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第52話 閉会とマイホームとスキルのナーフ

『よお、リオン』


『ハイセ!!スミレも!』


 この茶髪の美青年はリオン・ベネクト。WSOじゃ嫌ほど顔を合わせているが、こっちで会うのは4年ぶりになるのか。


『いやぁ、中々挨拶に行けなくて申し訳ない』


『人気者はお互い様だな』


 リオンは若くしてベネクト流剣術の継承者となった。

 理由は前継承者であるソーヴァ・ベネクトが引退を宣言したからだ。4年前、公式の場で俺に負けてから政府の圧が強くなり圧が弱まるまで耐え続け、弱まったあとリオンに継承したらしい。苦労人だな。


『今日は1人で来たの?』


 スミレがキョロキョロと周りを見渡しながらリオンに聞いた。


『いや、親父と一緒に来たよ。次代継承者はまだ居ないからね。お目付け役さ』


『そうか……ッ!?』


 〔バチンッ!!〕


 僅かに背後に気配を感じた。俺の肩に触れようとしていた手を反射的に弾く。


『おっと。まさか反応するとは、驚いた』


 第六感を持ってしても反応するのがギリギリだった……。このおっさん……恐ろしく強い。他と比べてもレベルが違う。


『気配を完全に消したつもりだったのだが……。ふむ。更に磨きがかかってるみたいだな』


 少し老け、窶れたが見覚えのある顔だ。


『ソーヴァさん。4年ぶりですね』


『覚えているのか?光栄だ。化け物が更に化け物になってるみたいで安心した』


 ソーヴァさんは口角を少し上げて言ってきた。

 ソーヴァさんは基本無表情な人だとリオンから聞いていた。感情を表に出さないから、自分がどこまで追い込まれているか周りが気付きにくいのだ。


『親父!!ハイセのこと化け物呼ばわりすんなよ!』


『褒めたつもりなんだが……』


 リオンも時々俺の事化け物呼ばわりするけどな。


『リオンとはゲームの世界でも仲良くしてくれているそうだな』


『はい、良い刺激になってますよ』


『それは良かった』


 ソーヴァさんはぐいっもワインを飲み干す。


『リオンから聞いたんだが、圭吾からの試練は失敗したらしいな』


『あー、それは……』


『木の棒で戦ったとか』


 気まずい……。そこら辺は全部知ってるだろうにわざとふっかけてきてんだこれ。場合によってはベネクト流を軽視しているようにも感じるだろう、


『はっはっ!冗談だ。木の棒でも善戦したのだろう?うちの息子ももっと厳しく鍛えないとな』


『か、勘弁してくれ……』


 リオンは肩を落とし項垂れているが、是非とも頑張ってもらいたい。


『私としては、ハイセ、君と一度戦ってみたいのだが』


 まさかのお誘いだな。

 ソーヴァ・ベネクトは界隈でも【剣帝】として名を馳せ、その実力は【鬼神】と恐れられた鷹見灰晴にも匹敵すると言われている。

 こんな大物と戦えると思うも血が騒ぐが……。


『やめておきます。戦わなくても、あなたに勝てないことはわかります』


『ふむ。残念だが、懸命だな。では、私はいくよ、今後もリオンと仲良くしてやってくれ』


『また向こうでね!ハイセ、スミレ!』

 俺とスミレはソーヴァさんとリオンと固い握手を交わし、俺達はじじい達がいる場所に戻った。


「ソーヴァさん、どんな人かと思ったけど、良い人だったわね」


「そうだな、気のいい人だ」


 俺達はじじい達の元に戻った。


「お?挨拶は済ませてきたかの」


「ああ、"イェン家"以外は挨拶してきたよ」


「……そうか」


 名前を出すだけでもこのヒリつきだ。こりゃ本当に関わらない方がいいな。

 そう思っていた矢先。


『鷹見家、鶴矢家の皆さん。お久しぶりですな』


 俺の背後から中国語で話しかけてくる人が居た。リュウ家じゃない。


『なんの用じゃ』


 じじいは溢れんばかりの殺気をイェン家の人間に向けて放つ。

 凄まじい。じじいがここまで殺気を露にするのは初めて見る。


『なんの用とは、せっかくの集会なので挨拶に来たのですよ』


『戯言を。貴様らと話すことなぞ何一つとしてない。失せろ』


『ははっ。これは手酷い。では……』


 壮年の男性が俺の方を向く。この人が現継承者の"イェン・ラン"だろう。


『鷹見流の次代継承者に挨拶するとしましょう。私の名前はイェン・ラン。イェン流短剣術の現継承者です』


『どうも』


『そして、私の隣にいるのが……』


『イェン流短剣術次代継承者"イェン・リャオ"です。よろしくお願いします』


 背高いな。190はあるんじゃないか?しかしなんだこのねっとりとした視線は。それに、このニヤついた顔、あんまり人を見た目で判断したくは無いが、好きにはなれないな。

 すると、ランは俺の肩に手を置きニコッと笑顔を浮かべた。


『私達はですね、武術の継承家系同士仲良くしたいと考えているのですよ』


『はぁ』


 なんか語り出したぞこいつ。めんどくせぇ。


『やはり我々が仲良くするのは今後の武術の文化遺産の維持においてとても大切だと思うんですよ。ハイセ君はどう思いますか?』


 知らねぇよ。どう答えても話が長くなりそうだ。


『あえ?俺、子供だから難しいことわからん』


 全力でアホ面をかまし、今にも鼻をほじりそうな顔で言い放った。

 こういう時は、馬鹿なフリをするのが1番だ。これ以上俺と話しても無駄だと思わせるのだ。


『…………ほう』


 案の定、ランは引き気味な顔で1歩後退る。


『は、はは……鷹見流の跡継ぎは美しく、聡明だと聞いていたのですが、どうやら違ったみたいですね』


『……。そうじゃ、だから貴様らも去れ。仲良くしたかったのなら過去の行いを悔いることじゃな』


 俺の意図を組んでくれたじじいが話を切り、その場を立ち去ろうと俺の手を引いた。


『……』


『……』


 去り際にリャオと俺の視線が交わる。

 リャオの細い目が吊り上がり、口角が少し上がる。

 ゾクッと背筋が凍る感覚を覚えた。

 ホラー映画で出てきそうだなあいつ。それにあの感じ、どっかで感じたことがあるような……。


 そんなことを思いつつ、俺達はその場を後にした。

 一悶着ありつつも集会は穏やかに終わったのだった。


 ◇◇◇


 嫌な予感がしていた集会だったが、俺とじじいの予感とは裏腹に特に何も起こらなかった。

 武術連盟は、俺達武術の継承家系同士仲良くして欲しいが為に強制参加にしたらしいが、実際はどうなのか、それは企画した本人しか知らないだろうな。


「チッ。親父の顔がチラつく。まさかあいつがからんでるのか……?」


 俺はそう呟き、日常に戻った。


 ◆◆◆


 ◇SA【始まりの街:アルガン】


 集会を終えてから数日後、夏休みも終了し、変わらない日常を送っている。今はアリシアの店でくつろいでいる。


「……」


「ちょっとハイセ。いい加減起きてよ」


「……」


「もう……」


 スミレからお叱りを受けるが今は何もする気が起きない。そんな事を思いながら机に顔を伏せる。


「こんちわー!!って師匠どうしちゃったんですか?」


 元気よく店の扉を開けたのはハルだ。


「拗ねちゃったのよ」


「これまたどうして?」


「ハルも知らないのね。今朝WSOのアプデ入ってたでしょ?」


「はい!ちょっと長かったやつですよね!」


「そう。マップの改修とか武器の調整とかスキルの調整とか。パッチノートは出てたみたいだけど、私達は忙しくて確認できてなかったのよ」


 そう、俺達は夏休み割と忙しかったこともあり、細かい情報を確認する時間がなかったのだ。だから、俺が今日ログインした時にアリシアから衝撃の事実を知らされたのだ。


「えっと。なになに……?マップの改修は全て行ったことのない場所ですねぇ……。武器の調整も棍棒と槍だけ……。スキルの調整……?」


 ハルは画面をスクロールし一つ一つ確認していく。そして


「えっと……『調整されたスキル一覧(弱体化)』。……あっ」


 ハルも気付いてしまったみたいだ。


【名称:隠密 SR 調整内容:足音など環境音の追加(通常より音は小さい)。スキルの発動条件を"60秒以上相手の死角に隠れる"ことを前提とする】


 俺の十八番スキルである【隠密】が大幅ナーフされてしまったのだ。


「つまり、この前のコンペの時みたいに一時的に障害物に隠れて視線を切るだけじゃ隠密は発動しなくなったってことですか?」


「発動しても、足音とかも気にしなきゃいけないから……まぁ、なんて言うか……」


「クソ弱くなったってことだな」


 もうこれ隠密の意味無くないか?いや、不意打ちとかアサシン系の戦い方する人からしたら使えるスキルではあるか。


「誰かさんがコンペで隠密使って大暴れしちゃったからでしょ」


「そもそもの性能がぶっ壊れだったからな」


 視界から消えたら姿も消えて音もなくなるって対策のしようがないもんな。隠密っていうかただの透明人間だ。


「ハイセ!そろそろ決めないと」


「んあ?なにを?」


 アリシアが俺の頭を叩きながら言ってきた。


「何言ってるの!ギルドハウスだよ!」


 そうか、ギルドハウス。ワコクに拠点を構えることは決めてるけど、まだ詳しくは決めてなかったな。


「ギルコンでトップ5入りしたギルドがいつまでも家無しじゃ笑われちゃうよ?」


「わかってるよ。どこにするかも決めてる」


「あ、なんだ決めてるんだ!じゃあもう購入したの?」


「まだだ」


 どうしてと言わんばかりにアリシア達が首を傾げる。


「た、ただいま戻りました!」

「ただいまー」


 ちょうどいい所にキッドとシオリが帰ってきた。この2人にはとあるお願いであちこち走り回ってもらっていた。


「はい、計算できたよリーダー」


「さんきゅー」


 シオリから送られてきた資料を広げる。そこには数字がびっしりと書いてあり、計算されていた。


「はぁ……。やっぱそうだよな」


「なにこれ?……1万G……?」


「ギルドハウス建設に掛かる費用だ。お前らの要望をなるべく聞きいれ、家具屋やギルドハウス用のアイテムが売ってある店を渡り歩いた結果、この額だ」


「ちょ、ちょっと待ってよ!ギルドハウス建設は平均でも6000G前後だよ!?私の鍛冶屋だって2000Gで買ったんだから!」


 ちなみに、円卓のギルドハウスは規模の大きさと施設から9500G。オーディンは8000G。この2つのギルドは所属人数が多いから大きい建物を購入したらしい。つまり、たった6人のギルドが1万も出すのはイカれてるとしか言えないのだ。


「高すぎるわね……。ハイセと私の貯金でもギリギリ3000行くかいかないかくらいだし」


 なんで俺の貯金額知ってんだよ。


「ぼ、僕は1000が全財産です……」


「私は2000くらいかしら。使うことがあんまりなかったから」


「俺は同じく1000くらいですね」


「アリシアは?」


 俺が聞くとアリシアはビクッと体を震わした。


「え、えっとぉ……この前のコンペで結構出費が痛くてねぇ……500くらい……」


 500……。まぁ、それは仕方ないか。全部俺達の為に用意してくれた物だし。


「他の建物じゃダメなの?」


 スミレがそう言うが問題はそこじゃない。建物自体の値段はそこまでじゃないのだ。


「明細をよく見ろ」


 俺以外の5人は明細を覗き込み、上から順に見ていく。すると、みるみる内に表情が固まり、冷や汗をかきはじめた。


「これで分かっただろ。問題は建物じゃない。お前らが希望した施設が高すぎるんだよ!」


 皆が希望したのはどれも超一流の施設ばかり。ヒアリングする時に「もっと安いのにしないか?」と聞いても皆「妥協はしたくない!」の一点張り。困ったもんだ。


「カスミ、スミレ、ハル希望の射撃訓練場が800G。スミレ希望の厨房が500G。キッド、俺の訓練場が1000G。アリシアの工房が1000G。女子組希望のシアタールームなどなど。建物代は3000Gだってのに……」


 これは何か削らないといけないな。


「ん?……ちょっと待って」


 まずい。スミレが何かに気付いてしまったみたいだ。


「これ……。ねぇ、ハイセ。私達になんだかんだ言ってるみたいだけど、これなに?」


【シュミレーションバトルフロア:3000G】


「うわっ……文句ばっか言ってた人が1番高いの買おうとしてるじゃん」


「師匠!せこい!」


「うるせぇ!!妥協はしたくないんだよ!!!!」


 シュミレーションバトルフロアとは今まで自分が出会ってきたモンスターといつでも再戦出来るという素晴らしいものだ。デスペナルティもなく、経験を積むことができる。討伐Pこそ貰えないが、これがあるのと無いのじゃえらい違いだ。


「お前らのシアタールームとかよりよっぽど大事なもんなんだよ!」


「娯楽も大事ですよ!!削るなら師匠のを削るべきです!!」


「ダメだ!!これはリーダー命令だ!!」


「うわっ!!師匠最悪です!!パワハラです!!」


 俺とハルの言い合いに呆れたようにスミレが割って入る。


「はぁ、なら私の厨房を削る?そんな一流じゃなくて、普通のでいいわよ」


「「それはダメだ(です)!!」」


「あ、そう……」


 スミレには超一流の厨房で是非とも飯を作ってもらいたい。だから、俺のやつの次にスミレの厨房は大事だ。


 誰も妥協しようとしない、一進一退の駆け引き。果たして百花繚乱は無事ギルドハウスを手に入れることが出来るのだろうか。

ご閲覧ありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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