第56話 BOSS WAVE
「WAVE3は拍子抜けだったな」
そうは言ったものの、多数の高ランクモンスターと戦うのは正直大変だ。一体一体のHPは少ないが一撃くらうだけでも痛手になる事が多々ある。
「次で最後だ!踏ん張れよ!」
「おう」
最後のひと踏ん張りだ。
ここまでの戦いだけで結構なお宝が手に入っている。中にはSRアイテムも。
「こんだけあれば、ギルドハウスは問題なく建てられそうだ」
「でも、ギリギリよ?少しは貯金を残しとかないと」
「んなもんどうとでもなる」
「ほんとに……ハイセは計画性がないんだから」
んなことないだろ。俺だって考えてる事はしっかり考えてるさ。
他愛もない話をしていると、戦場の上空は雲がかり、一体に影を落とした。
「さぁ、ラスボスの登場だ」
【BOSS WAVE】
特殊フィールドに【WARNING】と書かれたウィンドウがデカデカと表示される。
本来のスタンピードならボスのSランクモンスターと取り巻きのAランクが数体出てくるはずだが。
「なん……だ、あれ……」
「1体だけ……?それに、オーガ……?」
森の奥から出現したのは赤黒い鱗を全身に纏った巨大なオーガだった。
「は、はは!なんだよ!オーガ・エンペラー1体だけかよ!」
「これなら俺達のパーティーだけで十分だぜ!」
そう言い俺達の隣を陣取っていたパーティーが飛び出していった。
「オーガ・エンペラー?Sランクのフィールドボスだよな?」
「は、はい。確かに強力なボスですが……。何か様子が」
キッドはあのモンスターの様子に違和感を覚えているようだ。
かくいう俺も攻略サイトで見たものとは様子が違う。なにより、角が生えてるし、鱗も。
何かがおかしい。
そして、俺の第六感が最大限の警告を発する。
「……!?まずい!!全員伏せろ!!!」
〔グルルァアアアアアアア!!!!!!〕
オーガ・エンペラー(?)は強烈な咆哮を放つ。
「ただの咆哮じゃねぇ……!!」
「これは……【ドラゴン・フィア】……!!」
【名称:ドラゴン・フィア 説明:竜種が放つ特殊な咆哮。その咆哮には斬撃と打撃が含まれており、直撃した相手に大ダメージを与える】
「「「ぐあぁぁ!!!!!」」」
「くそっ……!!」
突っ込んでいったパーティーには直撃してしまったようだ。
伏せていた俺達はなんとか直撃を免れた。
「大丈夫か!?」
回復ポーションを取り出し、すぐさま駆け寄る。しかし。
「まじかよ」
直撃を受けたプレイヤー達は粒子となって消えていった。
「一撃……」
今回のスタンピードに集まったプレイヤー達は決して弱くない。歴で言えば俺よりも遥かに長く、トップギルドにも所属しているようなプレイヤー達だ。
「くそ……貴重な戦力が」
スタンピードにおいての1番の難点、それは【HPが尽きたプレイヤーは戦闘に復帰することが出来ない】というルール。
1度死んだら終わりというギリッギリのデスゲームって訳だ。
「これは、とんでもないモンスターが出てきたみたいだな」
〔グギャオオオオオオオオ!!!!〕
【名称: 繝峨Λ繧エ繝ウ繝サ繧ェ繝シ繧ャ 弱点:?? 討伐P条件: 遶九■蜷代°縺ク】
「なんだこれ!バグりちらかしてるじゃねぇか!」
「アデル!なんだあのモンスター!」
「わ、わからねぇ……。あんなの見たことねぇよ」
新種か。だが、標的が1体に絞れたのは良い事だ。
「やるしかねぇな」
「だな」
アデルはグングニルを構え、俺はへし切長谷部を抜刀する。
すると、文字化けしていたモンスターの詳細が修正されいく。
【名称:ドラゴン・オーガ SS 弱点:?? 討伐P条件:立ち向かえ】
「なんだよ立ち向かえって!」
「ドラゴン・オーガだってよ」
「聞いたことねぇな。新種だ」
ここにきて新種モンスターの登場かよ。それにSSランク……嫌な予感が当たったな。これは骨が折れそうだ。
「シオリ!バフくれ!」
「うん!!」
【MP自動回復】
【HP自動回復】
【AGI上昇】
【STR上昇】
「出し惜しみは無しだ」
『神速』『覇剣』『豪炎天魔』
ドラゴン・オーガに瞬時に肉薄する。しかし、
「なっ……」
俺の眼前にはドラゴン・オーガの巨大な拳が迫っていた。
〔ドォォォオン!!!!〕
拳の直撃を受け、俺は勢いそのままに砦の城壁に叩きつけられた。
「がはっ……」
「ハイセ!!!!」
【HP50/1300】
危なかった。
しかし、どういう事だ……?あの拳はなんだ……?
「師匠!!大丈夫ですか!?」
「ああ、なんとかな」
「これを……」
ハルからハイポーションをもらい、一気に飲み干した。HPは1000ほどまで回復したが、次同じ攻撃を喰らえば終わりだな。
「そういう事か」
ドラゴン・オーガの周囲には闇属性の巨大な手が作られていた。
俺が飛び込んだと同時にあの拳を展開したのか。
「俺の運が悪かったのか、タイミングを見計らっていたのか」
SSランク以上のモンスターはAIがプログラムされていて、従来のモンスターのように決まった動きを繰り返す訳ではなく、自らの意思で動くらしい。
「厄介だな」
「ですね。師匠、どうしますか」
パーティーのVCを繋げる。
「スミレ、降りてきてくれ。砦からの援護じゃなくてパーティー後方からの遊撃に回ってもらう。シオリはそのままサポートと狙撃だ。キッドとハルは今まで通りで頼む」
「「「「了解」」」」
「さて」
立ち上がり、軽くストレッチをする。強烈な一撃で目が覚めた。少しでも気を抜けば終わる。
俺達は急いて前線に戻った。
「すまんな、アデル」
「派手に吹き飛んだなぁ、大丈夫か?」
「問題ない」
「なら良かった。動きはお前らに合わせるから好きなように暴れろ」
「あいよ」
アデルはグングニルを突き立て、暴嵐を解放する。
【神槍:グングニル】
グングニルからは緑色のオーラが溢れ出し、アデルを包み込む。そして、アデルの装備は深緑色のロングコートと、ハットへと変貌した。
「最後までもつのか?」
「MP切れの前にぶっ倒す!!」
俺も再度豪炎天魔を発動し、炎を纏う。
「いくぞ!!」
俺とアデルは先陣を切り、ドラゴン・オーガへ迫る。俺達に続き残りのプレイヤー達も立ち向かっていく。
「キッド!!!」
「はい!!」
『ヘイトコレクト』『アイアンボディ』
ドラゴン・オーガのヘイトは完全にキッドへ向いた。
『轟炎』
『覇貫』
〔ガギンッ!!〕
「くそ……」
「硬ぇ……」
硬すぎて刃が通らない。ダメージも全く通ってないみたいだ。
「僕も!!」
『紫電』×『チャージショット』
『電磁砲』
強烈な紫電の弾丸はドラゴン・オーガの胸部に直撃した。
「これでもかすり傷程度か」
「えぇ……MAXチャージですよ……?」
どうすればダメージが通るんだ?
流石に攻略法無しなんてくそ理不尽な事はしないはずだ。そんな事があれば大問題になるからな。
「あのタフさ、どこかヒデヨシと似てますね」
「第六天魔王のラスボスか」
あの時は気合いでHPを半分以下まで削って蓄積ダメージで倒したんだったな。
そういえばこのモンスター、どことなくヒデヨシに似ているような。
禍々しいオーラに、赤黒い体表、そして、圧倒的なまでの硬さ。
こいつは……。
「まさか……」
俺はインベントリからスタンピード前に森の奥で拾ったガラスの破片を取り出した。
「割れた注射器。どっかで見たことあると思ったら、ヒデヨシが使ってたヤツと同じものか……?」
もしかして……繋がっているのか?
「ハイセ!!」
「っぶね」
間一髪闇属性の拳を躱した。
「ボーッとしないで!!」
「すまん、スミレ」
「何考えてたの?」
「いや、なんでもない」
考えるのは後だ、まずはこいつを倒さないと。
だが、こいつの攻略のヒントがあるとすれば、ヒデヨシとの戦闘だろう。
あいつは最初は硬くはなかった。HPの量が異常で減らすのに苦労した。
HPが一定以下になってから恐ろしく硬くなったんだ。
「だとすると、やっぱりダメージを蓄積させるしかないか」
今1番ダメージが蓄積しているのはハルが電磁砲を当てた胸部だな。
「全員、胸部にダメージを集中させろ!!ダメージを蓄積させる!!」
物は試し、完全新種のモンスターには攻略ガイドなんてものはない。トライアンドエラーだ。
俺の指示を聞き、動けるプレイヤーは一斉にドラゴン・オーガの胸部を狙う。
「ハイセ!前に出ろ!俺がカバーする!」
そう言うとアデルは俺に迫る闇属性の拳を抑え始めた。
一撃でも喰らうとやばいが、ここはAGIが高く回避性能に優れた俺が前に出るのが得策か。
「さんきゅーアデル」
八方塞がりだったドラゴン・オーガまでの道が拓けた。
『神速』『豪炎天魔』
一気にドラゴン・オーガとの距離を詰める。
しかし、ドラゴン・オーガもプレイヤーを近づかせまいと【ドラゴン・フィア】を発動した。
俺は気にせず距離を詰める。一撃でも喰らえばアウトだが……。
「うちには優秀なタンクがいるんでな」
『黒翼壁』
俺の前には大きな漆黒の翼が展開される。
「キッド、その盾の吸収率はどんくらいだ?」
「今の攻撃でMAXになりました」
「よし、シオリ!!!」
「任せて!!」
俺の声に合わせてシオリはパーティー全体に強力なバフを施した。
【MP上限解放】
【AGI上昇・大】
【STR上昇・大】
【DEX上昇・大】
【属性ダメージ上昇】
ありったけのバフを受け、俺、スミレ、ハル、キッドは自身の最大火力を放つ。
『火神一文字』
『大鷹の暴嵐』
『電磁砲』
『黒刃覇閃』
タイミングはバッチリ。パーティークリティカルだ。
ドラゴン・オーガに強烈な一撃を与えたられたはずだ。
「や、やったか……?」
アデルの野郎盛大にフラグ立てやがって!
誰かがそういった時は大抵終わってないんだよ!
〔グギャオオオオオオオオ!!!!〕
「やっぱり……」
アデルは気まずそうに目を逸らした。
「なんか、ごめん」
ドラゴン・オーガにダメージは与えられたものの5本ある体力ゲージの1本も削れてはいない。1本目の3割削った程度だ。
「俺達の最大火力だぞ」
「そう何度も出せるものじゃないですよ」
それに、シオリのサポート魔法にも限界がある。今使った高ランクのサポート魔法には使用回数の制限がある。HP後半になって第2形態とかあるかもしれないし、ふんだんには使えない。
「このまま時間かけて削り続けるか……?」
「だがそれじゃジリ貧だ。消耗し続けるのは俺たちの方だぞ」
アデルの言う通りだ。消耗戦になれば間違いなく俺達が負ける。
「こういうモンスターは必ずどこかに攻略法があるはずだ……」
そう考えているうちにドラゴン・オーガの怒涛の猛攻が俺達を襲う。
闇属性の拳を受け流し、迫る灼熱のブレスを紙一重で躱す。捌ききれない攻撃はキッドが盾で受けてその隙を俺とハルで攻撃する。
「ダメージを効率良く通すためには……」
考えろ。
どこかにヒントがあるはずだ。
この手のモンスターはダメージを蓄積させたり条件を満たすとダメージが通りやすくなったりする。
「ダメージの蓄積が足りてなかったのか、通りやすくなるための条件があるのか」
ドラゴン・オーガの全身を注視してみる。
通常のオーガよりも長く鋭い牙。
オーガには無いはずのドラゴンの翼。
頑強な鱗。
そして、禍々しいオーラを放つ2本の角。
「見るからにあれだよな」
紫色に妖しく光る角。
〔ガルル……〕
「ん?」
ドラゴン・オーガはなにやら力んでいる。
すると、紫色の角から闇属性のオーラが溢れ、全身を包んだ。ひび割れた鱗は再生し、欠けた爪も再生するように伸びていった。
「あの角がエネルギー源になってるのか」
「やっと活路が見い出せた気がするぜ」
「でも、問題はどうやってあの角を破壊するかよ」
スミレは矢を番え、矢を放つ。
「鶴矢流『業風剛穿』」
ドラゴン・オーガに向かって放たれた矢は見事角に直撃した。
〔ガキンッ〕
しかし、矢は弾かれてしまった。
どうやらあの角も恐ろしく硬いらしい。
「ハイセ、あの角切れるか?」
「……」
アデルに聞かれるが、正直に言えば"斬れる"。
ただ、本気で斬ってしまった時のへし切長谷部の耐久値が心配だ。
だが、そんな事言ってる場合じゃないか。
「斬れる」
鷹見流剣術の創設者つまり鷹見流の初代は鷹神を使って強固な宝石を刃こぼれさせずに両断したと聞く。
「すまないが、集中させてくれ。"本気"でいく」
「了解です!」
「わかった!任せろ!」
『ヘイトコレクト』『アイアンボディ』
ドラゴン・オーガのヘイトをキッドが一身に受ける。
迫る物理攻撃はほぼ無効。属性攻撃はアデルがいなしている。
これなら集中できそうだ。
「ふぅ……」
全ての神経を刀に集中させろ。
強固な物体を両断する為には、力任せに刀を振るう訳にはいかない。
適切な角度で、適切な力で刃を通す必要がある。
初代はどうやって宝石を真っ二つにしたんだろうか。
考えてもわからない。
今俺にできるのは、ただ感じ取るだけだ。
獲物の気配を。
ドクンと心臓が大きく跳ねる感覚に襲われる。
身体が熱い。
だけど、どことなく心地いい。
俺は納刀し、刀の柄に手を添える。
左足を引き、前傾姿勢を取った。
俺の様子を見たアデルはドラゴン・オーガに全力の一撃をぶつける。
『神撃の槍!!!!』
暴嵐の槍は腹部を捉え、大きく仰け反らす。
「今だ!!!」
アデルの声が届いた。
グッと足に力を入れる。
『神速』
一瞬でドラゴン・オーガに肉薄し、勢いよく飛び上がった。
眼前には禍々しい角。
属性付与なんて必要ない。
ただ、斬る。
「鷹見流『氷雨』」
〔キンッ……〕
振り抜いたそこには、斬撃の軌跡が残る。
〔ピシッ〕
ドラゴン・オーガの角は見事に真っ二つに両断された。
『氷雨』は『驟雨』と同じ鷹見流の抜刀術。
『驟雨』は最速の型に対し、『氷雨』は最遅の型。型の精度重視の難しい型とされている。
「すげぇ」
アデル達は感嘆の声を漏らす。
「はぁ……はぁ……」
【ピロンッ】
【心拍数の急激な上昇を確認しました。多大な精神的負荷がかかっている恐れがあります。ログアウトしますか?】
いいえ。
本気になる度にこれだ。
俺もまだまだ未熟か。この熱をもっと抑えないと。
〔グルルァアアアアアアア!!!!!!〕
「ダメージが通りますよ!!!」
ハルの攻撃がしっかり通っている。
やっぱりあの角だったのか。
「畳み掛けるぞ!!!」
このまま削り切れるといいのだが……。
流石はSSランクの強化個体と言うべきか。