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第51話 宴の始まり

お休みいただきありがとうございました。

これからは不定期での更新となります。

皆さんに楽しんでいただけるよう執筆して参りますので何卒よろしくお願い致します。


※外国語での会話は『』で表現しています。

※外国の名前に関する細かい設定はありません。(ミドルネーム等)

 8月31日。夏休み最終日、俺達は夕方から行われる『世界武術連盟集会』に向けて準備を進めている。

 今は、桜子さんに着物の着付けをしてもらっている最中だ。


「これでよし!」


「ありがとうございます。桜子さん」


「いいえ〜。ハーくんは相変わらず男前ねぇ」


 桜子さんからうっとりした目で見られる。俺の後ろからジトっとした視線を感じるが恐らく椿さんだろう。

 いい歳こいてヤキモチとは可愛いところもあるな。


「ふぅ……やっぱり暑いな」


 もっとラフな格好がいいが、公式の場では仕方ない。

 そんなことを考えていると後方の扉が開いた。


「お父さん達はこれにプラス羽織まで羽織るのよ。私達はまだマシよ」


「スミレ」


 扉から入ってきたのは着物に身を包んだ一際美しい女性、スミレだった。


「な、なによ」


「あ、いや……似合ってるぞ」


 俺がそう言うとスミレは頬を赤らめ顔を逸らす。ニヤニヤしている所を見ると、どうやら照れているようだ。


「じじい。準備できたぞ」


「……」


「じじい!!」


「……うむ」


 じじいはあからさまに不機嫌だ。理由は俺がこの場にいることだろう。

 武術連盟に強制参加を辞めるように直談判に行ったが、じじいの要求は通らなかったらしい。理由を聞いても口を閉ざし、今回強制参加の理由も分からなかったようだ。


「ハイセ」


「ん?」


「今日はお前がこれを羽織れ」


 じじいはそう言うと自身が羽織っていた羽織を俺に渡してきた。


「なんでだよ。それが許されるのは継承者だけだろ?俺はあくまで次代継承者だ」


 実際、公式の場では俺が普段持ち歩いてる"鷹神"もじじいが腰に挿している。


「武術連盟から許可は取っておる。この鷹神もお前が持っておれ」


 じじいは腰から鷹神を抜き取り、羽織と一緒に渡してきた。

 よく分からないが、武術連盟から許可を取ってるなら問題ないか。


「わかった」


 俺は渡された羽織を羽織り、腰に鷹神を挿した。流石に公式の場で竹刀袋に入れて持ち歩く訳にもいかないからな。


「ふむ。よく似合っとるぞ」


 朱色の生地に背中には黒色の刺繍で鷹が大きく描かれている羽織だ。ちなみに鶴矢家は鶴、鴇亜家は鴇が描かれている。


 俺が挿していた日本刀をじじいに渡し、俺達は準備を終えた。


「ハイセ、スミレ」


 部屋から出ようとする俺達を止めたのは椿さんだ。


「こういった場では、一挙一動が大きな意味を持つ」


「どういうことですか?」


「煽られようと無視をしろ。こちらから煽るようなことはするな。些細な言い争いが後々大事になることもある」


 椿さんの顔がいつになく真剣だ。それに、なぜかその言葉が妙に説得力があった。


「でも、最低限のコミュニケーションは必要じゃないですか。それに、スミレが我慢できると思えません」


「ちょ! ハイセだってそうじゃない!」


 スミレの短気と一緒にしないでもらいたいな。


「簡単な話だ。不用意に信用出来ない家系には近付くな」


 そんなこと言われてもなぁ。俺達日本の武術の家系以外はそこまで知らないし、信頼もクソもないと思うけど……。


「お前達も2年もすれば継承者だ。色々大人になるのも大切だぞ」


「はい」


 そんなことをいちいち気にしないといけないのか。大変だな。

 すると、扉がノックされた。


「鷹見家の皆様、鶴矢家の皆様お揃いですか」


 武術連盟の人みたいだ。


「継承者および次代継承者の皆様が会場でお待ちです」


 まだ10分前なのにもう揃ってるのか。みんな気が早いな。


「それじゃ、行こうか」


 俺達は控え室を後にし、集会が行われる会場に向かった。


 ◇◇◇


 ガヤガヤと扉の先からは人の話声が聞こえる。9つの武術の家系が一同に会すのだから、何が起こるやら気が気じゃない。


「ハイセよ」


「なんだよ。早く行かねぇと」


 じじいはさっきから表情が硬い。ずっと何かを警戒しているような素振りだ。だが、ふっとじじいの顔が優しく和らいだ。


「その姿、蒼葉にも見せたかったのう……」


 蒼葉……。俺の母さんか。正直、あんまり思い入れは無い。俺は母さんの元気な姿を知らない。体が弱く俺が産まれてすぐ死んでしまったから。


「そういうのはちゃんと鷹見流を継承させてから言うもんだぞ。今回は仮だ」


「ほっほっ。そうじゃな。さっ、行くぞ」


 会場の扉が開く。

 煌びやかな装飾が眩しく、少し目を細める。次第に目が慣れ俺の視界には威風堂々とした継承者、次代継承者達が目に入った。

 ピリッとした空気。感覚的に理解してしまった。ここにいる半分は俺と同等または、それ以上の力を持っていると。


「視線が痛え」


「話題の鷹見家の神童だからでしょ。みんなハイセのこと見てる」


 威圧してるのか?やたら強い視線が多い。中には殺気立ったものもあるな。

 仕方ない。


「「「……ッ!?」」」


 瞬間、その場には背筋が凍るほどの圧が場を満たした。

 その圧を放っているのは言わずもがな、俺だ。

 ビクッとその場にいる次代継承者達は身震いした。だが、継承者達は少し驚いた程度だった。俺もまだまだだな。


「はぁ……」


 背後からため息が聞こえる。やべっ。


 〔ペシッ!!〕


「痛っ」


「それをやめろと言ったんだ馬鹿」


 椿さんに叩かれてしまった。これは煽りに入ってしまうのか。


「すみません……」


「ぷっ。やっぱり私より短気ね」


 スミレに笑われるのは腹立つな。あれは短気とかじゃない、ただのコミュニケーションだろ?それに威圧してくる方が悪いんだよ。


『世界の武術の継承者、次代継承者の皆々様。本日はお集まり頂きありがとうございます』


 前方のステージでは禿げたおっさんがなにやら開会の宣言らしきものを始めている。あのおっさんは確か、武術連盟の会長だっけか。

 長々と何かを語っているがこの場で聞いている人間は少ないだろう。


『……。宴の席を設けさせていただきましたので皆様、ぜひお楽しみください』


 長い話を終え、会長は光る頭を下げてステージから降りた。


「腹減ったぁ……。早く食べようぜ」


「そうね。こんな美味しそうなもの目の前に並べられてあの長い話だもの、ヨダレが出てくるわ」


 俺達の目の前にはビッフェ形式の料理の数々が並べられている。

 俺とスミレは皿に料理を乗せ、適当な場所で食事を始めた。


「よお!相変わず2人べったりだな」


 俺達がモグモグしていると、見覚えのあるスポーツ刈りの男が話しかけてきた。この前会ったばかりだな。


「なんだテルトか。別にべったりじゃねぇよ。いつもの事だ」


「いつもべったりなのかよ……」


 テルトは若干引き気味になりながら俺の姿をまじまじと見る。


「んだよ」


「いや、なんでお前が羽織に宝刀を持ってんだ?鷹見流継承したのか?」


「ちげぇよ、今回だけだ。詳しい理由は俺にはわからん。なんならじじいに聞いてこいよ」


 そういうとテルトは冷や汗をかき手を振る。


「む、無理に決まってるだろ! 灰晴さんに気安く話しかけれるわけないだろ……」


 なにをそんなビビってんだか。てか、じじいてマジで何者なんだ?


「じじ様は顔が広いからね。色んな所で尊敬されてるのよ?」


「へー」


「テルトこんな所にいたの?あら!ハイセ君にスミレちゃんじゃない!しばらくぶりね!」


 他愛もない話をしてると鴇亜流の現継承者鴇亜明里さんがテルトの後ろから話しかけてきた。


「どうも」


「ハイセ君。すごい圧だったけど、あんまりよろしい行動じゃないよ?」


「ぐっ……。す、すみません……」


「ふふっ、椿さんにも怒られてたみたいだし、わかってくれたらいいわ!」


 明里さんにも怒られてしまった。軽率な行動は慎まないとな。


「ほら、テルト。他の家系の人達にも挨拶に行くよ」


「えー、俺イタリア語はできないぞ」


「お母さんが通訳するから!ハイセ君とスミレちゃんも食べてばっかりじゃなくて挨拶に行かなきゃダメだよ?」


 皆ガヤガヤ話してるって思ってたら挨拶回りしてたのか。まぁ、俺達から行かなくても向こうから来るだろ。


「外国語は話せる?私が通訳しようか?」


「大丈夫ですよ。ここにいる国の人の言葉は全て話せます」

「私も大丈夫です」


 明里さんは少し驚いた顔をしてテルトをジト目で見る。


「はぁ……うちの子もこのくらい出来てくれたら良かったのに」


「うるせぇな」


 明里さんに腕を引っ張られながらテルトは他の人の所に行ってしまった。


「私達はどうする?」


「んあ?向こうから来るだろ。来なかったら自分から行こうぜ」


「そうね」


 そんな事を話しながら俺達は食事を再開した。


 ◇◇◇


 しばらく食事を続けていると、挨拶をしに若い女性を連れた壮年の男性が話しかけてきた。スミレは席を外している。御手洗に行ったようだ。


『こんばんは。初めましてだったかな?』


『はい、初対面ですね。初めまして』


 そういうと男性はニコッと笑い頭を下げた。


『初めまして。私はフィリピンで唯一の武術の文化遺産である"ガルシア流双剣術"の現継承者"ハメス・ガルシア"と申します。以後お見知りおきを』


『どうも。日本の武術の文化遺産である鷹見流剣術の次代継承者鷹見ハイセです。よろしくお願いします』


『はっはっは!これはご丁寧に!こっちは娘のラリエです。ほら、挨拶しなさい』


 ラリエと言う女性はなぜか少し不機嫌そうな顔で俺を見た。


『ラリエ・ガルシア。16歳』


 不満げに握手する為の手を出してきた。


『あ、ああ……よろしく』


 俺は戸惑いながらもその手を握り挨拶をした。しかし、


 〔ギュッ!!〕


 すごい力で握り返された。


『痛って……なんだよ』


『手加減された上に負けたのが屈辱的でね。思い出すほど怒りが増して仕方ないの』


 そうか。こいつは"リエラ"なのか。WSOのトップギルド【漆黒の翼】のエースプレイヤー。


『子供じみた八つ当たりはやめろよ……。お前の実力不足だろう』


『わかってるわよ。子供じみてて結構。まだ子供だもん』


 このクソガキ……。いや、同い年だけど。


『ラ、ラリエ?何をしているんだい?』


 ハメスさんは慌てながら俺とラリエの仲裁に入った。


『も、申し訳ないハイセ君。おてんばでね……』


『大丈夫ですよ。若い子はおてんばくらいが魅力的です』


 俺がそう言うとハメスさんの瞳がギラリと光った。まずいこと言ったか?


『そう思うよね!!うん!!おてんばくらいが可愛いのさ!!ラリエは地元でも美人で評判なんだよ!』


『は、はぁ……』


『でもね、この性格だから良い相手が見つからなくてねぇ……』


 良い相手……?相手ってのはつまり、そういう?これは……まずいことを言ってしまったみたいだ。


『この子の性格を魅力的だと言ってくれるのは君くらいだ!!どうかな!?うちの子は!!』


『ど、どうかと言われましても……』


『まだ君は恋人が居ないと聞いているよ?縁談もないならこれを機に……うおっ!?』


 その先をハメスさんが言おうとした時だった。ラリエが顔を真っ赤にしてハメスさんの耳を引っ張った。


『痛てててて!!なにをするんだいラリエ!!』


『余計なこと言わないでよバカ!!』


『これはお前の為を思ってだな!!それにハイセ君の事をイケメンだと言っていたのはラリエだろ!?だから、私は……』


『やめてよ!!恥ずかしい!!もう行くよ!!』


『痛ててて!!耳を引っ張らないでくれ!そ、それじゃ!ハイセ君!どうか前向きに……痛ててて!!』


 嵐のような人だな。娘の恋人を心配するような歳でもないだろうに。


「はぁ……」


 挨拶に来た1人目にしては濃すぎるな。

 そう思いながらチキンを口に運ぶ。


「何を前向きになの?」


「んぐっ!?」


 スミレが後ろから話しかけてきた。まずい。聞かれたか?気を抜いて第六感が鈍くなっていたか。


「ど、どうしたのよ。驚かしたつもりはなかったのに」


 スミレは優しく俺の背中を摩る。どうやら聞いてはいなかったみたいだ。


「ゴホッゴホッ……なんでもない。お前は後であの人達に挨拶に行けよ」


「うん、わかった」


 その後もタイミングを見計らってか順番に俺達に挨拶に来た。


【アメリカ:スミス流銃剣術】現継承者:オリバー・スミス。次代継承者:リアム・スミス(12)。


『君の噂は聞いているよ。なんでも、死角からの攻撃にも対応できるとか』


『はい。ですが、身体能力が追いつかないような攻撃には対応できませんよ。例えば……銃とか』


『はっはっ!!銃と刀では競う分野が違うだろう!これからはこういった交流が増えるかもしれないな!その時また話そう!』


『はい』


 リアムは人見知りなのか、ずっとオリバーさんの陰に隠れてる。まぁ、まだ12歳だもんな。


【アメリカ:デイビス流槌術】現継承者:イーサン・デイビス。次代継承者:ルーカス・デイビス(18)。


『よろしく』


『よろしく』


 一言だけかよ。威圧的に感じるが、悪意はないな。元々無口な人達なんだろう。無口だけどめちゃくちゃいい人って漫画でよくあるよね。


【中国:リュウ流棍棒術】現継承者:リュウ・ムーヤン。次代継承者:リュウ・イーチェン(17)。


『ハイセって言ったな』


『ああ』


 イーチェン。棍棒術の次代継承者。こいつも中々強いな。それもテルト以上だ。


『お前その顔と名前……いや、なんでもねぇ』


『そうか?』


『ああ、お前の剣技、1度はお目にかかりたいものだ』


『それはどうだろうな』


 WSOならまだしも、現実世界で俺達の実践用武術を使うことはないだろうしな。


 さて、初対面の人達は大方挨拶し終わったか?初対面だと残るは"イェン家"だけだが……。


「じじいに止められてるしなぁ。どうする?」


「やめておきましょ。怒られたくないし」


 まぁ、面倒臭いのは後回しでいいや。

 俺とスミレはそのままリオン達がいる場所に向かった。


ご閲覧ありがとうございました。

次回をお楽しみに!

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