずその場に立ち尽くす。


「ハ、ハイセ!?」

「ハイセさん!!」


 迫る攻撃をキッドが防ぐ。


「ハイセさん!どうしたんですか!?」


「あ……いや、すまない。大丈夫だ」


 落ち着け。

 とりあえず今は戦闘に集中だ。

 どっちにしろファナトリア(こいつ)をどうにかしないと……。


【龍迅】


【リンクスキル:龍迅 -- 説明:龍が如き神速。【龍迅状態】となり、60秒間AGIを大幅に上昇させ、リンクスキル発動時に追加効果を付与する。リキャストタイム:70秒】


 1分もAGIを強化できるのはありがたい。

 神速もそれなりに使いやすいスキルだが、そろそろ上位のスキルも探さないとな。


 ファナトリアへ肉薄し、刀を振り上げる。


『妾は1度死ぬと再起(リスポーン)はせんぞ?』


「っ……!!」


 脳裏に過ぎるファナトリアの言葉。

 思わず攻撃の手を緩めてしまう。


 〔阿呆!なにをしておる!!〕


「……」


 全く……このゲームはなんてもんを作り出してんだ。

 独立型AI?自立して行動できるコイツらは1つの生命体と変わらないだろ。

 俺に、トドメを刺せるのか……?


 〔……ハイセ、気にするな。ああなった以上後戻りはできんと言っただろう。妾の願いだ〕


 少し困ったように薄く笑う声でファナトリアは言う。


 〔これ以上、妾に誰かを殺させないでくれ〕


 そう言われると、何も言い返せないな。


「……わかった」


 〔うむ。頼む〕


 パンッと一撃自分の頬を叩く。

 シャキッとしろ。

 ファナトリアは覚悟を決めてだ。俺が迷ってどうする。


「っし、ハル。俺に着いてきてくれ、補助を頼む。お前のバフは俺だけに集中してくれ」


「了解です!」


「キッド、ヘイトは俺とお前で分散させる。チャージは十分だろ?隙あらば高火力で叩け」


「はい!」


「スミレ、シオリ、キッドとアリシアの死角となる攻撃のカバーだ。俺には必要ない。2人に集中してくれ」


「まかせて」

「うん!」


「アリシアはキッドのサポートだ。Luckを上昇させるスキルはタンクであるキッドのもしもの時の保険になる」


「はーい!」


「やるぞ!!!」


「「「「「おう!!」」」」」


 俺とハルは瞬時にファナトリアへと肉薄する。

 迫る魔力の拳を受け流し、ホーミング弾はハルが片っ端から撃ち落とす。そして、レーザービームを紙一重で躱した。

 俺の背から残りのホーミング弾が迫るが、死角からの攻撃なんて俺には意味が無い。

 身体を逸らし、通過した弾を真っ二つに斬り裂く。


「キッド!!数秒動き止められるか!?」


「いけます!!」


【黒鎖】


 キッドの大盾から大量の鎖が伸び、ファナトリアに絡みついた。


「もって5秒です!!」


「十分だ」


 炎雷を纏う刀を強く握る。


【渦雷滅魔】


【リンクスキル:渦雷滅魔 -- 説明:魔を滅する雷神の一撃。自身のHPを消費し対象にダメージを与える。消費したHPが多いほどダメージが上昇し、スタン値を蓄積させる。一定確率で麻痺状態にさせる】


「ほら、もってけ」


 元々5割以下だった俺のHPは残り1割程となった。

 だが、それを代償に纏う炎雷は歓喜の如く猛々しさを増す。


 〔残り体力は僅かだぞ!?死ぬ気か!?〕


「どうせ俺みたいな紙装甲は攻撃喰らえばほぼ詰みだ。変わりゃしねぇよ」


 纏う炎雷の激しさに、若干押されそうになるが歯を食いしばり刀を振り下ろした。


「オラァ!!!」


 〔ガンッ!!!〕


 硬い表皮だ……。

 だが、こっちには!!


【パッシブスキル:宝斬】


 脳天直撃。

 顔面周辺への攻撃だから、スタン値も多めに蓄積できたはずだ。


 〔ギギャァ……〕


 ファナトリアの身体に雷のエフェクト……。


「麻痺状態だ!!」

「バフかけるよ!!」


 俺の声を聞き、すかさずシオリは全員にオールステータスアップのバフをかける。


「念の為にね!」


 アリシアの防御スキル【水花の帳】により周囲にバリアが張られた。


「畳み掛けるぞ!!」


【大鷹の暴嵐】

【電磁砲レールガン】

【黒刃覇閃】


 それぞれの最高火力スキルをファナトリアに向けて放つ。

 とてつもない轟音だ。

 トッププレイヤー達の高火力技はやはりやはりよく効くらしい。

 これでファナトリアのHPバーは残り1本。


「このままいけるか……?」


 〔油断するでないぞハイセ。理性を失っているがアレは龍神ファナトリアなのだからな〕


 その言葉を聞いた瞬間だった。


「なっ……」


 背筋に強烈な悪寒を感じ取る。

 この嫌な予感、感じているのは俺だけか……。

 第六感による危機感知が研ぎ澄まされているお陰か、相手の一挙手一投足からあらゆる情報を集められる。

 今回の場合、最悪な情報ばかりだが。


「キッド!!!黒翼壁だ!!!」


「え!?は、はい!!!」


 キッドは驚いた様子で俺達の前に立ち、黒翼壁を展開した。


「やばいのがくる」


 俺の一言にゴクリと喉を鳴らしたキッド。

 そして、体勢を立て直したファナトリアから強烈なプレッシャーが放たれる。

 体内に宿る魔力を全て解放せんと、ファナトリアから禍々しい魔力が戦場を支配した。


「これは……」


「くるぞ!!!」



【ーーーーー天下之影(ヴリトラ)



 街を巨大な影が覆った。

 絶望が戦場を支配する。

 突如として訪れた絶望の暗闇は、希望の光を奪うかの如くプレイヤー達のHPを削りとり、その精神をへし折らんと闇が心を削る。


「キッド……耐えられるか……?」


「くっ……これは……すみません……」


 ピキピキとキッドの大盾の宝玉に亀裂が生じる。

 吸収できるMPの限界値だ。


 〔パァァン!!〕


 宝玉と共に展開された黒翼は光の粒子となって砕け散る。


「ぐっ……」


 闇が俺達の体を蝕んでいく。


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