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第57話 第2形態

 

 〔ピロンッ〕


 俺の目の前にウィンドウが表示された。


『パッシブスキル【宝斬】を獲得しました』


「お!久々のパッシブスキルだ」


【宝斬】か。

 よく耳に馴染む言葉だ。

 鷹見家の宝刀『鷹神宝斬大空』に因んでいるのかな。


【宝斬:相手の防御力を無視して攻撃を与えることができる。相手の防御力が硬度等級:上級以上のときのみ発動。クールタイム:500秒】


「防御力ガン無視の貫通攻撃……!!こりゃ使えるな」


 だが、硬度等級が上級以上か。

 通常のボスの場合硬度は最高でも中級であることが多い。このドラゴン・オーガは上級か超級ってとこか?

 おそらく、硬度等級:上級以上のモンスターはランクSSより上にしか存在しないだろう。


 その後、弱体化したドラゴン・オーガに怒涛の攻撃を仕掛け、残るHPは半分を切った。


「全員止まれ!!」


 アデルの一言で全員攻撃をやめる。

 すると、ドラゴン・オーガは蹲り、なにか苦しそうに悶えはじめた。


「やっぱりか」


「来るぞ……!!第2形態!!」


 当然のように第2形態か。

 第1形態であんだけ強かったのに、一体どうなっちまうんだ?


 〔グルルァアアアアアアア!!!!!!〕


 悶え苦しんでいたドラゴン・オーガの巨躯はみるみる縮んでいき、その大きさは2mほどに収まった。


「ちっちゃくなったな」


「ああ、だが闇属性のオーラの量は第1形態の比じゃないぞ」


 見て分かるレベルでドラゴン・オーガの身体中から闇属性のオーラが溢れている。

 そして、ドラゴンに近かった体型はオーガに近くなり、体も引き締まっていて完全に人型のモンスターとなった。


「まだデカい方が戦いやすかったなぁ」


「どうする?大人数で一気に攻めるか?」


「いや、それだと遠距離部隊が攻撃できなくなる」


「なるほど。じゃあ、前衛は2,3人に絞るか……」


 第1形態との戦闘で人数は100人程まで減ってしまった。

 BOSSWAVEで半数以上殺られてしまった訳だ。

 下手をすれば全滅も有り得る。慎重にいかないと。


「スタンピードは戦闘不能になると復帰できないし、スタンピードで得たアイテムも失ってしまう。残りの奴らも折角のお宝を失いたくないだろ」


 アデルはそう言うが、そんなん俺だって失いたくねぇよ。だってギルドハウスの設備に関わるし。

 なんて我儘は言えないよな。

 あのドラゴン・オーガと正面切って戦えるプレイヤーは限られている。


『参加プレイヤー全員に告ぐ!!あのバケモンと戦うために前衛は3人までに絞る!!遠距離部隊はエイムに自信があるやつだけ参戦しろ!!』


 3人か、この中だったら……。


『前衛は俺!!ハイセ!!キッドだ!!』


 その言葉を聞いて前衛で生き残っていたプレイヤー達が騒ぎ立てる。


「まだ戦えるぞアデル!!」

「俺達だってトップギルドの一員なんだ!!」

「ここで引きたくねぇよ!!」


 こいつらの言いたいこともわかる。

 最後まで戦いたいのだろう。

 そして、なによりこのボス戦でのMVPプレイヤーになりたいのだ。そうすればレアなアイテムが貰える。


『うるせぇ!!黙って聞きやがれ!!』


 アデルの一喝に周囲は静まり返った。


『不服だろうが、ここでイタズラに戦力を失うわけにはいかない。わかるだろ?第1形態で半分の人数が殺られちまったんだ。ドラゴン・オーガの体型も小さくなってより大人数での戦闘がやりずらくなっちまった。……もし、俺達が殺られたら、次はお前らの番だ。頼んだぜ』


 ここまで言われたら黙るしかない。

 アデルはこう見えてもWSOのトッププレイヤーだ。納得せざるを得ないだろう。


『絶対に勝つ!ローデイスを守るぞ!!』


 〔うぉぉおおおお!!!!!!!〕


「大した演説だな」


「へっ、伊達にギルドのリーダーはやってねぇよ」


 そう言うが、アデルはどこか不安そうな表情を見せる。


「今回のスタンピードは今までと何から何まで違う。本来のBOSSWAVEなら総力戦になるはずだ。だから、前衛を俺達に絞った。お前らなら不測の事態にも対応できると思ったからだ」


「なら、俺達はその信頼に応えないとな。な?キッド」


「勿論です!攻撃は俺が引き受けます。2人は全力で攻撃を」


「さて、やるか」


 俺達は完全に形態変化を終えたドラゴン・オーガを見る。


 〔グルルル……〕


 大きさは2mと少し、赤黒い鱗を纏い1本だった角は2本になっている。

 完全な二足歩行で簡単に言えば所々ドラゴンの特徴を持った、ゴリマッチョなオーガだな。


「ん?」


 ドラゴン・オーガの両手には闇属性で生成された剣が握られている。


「へー、双剣」


 双剣を扱うモンスターと戦うのは初めてだ。

 それにこの感じ、やっぱりヒデヨシと似たものを感じる。

 ヒデヨシの場合は『悪鬼羅刹の血液と謎の液体の混合』今回はオーガ・エンペラーに『ドラゴンの血液と謎の液体の混合』を注入したのだろう。


 誰がこんなことするんだか。

 独立型AI?それとも、そういう生産系スキルがあったりするのか?


 〔グギャァァァアアア!!!!〕


 っと、考えるのは後か。

 ドラゴン・オーガは咆哮し、グッと足に力を入れた。


「きます!!」


「キッド!!ヘイト管理は頼んだぞ!!」


「はい!!」


『ヘイトコレクト』『黒翼壁』


 キッドはヘイトを集め、最高硬度の『黒翼壁』で迎え撃つ。


「アデル!左右からはさ……っ!?」


 飛び出した瞬間だった。

 グッと足に力を入れたドラゴン・オーガは消え、一瞬で俺の眼前に迫ってきた。


 〔ガキンッ!!!!〕


「なん……だ!こいつ!!」


 ギリギリと鍔迫り合いをしている。力は拮抗しているが……。


「キッドのヘイトコレクトが効いてない……?」


「挑発無効だ。厄介だな」


 挑発無効ってことはヘイト管理が難しくなるな……。SSランクってのはここまでなのか。


「おらっ!!」


 闇の剣を弾き、空いた胴体に一撃を与える。

 手応えはある。HPもそれなりに削れる。


「第1形態のようなことはないらしい」


「まぁ、普通にダメージを与えられるだけマシか」


 だが、この圧倒的なスピードとパワー。

 目で追うのがやっとだ。

 俺は第六感で対応することは可能だが……、キッドとアデルはそうはいかないだろう。


「シオリ!『鈍化』かけてくれ!」


「りょーかい!」


「エイハム!お前も『鈍化』をかけろ!」


「了解しました!」


 俺とアデルの指示を聞き、2人は同時に『鈍化』のデバフをかけた。


「効果って重複すんのか?」


「重複はしねぇが、スキルによっては上位互換スキルに合成されることにがあるんだ」


『『重鈍化』』


【スキル:重鈍化 UR 効果:スキル対象のAGIを大幅に低下させる。このスキルは2人のプレイヤーが同時に『鈍化』をかけることで発動する】


「なるほど」


『鈍化』は対AGI特化型の場合必須スキルだが、強力かつSRのサポート魔法である為相当な討伐Pが必要であり、取得難易度は高い。

 バッファーは1人が理想の5人のパーティー戦闘では『重鈍化』の条件は満たせない。

 つまり、『重鈍化』はレイドバトルでの使用を想定しているのだろう。


「まだまだ勉強不足だな」


 ドラゴン・オーガに『重鈍化』が掛かり、AGIは大幅に低下した。


 俺はドラゴン・オーガに肉薄し、刀を振り下ろす。


 繰り返す連撃。

 シオリのバフや心眼の効果によって強化された俺のAGIで俺の連撃は目で捉えることが困難な程に高速となる。


「なんだよこいつ……!!」


 しかし、ドラゴン・オーガはその連撃の尽くを防いだ。


 気配を殺したアデルは背後を取り、強烈な突きを繰り出す。


「っ!?背中に目でもあんのかよ……!!」


 ドラゴン・オーガはその攻撃をヒラリと躱した。

 すると、俺とアデルの間を1本の矢が過ぎる。


 〔ガシッ!!〕


「えぇ……」


 スミレが放った矢もいとも容易く防いだ。


 〔ガンッ!!〕


「銃弾は距離減衰で大ダメージとはいかないね……」


 城壁の上で狙撃をしたシオリはお手上げのポーズで首を振る。


「こりゃ遠距離武器組にはちょっと厳しいかもな」


「弓なら完全な不意打ちでどうにかなりそうだ」


「完全な不意打ちねぇ……」


 アデルがジーッと俺の方を見てくる。

 そんなに見つめられても敵は弱くならねぇぞ。


「はぁ……まるでハイセと戦ってるみたいだ」


「そうか?」


 傍から見たら俺ってこんな感じなのか。

 なんと言うか、厄介極まりないな。


「死角から攻撃できなくても、手数で勝負すればどうにかなる」


「おう!息合わせていくぞ!」


「はい!」


 俺、アデル、キッドは同時にドラゴン・オーガに肉薄する。


 ドラゴン・オーガは迫る刀と剣を闇の剣で受け、背後から迫る槍は身体を捩り躱す。そこで生じる僅かな隙を見逃さない。


「鷹見流『鳴神一文字』『冴ゆ時雨』」


 完璧に胴体を捉える。良いダメージが入った。


(型の連携……!!流石だな)


 アデルは躱された槍を横に振り大きく薙ぎ払う。大したダメージにはならないが、ドラゴン・オーガの脇腹を捉え、体勢を崩すことに成功した。


「ここだ!!」


「鴇亜流『覇貫』『覇連槍撃』」


 鴇亜流の型の連携か。


「うおっ……やべ」


 だが、まだまだ荒いな。

 型の間に生じた隙に合わせてドラゴン・オーガはグングニルを蹴り上げた。

 そして、闇の剣を振り上げる。


「させない!」


『シールドバッシュ』


 キッドは大盾を使い、ドラゴン・オーガに勢いよくタックルをした。


【スキル:シールドバッシュ R 説明:シールドを使い勢いよく突進する。スタン値を蓄積させ、属性が付与されていた場合爆発の追撃が発生し、更にスタン値を蓄積する】


 今キッドの大盾には闇属性が付与されているから闇属性の爆発が発生した。


 〔グオォ……〕


 なんだ?

 片膝を着いてぐったりしている。

 まさか、ダウン?


「ダウンだ!!」


 アデルと俺は追撃しようと攻撃を繰り出す。

 だが、疑問が残る。もうダウンするほどのスタン値を稼いだのか?

 ダウンしやすいモンスターなのか?

 俺の頭には攻略サイトで読んだとある文章が頭をよぎる。


【SSランク以上のモンスターにはAIが搭載されている】


 このゲームのAIは他とは違い、自ら思考し行動する。

 まずい……!!


「下がって!!!」


 キッドは気付くのに遅れたアデルの前に出る。


 〔ガァァァァァァァ!!!!!〕


 雄叫びと共に闇属性の衝撃波が放たれる。


「ぐっ……」


「キッド!!」


 キッドは身を呈してアデルを守った。咄嗟のことで防御系のスキルを発動出来なかったのだ。

 俺はギリギリ防御の体勢を取り、致命傷にはならなかった。


「くそっ……こんなの初めてだぜ……すまねぇなキッド」


「気にしないで下さいよ。俺はタンクですから」


 回復ポーションをキッドに渡し、アデルはドラゴン・オーガを見る。


「AIか」


「かっとなるなよ」


「大丈夫だ」


 冷静さを失えば俺達が危うくなってしまう。

 こういう敵こそ冷静にだ。

 そう思っていると、ドラゴン・オーガの纏う闇が荒々しくなっていく。


「今度はなんだ?」


 〔グギャォオオオオオ!!!〕


 その瞬間、俺達の身体がズンっと重くなる。


「うおぉ……」


「こ、これは……」


「重力スキル……!!」


 くそっ。重いなんてもんじゃねぇ。


『STR上昇・大』

『AGI上昇・大』


 シオリのサポート魔法か!

 ありがたい。


「これなら……なんとか動け……」


 ゾクッと悪寒が走る。


 第六感が警告を告げるのは俺の腹付近。


 避けないと。


 だが、重力のせいで素早い動きができない。


 そして、俺にドラゴン・オーガが肉薄し、闇の剣で俺の腹を突き刺した。


「があっ……」


「ハイセ!!」

「ハイセさん!!」


 ドラゴン・オーガは闇の剣を抜き、強烈な蹴りを繰り出してきた。

 その蹴りを俺はまともに受け、後方に大きく吹き飛ばされる。


「く……そ……」


『全ステータス低下』10秒

『暗闇』10秒

『聴覚麻痺』10秒


 何だこのデバフ。

 そうか、闇属性を一定以上受け続けると追加効果でデバフを受けてしまうのか。


 ダメだ。

 何も見えない。

 辛うじて周りで戦っているであろう戦闘音と俺に何かを叫んでいる声が聞こえる。


「……セ!!……きろ!!」


 視界が徐々に晴れていく。


「ハイセ!!起きろ!!」


「くっ……まだ……」


 デバフのせいで思うように動けねぇ……。

 ドラゴン・オーガの視線は俺に向いている。

 どうやらヘイトはまだ俺に向いているらしい。


「させるか!!」


「鴇亜流『覇貫』」


 〔ガンッ!!!〕

 アデルの強力な突きをいとも容易く受け止める。


「重力スキルのせいで思うように威力が出ねぇな……っ!?うおっ!?」


 ドラゴン・オーガは掴んだグングニルをそのままアデルと一緒に持ち上げ、投げ飛ばす。

 そして、再びドラゴン・オーガは俺へと歩みを進める。

 残るキッドが抑えようとするが、ドラゴン・オーガは目もくれず俺に近付いてくる。


「へっ……そんなに俺が怖いかよ……」


 10秒経ち、全デバフは解除された。

 しかし、俺の目の前には既に闇の剣を振り上げたドラゴン・オーガが立っていた。


「こんなとこで……!!」


 振りかざされた闇の剣を既のところで受け止めた。

 だが、STRは相手の方が格段に上だ。

 このままじゃ……。

 もっと力を出せ。

 踏ん張れ。


「く……そがぁぁあ!!!」


【ピロンッ】


【心拍数の急激な上昇を確認しました。多大な精神的負荷がかかっている恐れがあります。ログアウトしますか?】


 こんな時に……!!

 いいえだ!!


 ギリギリと徐々に闇の剣を押し返していく。


「ハイセのやつ……どっからそんな力が」


 アデルでも力負けしてしまうであろうドラゴン・オーガを相手に引けを取らない俺を見てアデルは驚愕する。


【ピロンッ】


【心拍数の急激な上昇を確認しました。多大な精神的負荷がかかっている恐れがあります。ログアウトしますか?※症状が深刻な場合強制的にログアウトします】


 このままじゃジリ貧だ……。

 アデルもキッドも間に合わない。


 ドラゴン・オーガ……とんでもない化け物がいたもんだ。

 ここでやられればもう戦闘に復帰できない。

 俺はこんな所で……。


 そう思っている俺に影が差した。

 思わず上を見る。


「…………ぉぉお……!!!!」


「なんだ……?」


 〔ドォン!!!〕


「おいしょぉお!!!」


 男が降ってきた。

 降ってきたって言うより、城壁から飛んできたのか?

 降ってきたと同時にドラゴン・オーガを相手に手に持つ棍棒で力いっぱい殴り飛ばした。


「俺様、参上」


 な、なんだ?

 この男、どっかで見たような?


 キランッという盛大に格好をつける男は俺に手を差し伸べた。


「なぁに惚けてんだ?ほら、まだ終わってねぇぞ」


 バシャっと最上級回復ポーションを俺に浴びせた。おかげでHPは全快だ。


「あ、ああ……ありがとう」


「どってことねぇ!!」


 黒、赤、金を基調とした漢服を身に纏う男は棍棒を華麗に回す。


「俺様が来たからにゃ誰も死なせねぇ!いずれこの世界の頂点に立つ男!【サイユウキ】のゴクウとは俺の事よ!!」


 どうやらやっと強力な助っ人が来てくれたようだ。


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