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第59話 夢のマイホーム

 

 スタンピードクリアの宴は盛大に行われ、数々のギルドが入り乱れ、交流を深めていった。


 そして、賑やかな宴会も終盤に差し掛かった頃、アデルが俺の隣に座ってきた。


「楽しんでるか?」


「まぁな。さすがトップギルドだ、宴会も豪華で羨ましいよ」


「何言ってんだ!お前らもいつかはこうなるだろうよ」


 いつかはそうなるといいな。


「それより、お前らソワソワしてんな?やっぱ楽しみか?初めてのギルドハウス」


「まあな。なんせ今までにないくらいの大金注ぎ込むんだから、楽しみで仕方ないさ」


「だろうな!バトルシミュレーターまで買っちまうなんてなぁ……あれは俺でも手が出なかった」


「アデルの財布の紐はカスミが握ってんだろ?んな無駄遣いさせる訳ないだろ」


「おい、自分で無駄遣いって言うなよ。まぁ、なんだ、たまにでいいから俺にも使わせてくれよ!」


「1回10ゴールドな」


「金取んのかよ!」


 そんな他愛もない話をしていると、俺の隣で飯を食っていたスミレが俺に耳打ちをしてきた。


「ハイセ、そろそろドロップアイテムの換金を済ませないと。今日中にギルドハウス完成させるんでしょ?」


 もうそんな時間か。

 楽しい時間はあっという間だ。


「そうだな。そろそろ行くか」


 俺は席から立ち上がり、辺りを見渡す。


 トップギルドのレイドバトル。

 みんなレベルが高かった。

 もちろん俺達百花繚乱も引けを取らない程だ。

 だがやはり、トッププレイヤーと俺やスミレとの間には絶対的なステータスの差があった。今はなんとか持ち前のプレイヤースキルでカバーしているが、力比べとなると分が悪い。

 しっかり討伐Pも稼いでいかないといけないな。


「じゃ、俺達は先にお暇させてもらうよ」


「おう!スタンピードはいい稼ぎになったろ?……イレギュラーはあったが」


「ああ、ありがとな。報酬は美味かったしイレギュラーなんて些細なもんだろ?」


 そう言う俺の脳裏には文字化けしたアイテムの存在が過ぎる。


「ギルドハウスが完成したらそのうち招待するから、気長に待ってろ」


「直ぐに招待しろよ!じゃぁな!!」


 帰ろうと踵を返す俺に誰かが肩を組んできた。

 サイユウキのゴクウだ。


「おぉ?なんだもう帰んのか?」


 絡み方が酔っぱらいのそれじゃねぇか。

 場の空気で酔えるやつってのはほんとにいるんだな。


「ああ、やることが立て込んでてな」


「そうかそうか!なぁハイセ!今度俺とサシで戦ってみねぇか?あんたの剣術にはちょっと興味があってな」


 トップギルドのギルマスからサシのお誘いか。願ってもない。


「是非とも頼む。俺もお前の棍棒の扱い方に興味があったんだ」


「奇遇だな」


 俺達はニヤリと笑い、握手をした。


「それじゃ、みんなお疲れ。またどっかで会おう」


 〔じゃぁなー!!〕

 〔またレイドしよーぜ!!〕

 〔ありがとよー!!〕


 声を上げ見送るプレイヤー達に手を振りながら、俺達はオーディンのギルドハウスを後にするのだった。


「んじゃ、行くか!!俺達のギルドハウスへ!」


「「「「「おぉー!!!」」」」」


 俺達はギルドハウスが待つワコクへとワープした。


 ◇◇◇


 ◇SA【ワコク:ムサシ】


 ここはワコクの北東に位置する都市【ムサシ】だ。おそらく武蔵国から影響を受けている都市だろう。

 街の規模で考えたら多分ワコクエリアでは1番なんじゃないかと思うほどの大都市だ。


 俺達百花繚乱の目の前には大きな日本家屋の豪邸が1件。

 今から俺達のギルドハウスになる家だ。


「じゃ、みんな俺に送金してくれ」


 換金を終えたメンバーは俺へ持ち金を送金する。

 スタンピードで手に入れた一部使えそうなアイテムやレアな武器は売らずに倉庫に預け、ドロップアイテムやモンスター素材は片っ端から売り捌いてやった。

 おかげで目標だった1万ゴールドを余裕でクリア、俺達も晴れて金持ちの仲間入りってことだな。


「……」


「ハイセ?」


 しかしすごい額だ。このまま逃げてやろうか……。

 そんなことを考えていると、俺の脳天に衝撃が走った。


「痛っ。なんで叩くんだよ」


「馬鹿なこと考えてそうで」


 スミレの読心術も人間の域を超えてきたな……。正直怖い。


「あんたが顔に出すぎなだけよバカ」


 ……。

 気を取り直して。


「よし、1万ゴールド足りてるな。買うぞ?いいか?」


「なんで勿体ぶるのよ」

「師匠早く!!」


 シオリとハルに急かされながら手続きを進める。

 ギルドハウスの購入は簡単だ。

 該当の物件の前にある操作パネルから購入手続きを進める。

 建物以外に追加のオプションを選択する。射撃訓練場、修練場、工房、厨房、シアタールーム、そして……。


「バトルシミュレーター……」


 念願のバトルシミュレーターだ。

 俺がこれをどうしても欲しがる理由、それは、もう一度アイツと戦う為だ。全力のアイツと。


「いくぞ!購入!!」


【購入ありがとうございます。ギルド名【百花繚乱】のメンバーには当物件の転移水晶をお贈りします。インベントリをご確認ください】


 インベントリを開いてみると、大切な物リストの中に【転移水晶:ギルドハウス】と書かれたアイテムが入っていた。


「おお……!!これが俺達の……!!」


「師匠!まだやることがありますよ!」


 そう言うハルは建物の門にある空白のスペースを指さしていた。


「私達のギルドマーク入れなくちゃ!」


 なるほど。この空白に俺達のギルドマークを入れるのか。


「……これで良し!どうだ?」


「うん、いいわね」

「さすが師匠!」

「かっこいい……」

「センスあるわね」


 うんうん、みんないい反応してくれる。

 頑張って考えた甲斐があるってもんよ。


「……」


「アリシア?」


 アリシアだけ、なぜか無反応だ。まさか、気に入らなかったか?


「うん……!凄くいいと思う!」


 アリシアはギルドマークを見て、なぜか少し悲しそうな、少し寂しそうな顔をしていた。


「そうか、なら良かった」


 俺達はギルドハウスを手に入れた。

 これでギルドとしても箔が付くだろう。


 大鷹を中心とし、その周辺には花びらが舞う。大鷹が咥える一振の刀を象徴としたギルドマークを背に、俺達はギルドハウスへと足を踏み入れたのだった。


「そういや、なんで鷹なの?」


 〔ギクッ!!〕


 シオリの何気ない質問にビクッとしてしまう。


「ほ、ほら、鷹ってなんかカッコイイじゃん?それに、スミレの技にも大鷹とかあるだろ!?やっぱカッコよくないとな!」


「ふーん。男子って感じね」


 シオリはそう言いながらそそくさと自室へ歩いていった。

 上手く誤魔化せたかな?

 さて、俺も自分の部屋に行くか。


【ギルドマスター】


 おお、なんかそれらしいな。


 扉を開くと24帖のだだっ広い部屋が広がっていた。

 俺は8畳くらいの部屋で良いって言ったんだが、それじゃギルマスとして箔が付かないと反対を受け、いちばん大きい部屋を貰ったのだ。


 部屋を入ってすぐ右手にはソファと机があり、来客の対応を出来るようにしている。

 奥は一段上がって畳になってあり、その中心には執務用の机と座椅子が置かれている。

 そして、その背後には日本刀を置くための刀置きが置かれている。


 俺はインベントリから一振の刀を取り出した。


 加州清光。

 俺のこの世界での初めての相棒。

 折れても破棄しなかったのは、こうやって飾る為だ。

 刀置きに加州清光を置く。


 うむ。様になってるな。


 座椅子に腰をかける。


「マイホームかぁ……」


 鷹見家本家だったらこの豪邸ともいい勝負だ。

 そう思うと、俺って普段から豪邸に住んでんだな。

 いいとこの坊ちゃんって言われちまうのも仕方ないな。


「そろそろ行くか……」


 ずっとうずうずしてたんだよな……。

 俺の1番のお目当て……!!

 バトルシミュレーター!!


 ギルマス部屋を出てすぐに左。

 突き当たりの左にある階段を降り、修練場がある部屋の隣にバトルシミュレータールームを設置した。


【バトルシミュレータールーム】


 中に入るとなんとも殺風景な白い空間が広がっていた。

 まぁ、戦えるならなんでもいいや。


 操作方法は一通り目を通している。


「確か……」


 メニューウィンドウを開き、設定を始める。


【モンスターを選択してください】


 ずっと戦ってみたかったんだ。

 全力のアイツと。


「いた……」


【モンスター:シャドウサーバント(侍)】

【モンスターレベル(1~10):10】

【第2形態状態:なし】

【ルール:体力全損・一撃必殺あり】


 俺が昔、宝の地図で見つけたダンジョンのボス【シャドウサーバント(侍)】この世界で初めて戦ったボスモンスターだ。

 ゴロウ曰く、あの時戦ったシャドウサーバントはダンジョン難易度に適用するため弱体化していたと。本来なら手も足も出ない相手だと言っていた。


【モンスターを投影します】


 部屋の奥で徐々にシャドウサーヴァントが投影されていく。


 半着に袴、長い髪は後ろで束ねられている。


「沖田総司。全力のお前と戦いたかった」


 左足を引き、腰を落とす。収めた刀の柄に手をかける。おそらく高速の三段突きがくるだろう。

 俺は居合で迎え撃つ。


 そして、投影が完了したシャドウサーバントは平正眼の構えを取った。


【バトルを開始しします】


【5】


【4】


【3】


【2】


【1】


 身体中の神経を研ぎ澄ませる。


【スタート】


 さぁ、思う存分戦お……


「がはっ……」


 目の前が真っ暗になった。

 一瞬、ほんとに一瞬だけ見えたのは、シャドウサーバントの殺気立った赤い瞳。


 刀を抜く暇もなく。

 俺の胸部には大きな風穴が空いていた。


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