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第65話 龍の都へ


「全員戦闘態勢に入れ!シオリとキッド、ハルとアリシアで固まって散開しろ!遠距離と近接を活かして上手く立ち回れよ!」


 俺とスミレは右に大きく逸れた。

 すると、ワイバーンの群れのうち3体が釣れた。


「ハイセ、空中戦だけどやれそう?」


「俺を誰だと思ってんだ」


「ふふっ、そうよね」


 俺は左手で手網を握り、右手で刀を持つ。


『豪炎天魔』『覇剣』


「おらぁ!」


 炎の斬撃を飛ばすがヒラリと躱されてしまう。

 タフな上に機動力もあるってのか。厄介極まりないな。


【名称:カオスワイバーン 弱点:?? 討伐P条件:立ち向かえ】


 カオスワイバーン。

 討伐P条件は『立ち向かえ』か。

 どっかで見た条件だ。

 クリプトに改造されたモンスターだとみんなこの討伐P条件になるのか?


「スミレ!凍らせれるか?」


「やってるけど、全然凍らない!」


 状態異常耐性か?

 チラッとハルとアリシアの戦いを見てみると、ワイバーンがハルの紫電で麻痺していた。

 だとすると、もっと限定的な『凍結耐性』ってことか。


 ワイバーンが迫ってくる。


「っと、危ねぇ」


 ワイバーンの体当たりを躱し、すれ違いざまに一撃叩き込む。

 良い一撃が入った。


「はっ!」


 スミレもすかさず追撃する。

 全て頭に直撃。これまたいいダメージだ。

 ワイバーンが体勢を崩した。

 これなら当てられる。


『覇剣』


 炎の斬撃はワイバーンを飲み込み焼き尽くす。

 そして、HPは底を尽きカオスワイバーンは光の粒子となって消えた。


「よし」


「どんどんいくわよ」


 スミレがヘイトを買い、迫ってきた奴を俺が斬る。

 それを繰り返していくうちに、俺達の相手のワイバーンも最後の1体に……。


「鶴矢流『光風三閃』」


 スミレの速射3連撃はワイバーンの頭部を見事に撃ち抜き、最後の1体も光の粒子となって消えた。


「俺達の分は終わったな」


「このくらい余裕よ」


 他のメンバーは大丈夫かな。

 ハルとアリシアは……。


「アリシアさん!バブルお願いします!」


「はいはーい!」


 ハルの指示を聞いてアリシアは手に持つ小槌を勢いよく振り抜いた。


『スタンバブル』


【スキル:スタンバブル SR 説明:前方に無数のバブルを放出する。モンスターがバブルを割ると一定時間行動を遅延させることができる(モンスターにのみ有効)】


 スタンバブルの効果でボーッとしているワイバーンをハルが片っ端から撃ち抜いていく。


「射的してるみたいで楽しいです!」


「ハル!前見て前!」


「やっば!」


 よそ見をするハルに1体のワイバーンが迫る。


「伏せて!!」


 アリシアの声を聞きハルは咄嗟に頭を下げる。

 すると、水でできた巨大な鉤爪のようなものが生成され、ハルに迫るワイバーンを切り裂いた。

 そして、ワイバーンは光の粒子となって消えた。


『水龍剛爪』


【スキル:水龍剛爪 UR 説明:水龍の鉤爪を生成し、水属性の多大な斬撃ダメージを与える。ダメージを受けた者は一時的にバフを解除される(一定時間経つと元に戻る)】


「アリシア強ぇな」


「さすがね」


 ハルとアリシアもワイバーンを倒しきったようだ。

 残るはキッドとシオリだが……どうやら苦戦しているようだ。

 1体は倒したみたいだけど、もう1体に手こずっている。


「シオリの持ってるあの銃なんだろう」


 飛竜の上じゃAKもエルクロも使いずらいのか。


 〔バァン!!〕


 凄い音だな。

 なるほど、デザートイーグルか。

 反動はデカいだろうがこういった場面ではエルクロより扱いやすいのだろう。


 だが、銃弾はワイバーンの頬を掠めただけ。

 まぁこれが普通だよな。

 こっちも高速で動いてるのにパンパン当てちまうスミレが異常なんだ。


「ご、ごめん!」


「大丈夫……ですよ!」


 キッドはワイバーンのブレスと突進攻撃を大盾で受け流す。

 ジリ貧だな。


「仕方ない。スミレ、手網持ってくれ」


「え?は?ハイセ!?」


「ちゃんと拾ってくれよ」


「ちょっと!!」


 俺は飛竜の手網をスミレに渡し、飛竜から飛び降りた。

 キッドとシオリが戦っているのはちょうど真下だ。

 このまま一撃で終わらせる。


『豪炎天魔』


 へし切長谷部は猛々しい炎を纏う。

 これだけじゃワイバーンのHPを削りきれない。


『限界突破』


 纏う炎の勢いが増す。


「キッド!シオリ!下がれ!」


「えぇ!?ハイセさん!?」

「あっはっは!無茶苦茶ね!」


 キッドとシオリは後退した。

 それを追うようにワイバーンが迫っていく。


「どんぴしゃ!!」


「鷹見流『轟炎』」


 猛々しい炎を纏った真っ向斬りは、ワイバーンの首を捉えた。

 燃え盛る炎は瞬く間に全身に広がり、その身を焦がしていく。


 〔ギギャァァァァァア!!!!〕


 ワイバーンは断末魔を上げ、粒子となって消えていった。


 そして、真っ逆さまに落ちて行く俺を飛竜を使ってスミレが見事に受け止めた。


「タイミングもバッチリだな!」


「もう!いきなり無茶しないでよ!」


 スミレは俺の頬をギューッとつねる。


「ごめんて。でも、お前もしっかり飛竜乗れるな」


 ニヤリと笑う俺の顔を見て、スミレはハッとする。

 こりゃ、ドラゴニアでの調査が終わったらスミレの飛竜を捕まえに行かないといけないな。


「やられた。でも、今日だけは楽させてもらうから」


 そう言ってスミレは手網を俺に渡し、いつもの様に俺の後ろに座るのだった。


 ◇


「そろそろか?」


「あの山脈の向こうかしら」


「この山越えられるんですか?」


 目の前に聳える山脈は雲を突き破っている。

 流石に飛竜移動の限界高度に引っかかるだろうな。


「迂回しよう。別に入口があるみたいだ」


 高度を下げ迂回すると、【ドラゴニア】と書かれた巨大な門が現れた。


「へー、このバカでかい山脈はドラゴニアをグルっと囲ってるのか」


「街の説明によれば、ドラゴニアができる前は巨大な湖だったんだって。ある日この地を訪れたドラゴンが山脈の一部を削り取って水を全部抜いちゃったらしいの」


「んで、空になった湖に人間が街を作ったと」


「ドラゴンが削り取った場所にこうして門を付けたのね」


 門には龍の装飾が施されている。

 かっこいい。

 厨二心を擽られるな。


「じゃあ早速中に……」


「き、君!」


 背後から呼び止められる。


「?」


 俺を呼んでいるのか?


「そう!日本刀の人!」


「どうした?」


 1人の男性プレイヤーが声をかけてきた。


「急に呼び止めてすまない。俺はギルバート。この街をホームにしていたギルドのギルマスだ」


 この街をホームにしてたってことは、防衛に失敗したプレイヤーの1人か。


「俺はハイセだ、何の用だ?」


「ああ、知ってるよ。君は有名人だからね。君達は今からドラゴニアに入るんだよな」


「もちろん。その為に来たから」


「なら、1つ忠告だ。今のドラゴニアは従来のスタンピード通り2週間の間SBA(special battle area)になっている。中には強化されたモンスターもエンカウントするから気をつけて。それに、PK(player kill)も有効だ。モンスターだけに気を取られるなよ」


 それについてはレオルから事前に聞いていた通りだな。

 だが確かにPKは考えてなかったなぁ。

 中でエンカウントするモンスターはスタンピード同様強化されたモンスター、つまりその分報酬も美味い。そして、PKを生業とした奴らが虎視眈々とプレイヤーを狙っていると。


「忠告感謝するよ。それじゃ」


「あ、えっと……」


 まだ何かあるのか?

 ギルバートはもじもじしながら煮え切らない様子で俺達を見た。

 この感じは何か頼み事だな。


「なにか頼み事か?」


「え!?あ、いや、よくわかったね。あはは……」


 決心したようにギルバートは真剣な顔付きだ話し始めた。


「初対面である君達に頼むのも忍びないが……あるアイテムを取ってきてほしいんだ」


「アイテム?」


「うん。俺達のギルドは【西風連合】っていうんだけど、元々4つあったギルドが合併してできたギルドなんだ。元々仲が良くて、助け合ったりもしてた」


 俺達と円卓、オーディン、みたいな関係性か。


「四宝玉ってアイテムを知っているか?」


 四宝玉?

 初めて聞くな。


「4つ集めると絶大なバフを得られるっていうユニークアイテムだよね」


「流石アリシアさんだ」


「えへへ、どうも」


 ユニークアイテムってのも初めて聞いたな。

 ちょっと調べるか。


 俺はメニュー画面を開き、外部サイトを開いた。

 いつも見ている攻略サイトだ。


【名称:四宝玉 ユニーク 説明:それぞれ火、水、雷、風の属性を司る光り輝く宝玉。4つの宝玉を手にした者は絶大な力を得ると言われている】


【ユニークアイテム:この世界に1つしか存在しないアイテムの総称。耐久値は存在せず永遠に使うことが可能であり、ユニークアイテムからは必ず多大な恩恵を得られる】


 世界に一つしかないアイテム……。

 オリジンみたいなもんか。


「合併前の俺達は各ギルドに1つずつ宝玉を持っていたんだ」


「だから奪い合いにならないよう合併して1つのギルドになったと」


「その通り。四宝玉の効果は個人じゃなくて、複数人……所属しているギルドメンバーにも作用するからね」


 ギルド全員に作用するバフアイテムだと。

 なんてこった。

 凄まじいアイテムだな。


「それを俺達に取りに行ってほしいと」


「ああ。ギルドハウスの合鍵は渡すから」


「ギルドハウスにあるんなら安全だろ。わざわざ取りに行く必要なんてないんじゃないか?」


「普通ならね……」


 ギルバートは暗い表情で顔を伏せた。


「普通なら?」


「今この街にいる盗賊ギルドの1つに【王猿(キングコング)】ってギルドがいるんだけど、そのギルマスがとあるユニークアイテムを持っててね」


 またユニークか。


「それが、【盗賊王の籠手】」


【名称:盗賊王の籠手 ユニーク 説明:盗賊王が愛用していた籠手。籠手を嵌めた右手には盗賊王が宿り、BA・SBAに限り施錠された宝箱、施錠された建物に専用の鍵を使わず解除することが可能となる】


「これまたとんでもないアイテムだな」


「このアイテムを使うとアイテムを破棄しない限り永久的にドクロマークが付くんだ。その上、LUKステータスが減少し、LUKアイテムの効果も減少するっていうデメリットもあるけどね」


 そりゃそうだろ。この手のアイテムがノーリスクで使えたらそれこそ問題になる。


「NPCが用意した専用の鍵が必要な宝箱や建物には解錠するのに最低10分、プレイヤーが設定した施錠済みの宝箱や建物を解錠する為には最低1時間かかる。俺達のギルドハウスの防犯システムは1番良い奴にしてるから、解錠するのに最低3時間はかかるはず」


「それで、今どのくらい時間が経っているんだ?」


「防犯システム作動の警告が出てから既に1時間半が経ってる」


 あと1時間半か……。


「その王猿って奴らは強いのか?」


「強いよ。そこのギルマス……【盗賊王の籠手】を所持しているプレイヤーは巷では盗賊王なんて呼ばれているほどだからね。実力もさることながら、他の盗賊ギルドもヘコヘコするぐらいだ」


「へー」


 そんだけ強くて窃盗しまくりのプレイヤーってことは倒したら凄いお宝やゴールドが手に入るのでは?


 ジュル……。

 おっと、ヨダレが出ちまうぜ。


「ハイセ悪い顔してる」

「考えてることが手に取るようにわかるわ」

「師匠は盗賊よりも盗賊らしい思考ですよね」

「あはは……」


 こいつらは……。

 人をなんだと思ってんだ。

 すると、シオリが首を傾げながら口を開いた。


「でも、なんで私達なの?私達が来る前に円卓の選抜メンバーやトップギルドのプレイヤーが来たでしょ?」


「実は他のギルドにもお願いしてみたんだけど、みんな『盗賊王を相手にするなんてごめんだ』って言って断られたんだ」


「私達が来なかったらどうしてたの?」


「ひたすら別のギルドに頼み込んだだろうね。でも、君達が来るのは知っていたよ。円卓の選抜メンバーが時期に君達が来るって言ってたから」


「なるほどね。でも、私達が四宝玉をそのまま奪うとは考えないの?」


「レオルから君達の人となりは聞いてるから、信用できるって思ったんだ。だけど、それで100%信じ切れるほど俺も単純じゃないから、このアイテムを使わさせてもらう」


 ギルバートはインベントリを開き、1枚の羊皮紙を取りだした。


【クエスト履行書】


【名称:クエスト履行書 SR 説明:このアイテムを使うことでプレイヤー自身がクエストを発行することができる。クエスト目的を設定し、それに対する報酬を自身が所持しているアイテムまたは、倉庫から設定することが出来る。このアイテムの効果は絶対でクエストを成功させた場合、報酬は強制的に支払われる】


「君達にクエストを依頼する。履行書をよく読んで決めてくれ。やましいことは無い。心からのお願いだ」


 そう言ってギルバートは俺達にクエスト履行書を渡した。


【プレイヤー:ギルバートからクエスト依頼が届きました】


【クエスト目的:ギルド宝物庫にある『四宝玉』をギルバートに届けること。 報酬:ギルド宝物庫にある四宝玉以外のアイテム好きな物を3つ】


「3つもいいのか?」


「ああ、ユニークである四宝玉以外のアイテムは時間はかかるがまた取りに行けばいいから」


 太っ腹だな。

 まぁ、背に腹はかえられないってことか。


「受けていいか?」


 これは俺だけの判断では決められない。


「いいわよ」

「やりましょー!」

「やる!」

「いいですね」

「私もいいと思う」


 満場一致だな。


「わかった。受けるよ」


 俺は、『受諾』のボタンを押した。


「ありがとう……本当にありがとう。街の中で力尽きたら、俺達のように2週間立ち入ることができなくなるから、どうか気を付けて」


「おう。任せとけ」


 ギルバートは俺達がドラゴニアに入るまでずっと頭を下げていた。


 そして、俺達は【龍の都:ドラゴニア】に足を踏み入れた。


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