第61話 思い出と決意
「そう言えば、今朝のWSO最前線攻略chみた?」
スミレは頬を赤らめたまま、ため息混じりに話す。
「WSO最前線攻略ch?なんだそれ」
変な名前。
「知らないの?WSOの最新情報を教えてくれるI streamingのチャンネルよ」
「へー、そんなチャンネルがあるのか」
俺は基本的にパッチノートとか攻略サイトとかしか読まないからなぁ。
「んで、なんかあったのか?」
「それがね、棍棒のオリジンクエストが見つかったそうよ」
オリジンクエスト!
エクスカリバーとグングニルに次ぐ3つ目のオリジンか。
「見つけたのはギルド【サイユウキ】のリーダー、ゴクウ。この前のスタンピードで知り合った人ね」
「まぁ、サイユウキは円卓やオーディンと肩を並べるトップギルドだからな」
動画を見てみると、クエストに向かうゴクウの姿が映っていたが、撮影者を他のサイユウキのメンバーが止めに入っている。
「すっごく嫌そうな顔してたわね」
「そりゃそうだろ。ゴクウが手間暇かけてやっとの思いで見つけたオリジンクエストをこのマスコミみたいな奴らのせいで全世界に情報がばら撒かれたんだからな」
レオルやアデルも同じような目にあったらしい。
西洋剣と槍は使用率も高く人気な武器だったが故に、挑戦人数は数百万人を超えたらしい。
だが、その誰もがクリア出来ず、心を折られたそうだ。
最終的には冷やかし程度に挑戦するプレイヤーが僅かに居たぐらいだったのだとか。
「日本刀のオリジンは全くだな」
「まだ実装されてないのかもね」
「そうだな」
俺の予想ではワコクが追加されたのと同時に追加されてそうだが……。
オリジンについては追加されたされてないの情報すら出てこない。
頑張って自力で見つけるしかないってことだ。
「このWSO最前線攻略chはブログもやってるみたいだから、見てみれば?」
WSO最前線攻略ch……今朝更新されたばかりか。
常に最新情報を取り扱ってる訳だ。
「どれどれ……」
【サイユウキのゴクウ!ついに棍棒のオリジンクエストを発見!!】
【秋のギルコンの内容がリーク!?その衝撃な内容とは!】
【あなたが思う最強のギルドは?徹底調査してみた!】
【消えたNPC。マッドサイエンティストはどこへ?】
【【原初】特集!伝説のギルド【プリモーディアル】について考察してみた!!】
ネタみたいなものからしっかりとした最新情報まで……人気があるのも頷ける。
1つの記事が目に留まる。
伝説のギルド?【プリモーディアル】?
聞いたことないな。
【原初】と呼ばれるギルドについて書かれた記事を読んでみる。
『リリースから1年が経ったワールド・シーク・オンライン。現在ナンバーワンギルドと言えば【円卓】だと答えるプレイヤーがほとんどだろう。しかし、当ゲームがリリースされてから3ヶ月間、その【円卓】ですら勝利することが出来なかった伝説のギルドがいるのをご存知だろうか。
そのギルドこそが【プリモーディアル】通称【原初】と呼ばれるギルドだ。
所属人数8名と少数精鋭ながら、その圧倒的な力で、瞬く間にトップに上り詰めた。
しかし、輝かしい栄光を掴むはずだった彼らはリリースから3ヶ月後、夏のギルコンを終えた後、突如として解散したのだ。
メンバーは散り散りとなり、現在活動を確認しているのは……』
「ハイセ!昼休み終わるわよ!」
「ん?もうそんな時間か」
続きが気になるが……。まぁ、そんな重要な情報でもなさそうだしいいか。
「しっかりとした記事書いてんだな。プロの記者でも雇ってんのかな?」
「みんな0から始めたらしいわよ。WSO最前線攻略chを運営しているのは【スクープ】ってギルドらしいわ。ギルコンとかには出場せず、記事を書いたり、アイテムを生産したり、戦闘よりも生産に重きを置いたギルドみたいね」
「へー」
楽しみ方は人それぞれってことか。
「今日はどうするの?」
「んー、イベント続きだったからなぁ。久々にあちこち探索してみようかな」
「いいわね!」
スミレは俺に手を振りならがら自分の教室へと戻って行った。
「さて、午後からも踏ん張りますか」
俺は午後からの授業を全て爆睡で乗り切り、家に帰るのだった。
◇
◇SA【始まりの街:アルガン】
始まりの街:アルガンの薄暗い路地。
そこには寂れた武具屋があった。
「ふぅ……こんなものかしら」
そんな武具屋の店主の名はアリシア。百花繚乱のマスタースミスである。
綺麗に並べられていた武具の数々は綺麗さっぱり無くなり、全て片付けられていた。
アリシアはガランとした店を見て、思い出に耽ける。
賑わう店内。客ではなく、ギルドの仲間達。
客なんて滅多に来なかったが、この店は常に人で賑わっていた。
しかし、その姿は百花繚乱のメンバーではなくかつての……。
〔カランカランッ……〕
店の扉が開く。
「アリシア」
そこに立っていたのは赤髪の青年。
2本の剣を腰に挿している双剣使いのプレイヤーだ。
「ジール!久しぶりね」
「久しぶりってほどじゃないだろ」
「それもそうね!ギルコンの時はありがとう。秘伝の書とか色々貴重なアイテム譲ってくれて」
「譲った覚えはないよ。ちゃんと金払ってくれただろ?」
「それでも格安で譲ってくれたから……」
申し訳なさそうにするアリシアに、ジールと呼ばれた赤髪の青年は優しく笑う。
「良かったよ」
「なにが?」
「お前がちゃんと前を向いていて」
「……そうね。やっと前を向けるようになったわ」
少し寂しそうな顔をしたジールはアリシアの頭を撫でる。
「【原初】の解散を1番引きずってたのはお前だもんな……」
「それだけあの3ヶ月が楽しかったってこと」
「それにしても、アリシアの心を射止めたやつは大したもんだな!それに、まさかリーダーが"また"日本刀使いだとは……」
「それに関してはたまたまだよ。確かに、ハイセの姿にかつてのリーダーの面影を見たのも確かだけど……。たぶん、ハイセが他の武器を使ってても彼に着いて行ったと思う」
「ゾッコンだな」
「う、うるさい!」
困ったように笑うジークをアリシアはポコポコと殴る。
「それに見てよ!このギルドマーク!」
アリシアは百花繚乱のギルドマークをデカデカと映し出す。
それを見たジールは大きく目を見開き、口を強く結んだ。
「鷹……」
「ハイセ、【原初】の事なんて
知らないはずなのにね」
「ははっ、すごい偶然だな」
アリシアとジールは店の外に出て、かつて自分達が愛用していてた武具屋を眺める。
「売却するのか?」
「うん、もう必要ないからね」
「そうか……少し寂しいな」
ジールの言葉にアリシアは顔を伏せる。
「私がいつまでもここにいた理由は、もしかしたらリーダーが帰ってくるかもしれないって思ってたから……その為の居場所だった……」
そう言いながら、店前のタッチパネルを操作する。
「この店でリーダーと出会い、ギルドを創って、人が集まって、そして、リーダーが居なくなって……、解散して……、寂しくて、悲しくて、もうこのゲーム辞めようかなって思ってた時に、ハイセとスミレがこの店を訪れたの。
出会った時はね、日本刀を使ってるハイセがちょっと嫌だった『どうせこの人もカッコ良さだけで使ってる人だ』って。
リーダーみたいに日本刀を完璧に扱う人なんて居ないと思ってたから……。
でも、ハイセの立ち振る舞いを見ていると普通に良い人だってわかって、ハイセの剣技を見た時はリーダーの姿と重なったの。その時にはもう、吹っ切れてた!」
「そうか」
「だからね、もう未練は断ち切ることにした!ハイセを……リーダーを心置きなく支えるために」
【該当物件を売却しますか?】
「私はもう【プリモーディアルの副ギルドマスター】じゃなくて、【百花繚乱の鍛冶師】だから」
アリシアは『はい』のボタンを押す。
【売却が完了しました】
「ジールは?どうするの?うちに入る?」
「俺はしばらくソロで活動するよ」
2人は踵を返し、路地裏を歩く。
「応援してるぜ、百花繚乱。困っ事があれば頼ってくれ。力になる」
「うん、ありがと。ジールも辞めないでね!WSO!」
「ああ」
2人は笑い合い、思い出を背に歩みを進めるのだった。




