第62話 特ダネある所にスクープあり(?)
「「「えぇ!?売却したの!?」」」
スミレ、ハル、シオリの3人はアリシアからお店を売却したという報せを聞き声を上げる。
「なーんーでーよー」
スミレはアリシアの肩を揺らす。
「アルガンとムサシを行ったり来たりする訳にも行かないし、ここの施設が凄くいいから、向こうに行かなくなるのも寂しいしさ」
アリシアは困ったように笑いながらスミレを宥めている。
「そうだけど……」
アリシアの言うこともわかる。
だが、俺も少し残念だな。あの店は結構好きだったし、思い出の場所だったから。
まぁ、アリシアはなにか決心した顔してるし、深くは追求しないでおこう。
「スミレ、アリシアにも事情があるんだよ」
「うん……。アリシア、お店はどうするの?続けるの?」
「うん!私の収入源だからね!ここの目の前に小さい小屋があるでしょ?建物代も安いしあそこ改造してお店にするつもり!あ、珍しい素材とか手に入れたらギルドの資産にするから!」
アリシアが稼いだものは個人で好きなようにしてもらっていいんだけどなぁ。
すると、アリシアは俺の元に来て、ボソッと耳打ちした。
「お店まで売却しちゃったんだから、責任取ってよね」
そう言い、パチンとウインクする。
誤解を生みそうな言い方を……。
売却したのは自分だろって言ってしまったらノンデリ判定されちゃうだろうな。
「おはようございます」
「キッドか、おはよう」
キッドもログインしたことで、今日も百花繚乱は勢揃いだ。6人しかいないけど。
「ハイセさん、家の前にお客さんが来てましたよ」
「ん?お客さん?」
誰かを呼んだ覚えはないが……。
ギルドハウスを出ると、そこには見慣れた金髪の男が立っていた。
「やぁ!ハイセ!しばらくぶりだね!」
「レオル……」
円卓は忙しそうだってアデルが言ってたのに……。こいつは暇なのかな?
「お前にギルドハウスの場所教えてないんだが?」
「俺には色んな情報のツテがあるからね」
ストーカーじみたことしてんな。
「そんな情報手に入れなくたって、そのうち教えてたのに」
「そのうちじゃ遅いよ!俺達の仲じゃないか」
「わかったわかった。それで?何しに来たんだ?天下の【円卓】のリーダーがただ俺に会いに来たなんて言わないよな?」
「もちろん!ちょっと話したいことがあってね。精力的に活動しているギルドのギルマスとサブマスを集めてちょっとした会議を開きたいんだ」
会議?
レオルはいつになく真剣な顔だ。
それだけ重要な案件ということか。
「場所は?」
「円卓のギルドハウスで開こうと思ってるけど……」
そう言いながらレオルの目線は後ろの百花繚乱のギルドハウスに目がいっていた。
「はぁ……最初からそれ目的でわざわざ足を運んだのか」
「えへへ、やっぱ新居って気になるよね!それに日本家屋だし!」
「日本家屋って言ったて内装は普通だぞ」
「会議室はあるかい?一応君達合わせて6つのギルドに声掛けてるから、最低12席は欲しいんだけど」
確か1階の奥に作ってたっけ。
「あるぞ。結構な人数入ると思うが」
「いいね!じゃあ日にちは決まり次第連絡するね!」
そう言いレオルは去っていった。
「誰だったの?」
「円卓のレオル。なんか会議開きたいんだってさ」
「なら会議室が必要ですね!バッチリハウジングしときます!」
「おー、12席分頼む」
ハルは嬉しそうに物凄いスピーで会議室へと走っていった。
「会議ってなんだろうね。ギルコン関係かな?」
アリシアは1つの記事を見ながら言っている。今朝のWSO最前線攻略chのやつか。
「さぁ?内容は聞いてないが、わざわざ他のギルドのメンツ集めるぐらいだから重要なことだろうな」
「ハイセさんの他に誰が出席するんですか?」
「ギルマスとサブマスって言ってたから、俺とスミレだな。まぁ、俺達のホームだし、お目付け役としてアリシアも同伴してくれ」
「了解」
「わかった!」
〔ピロンッ〕
レオルからのメッセージだ。
『声をかけたギルドみんな参加するって!時間は2時間後!百花繚乱のギルドハウスの場所教えても大丈夫?』
『了解。教えても大丈夫だ。また2時間後』
声をかけたギルドみんな参加か。流石はレオル、どっかのアデルと違い人望があるんだな。
「会議は2時間後らしい。スミレとアリシアは2時間後に会議室な。残りのメンバーは今日は特に予定はないから好きにしてていぞ」
「「「「了解」」」」
「シオリさん、行きたいクエストあるんですけど一緒に行きませんか?」
「いいわよ。ハルも誘いましょ」
キッド達はクエストに向かうのか……俺も。
「ダメよ」
「はい……」
キッド達について行こうとしたらスミレに腕を掴まれた……。
まぁ、俺は俺で適当に時間潰すか。
各々自身のやるべきことを見つけ、ギルドハウスを後にした。
◇
2時間後。
【シミュレータールーム】
「ふぅ……」
【バトルを開始しします】
【5】
【4】
【3】
【2】
【1】
シャドウサーバントは変わらず平正眼の構えを取る。
【スタート】
ここだ。
俺は1歩右に逸れ、シャドウサーバントの強力な突きを躱す。
ここまではいける。
何よりこいつの初動は絶対に平正眼からの突きだ。嫌でも躱せるようになる。
問題はここからだ。
どの攻撃に派生するかはシャドウサーバントの僅かな予備動作を確認して判断しなければならない。
「っ!!」
刀の切り返し。
一文字斬りか。
〔キンッ!!!〕
シャドウサーバントの刀を受け止める。
ギリギリと鍔迫り合いが繰り広げられるが、なんてパワーだ。押し切られる。
俺は流れるように受け流し、シャドウサーバントの脇腹へ蹴りを入れた。
ダメージにはならないが、僅かに体勢を崩す。
一気に距離を詰め、刀を振り下ろす。
「鷹見流『轟雷』」
〔ガンッ!!!〕
「チッ……」
シャドウサーバントはすんでのところで俺の刃を防いだ。
全くどんな反応速度だよ。
そこからは激しい剣戟が繰り広げられる。
一進一退の攻防。
互いのHPは同じ速度で減っていく。
そろそろここら辺で決めないとな。
そう思い、シャドウサーバントから距離を取った。
シャドウサーバントの動きを観察する。
僅かな脚の力み……。
体重が右脚に乗っている。
これは……。
〔ダンッ!!!!〕
シャドウサーバントは強力な三段突きを放った。
しかし、その首にちは1本の太刀筋。
〔キンッ……〕
俺が鞘に刀を戻すと、シャドウサーバントの首が一刀両断された。
「ふぅ……危なかった」
俺のHPは残り50を切っていた。
第六感に頼りきらず、相手を観察し、予測する。最後の動き……なんとなくなにか掴めそうな気がする。
〔パチパチパチ〕
背後から拍手が聞こえる。
「レオルか。居たのか」
「気付いてたくせに」
「まぁな」
シミュレーターから出て、椅子に腰をかける。
「よう、チップ。元気にしてたか?」
「……」
レオルの隣で俺の戦いを見ていた円卓のサブマス、デイルは口を開いたまま固まっている。
「どうしたんだこいつ」
「ハイセの戦いみて驚いてるんだよ」
「今更だろ」
「っは!!……ハイセ、お前はどこまで強くなれば気が済むんだ……」
息を吹き返したデイルは頭を抱えながらそんな事を言っている。
俺がチップって呼んだことにはノータッチなのね。
「しかしすごいね。シャドウサーバントをソロで倒しちゃうなんて」
「今回が初勝利だよ」
それもギリギリだ。
じじいはノーダメージでしかも俺と話しながら倒していた。
まだまだだな。
「お前達以外は来てるのか?」
「う、うん……1ギルドだけね……」
何を申し訳なさそうに目を逸らしてんだ?
「なら、お出迎えしないとな」
俺とレオルはバトルシミュレーターを出て、ギルドハウスを出ると、そこには2つの影があった。
「ふふっ!現れましたね!百花繚乱のハイセ!」
……。
「なんだこのチンチクリン」
「チンチクリン言うな!!」
身長は俺の胸下ほどしかない丸メガネを掛けた黒髪ショートの女性プレイヤーだ。
もう1人の緑髪の男性プレイヤーは消極的な感じで慌てた様子であわあわしている。
「私はギルド【スクープ】の編集長!!エディスよ!」
「ぼ、僕は助手のライです……」
スクープって言えば、今日昼休みにスミレから聞いたWSO最前線攻略chを運営してるってギルドか。
ってことはこいつら……。
「レオル」
ジト目でレオルを見るが、当の本人は何処吹く風だが、諦めたように口を開いた。
「円卓のギルド前に張られてて……。どこから情報を仕入れたか知らないけど、今日俺達が集まることがスクープにバレててね」
「それで、そのまま連れてきたと」
「だって仕方ないじゃないか!この人達どこまでも着いてくるんだもん!スクープの記者を巻くのは至難の業なんだよ!?」
「お、おう……そうか、そんなにしつこいのか。なんかすまんな」
巻くのは至難の業って……このスクープってギルドの奴らはとんでもないな。
「しつこいとは人聞きが悪いですね。特ダネある所にスクープありです!特ダネの為なら例え地の果てでも」
「それをしつこいって言うんだよ」
すごい執念だな。
マスコミRPっていうか……マスコミそのものだ。
「はぁ……来てしまったもんは仕方ないから、席作っておくよ」
ってことは席は全部で14席か。
ハルに連絡っと。
「気が利くわね!」
「エ、エディスさん……もうちょっと礼儀正しく……相手はあの百花繚乱のハイセさんですよ……?」
「うるさいわね。あんたはもっと堂々としなさい!」
「ヒィ……」
ライは背中をバンと叩かれる。
中々に苦労してそうだな。