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第53話 スタンピード

おまたせしました。

間隔が空きすぎて申し訳ないです……。

 

「ガルルルル……」

「ガルルルル……」


 俺とハルの一進一退の攻防は続いている。両者譲れないものがあるのだ。

 すると、アリシアの店の扉が開いた。


「あ?なんしてんだお前ら。いつもは仲良しなのに喧嘩か?」


「なんだアデルか。今取り込み中だ」


「相変わらず冷てぇな」


 そう言いながらもニヤニヤしている。アデルはしょっちゅうここに来るが暇なのか?いや、カスミが頭を抱えているのが目に見える。


「んで、なんで喧嘩してんだ」


 アデルが解決策を持ってるとは思えないが、一応話しておこう。


 俺は事の顛末をアデルに話した。


「は!?1万のギルドハウス!?お前それ円卓以上じゃねぇか!6人しかいねぇのに」


「わかってるよ。だから何を削るか話し合ってたんだ」


「師匠がパワハラするので話し合いにもなりませんよ」


 パワハラなんてしてないさ。ただ必要なものを主張してるだけだ。


「なるほどなぁ。そうか……」


 アデルが顎に手を当てて何かを考え始めた。


「じゃあ、お前らちょっと雇われないか?」


「アデルに?」


「いや、俺っていうか俺が拠点をかまえてる街からだ」


 街から?クエストってことかな。


「街からの依頼ってことは"あれ"が来るの?」


「あー、"あれ"ですか」


 アリシア、シオリ、キッドはわかったみたいだな。さすが古参勢だ。


「あれって?」


 アデルは少し気まずそうに頭を掻きながら言った。


「"スタンピード"だ」


 スタンピード?色んな映画やゲームでもよく聞く単語だ。


「スタンピードって具体的にはどんなイベントなんだ?」


「軽く説明すると、こうだ」


【ランダムイベント:スタンピード】

 WSOに存在する大都市に区分される街にランダムで出現するイベント。

 都市周辺のモンスターが活性化し、興奮状態になる。モンスター達は一直線に都市に向かって一斉に走り出し、都市への攻撃を開始する。

 防衛に成功すると高額の報酬、高レアリティのアイテムが貰える。

 防衛に失敗するとその都市をホーム登録しているプレイヤーにペナルティが科せられる。


「へぇ、美味いイベントなんだな」


「成功すればな。だが、失敗のペナルティがそれなりに痛いんだ」


「そんなに難しいのか?プレイヤーの人数確保出来れば難しいことないと思うけど」


「参加条件が厄介なんだよ」


 アデルはそう言うとクエスト画面を見せてきた。


【参加可能プレイヤー:対象都市をホーム登録しているプレイヤー。対象都市をホーム登録しているギルドのギルドマスターは5人までプレイヤーを勧誘することができる】


「俺達がホームにしてるのは【水の都:ローデイス】だ。ギルドの数は5、トップ100に入ってるのは俺達だけだから、正直戦力として期待はできない。冒険者の総数はざっと300人ってとこだ。新しく追加されたばかりの街だから、ホーム登録しているプレイヤーも少ない」


「300人もいるなら大丈夫じゃないのか?」


「それがそうでもない。実際にスタンピードに参加する人数は2割程度だろ」


 ランダムイベントだから、都合がつかない人とかめんどくさくてやらない人もいるのか。


「大変だな」


「まあな〜。だからお前らを誘いに遠路はるばるここまで来たって訳だ。お前ら非戦闘員のアリシアを除けばちょうど5人だしな」


「僕もいいんですか?レオルさんとか誘った方が」


 ハルが言う通り、俺達全員よりレオルやその他各ギルドのトップを誘ってもいい気がするが。


「あー、それは大丈夫だ。残り4つのギルドマスター達に俺からの言伝ってことでレオルやゴクウ達にお願いしに行ってもらってる」


「アデルの言伝で来てくれるのか?」


「馬鹿言え!俺だってそれなりに信頼はあるはずだぜ?」


 その自信は一体どこからくるのだろうか。


「それで?どうすんだ?やるか?」


「ああ、やるよ。妥協したくないしな」


「よーし!じゃ、この画面にタッチしてくれ!全員な!」


 そう言ってアデルは俺に画面を見せてきた。

 俺はなんの疑いもなくその画面に手を置く。


「あ!!ちょ!ハイセ!!」


「え?どうした?」


 アリシアが俺を引き止める様に腕を引いた。しかし、もう既に画面はタッチしてしまった。


「あーあ……。あのね、ちゃんと失敗した時のペナルティを聞いてから決めるべきだよ……」


 アリシアはガクッと肩を落とす。


「おい、アデル。失敗したらどうなるんだ」


「あー……はは。それはな……」


 アデルは苦笑いしながら画面を俺に見せてきた。


【失敗ペナルティ:街の復興費用として所持金額の4割の支払い。2週間の対象都市への立ち入り禁止。2週間の間、LUKとLUK上昇系のスキルやアイテムの使用効果が7割落ちる】


「……は?」


 所持金の4割……?それに、運系のステータスが下落してしまえばゴールド稼ぎをままならなくなってしまう。やばいな。


「ほ、ほら!成功すれば問題ないんだ!な!頑張ろうぜハイセ!」


「クエスト難易度は?」


「……SS」


「マジかよ……」


 SSとはクエストの難易度で言う上から2番目の難易度だ。

 クエスト難易度は上から極、SS、S、A、B、C、D、Eに分類される。ちなみに、へし切長谷部を手に入れたノブナガのクエストはランクSに分類される。


「はぁ……。仕方ないわね。ハイセが受諾しちゃったなら私達もやるしかないわ」


「そうですね!」


 スミレがため息混じりにそう言うと百花繚乱のメンバー達は次々と受諾し始めた。良い仲間を持ったもんだ。


「アデル。お前よくそんなやり方して自分にも信頼はあるなんて言えたな」


「はっ!大事なことはしっかり聞いとくもんだぜ?」


「もう次からお前の頼みは聞かねぇ」


「わ、悪かったって……。2週間も自分の拠点に入れなくなるのは色々きついんだ。このクソイベは理不尽だから、なんとしても戦力が欲しかったんだ」


 クソイベか。確かに理不尽だよな。その街をホームにしているプレイヤーは強制参加だし。失敗のペナルティも痛い。神コンテンツの多いこのゲームでもこんなイベントがあるんだな。


「スタンピードで自分が討伐したモンスターの素材やドロップアイテム、ゴールドは全部自分の物にしても大丈夫だ。スタンピードのモンスターは特別でな、通常より少し強い代わりに報酬が美味い」


「少し強くなってるのか」


「お前らなら余裕だ!スタンピードが起こるのは明日だ!しっかり準備しとけよ!」


 そう言いながらアデルはそそくさと店から出ていった。騙す形になって居心地が悪かったんだろうな。


「普通に依頼すれば受諾してやるのにな」


「頭悪いのに無駄に知恵を働かそうとするからいけないのよ」


「アデル酷い言われようだね……」


 まぁ、なんにせよやるからにはガッポリ稼がないとな。


「よし、明日はゴールドラッシュだ。自分の要望を通したければしっかり稼げよ」


「「「「「了解!!!!」」」」」


 元気な返事をして各々やるべき事を大急ぎで始めるのだった。


 ◇◇◇


 ◇SA【水の都:ローデイス】


「んー……」


 ギルドマスター室でアデルは1人考え込んでいた。


「どうしたの?リーダー」


「アデルさんが考え込むなんて珍しいですね」


 扉をノックし、部屋に入ってきたのはサラとカスミだった。


「んあ?お前らか。俺だって考え込むことだってある」


「なにをそんなに考えているのですか?」


 カスミはアデルの横に立ち、顔をのぞき込む。

 その妙に甘い空気にサラは苦笑いしてしまう。


「ス、スタンピードについてまとめた資料はここに置いておくね……。それじゃ〜」


 サラはそそくさとギルドマスター室を後にした。


「サラったら、なんであんなに慌てて出ていったのでしょう」


「さあな」


「それで、何をそんなに考え込んでいるんですか?」


 アデルは頭を掻き、眉間に皺を寄せた状態で背もたれに体を預け、天を仰いだ。


「いや、妙だと思ってな」


「妙?スタンピードがですか?」


「ああ。俺もWSOはリリース当日から始めた最古参のプレイヤーだ。スタンピードは何度も経験している。だが、今回は何かとおかしい部分が多い」


「おかしい部分ですか……。そういえばそうですね」


 カスミも深く考え始める。


「スタンピードってのは、大量に狩られたモンスターの怨念と魔力……俺達でいうMPの残穢が漂い都市周辺のモンスターを凶暴化させ、その能力を強化させる。凶暴化したモンスターは仇であるプレイヤーが大量に集まる大都市へと侵攻を始める。ってのが大まかな筋書きだろ?」


「そうですね。そう考えると、なぜ今回のスタンピードはローデイスなんでしょう」


「それがわからん。ローデイスは最近のアプデで追加されたばかりのエリアだ。人口もまだ少ない。スタンピードの条件は満たしていないはずだ」


「WSOは世界の設定に忠実ですからね。ランダムイベントとはいえ、こんな例外はないはずです」


「ああ。今までのスタンピードでもこんなことは1度もなかった」


 カスミはアデルに指示された助っ人一覧に目を通す。


「なるほど、それでこの戦力ですね。いくらスタンピードと言えど過剰戦力だと思いましたけど、こういうことだったんですね」


「円卓は何かと忙しいみたいで参加出来ないらしいが、それでもこいつらなら不測の事態にも対応できるだろう」


 アデルはゆっくりと立ち上がり、窓の外を見る。街の外には暗雲がかかっており普段の青空が広がるルーデイスとは大違いの景色だ。


「ま、やれるだけやろうぜ」


「そうですね」


 2人は軽い笑顔を浮べ、そのままログアウトした。


 そして、スタンピード当日を迎える。


ご閲覧ありがとうございました

次回をお楽しみに

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