第66話 四宝玉
【龍の都:ドラゴニア】
この街には龍神と呼ばれる龍が存在し、この街の守り神として崇められている。
龍神は龍神山脈の頂きで眠っているとされ、龍神山脈には街の最奥にある登山口から登ることが可能。
「酷い有様だな……」
建物は崩壊し、あちこちで火の手が上がっている。NPCの啜り泣く声、モンスターの雄叫び、悲痛な声を上げるこの街がスタンピードの成れの果てだ。
「こっちまで暗い気分になってしまうわね」
「仕方ないさ。復興するとはいえ、この街は実際に壊滅したんだ」
さっさとギルバートからのクエストを終わらせよう。
西風連合のギルドハウスの場所は教えてもらってるし。
「最短で向かうぞ」
倒壊した建物を飛び越え、走って移動する。
〔ギゲゲゲゲ!!!〕
翼を生やした悪魔のような見た目のモンスター。
「ガーゴイルか」
「動き封じます!」
〔バンバンバンバンッ!!!〕
ハルは4発の銃弾を撃つ。
『弾速制御』×『紫電』
銃弾はガーゴイルの周辺で減速し、紫電が迸る。
『パラライズショット』
ガーゴイルに麻痺の状態異常を付与し、電撃ダメージを与えた。
「鷹見流『鳴神一文字』」
「鶴矢流『業風剛穿』」
俺の一文字斬りとスミレの剛射が炸裂し、大幅にHPを削る。
〔ギギギヤァア!!!〕
ガーゴイルは暴れ始め、周囲に闇属性の気弾を無作為に放ち始めた。
HPが減ってヤケクソになってんのか。
「よっと」
「近付けないわね」
この中で身軽に躱しながら接近できそうなのは俺ぐらいか?
「スミレ、シオリ、援護頼む」
「「了解」」
迫る気弾を躱し肉薄する。
『豪炎天魔』
「鷹見流『天つ風』」
【部位破壊:右腕】
右腕を斬り落とした。
だがHPは少し残っている。
〔バァン!!!〕
銃弾がガーゴイルの額を撃ち抜いた。
HPが底を尽き、粒子となって消えた。
「ナイス」
しかしHPが多いな。
ソロで討伐するとなると、そこそこ時間がかかりそうだ。
これはしっかりパーティーで固まって動いた方が良さそうだが……。
「シオリ、奥の少し高い建物見えるか?」
「あー、うん。今にも倒れそうなやつね」
「あそこから西風連合のギルドハウスは見えると思うか?」
「位置的には問題ないと思うよ」
「よし、じゃあシオリはあそこから狙撃で援護をしてくれ。俺達が四宝玉を手に入れた後、王猿に襲われるだろうから」
「りょーかい」
「キッドはシオリについて行ってくれ。しっかり守ってやれよ」
「はい!」
シオリとキッドは高台を目指して走っていった。
「あれが西風連合のギルドハウスか」
洋館って感じの見た目だな。
入口のドアノブが薄く光ってる。
あれが【盗賊王の籠手】の効果か。
俺達はギルドハウスの入口に立つ。
「視線を感じるな。1、2……。数えるのも馬鹿らしくなってくる数だ」
「襲ってきそう?」
「いや、殺気は無い。俺達がハウスから出てきたところを狙うつもりだろう」
「師匠は何で殺気とか視線とかわかるんですか?スキル?」
「勘だ」
俺の一言にハルはズコーっと言わんばかりにずっこけた。
「大丈夫よハル。ハイセの勘はよく当たるから」
「まぁ確かにそれで今まで難を逃れてますからね」
「中に入るぞ」
【マスターキーを使用しますか?】
はい。
ギルドハウスの扉が開いた。
◆SBA【西風連合ギルドハウス】
中も至って普通の洋館だ。
玄関には輝かしい功績を称えるようにトロフィーやメダル、賞状が飾られている。
「トップ30に入るギルドだったっけか」
俺達は運良く実力者が揃い、トントン拍子でトップ5に暫定ではいっているが、1000を超えるギルドの中トップ30に入るということは相当な努力が必要な事だ。
剣や槍についてなんの知識を持っていなかった人達がこの世界のシステムを理解し、築き上げてきた努力の結晶なのだろう。
「俺達もうかうかしてたら足元掬われちまうな」
「そうね」
ふと、1枚の写真に目がいく。
「あれ?これ、アリシアか?」
集合写真に写るのは茶髪で可愛らしい印象のつなぎを着た女性プレイヤー。
「うわぁ、懐かしい。うん、私だよ」
「なんでアリシアが写ってるの?」
「この写真はね、去年の夏のギルコンで1位を取った時の写真でね。ギルバートは私達のファンだったみたいで、ギルドメンバーと一緒に写真を撮ってあげたの」
「ギルドメンバー……【原初】か?」
「そう」
アリシアは少し寂しそうな顔をして写真を手に取る。
「【プリモーディアル】……【原初】って呼ばれた私達は今では伝説って言われてるのは知ってるよね」
「ああ、記事にもなってたな」
「最前線攻略chの記事だね。あの記事の通り、私達は夏のギルコンを終えた後、解散したの」
「ギルコンで1位だったのに?」
最古参のレオルやアデル、ゴクウを差し置いての1位だ。相当な実力だったのだろう。だから、余計に謎だ。
「うん、リーダーが急にWSO辞めちゃってね……」
「そうなのか……」
「何の連絡もなく急に辞めちゃったから、私達もどうしたらいいか分からなくて、まぁ、自然消滅ってやつだね。私がアルガンのあのお店にいつまでもいた理由は、もしかしたらリーダーが帰ってくるかもしれないって思ってたから……」
そうか……そういう理由で。
あの店を売却するのも相当な覚悟だっただろうな。
「あ!もう未練はないからね!今の私は『百花繚乱のアリシア』だよ!」
「わかってるよ」
くしゃくしゃとアリシアの頭を撫でる。
「ったく、こんな健気なアリシアを何も言わずに突き放したバカはどい……つ……」
あ……?
ギルバートが肩を組んでる男……。
着物に羽織……腰には。
「日本刀……」
「そう!【原初】のリーダーもハイセと同じ日本刀使いなんだよ!すごく強かったんだから!あのレオルも太刀打ちできないほどに!」
レオルでも太刀打ち出来ないほどの実力……。
それに、この顔……。
スミレもその人物を見て固まっている。
「アリシア……こいつの名前は……?」
アリシアは満面の笑みを浮かべ嬉しそうに答えた。
「ファルケ!そういえば、どことなくハイセと似てる?」
ファルケ……。
ドイツ語で『鷹』の意味を表す。
俺が1番嫌いな男がよくオンラインゲームで使っていた名前だ。
「師匠?顔怖いですよ……?」
っと……ダメだ。今はやらなければいけない事がある。落ち着け。
「大丈夫……?」
「悪いなスミレ、大丈夫だ」
「あ、あの、何か悪いこと言っちゃった……?」
オロオロしているアリシアに笑顔を向ける。
「いや、大丈夫だ。そろそろ四宝玉取りに行くか!」
「う、うん!いこ!」
俺達は地下2階にある宝物庫へ向かった。
そういや、このゲームのプロデューサーの名前も"ファルケ"だったな。
なんとなく点と点が繋がった気がする。
【宝物庫】
「これが四宝玉か」
見た目はただの真っ白な水晶玉だな。
「これを持っていけばいいんだよな」
俺はタッチパネルからギルド倉庫にアクセスし宝物庫から四宝玉を取りだした。
【ユニークアイテム:四宝玉の獲得を確認。パッシブスキル【宝玉の恩恵】を発動します】
「お、これが四宝玉のバフか」
【スキル:宝玉の恩恵 ユニーク 説明:全ステータス+5。HPを15%増加。アクティブスキルの消費MPを減少。パッシブスキルのクールタイム減少。力尽きたプレイヤーを蘇生することができる(クールタイム7日)。※蘇生のクールタイムには四宝玉の恩恵は適用されません)】
至れり尽くせりじゃないか。
さすがユニークアイテムと言うべきか、デメリットもあるのだろうが破格の性能だ。
王猿とかいう奴らが奪おうとするのも納得だな。
〔ハイセ、聞こえる?〕
事前に繋いでいたパーティーのボイスチャットからシオリの声が聞こえる。
〔どうした?〕
〔ちょっとやばいかも〕
〔やばい?〕
なにか緊急事態だろうか。
〔とんでもない数に囲まれてるわよ〕
〔どんくらいだ?〕
精々20人くらいだろ。
〔目視できるだけで50人。死角にも潜んでるって考えたら100人はいるかもね〕
〔マジかよ〕
王猿の奴ら本気だな。
それもそうか、今みたいな特殊環境下でなければ四宝玉みたいな宝物庫の奥底で保管するアイテムを奪取できない。
スタンピードの防衛に失敗するってのは、思ったよりも最悪なのかもしれない。
◇◇◇
【西風連合ギルドハウス周辺】
「ガルドさん!呼び掛けに応じた盗賊ギルドの奴らが配置についたそうですぜ!」
「そうか」
ガルドと呼ばれた男は西風連合のギルドハウスを見る。
「本当に大丈夫なんで?ガルドさん。相手はギルコン暫定4位の百花繚乱ですぜ?リーダーはD.Cで1位のハイセってやつですし」
「ギルコン?D.C?んなもん表で戦ってるヤツらの結果に過ぎねぇ。表で光り輝いてる奴らってのは裏の恐ろしさを知らねぇんだ。俺達のやり方を見せてやる」
ガルドは背丈ほどもある大きなハンマーを担ぎ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。