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第7話 初ボス戦

 

「準備はいいか?」


「バッチリよ!」


「俺も大丈夫だ!」


 巨大な扉の前に立ち、準備を整える。


「どんなボスなんだろうな」


「それは見てからのお楽しみだろう」


「そうだな」


 扉に触れると、勝手に扉が開いた。この巨大な扉を自力で開けろなんて言われりゃ発狂してたな。


 〔バタンッ!!〕


 足を踏み入れると扉は勢いよく閉まった。

 俺達が入室したのを確認したように、ボス部屋に明かりが灯る。


「ここは、道場?」


 見覚えのある造りだ。俺の家の道場とどこか似ている?だが、広さが段違いだ、気のせいか。


「和風な造りね。どんなボスかしら」


「居たぞ。奥の中央だ」


 吾郎が指さす先を見ると、黒い人型のモンスターが正座をしている。あれはモンスターなのか?真っ黒だが、しっかり人の形をしている。

 すると、人型のモンスターはゆらりと立ち上がった。


「……半着に袴」


「羽織も着てるわ」


 モンスターの長い髪は後ろで束ねられている。


「シャドウサーバントだ」


【名称:シャドウサーバント(侍) 弱点:?? 討伐P条件:第1形態を1対1でHPを50%以上残した状態で勝利する】


「おい、いきなりマントのスキル意味無いな」


「そうだなー」


「タイマンみたいだけど、誰がやるの?」


 そんな事を話すが、もう決まっている。吾郎とスミレの視線はさっきから俺にしか向いていない。俺がやれってことだろうな。


「言われなくてもやるよ。リアルでは有り得ない侍との立ち合いなんだ。今すぐ戦いたくてうずうずしてる」


「戦闘狂かよ」


「ほぼ対人戦ね、がんばって」


「おう」


【討伐P獲得条件である、1対1の勝負をシャドウサーバントが申請しています。申請を受けますか?】


 はいのボタンを押す。すると、俺と吾郎達を隔てる結界のようなものが展開された。サシの勝負を邪魔されない為のシステムか。ここでいいえを押すとパーティー戦闘できるが、討伐Pは獲得できない。


「……」


「さて、どんな剣術を見せてくれるのかな」


 シャドウサーバントは鞘から刀を抜き、正眼に構える。


「なっ……」


「ハイセ!!」


 油断なんてしていない。シャドウサーバントから目も逸らしていない。しかし、シャドウサーバントの刀は今、俺の眼前に迫っていた。


「あっぶね!!速い……!!」


 上体を逸らしギリギリの所で躱すことができたが、剣先が頬を掠る。【転身】が発動し、ダメージは0だ。


 今の動き……速すぎる。瞬きの瞬間を狙われた。これは本気で集中しないと気を抜けば首を撥ねられる。


「ふぅ……集中しろ……五感を研ぎ澄ませ……」


 シャドウサーバントは再び正眼に構える。

 感覚は研ぎ澄まされ、このボス部屋の空間を把握する。

 そして、シャドウサーバントは再び消えた。


「2度目はない…!!」


 〔ガンッ!!〕


 さっきは正面からの攻撃だったが、今回は背後を取ってきた。まるで学習しているようだ。


「相変わらず、あいつの背中には目でも着いてんのかよ」


「あれがハイセが"神童"って呼ばれる所以よね」


 鷹見ハイセは"神童"と呼ばれている。その圧倒的な剣術の才能は僅か5歳の時から発揮されており、その歳で次代の鷹見流の継承者となった。神童たる所以は剣術の才能だけではない。ハイセの"感覚の鋭さ"は常軌を逸していた。


「勘や偶然なんて言われていた"第六感"をハイセは完全にコントロールしているのよね」


「理論上ではあるが、あいつは銃弾を躱せるらしい」


 実際は身体能力が追いつかず不可能だが、ゲームであるWSOの世界では、その不可能も可能になる。


「あの速さに対応できるハイセが異常だ。見た感じこのシャドウサーバントの攻略法は『鈍化』のデバフをかけたスピード低下だろうな」


 そんな事を話しながら吾郎とスミレはハイセの戦いを見守る。


「スピードには対応できるが、反撃の糸が掴めない……」


 動きが速すぎて反撃する頃にはそこには居ないんだよな。一撃当てればそこから畳み掛けれるんだが…。


「なら、これだな」


 刀を鞘に収め、左足を引き、腰を落とす。収めた刀の柄に手をかける。


「スゥー……ハァー…」


 大きく深呼吸し、感覚を研ぎ澄ます。ゲームの世界だが、空気がピリつく。その様子に吾郎とスミレは思わず息を飲む。


 〔カチャッ…〕


 シャドウサーバントは正眼から平正眼へ構えを変える。


「やっぱりな、お前の剣術は……」


 そして、シャドウサーバントは一瞬で俺に肉薄し、"突き"を放った。


「鷹見流居合『幽冥一閃(ゆうめいいっせん)』」


 この居合は目で捕えることが至難な最速の居合術。太刀筋が微かにしか見えないことから『幽冥』と名付けられた。


 シャドウサーバントの突きは俺の横腹に3つの刺傷を残し、刀を引き抜いた。


「凄い…」


 その様子にスミレは思わず感嘆の声を漏らした。

 俺の脇腹には確かにシャドウサーバントの刀が刺さっていた。しかし、対するシャドウサーバントには大きくそして深い切り傷が身体に刻まれていた。シャドウサーバントのHPは大きく減る。


「平正眼の構えからの高速の三段突き。お前の剣術の流派は"天然理心流"。そして、お前は"新撰組一番隊隊長、沖田総司"をモデルにしたサーバントだな」


 あの高速の三段突き、とある一説では速すぎて3つの突きが1つに見えたと言うほどだ。

 居合をまともに食らったシャドウサーバントは足をふらつかせた。


「まさか伝説の剣士と戦えるなんてな……」


 だが、所詮は記憶の産物。実際はもっともっと強かったはずだ。


「終わりだ」


「鷹見流『天つ風』」


 下段から上段にすくい上げる斬撃はシャドウサーバントの右腕を切り落とした。


【部位破壊:右腕】


 そして、俺は突きを放つ。シャドウサーバントが見せた高速の三段突きだ。AGIが強化されている俺の三段突きの勢いはシャドウサーバントの鳩尾に風穴を開けた。

 シャドウサーバントは力尽き、膝から崩れ落ちた。


『勝者:ハイセ』


 その場にアナウンスが流れる。だが、これで第1形態が終わりって事だ。

 ここからは、


「やるぞ!」


「「おう!!」」


 パーティー戦闘の時間だ。


 〔ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…〕


 ボス部屋には心臓の波打つ音が響く。力なく倒れたシャドウサーバントから聞こえる。


「ガアアアアアア!!!!!」


「うわっ!さっきとは見る影もないわね…」


 雄叫びを上げると同時にシャドウサーバントの身体はみるみる大きくなっていく。さっきの侍の面影は既にない。

 額からは大きな角を生やし、口からは牙が伸びる。持っていた刀も巨大化した。


【名称:シャドウサーバント(鬼) 弱点??】


「鬼か」


「豆まくか?」


「呑気なこと言ってないで構えて!!」


 目の前には巨大化した刀が迫っていた。スピードは落ちているものの凄い速さだ。


「うわっ!!」


 巨大な刀を振り下ろされた勢いで強い突風が吹く。俺達は吹き飛ばされ少し後退した。


「厄介だな」


「吾郎、鈍化のデバフを掛けてくれ。大分遅くなるはずだ、一気に畳み掛けるぞ」


「「了解」」


『スロー』


 吾郎はシャドウサーバントに鈍化をかけた。これで厄介なスピードは封じた。

 魔法を使用したことで、シャドウサーバントのヘイトは全て吾郎に向いた。あいつの目には俺はもう入っていない。


「ここだな」


 宵闇のロングマントで身体を覆う。【隠密】が発動した。

 30秒間の気配消滅、今シャドウサーバントは俺を認知出来ない。


「なんだって沖田総司が鬼になんだよ。運営はセンスがないな」


 スミレは絶えず矢を放ち続けている。そして、


「弱点はうなじよ!!」


「ナイスだ」


 スミレの言葉を聞き俺はシャドウサーバントの首目掛けて壁を蹴り大きく跳躍した。


「おらぁ!!!」


「鷹見流『鳴神一文字』」


 俺が放った横薙ぎの一閃はシャドウサーバントのうなじを完璧に捉える。


 〔パーン!!〕


 会心が入り相当なダメージを与えることに成功した。シャドウサーバントはダメージを受けよろける。


「こっちも!!」


 吾郎はバトルメイスでシャドウサーバントの顔を思い切り殴る。痛そう……。


「タイミング合わせろ!!」


 このゲームにはパーティー戦闘でのみ発揮される強力な攻撃がある。それは『パーティークリティカル』。戦闘中のパーティーメンバーの攻撃のタイミングがピッタリ重なることで発動する大技だ。


「いくわよ!!」


 スミレは最大まで溜めた剛射を勢いよく放つ。


「「ここだ!!」」


 そして、俺はうなじに、吾郎は顔に、スミレの矢は胸にバッチリのタイミングで直撃する。


 〔ドーン!!!!〕


 完璧なパーティークリティカルが入った。

 シャドウサーバントのHPを一気に全て削りきった。物凄い威力だ。

 シャドウサーバントは粒子となって消えた。


【DEFEAT THE BOSS】


 俺達の目の前には討伐報酬画面が表示された。


「シャドウサーバントも大したことなかったわね!」


「拍子抜けだ。ただ、沖田総司と戦えたのは楽しかった」


「よくあれが沖田総司をモデルにしてるってわかったな」


「わかるやつにはわかるんだよ」


 "天然理心流"は有名な武術の流派だ。剣術だけじゃなく柔術や棒術など、幅広いジャンルで活躍した敬意を払うべき素晴らしい流派だ。


 そして、後から聞いた話だが、宝の地図のダンジョンに出現するモンスターは救済処置として、HPと攻撃力が10分の1まで下がっているらしい。

 吾郎曰く「シャドウサーバントなんか今の俺らじゃ到底相手にならねぇぞ」だそうだ。

 つまり、第1形態で食らった三段突きでやられていた可能性もあるってことだ。怖い話だ。


「さて!メインイベントだ!」


「もういいじゃない、SR装備2つも手に入れたんだから」


「良くねぇよ!お宝目の前にして帰る馬鹿がいるか!」


 道場型のボス部屋の奥、1段上がった畳の上に和風な宝箱が置かれている。


「日本刀だな」

「日本刀ね」

「日本刀だ」


 誰がどう見てもこの中には日本刀が入っているとわかる宝箱だ。

 俺はゴクリと喉を鳴らし、宝箱を開ける。すると、金色の光が宝箱の隙間から放たれる。


「やっぱり日本刀だ」


「いいなぁ、私もSRの武器欲しい」


 中には予想通り1振りの日本刀が入っていた。初めてのSR武器だ。Rも持ったことないのに大出世だな。

 宝箱から日本刀を持ち上げる。


「これは…」


「どうした?」


「これは、『加州清光』だ……」


「加州清光?」


「かつて沖田総司が愛用していたと言われている名刀の1つだ。有名な池田屋事件で刀の帽子(刀の先)が折れ、修復が不可能だったと伝えられている。現物は今はなく、当時そのまま廃棄されたと言われているんだ。まさか、ゲームでこんな名刀を握れるなんて……」


 加州清光に関する資料は意外と多い。科学の進んだ今だからこそ再現出来たのだろう。


【名称:加州清光 SR 耐久値:50 スキル:神速 R 二ノ太刀 SR 陽炎の刃 SR】


「SRのスキルが2つも着いてる」


「まぁ、SR武器だからな。これでゴミスキル着いてたら泣いて運営に訴えた所だろう」


「なんにせよ、良かったわね。これで念願のスキルが使えるじゃない」


 スミレの言う通りだ。スキルの効果も試したいし、早くダンジョンを終わらせよう。


 宝箱が置いてある場所の後に、さらに上階へ続く階段がある。その先の扉を開けば無事ダンジョン攻略だ。

 俺とスミレが扉へ向かおうとするが、吾郎はなにか深く考え込んでいた。


「吾郎?」


「早く行きましょうよ」


 吾郎は決心したように顔を上げた。


「ハイセ、スミレ。俺の案内はもう必要ないだろ?」


 何言ってんだ吾郎は。


「まぁ、一通りこのゲームのシステムもわかったしな」


「なら、俺はここまでだ。あとは2人の思うように冒険しろ」


「は?吾郎はこのゲームやめるのか?」


 折角面白いゲームなのに。


「辞めねぇよ」


「ならどうして?」


「お前らとは別の道を進んで俺なりに高みを目指すよ。お前らは気ままに冒険したいだろ?残念ながら俺は"効率厨"だ。だらだら鍛えるなんてごめんだ」


 吾郎には吾郎なりの考えがあるようだ。


「そうか。まぁ、リアルで毎日顔合わすし、ゲームは自分の好きなようにやるのもいいよな」


「そういう事だ。お互いもっと強くなってまた会おうぜ」


 これから3人で冒険していくって思っていたから、なんだか寂しいな。


「フレンドも消しといてくれよ?どんだけ強くなったかいちいち確認されてちゃ落ち着かん」


「わかったわかった、細かいやつだなぁ」


 フレンド欄に表示される討伐Pを見ればどれだけやり込んでるかすぐわかるもんな。


「じゃ、外で待ってる奴倒すのが俺達の最後の共闘か」


「なんだ、気付いてたのか」


「当たり前だろ?気配ビンビンだっての」


「さすが神童……」


 おそらく、フリオール大森林のダンジョンの扉の前には盗賊まがいなことをしているプレイヤーが待っているだろう。

 初のPVPだ。少し緊張するな。


 そして扉の前に立ち、俺達3人はダンジョンを後にした。


ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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