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第63話 ワールドクエスト

 しばらくすると、レオルが呼んだギルドのギルマスとサブマスが続々と到着した。


「こないだぶりだな。アデル、カスミ」


「おう!立派なギルドハウスだな!」

「スタンピードの件では本当に助かりました。今日はよろしくお願いしますね」


 カスミは頭を下げてアデルと共にギルドハウスへ入っていった。


「ゴクウもこないだぶり。隣の人は初めましてだな」


 ゴクウの隣にはメガネを掛けた黒髪の男性プレイヤーが立っている。この人がサイユウキのサブマスか。


「お初にお目にかかります。サイユウキでサブギルドマスターを務めさせて頂いております、ゴジョウと申します。本日はよろしくお願いいたします」


「お、おう。よろしくな」


 凄く礼儀正しい人だな。


「おいおい!挨拶はその辺にして中に……げっ!なんでチビ助がこんなとこいんだよ!」


 ゴクウはスクープのエディスを見て顔を顰めている。そういや、サイユウキはオリジンの件で因縁があるんだっけ。


「ふふっ、あなた達が見つけたオリジンの記事……あれは今最もホットな記事よ」


「あのなー、お前らのせいでテンジクは今大量のプレイヤーで大変なことなってんだぞ!」


「記事にする許可は取りましたから!文句を言われる筋合いはありません!」


「許可を取ったって……。なにも知らない新人メンバーから許可を取ったってなんの意味もないだろ!それにお前らは断ったら脅してくるじゃねぇか!」


「脅し!?人聞きの悪い!!」


 全くこいつらは、他人の家の前で喧嘩すんなよな。


「はいはい、喧嘩は中でやってろ。後つかえてるから。アリシア、案内頼む」


「はーい!」


 エディスとゴクウはがみがみ言い合いながらギルドハウスへ入っていった。


「ははっ、彼らは元気だね」


「他人の家の前で辞めて欲しいよ」


 キラリとした眩しい笑顔を浮かべて、俺の前に現れたのはギルド【漆黒の翼団】のハロルドだ。


「私もいるわよ」


 そして、その隣には茶髪で赤い瞳の女性プレイヤー、双剣使いのリエラがいた。


「ハロルドにリエラ。久しぶりだな」


 ハロルドとはギルコン以来か。リエラはリアルでの武術連の集会以来かな。


「リエラがサブマスなんだな」


「少し前までは違うかったんだけどね、実力を買われてそのまま」


「なるほど」


 リエラはフィリピンの双剣術の継承者なんだ、実力がずば抜けているのは当たり前だろう。


「今日はよろしくな」


「よろしく頼むよ!」

「よろしくね」


 2人はアリシアに案内され、会議室へと向かった。


 んでもって、次のギルドが最後か。

 レオルから名前だけは聞いていたが、初めて会うプレイヤー達だ。


「……」


 デカイな。

 身長は190cmくらいか?


「……」


 なんかめちゃくちゃ見下されてガンつけられるだが!?

 どこの不良だよ……。


「……ッチ」


 一言目が舌打ちってマジか。


「てめぇが百花繚乱のハイセか」


「そうだ。よろしくな」


 俺は握手しようと手を出すが、手をはたかれてしまう。

 なんなんだよこいつ。

 逆立てた金髪にギザギザの歯、こいつはギルド【牙狼】のギルドマスターのラウル、横にいる金髪の如何にもギャルって感じの女性プレイヤーはサブギルドマスターのチュリだっけか。


「はっ!立派なギルドハウスじゃねぇか。随分お高く止まってんな?新参が」


 え?もしかして、新参とか古参とか気にするタイプ?

 見た目によらずねちっこいな。


「ああ、運が良くてな。割と金がすぐ貯まったんだよ」


「ああそうだよな。確かに運はいっちょ前だな。"孤高の黒騎士キッド""影の狙撃手シオリ"そして、"伝説のギルドの元メンバーアリシア"を仲間にできたんだからな」


 みんなかっこいい異名があるんだなぁ。俺もいつかかっこいい異名つくのだろうか。

 ……って、アリシアが伝説のギルドの元メンバー!?伝説のギルドって言えば【原初】の事だよな?


「不遇武器のクソ雑魚がリーダーとは笑わせる。それだけメンバーが強かったらギルコンでも上位に食い込めるだろうよ。てめぇの実力じゃねぇぞ不遇武器。勘違いすんなよ?」


 あー、そういう感じね。

 確か牙狼は現状6位だっけか。負けて悔しいのね。うんうん。

 我慢しろハイセ。

 お前はもう高校生だ。

 我慢を覚える歳だ。


「は、はは……じゃあ会議室まで案内するよ」


「けっ、言い返しもしないのか。本当の雑魚だな」


 ぐぬぬぬぬ……。

 てめぇ、ぶっ殺……!!


「ハ、ハイセ、落ち着いて」


 ギルドハウスへ向かうラウルに握り拳を振り下ろそうとしていたが、ギリギリスミレに止められた。


「よく我慢したわね。偉い」


「俺だって成長するんだよ」


 後を追うようにサブマスのチュリがギルドハウスへ向かう。

 すると、チュリはこちらに振り向き、『ごめんね』と口パクをしてウインクをした。


 ギャルだな。


「俺達も行くか」


「ええ」


 会議室へ向かった。


【会議室】


 会議室のドアを開けると、既にみんな席に座っていた。

 なんか、重鎮の会議みたいでワクワクする。


「待たせて悪いな」


「いやいや!こんな立派な会議室貸してくれてありがとうハイセ!」


 会議室を見回してみると、これは確かに立派なもんだ。

 ハルはハウジングの腕が良いんだな。


「それじゃ、みんな揃った事だし始めようか」


 レオルは席を立ち、自己紹介を始める。


「今日は呼び掛けに応じてくれてありがとう。ギルド【ナイツ・オブ・ランウンド】通称【円卓】のギルドマスターレオルだ」

「サブギルドマスターのデイル」


 こう見ると壮観だな。

 去年のギルコンで総合トップ5に入っていたギルドが5組も。


「早速本題に入ろうか」


 レオルはいつになく真剣な表情で話を切り出した。


「【ワールドクエスト】発令の兆候が見られている」


 その一言に会場がザワついた。


 ワールドクエスト?なんじゃそりゃ。

 俺が頭の上に?を浮かべていると、レオルが苦笑いしながら話を続ける。


「まずは、【ワールドクエスト】について説明をしようか」


【ワールドクエスト】

 WSOの世界全てを巻き込む超大型クエスト。そのクエストは世界の終焉を告げ、WSOをプレイしている全プレイヤーへ発令される。世界の終焉を防ぐことを目的とされているが、それ以上の詳細は不明。


「確かな情報なのか?」


「確定とは言えないけど、俺はほぼ確定でワールドクエストだと思う」


 そう言いながらレオルが取り出したのは、割れた注射器のアイテムだった。


【名称:割れた注射器の破片 --- 説明:謎の割れた注射器の破片。付着している液体からは禍々しいなにかを感じる。遘大ュヲ閠?け繝ェ繝励ヨ縺御ス懊j蜃コ縺励◆迚ゥ縲ょスシ縺ッ荳也阜縺ョ豺キ荵ア縺ィ遐エ貊?r譛帙∩縲√◎繧後r螳溽樟縺吶k縺溘a縺ォ菴懊j蜃コ縺励◆譛?謔ェ縺ョ阮ャ縲ょスシ縺ョ險育判縺碁?イ繧√?縺薙?荳悶↓蜴?⊃縺瑚ィェ繧後k縺?繧阪≧縲】


「ひでぇ文字化けだな」


「この注射器はシークレットクエスト【第六天魔王】で登場したラスボス:ヒデヨシが使用した物だ。中の液体を注入すると、ヒデヨシは怪物に成り果てた」


「ちょ、ちょっとまて。【第六天魔王】なら俺も受けたことあるが、そんなラスボスでなかったぞ?」


 ゴクウのやつちゃっかりシークレットクエストやってたのか。

 ギルドに日本刀使いでもいるのかな。


「うん、そうなんだよ。俺も何回もクエストをクリアしたけど、モンスターと化したヒデヨシと戦うイベントは一度も起きなかった」


「だがそれだけじゃ確証は持てねぇだろ」


 牙狼のラウルはため息混じりに言う。


「そうだね。だから俺達は更に捜査を進めたんだ。まずは、異変だらけのスタンピード。これに関しては実際に戦ったオーディン、サイユウキ、百花繚乱が身をもって体験しているはずだ」


「ああ。あれは確かに異変だらけだったな。異様にモンスターは強えし、ラスボスは見た事もない奴だし。そういや、あいつが出現した時なんか文字化けしてたな」


 アデルが異変だらけだって言うならそうなのだろう。

 俺はスタンピード自体初めてだったから比べようが無いが。


「アデル、ゴクウ、ハイセ、あのスタンピードで【第六天魔王】と繋がるアイテムを入手してないかい?」


 アデルとゴクウは首を横にする。

 確か、あの注射器……。


「あ、その注射器と同じもの持ってるぞ」


 そうだった。スタンピードが始まる前に見つけたんだっけ。

 俺はインベントリから注射器を取り出した。


【名称:割れた注射器の破片 --- 説明:謎の割れた注射器の破片。付着している液体からは禍々しいなにかを感じる。遘大ュヲ閠?け繝ェ繝励ヨ縺御ス懊j蜃コ縺励◆迚ゥ縲ょスシ縺ッ荳也阜縺ョ豺キ荵ア縺ィ遐エ貊?r譛帙∩縲√◎繧後r螳溽樟縺吶k縺溘a縺ォ菴懊j蜃コ縺励◆譛?謔ェ縺ョ阮ャ縲ょスシ縺ョ險育判縺碁?イ繧√?縺薙?荳悶↓蜴?⊃縺瑚ィェ繧後k縺?繧阪≧縲】


「やっぱり。どうやら、第六天魔王と今回のスタンピードは繋がっているみたいだ」


 注射器……。

 初めて見たのはヒデヨシが俺達に見せた時だよな。

 あの時確かヒデヨシは……。


「西の商人……」


「そう、ハイセが言ったように、この件に関しては"西の商人"と呼ばれるプレイヤーまたはNPCが黒幕だと思う。独立型AIと事前に絡みがある事から後者である可能性が非常に高いけど」


「なるほどね。つまり、その"西の商人"と呼ばれるNPC(仮)はワコクからローデイルに移動……つまり、この世界を自由に動き回れるということだね」


 ハロルドの言う通りだ。

 世界を自由に動き回れるNPC……つまり、独立型AI。


「そのNPCはクエスト受注用に用意されたNPCってことか?」


「どうだろうね。ただ、"文字化け"されたアイテム、異変だらけのスタンピード、それってこの事態に対して運営が対応しきれてないって事だよね」


 明らかなイレギュラー……。

 運営が用意したNPCじゃないってことは。


「まさか……」


「うん、"西の商人"は既存のNPC。つまり、この世界のどこかのNPCが自由に動き回ってるってことだね」


 それを聞いてラウルが立ち上がる。


「待てよ!独立型AIにはクエスト毎にリセットが入んだろ!?クエストが終わればリセットされ、元の持ち場に戻り、再びクエストを受注されるのをその場で待ち続ける!」


「なんらかの不具合でリセットされてないとしたら?」


「そんなもん、運営が直ぐに対応するだろ」


「アデル、スタンピードのラスボスの文字化けはどうやって直ったの?」


「えっと……最初文字化けしてて、一瞬ラグくなってから、徐々に修正されたな」


「リアルタイムメンテナンスだね。運営はそのスタンピードを監視してたんだ。文字化けされたアイテムだけはそのままだし。つまり、運営はこの異変に気付いている」


 なるほど。運営は暴走している独立型AIを野放しにしてるってことか。


「だがよぉ、その暴走してるってNPCはどこのやつなんだ?何千何万とあるクエストから見つけるのは至難だぞ」


 ゴクウの一言に場が静まり返る。


「ふん!どうやら私の情報が必要みたいね!」


 場に似つかわしくないエディスのふてぶてしい声が静寂を打ち破った。


「【消えたNPC。マッドサイエンティストはどこへ?】この記事を見なさい。あんた達の話が本当だとしたら、暴走してるAIってのはこいつの事よ」


 WSO最前線攻略chを開き、記事を読む。


「狂気のマッドサイエンティスト:クリプトか」


「報酬が美味しいクエストだから周回してた人もそこそこ居たみたいね!でも、ある日急に消えちゃったらしいわ」


 自由に動き回っているということは独立型AI独自の移動制限も思考制限もシステムリセットも適用されてないってことか。


「現に異変は起き続けている。聞いた話だと、スタンピードの対象にならないはずの大都市5箇所でスタンピードが起こったらしい。そして、その5箇所全てが防衛失敗に終わった。見た事もないSSランク以上の強さのモンスターが出現したらしい」


 俺らの時と状況は同じか。


「そこで、集まってもらったみんなにはこの件について調査してほしいんだ」


「それなら全プレイヤーに周知してクリプトってやつを探せばいいじゃねぇか。丁度いい宣伝屋もいる事だしよ」


 エディスはえっへんと胸を張る。

 アデルの言うことは最もだな、その方が早そうだ。


「いや、この情報はとりあえずここだけの話にしてほしい。余計な混乱を招きたくないんだ。だから、スクープの人達はこの情報を記事にするのは一旦保留にして貰えるかい?」


「……わかったわ。私も混乱を招きたい訳じゃないから。ただ!公表する時が来たら真っ先に記事にするから!稼がせてもらうわよ!」


 がめついなぁ……。

 だがまぁ、AIの暴走なんて言ったらどっかのB級映画みたいな展開になりそうで怖いよな。それこそパニックだ。


 その後はどのように調査して行くかの話し合いをした。

 結果、スタンピードが起こった都市周辺の調査とクリプトに関係がありそうなクエストを受けていくという事になった。


「みんな今日はありがとう!解散!」


 レオルが締め括り、会議を終えた。


 俺は会議室に残り、頭の中で内容を纏める。


「……なぁ、アリシア」


「ん?」


「ワールドクエストって結局なんなんだ?世界の終焉って?クエストに失敗したらこの世界無くなるのか?」


「それは私にもわからないよ。ワールドクエストはリリースから1年経った今でも一度も発令されたことないから」


 世界の終焉……。つまり、世界を滅ぼす程の厄災が襲いかかってくるってことだ。

 どのタイミングで何がきっかけでクエストが発令されるのかわからない。

 なんとももどかしいな。


「まぁ、やれることやるか」


 ワールドクエスト……楽しみだ。


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